不動産業界のM&A

不動産業界は、不動産の売買・賃貸・管理、および代理、仲介等を扱う企業などの集合体といえます。不動産業に関わる業務内容は幅広く、事業者の規模も大手総合不動産会社から個人経営の中小事業者まで多岐にわたります。また、不動産専業の事業者だけでなく、異業種でも一部不動産業を営む事業者や新興企業の参入も多く、M&Aの買収ニーズでも人気のある業界です。本記事では、不動産業界のM&Aを成功に導くために、現在の市場や今後の課題、最新のM&A動向やM&A事例、抑えたいポイントなどをご紹介いたします。

更新:(日本M&Aセンター所属公認会計士 保坂豊昇 監修)

不動産業界の
譲渡・売却を検討
不動産業界の
買収を検討

目次

不動産業界の
概要

不動産業界のM&Aを語る前に、飯田グループホールディングス株式会社の例をご紹介します。
2013年、一建設、飯田産業、東栄住宅、タクトホーム、アーネストワン、アイディホームの上場6社が経営統合契約を締結、共同株式移転の方法により、飯田グループホールディングス株式会社が設立されました。飯田グループホールディングス株式会社は、戸建て住宅の用地の仕入から造成、企画、設計、施工、販売、アフターケアまでを自社で行っており、一般にパワービルダーと呼ばれています。上場住宅メーカー6社の組織再編によるシナジーは大きく、不動産業界に大きな影響を及ぼす存在となりました。有価証券報告書によれば、売上高について、設立2期目の2015年3月期1兆1,881億円から2020年3月期1兆4,020億円へと増加しており、経営統合後も着実に成長を続けています。

当社でサポートさせていただいている案件の多くは、中堅中小企業様のM&Aであるため、本件ほど規模は大きくはありませんが、成約数は増加傾向にあります。また後述しますが、不動産業界でのM&Aの多くは、多大なシナジーを創出する可能性を秘めています。こちらの記事では、不動産業界における中小企業のM&A全般について、広く概略を記載していきたいと思います。
そもそも不動産とは、民法86条で「土地及びその定着物」と定義されており、不動産以外のものはすべて動産とされています。土地の定着物とは、土地に永続的に固着し、撤去の困難ものを意味し、樹木等の自然物のほか、人口の定着物である各種構築物も含むと解されています。また不動産登記法では、建物とは「屋根や壁で遮断されて、建物としての用途に供しうること、土地に定着していること」と定義されています。
このような不動産は、他の財やサービスと比べ、高値で取引されることが特徴の一つですが、その価格については、「一物四価」などと言われることがあります。公的な指標として有名な指標では、一般の土地取引価格の指標としての「公示価格」、国土利用計画法による規制の適正化及び円滑化のための「都道府県基準値価格」、相続税や贈与税の課税基準となる「路線価」、固定資産税等の課税基準となる「固定資産税評価額」があります。これらに加え、近隣の売買事例を基に推定した価格である「実勢価格」もあることから、不動産の評価には様々な考え方が存在し、非常に複雑です。

では不動産を取引する不動産業を、どのように定義できるのでしょうか。図1は、総務省「日本標準産業分類」による不動産の分類をまとめたものです。不動産業は大きく不動産取引業と不動産賃貸業・管理業に分類され、不動産の売買、交換、賃貸、管理又は不動産の売買、賃借、交換の代理若しくは仲介を行う事業所と定義されています。

