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譲受企業(買い手)にとってのM&A。その目的や押さえておきたいポイント

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譲受企業(買い手)にとってのM&A。その目的や押さえておきたいポイント

一言でM&Aといっても、買収戦略を実行していく譲受企業(買い手)側には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。

M&A実行の目的・メリット

M&Aを実行する目的として、一般的には以下の項目が挙げられます。

  1. 売上規模の拡大、シェア向上
  2. バリューチェーンの補完による関連事業領域拡大
  3. 事業の多角化、新規事業参入
  4. 人材の獲得、技術力向上
  5. シナジー効果の創出

一つひとつ見ていきましょう。

売上規模の拡大・シェア向上

既存事業をさらに強化、拡大してくために、M&Aは多く活用されています。
背景としては、日本が抱える人口減少の問題や、業界によっては将来的に市場縮小が見込まれ自社単体では成長が困難であることが挙げられます。現状維持の守りの姿勢では、事業が立ちいかなくなるケースが多く存在しているのです。

既存事業の強化・拡大の場合、同業の会社を譲り受けることが一般的です。当該M&Aの一番の目的は、既存事業の拡大、業界内でのシェア向上になります。また、同業の会社であればで商流が非常に似通った、もしくは同じ流れになるため、企業間での仕入れ、発注費用の統合、企業間の手数料や販管費削減などにより、コスト削減が実現できるケースも多く存在します。

バリューチェーンの補完による関連事業領域の拡大

既存事業の強化という点では、同業の会社を譲り受ける選択肢のほか、関連する事業分野の企業を譲り受けることも有効です。例えば、戸建建築事業者が、土地造成業者とM&Aを行うと想定します。これまでは、営業をして、自社で土地を仕入れ、建築を実施していたとしても、多くの場合で造成等は外部の会社にアウトソーシングすることが大半です。
アウトソーシングすることで、多額の外注コストがかかったり、品質や納期が読めなくなるリスクが生じます、自社グループに入ってもらうことで、グループ内に当該外注費を取り込め、品質、納期も守ることができる体制構築が可能となります。
また、メーカーが販路先である販売店を譲り受けるというケースも関連事業のM&Aとして有効と言えます。販売店をグループ内に入れることで、メーカーは製造から販売まで一貫して事業を行うことができるようになります。

事業の多角化・新規事業参入

新規事業展開を行う際、一番有効でリスクが少ない手法としてM&Aが活用されるケースも増えています。背景としては、様々な地政学リスクの顕在化してくる事業環境であれば、事業を一つに集中させるのではなく、全く違う事業との二軸にすることで、リスク分散をさせることができるということが認知されはじめているためです。2021年においては、飲食事業者、旅行事業者等、特定の事業者が大きく業績にダメージを受け、異業種に進出するケースも多く見受けられました。複数の事業を展開することで、特定の事業の業績が芳しくない状況になっても、別事業で補完する動きは今後も増加していくと考えられています。
また、M&Aによって新規事業を展開することで、自社で一から行うよりもスピーディーに立ち上げられます。M&Aでは多くの場合、売り手企業の優れた従業員を一挙に確保できるだけではなく、その事業のノウハウなどもあわせて獲得できるためです。

人材の獲得、技術力の向上

昨今、日本の人口減少に伴い、多くの業種において人材を獲得する為のM&Aは活発化し,特に人材派遣、人材紹介会社のM&Aは年々件数が増加しています。そのほか建設・建築業界や運送業界、調剤薬局、病院など、その業務内容と在籍者が保有する資格が業績や事業規模拡大に必要不可欠な業界では、有資格者を獲得する為のM&Aが頻繁に行われています。また、こうした有資格者・技術者を取り込むことで、自社の今まで手掛けてこなかった分野、技術獲得を図るためM&Aが実行されるケースも増えています。

前述の業種の中でも、特に建築士や建築施工管理技士、土木施工管理技士等の有資格数に関しては、入札参加資格等にも影響しますので、非常にニーズが高まっていると言えるでしょう。また、ドライバー不足が続く運送業界においても、大型免許取得者や実務経験者の相対価値は高まっており、取引先や車両、配送拠点等を同時に取得できることからM&Aを通じた拡大を目指す企業は年々増えています。