図1 不動産業の分類
不動産業の分類

参考:総務省「日本標準産業分類」

上記分類について、建物や土地の売買を行う事業所については不動産業に含まれますが、自ら労働者を雇用し、建物の建設または土地の造成を行い、分譲する事業所については、不動産業ではなく、建設業に分類されることになります。なお詳細については後述しますが、建設業と不動産業は隣接する業界であり、M&Aによるシナジーを生み出しやすい関係にあります。
また土地を売るために土地の開発を行う事業所は不動産業に分類されます。都市開発、オフィスビル開発、商業施設開発、分譲マンション開発、宅地開発、リゾート開発などの不動産開発を行う事業者のことを、一般に不動産ディベロッパーと呼びますが、母体となる企業には、不動産業の他、鉄道業、建設業、商社などがあることから、様々な業種に影響を与えています。
さらに不動産流通業について、大きく不動産代理業と不動産仲介業に分けられます。不動産代理業は、ディベロッパーが開発・分譲する住宅やマンションの受託販売を行う業務であり、売主の代理人として販売活動を行い、顧客との間で不動産販売契約を締結することとなります。一方、不動産仲介業は、法的には媒介業務を営む業種であり、売買契約を締結するのは売主と買主であることから、不動産代理業とは異なります。なお不動産仲介業については、不動産売買の仲介と不動産賃貸の仲介の2つに分けることができます。

このような不動産業を規制する法律として、宅地建物取引業法があります。規制対象となるのは、2条2項において「宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」と定められていることから、図1の「不動産取引業」が規制の対象となります。規制内容には、開業するには営業免許申請が必要であり、営業部門の従業員の5人に1人の割合で、宅地建物取引士の専任登録が必要である他、開業に際しては営業保証金の供託が求められているなどがあります。このような宅地建物取引業法に違反する場合には、免許の取消、営業停止といった行政処分があります。
なお宅地建物取引業法以外にも不動産業に関連する法令は様々なものがあります。不動産業全般に関係する民法、不動産売買における不動産登記法、不動産賃貸における借地借家法、不動産開発における国土利用計画法、宅地造成等規制法、建築基準法、都市計画法などです。これらの法令に違反する場合には、私人間での紛争、行政処分等につながり、企業活動に大きな影響を与えることから、十分に気を付ける必要があります。

その他、不動産業界に特徴的なこととしては、国の政策による影響を受けやすいことがあります。公共事業などの財政政策、市場金利の操作などの金融政策、住宅ローン控除などの各種税制等により様々な影響を受けることとなります。また関連する税目も多く、法人税、所得税の他、不動産取得税、登録免許税、固定資産税、印紙税などがあります。さらに業種によって財務内容が異なります。不動産開発、売買、賃貸などの業種は不動産を保有する必要があることから、多額の資金が必要となる一方、不動産仲介業、管理業などは必ずしも不動産を保有する必要がないことから、多額の資金は必要とはなりません。そのため不動産を保有する企業の方が、相対的に借入が重くなる傾向にあります。

不動産業界の
現在の市場環境

こちらでは不動産業界におけるM&Aを知る上で役立つ不動産業界の市場規模の大きさ、中小企業における不動産業界の競争環境について述べていきます。

図2は内閣府「国民経済計算」を基に、GDPを産業別に時系列比較した表であり、2018年における日本のGDPは547兆円となっています。産業別では、製造業が113兆円、卸売・小売業が74兆円に次ぎ、不動産業が61兆円となっており、それぞれのGDP全体に占める割合は20%、13%、11%となっています。そのため不動産業は、日本のGDPの約1割を占め、3番目に経済規模が大きい市場であると言えます。

図2 産業別のGDP

(単位:億円)