また、資格者が密接に紐づいていない業界においても、技術力を獲得する為のM&Aも数多く起こっています。例えば製造業では、ある特定の技術を持つ人材、設備、機械装置がなければ製造・加工できないような製品を手掛けている企業をM&Aで取り込むことで、業界内で大きく競合優位性を獲得できるケースがあります。

シナジー効果の創出

シナジー(synergy)=2つ以上のものなどが、相互に作用し合い、1つの効果や機能を高めること。ビジネスにおいては、複数の企業が連携することにより、単独で行うよりも大きな結果を出すことを指し、特にM&Aにおいては、「シナジー効果」とは、複数の企業が共同で事業運営することにより、販路・人材・資産を相互に活用し、自社単独で行動するより大きな成果を生み出すことを指します。

M&Aを行う場合、前述した様に同業種、異業種、関連事業者と様々な分類はあるものの、各々が異なる取引先や販路、人材を持ちます。実際のM&Aにおいても、多くの場合、それらを上手く連携させ、活用し、より成長する=シナジー効果をどう発揮するか、という点は非常に重視されます。
同業や関連事業会社とのM&Aでは、仕入れコストの削減、製造ノウハウの共有、物流面の連携、販売面の連携(クロスセル)などのバリューチェーンに着目したシナジー効果が生み出しやすいと言われています。 
また、同業種、異業種であっても、信用力の向上による資金調達面や会計面でのシナジー効果をだすことも可能です。人材のポストが増えることによるエンゲージメント強化や、採用強化など、一見すると、外からはわからない様なシナジー効果が生まれることも数多くあるのがM&Aの大きな効果ともいえます。

“企業経営”を続ける限り、その成否、成績は「どのくらいの収益を生み出したか」で測られます。人材確保であれ、エリア拡大であれ、M&Aの買収を通じて得られる成果は最終的に収益・利益に還元されます。結果として、企業買収の目的は突き詰めれば「グループとして更なる収益を上げるため」に集約されると言えるのではないでしょうか。

M&Aにおける譲受企業(買い手)側の留意点

M&Aにおける買い手(譲受企業)の留意点を整理します。

コスト(対価・費用)をあらかじめ認識しておく

M&Aにはお金がかかります。代表的なものは譲受企業の対価、仲介会社に払う報酬、専門家への手数料、登記等手続き費用です。お安くできるテクニックを紹介したい所ですが、大幅な値引きはお勧めしません。品質に関わるからです。バラバラに考えるのは止めましょう。全てを含めて「投資」としてとらえ、それに見合う「効果」が得られるか考えましょう。

中長期で取り組む覚悟が必要

1年半。M&Aの検討~実行~成約までの平均的な期間です。また、M&Aは実行後からが本番であり、買収後の経営統合は長期的に取り組む必要があります。「M&Aはお金で時間を買うようなものだ。0から新規事業を立ち上げるより時間を短縮できる。」という意見があります。それは間違いではありません。しかし、歴史や社風の異なる企業同士が一朝一夕で上手くいくことはありえません。M&A後のシナジーを発揮するには、経営統合計画の立案と実行が欠かせません。

おわりに

M&Aは自社の成長速度を高める有効な手段である反面、投資である以上リスクも発生します。あらかじめ想定されるリスクや留意点を押さえておくことは成功確率を高めるため、情報収集を入念に行い、目的を実現させるM&Aにそなえましょう。
また、M&Aを実行したからと一朝一夕でシナジー効果が実現できるものではありません。当然のことながら、綿密な事前計画、慎重な実践、日々の営業努力の上に実現します。いずれかが十分でないと、後から「こんなはずではなかった」という事態になりかねません。そのような事態を回避するために、実績や経験豊富な専門家のサポートを受けることをお勧めします。

詳しくは専門のコンサルタントまでお気軽にお尋ねください。
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著者

川畑 勇人

川畑かわばた 勇人はやと

日本M&Aセンター東日本事業法人チャネル統括部長

キーエンスにて製造業を中心とした中堅中小企業向けのコンサルティングセールスに従事した後、2014年4月、当社へ入社。中堅・中小企業から上場企業まで、様々な企業に対して、買収戦略~M&A実行~PMI(企業結合)を総合的にサポートしている。理論と経験に基づいたハードスキルと中小企業のM&Aに必要なソフトスキルを兼ね備え、数多くのリピーターをかかえている。

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