項 目 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
 1.農林水産業 55,152 52,847 56,514 55,560 54,279 59,184 64,980 66,165 67,809
 2.鉱業 3,037 3,130 2,811 3,105 3,272 3,154 2,865 3,004 2,820
 3.製造業 1,042,388 966,390 976,626 977,985 1,013,944 1,105,853 1,110,107 1,134,798 1,135,114
 4.電気・ガス・水道・廃棄物処理業 137,973 110,537 99,624 106,554 120,903 139,243 139,537 142,807 142,055
 5.建設業 239,839 240,933 244,853 267,792 284,704 293,620 299,215 311,365 310,615
 6.卸売・小売業 690,882 705,799 727,888 742,710 731,882 742,699 740,506 759,033 747,797
 7.運輸・郵便業 252,312 244,974 252,500 253,663 267,523 271,531 270,099 277,275 282,988
 8.宿泊・飲食サービス業 128,470 124,509 118,581 123,447 126,482 124,048 136,742 141,765 138,702
 9.情報通信業 255,142 253,838 253,540 257,175 260,817 267,234 268,805 265,603 269,901
10.金融・保険業 241,152 231,100 224,424 230,547 228,080 232,082 223,348 225,299 227,848
11.不動産業 595,305 595,280 593,724 598,888 601,284 606,159 611,693 617,846 619,976
12.専門・科学技術、業務支援サービス業 349,397 356,818 355,459 365,133 371,435 383,867 398,866 401,536 412,247
13.公務 263,057 264,227 260,319 257,594 264,455 265,718 266,964 268,449 272,178
14.教育 182,466 185,199 184,868 183,770 188,606 192,054 193,969 195,443 196,408
15.保健衛生・社会事業 320,249 324,962 341,324 348,179 349,096 362,671 377,623 380,531 393,816
16.その他のサービス 234,540 229,035 230,555 228,906 232,511 233,768 229,177 232,873 230,462
小計 4,991,362 4,889,579 4,923,610 5,001,008 5,099,271 5,282,885 5,334,497 5,423,789 5,450,735
輸入品に課される税・関税 48,465 55,504 57,030 63,771 86,858 87,547 76,761 85,709 92,627
(控除)総資本形成に係る消費税 28,978 30,463 31,179 31,202 49,102 57,421 56,791 60,152 64,463
国内総生産(不突合を含まず) 5,010,849 4,914,620 4,949,461 5,033,577 5,137,027 5,313,011 5,354,466 5,449,347 5,478,898
統計上の不突合 -7,310 -535 111 -1,821 1,733 188 905 9,626 -7643
国内総生産 5,003,539 4,914,085 4,949,572 5,031,756 5,138,760 5,313,198 5,355,372 5,458,974 5,471,255

参考:内閣府「国民経済計算」

また図3、4は財務総合政策研究所「法人企業統計調査」を加工したものです。図3は不動産業と日本の全ての産業の法人数を時系列で比較したグラフであり、2018年における日本の法人の総数は288万社である一方、不動産業は33万社であることから、全産業の約11%を不動産業が占めています。また図4は役員の人数と従業員の人数を合わせた合計人数について、不動産業と日本の全ての産業を時系列で比較したグラフであり、2018年における日本全体の人数は5,017万人である一方、不動産業においては145万人となっていることから、全産業の約3%を不動産業が占めています。

図3 不動産業と日本の全ての産業の法人数
不動産業と日本の全ての産業の法人数

参考:財務総合政策研究所「法人企業統計調査」

図4 不動産業と日本の全ての産業の就業者数
不動産業と日本の全ての産業の就業者数

参考:財務総合政策研究所「法人企業統計調査」

このような不動産業を代表する企業としては、三井不動産株式会社、三菱地所株式会社、住友不動産株式会社、東急不動産ホールディングス株式会社、野村不動産ホールディングス株式会社の5社があります。図5は各社の有価証券報告書をまとめたグラフであり、2020年3月期における売上高は、それぞれ1兆9,056億円、1兆3,021億円、1兆135億円、9,631億円、6,764億円であり、合計額は約6兆円にもなることから、不動産業大手5社が不動産業のみならず、日本経済全体に影響を及ぼしていることがわかります。これらの会社は総合ディベロッパーと呼ばれており、開発分譲業、流通業、賃貸業、管理業のそれぞれに系列会社を保有していることから、不動産全体に多大な影響を及ぼしています。三井不動産株式会社であれば、三井不動産レジデンシャル株式会社が分譲業及び仲介業など、三井不動産リアルティ株式会社が仲介業など、三井不動産レジデンシャルサービスが住宅管理及び運営事務など、三井不動産ビルマネジメントが賃貸管理及び運営事務などを行っています。

図5 不動産大手5社の比較
不動産大手5社の比較

参考:各社の有価証券報告書より抜粋

ただしこのような大規模な企業はごく一部です。図6は、財務省「法人企業統計調査」を資本金の金額ごとに集計したグラフであり、税務上の中小企業に該当する資本金1億円未満の法人、大規模法人に該当する資本金1億円以上の法人に分け、不動産業全体におけるそれぞれの割合を、項目毎に比較しています。

図6によると、2018年における不動産業全体の法人数は33万社に対し、資本金1億円以上の大規模法人は2千社程度と1%にも満たない数ですが、売上高については、不動産業全体で約47兆円に対し、資本金1億円以上の大規模法人が約21兆円と全体の約45%を占めています。そのため資本金が1億円に満たない中小企業にとっては、法人数が非常に多いこと、売上高の半分近くを大規模な企業が獲得していることから、競争環境が非常に厳しい業界であると言えます。

実際、当社にお問い合わせいただく売り手企業様については、多種多様です。ご活動いただいているエリアは都心部だけでなく、地方都市であることもあります。業種も中古住宅売買業、土地売買業、不動産仲介業、貸事務所業、住宅賃貸業、ビル管理業、マンション管理業などと多岐に渡り、売上高も数千万円の規模から数百億円まで様々です。

図6 不動産業の資本金別比較
不動産業の資本金別比較

参考:財務総合政策研究所「法人企業統計調査」

このような経済規模が大きく、日本経済に大きな影響力を有する不動産業界ですが、関連業種を含めると更に経済規模は大きくなります。関連業種として代表的な業種は建設業であり、ディベロッパーとゼネコンの関係について述べます。ディベロッパーは開発候補地の情報収集、各種調査、企画設計、近隣説明、土地の取得などを行い、ゼネコンへ外注します。ゼネコンは、ディベロッパーからの依頼に基づき、マンション、ビル、商業施設などを建築し、ディベロッパーへと納品します。当社の本社がある鉄鋼ビルディングであれば、事業主が株式会社鉃鋼ビルディング、三菱地所設計株式会社が設計・監理、大成・増岡組建設共同企業体が施工を担当しています。
異業種ではありますが、不動産ディベロッパーにとって、M&Aによるゼネコンの買収は、これまで外注していた建設業を内製化出来るようになることを意味します。実際、当社でサポートさせていただいた案件でも、不動産業と建設業のM&Aはよくある事例です。

不動産業界における
M&Aの動向

M&Aが活発である不動産業界について、こちらではM&Aが起こりやすい背景や、どのようなM&Aがあるかといった観点から述べていきます。

M&Aが起こりやすい背景として、第一に業界全体の高齢化があげられます。高齢化は全業種に渡って起きている現象ではありますが、不動産業界においては特にその傾向が顕著です。図7、8は、総務省「国勢調査」を不動産業と全産業で分け、年度ごとの就業者の年齢構成割合をまとめた結果となっています。2015年における60歳以上の割合は、全産業で22%である一方、不動産業では46%となっており、全産業の2倍以上の割合となっています。また次世代を担う若者として29歳以下の割合で見ると、全産業が15%である一方、不動産が7%であることから、全産業の半分以下となっており、若者も少ない業界となっています。

図7 全産業の年齢構成
全産業の年齢構成

参考:総務省「国勢調査」

図8 不動産業の年齢構成
不動産業の年齢構成

参考:総務省「国勢調査」

これは後継者不在により会社を売りたい企業様が多いことと繋がっていきます。当社に会社を売りたいとご相談いただく企業様で、後継者不在を理由とされる案件は非常に多いです。大手と組んで成長したいという、いわゆる成長戦略型や、選択と集中で事業の一部を切り離したいというニーズもありますが、多くの企業様は、後継者不在を理由として、M&Aを決断されます。
また高齢化については、買い手企業様がM&Aを決断する理由へも繋がっていきます。上記の通り、不動産業界においては、従業員の確保が喫緊の課題となっており、多くの会社様が人材確保に苦労されています。M&Aによって企業を買収することが出来れば、人材を一挙に確保することが出来るため、買い手企業様にとって、M&Aによる売り手企業様の買収は、人的資源の面で大きなメリットがあります。当社でサポートさせていただいている買い手企業様も、売り手企業様には、どういった従業員がいるのか、年齢、勤続年数、保有資格などの情報はよく検討されることが多いです。

M&Aが起こりやすい背景として、第二に、隣接している業種が豊富であり、シナジーが生まれやすい業界であることがあげられます。
前述した総務省の「日本標準産業分類」では、不動産業を中分類、小分類、細分類と、細分化して分類しており、それぞれの事業が単体で機能するように見えます。確かに土地売買業、不動産仲介業、土地賃貸業、マンション管理業などは単体でも事業として機能しますが、不動産取引は、それぞれの事業がつながっていき、全体としては協力し、一体として機能する関係にあります。具体的に居住用マンションであれば、土地所有者から開発分譲業者が不動産を取得し、造成・建築することで、売買対象となるマンションが誕生します。当該マンションは売買の仲介業者を通じて、賃貸業者が取得し、賃貸業者は、賃貸の仲介業者を通じて、賃借人と賃貸借契約を締結します。賃貸業者は自身ではマンション管理を行わず、管理業者に管理を委託します。このような取引関係をまとめたものが図9となります。

図9 取引フロー図
取引フロー図

参考:筆者作成

図9のような状況において、買い手企業様がマンション賃貸業者、売り手企業様がマンション管理業者であるM&Aを実行する場合、買い手企業様はマンション管理業を内製化することが可能となります。また開発分譲業と賃貸業のM&Aであれば、不動産の売買と賃貸の双方に進出することが出来るようになります。そのため全体が協力し合う不動産業界内でのM&Aにおいては、周辺領域へと進出することが比較的容易であると言えます。さらに他業種としては、建設業と不動産業が隣接しており、当社がサポートさせていただいている案件においても、建設業と不動産業のM&A案件が豊富にあります。ハウスメーカーが売り手企業様、建売業(自ら施工しない)が買い手企業様の場合であれば、買い手企業様は戸建ての建築を内製化することが出来ます。これらより不動産業は隣接している事業が多く、M&Aによるシナジーが生まれやすい業界であると言えます。

最後に当社の不動産業界におけるM&Aの実績を見てみます。図10は売り手企業様が不動産業界の場合において、当社でお手伝いさせていただいたM&Aの件数の推移となります。2014年度から徐々に増え、2020年度までの7年間で約4.5倍の件数になっています。隣接する業界である建設業についても、成約件数は年々増加しており、当社の全業種の中で最も成約件数が多く、その割合は20%以上を占めます。これらより不動産業界のM&Aについては、業界内だけにとどまらず、建設業などの他業種とのM&Aが活発になっていくことが期待されます。

図10 当社における不動産業の成約件数の推移(譲渡)
当社における不動産業の成約件数の推移(譲渡)

参考:筆者作成

不動産業界で
M&Aをするメリットとデメリット

こちらでは、不動産業界でのM&Aのメリットとデメリットについて見ていきます。

売り手企業様から考えると、一般的なM&Aのメリットがあてはまります。これは、 創業者利益の獲得・・・非公開株式を現金化でき、多くの場合で廃業より手取りが高額
会社の継続・・・社名、従業員の雇用、取引先が継続する
人材獲得が容易に・・・大手と組むことで採用活動がしやすくなる
連帯保証の解除・・・銀行借入金の個人保証を外すことができる
といったものがあげられます。デメリットとしては、 必ずしも相手が見つかるわけではない ということがあります。

買い手企業様に関してみると、様々なメリットがあります。いくつか例をあげてみます。

人材が確保できる

上記で記載しましたが、人材の確保が重要な業界なので、有資格者などを確保できるメリットは大きいです

周辺領域に進出できる

不動産売買の仲介会社が不動産賃貸の仲介もできるようになり、提供できるサービスの範囲が広がる、ということが可能です。マンション賃貸業者がマンション管理業もできるようになれば、外注していた業務を内製化、ということも可能です。隣接している事業が多いので、シナジーを描きやすいです。

新規エリアへの進出

隣接県への展開、地方から都心への進出、都心から地方への進出、色々なパターンがあります。ゼロから新天地で営業基盤を築くのは非常に時間がかかるので、M&Aで一気に進出が可能となります。こちらを理由としたM&Aのケースは非常に多いです。

支配力の強化

同地域、同業種でのM&Aというケースもよく見られます。ライバル企業を傘下に迎えることで、地元での経営が盤石となります。

魅力的な取引先の獲得

売り手企業様が魅力的な取引先を有している場合、例えば著名な企業を顧客に抱えている場合、そのまま引き継ぐことができます。

なおこれまでの内容について、更に詳しく事例を知りたい方や、具体的に譲渡を希望されている企業様の情報が知りたい方は、弊社まで一度お問い合わせください。

逆に買い手企業様にとってのデメリットとしては、事業の引継ぎがうまくいかない可能性、当初想定したほどのシナジーが達成できなかった、というようなことはありえるかと思います。

不動産業界で
M&Aをする際の注意点

不動産業界でのM&Aをする際の注意点は実は多数あります。ここではその代表的なものを一部だけご紹介させていただきます。

図11、12は財務総合政策研究所「法人企業統計調査」より、2010年から2018年の固定比率と自己資本比率を業種別にまとめたものになります。まず固定比率とは、固定資産÷純資産で算出することができ、算出された数値が100%を超える場合には、自己資本を超える固定資産を保有していることを意味します。次に自己資本比率とは、純資産÷総資産で算出することができ、50%を下回る場合には、純資産より負債の方が多額であることを意味します。

図11 業種別の固定比率
業種別の固定比率

参考:財務総合政策研究所「法人企業統計調査」

図12 業種別の自己資本比率
業種別の自己資本比率

参考:財務総合政策研究所「法人企業統計調査」

2018年における固定比率は、全産業が135%である一方、不動産業は222%と全産業の1.6倍もあり、固定資産の金額が多額であることがわかります。また2018年における不動産業の自己資本比率は33%となっており、負債が多額であることがわかります。これらより、不動産業界では多額の借入金により不動産を保有していることがわかります。多額の不動産を保有しているということは、多額の含み損をかかえているかもしれない減損リスクがあります。M&Aの実行後に含み損が顕在化しないよう、減損リスクについては、慎重に検討する必要があります。

次に図13、14は、国土交通省「宅地建物取引業法施行状況調査(2018年度)の結果について」をまとめたものです。前述したように、不動産取引業者は宅地建物取引業法の規制を受けることになり、当該規制に反する場合には、免許取消などの行政処分を受けることになります。図13は行政処分の状況について年度毎にまとめたものであり、2010年と比較すると減少傾向にあるものの、2018年の免許取消件数125件、業務停止31件、指示26件、勧告等665件となっています。

図13 監督処分等件数の推移
監督処分等件数の推移

参考:国土交通省「宅地建物取引業法施行状況調査(2018年度)の結果について」

また国土交通省及び都道府県の宅地建物取引業法主管部局の本局・本課にて対応された宅地建物取引業者の関与する宅地建物取引に関する苦情・紛争の件数について、内容別にまとめたものが図14となります。2018年においては、仲介・代理(売買)に係る紛争364件、売買に係る紛争338件、仲介・代理(売買)に係る紛争224件となっています。前述したように不動産は他の財やサービスと比較し、高価なものであり、不動産取引には様々な法令が関係することから、争いが生じやすい環境にあると言えます。不動産業全体の法人数に比べ、処分件数や相談件数は多くないですが、法務リスクには十分に注意すべきでしょう。

図14 取引形態別の苦情・紛争相談件数推移
取引形態別の苦情・紛争相談件数推移

参考:国土交通省「宅地建物取引業法施行状況調査(2018年度)の結果について」

最後に、多額の不動産を保有する法人の株式を譲渡する場合の所得税法上の取扱について整理します。通常、個人が保有する株式を譲渡することによるM&Aにおいて、当該個人には譲渡所得が生じ、所得税(復興税込み)15.315%、住民税5%の合計20.315%の税率で課税されることになります。しかし一定の要件を満たす場合には、多額の不動産を保有する法人の株式を譲渡する場合には、当該税率が引き上げられることになります。一定の要件とは、
①所有期間5年以内の土地等の価額÷資産の時価総額が70%以上の会社の株式を譲渡、②土地等の価額÷資産の時価総額が70%以上の会社の株式を5年以内に譲渡 という2つの要件を満たす場合であり、所得税(復興税込み)30.63%、住民税9%の合計39.63%の税率で課税されることになります。税率の高低は売り手株主の手取り額にも影響することから、十分に注意すべきでしょう。

不動産業界における
M&Aの価格相場

不動産業のM&Aの価格の考え方についてお話します。M&Aには様々な評価方法があります。
まずは取引事例法をご紹介します。

取引事例法

不動産や車の売買は他の売買実績を参考に価格を見られていることが多いと思います。一方でM&Aはそのほとんどが非公開で知りえない情報です。しかし、M&Aセンターでは中小企業のM&Aの実績が豊富にあるため、事業内容・地域・財務指標などから似た会社の売買事例を選定し、一定のルールで公正な価値評価を算出することができます。こちらから体験することができます。

株価算定シミュレーション 無料簡易版

なお実際には個別の業種によって価格相場は変動しますし、場所や経営状態によっても大きく左右されます。初期的なご相談や、簡易的な株価診断は無料にておこなっておりますので、こちらからお問い合わせいただければ、弊社コンサルタントからご説明いたします。

ではより高く売るにはどうしたらよいでしょうか。また買い手企業を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。M&Aの価格は最終的には売り手企業と買い手企業との交渉になるので、買い手企業にとってこの会社が欲しいと思われる要素を増やしていくことが必要です。
例えばこの記事でも何度か触れていますが、業界全体的に人材不足となっています。買い手企業からすれば、より若くて優秀な人材が確保できるようであれば、M&Aによって買収するメリットが大きくなります。ところで「宅地建物取引業法施行状況調査(2018年度)の結果について」によれば、宅地建物取引士の合格率は15%~18%程度となっており、難易度の高い試験であると言えます。前述したように、不動産取引業においては、宅建業法による規制があり、宅建士の設置が義務付けられることがあることからも、宅建士は重宝されます。また宅建業法に違反する場合には、免許取消等の行政処分を受けることがあることから、事業を円滑に進めるためにも、不動産業に関する知識を有した人材は必要となります。そのため宅建士を含む不動産業界に役立つ資格を有する20代・30代の人材を多く抱えている売り手企業などは、買い手企業から見て魅力的に映ると考えられます。

図15 宅地建物取引士資格試験の状況
宅地建物取引士資格試験の状況

参考:国土交通省「宅地建物取引業法施行状況調査(2018年度)の結果について」

さらに、コンプライアンスの遵守もあげられます。これはどちらかというと、交渉でマイナス要素を作らないという視点です。具体的には、顧客との間でのトラブルがないか、社会保険にしっかり加入しているか、などです。これらがあると潜在的な費用や負債として見られ、価格交渉上不利になりえます。事前にこれらの要素がクリアされていますと、買い手企業としても安心してM&Aを実行することができますし、価格交渉でのマイナスポイントが少なくスムーズに進めやすいです。

不動産業界の
M&A売却・買収事例

不動産業のM&A案件について、当社ウェブサイトでも多数紹介しておりますが、こちらでもいくつか抜粋して記載します。

売り手企業様は東日本のある県で収益物件の企画・建設・管理・自己所有を営む会社様で、売上高は約2億円、物件企画力が高く、オーナー様、入居者様から多大な信頼のある会社様でしたが、後継者不在の悩みを抱えておられました。一方、買い手企業様は同県で不動産売買業を営む会社様で、売上高は約20億円、県内の地方進出による成長を考えておられました。
本件は当社で最も多い後継者不在を理由とした譲渡案件であり、優れた企画開発力をもっていても、廃業になる可能性のあった案件でした。しかし、買い手企業様による買収により、従業員の雇用は守られ、優れたノウハウを継承することにつなげることが出来ました。

後継者不在によるM&Aの他に、下記のような事例もあります。
売り手企業様は神奈川県にて、不動産仲介・管理業を営む会社様で、売上高は約4億円、地元に根差した堅実な経営を強みとして持っておられましたが、自社のみでの成長に限界を感じておられました。一方、買い手企業様は東京都で不動産管理業を営む会社様で、エリアの拡大による成長を考えておられました。
本件の譲渡理由は、大手企業と手を組み、成長を遂げる成長戦略型の案件であり、買い手企業様は上場企業であったことからも、売り手企業様にとって、資金面、人材面でも大変魅力的なお相手先様でした。また買い手企業様にとってもエリア拡大を見込めるお相手先様であり、お互いにとってメリットのある案件でした。
なお本件の詳細についてはこちらに記載しております。

当社ウェブサイトで他にも事例を載せておりますので、こちらもぜひご参照ください。

不動産業界の
M&A成功事例インタビュー

不動産業界の成功事例インタビューを表示します。

M&A成功事例インタビュー一覧

おすすめのM&A資料

日本M&Aセンターが手掛けたM&Aの成功事例やインタビュー、当社が提供するサービスを解説した資料など、事業承継や事業戦略に役立つ資料をダウンロードいただけます。

不動産業界の
セミナー情報

不動産業界のセミナー情報を表示します。

M&A・事業承継セミナー一覧

不動産業界の
M&A仲介実績

不動産業界の案件情報を表示します。

時期 譲渡会社 譲受け会社
2022年3月 不動産管理・仲介
九州・沖縄
不動産管理・仲介
中国・四国
2022年1月 不動産関連  
関東
不動産関連  
関東

M&A仲介実績一覧

不動産業界の
M&Aニュース

不動産業界のM&Aニュースを表示します。

M&Aニュース一覧

不動産業界の
M&Aまとめ

これまでの内容のまとめです。

不動産業界の概要

  • 不動産評価は一物四価
  • 不動産取引業、不動産賃貸・管理業に分類することが可能
  • 宅地建物取引業法を含む種々の法規制に注意する必要がある
  • 国の政策による影響、様々な税金、多様な財務内容

不動産業界の市場規模

  • 約61兆円という巨大なマーケット
  • 288万社、145万人が不動産会社勤務
  • 中小企業は厳しい競争環境下にある
  • 建設業界などの隣接業界も含めると裾野が広い

不動産業界におけるM&Aの動向

  • 非常に活発になっている
  • 後継者不在で譲渡したい動機が強い
  • 隣接している業種が多いためシナジーが描きやすい

不動産業界でM&Aをするメリットとデメリット

  • 売り手企業様は創業者利益の獲得、会社の継続、人材獲得、連帯保証の解除 等
  • 買い手企業様は人材確保、周辺領域へ進出、新規エリア、支配力強化 等

不動産業界でM&Aをする際の注意点

  • 保有不動産の減損リスク
  • 法務リスク
  • 譲渡所得にかかる所得税の税率

不動産業界におけるM&Aの価格相場

  • 取引事例法や簡易評価についてお問い合わせください

不動産業界は特に高齢化が進み、非常に厳しい業界であります。そのためM&Aも非常に活発な業界ともなっています。ただ、この記事で書かせていただいた内容はあくまで不動産業全体に関する一般的な内容です。実際は個別事情を勘案すると大きく変わります。
例えば、自分の会社を買うような企業はあるのか、いくらの売れるのか、またはこういった会社を買収できないか、○○○という経営課題を解決できるような企業はないか、など個々の状況によります。
当社では秘密保持を厳守のうえ、個別相談を無料でお受けしています。また、コロナ禍において、当社は全国に拠点を展開し、移動のリクスを最小限にする対策をおこなっております。オンラインでの面談も対応しておりますので、少しでも気になることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

保坂 豊昇

保坂ほさか 豊昇あつのり

株式会社日本M&Aセンター
コーポレートアドバイザー統括部 コーポレートアドバイザー1部

公認会計士
大手監査法人、国税専門官等を経て、2020年日本M&Aセンターに入社。会計監査、税務調査等の経験を活かし、会計税務面からM&Aに関する実践的な助言活動を行う。ECサイトを運営する会社の事業譲渡、太陽光発電事業を営む会社の会社分割、上場企業と未公開企業の株式交換など各種スキームにも関与。

不動産業界の
譲渡・売却を検討
不動産業界の
買収を検討

業界別M&A・事業承継の動向

まずは無料で
ご相談ください。

「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。

不動産業界の
譲渡・売却を検討
不動産業界の
買収を検討
不動産業界の
譲渡・売却を検討
不動産業界の
買収を検討