「後継者のいない会社」を買うメリットとは?

M&A全般
更新日:

近年、後継者不在の会社を第三者が譲受けるケースが増加傾向にあります。
本記事では、後継者のいない会社を買う場合のメリット、認識しておきたい注意点、会社の探し方や相談先についてご紹介します。

この記事のポイント

  • 後継者不在の企業を買収するケースが増加している背景には、経営者の高齢化や価値観の多様化がある。
  • 会社売却のメリットには、事業参入の短縮、規模拡大、文化の継承があり、社員の雇用や待遇改善の可能性もある。
  • 注意点として、信頼関係の維持や簿外債務の確認が必要で、事業承継・引継ぎ支援センターやM&A仲介会社が相談先として有効である。

⽬次

[非表示]

後継者のいない会社を買うケースが増えている背景

会社自体は利益を上げている、にも関わらず廃業を迫られている中小企業が増えています。その背景として挙げられるのは「後継者不在問題」です。

経営者の高齢化

帝国データバンクの発表した全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)によると、後継者不在率は初めて6割を下回ったものの、70代~80代の経営者の約3割は「後継者がいない、もしくは未定」と回答するなど、後継者不在問題は深刻化しています。

後継者のいない会社自体が増えている主な要因は「経営者の高齢化」「価値観の多様化」です。

中小企業の経営者の高齢化が加速する一方、事業承継のタイミングを逃してしまっている経営者も少なくありません。事業承継には様々な手続き、プロセスが必要であり、もし仮に後継者候補が決まっていたとしても、十分に引き継ぐ時間等が確保できないと、事業承継は想定通りに行えなくなります。

「継がない」「継がせない」価値観の多様化

また、個人主義が中心となっている現代においては、親が子に家業を継がせる「親族内承継」による承継は減少傾向にあります。

経営者の子など、従来は有力候補とされてきた親族自身が「継ぐ意志をもっていない」、あるいは経営者自身が「我が子には希望する道を歩んでほしい」と考えるなど価値観の多様化も、後継者不在につながる要因と考えられます。従業員など社内の関係者に引き継ぐには、株式の買取など資金面で壁に直面し、実現を断念せざるをえないケースもよく見られます。

このような後継者不在問題、事業承継問題を解決する手段として、M&Aによる第三者への事業承継が注目を集め、M&Aの件数は年々増加傾向にあります。

また個人でも手軽に利用できるM&Aマッチングサイトの登場により、小規模なM&Aの急増もM&A増加の要因の一つとされています。

後継者のいない会社を買うメリット


後継者のいない会社を買う主なメリットは、以下の通りです。

事業参入の時間とコストをショートカットできる

新たに事業を始める場合、求める目標に到達するまで相当の時間とコストがかかります。新たな技術やスキルの拡大、顧客ネットワーク、市場シェアの拡大を短期で実現することはほぼ不可能に近いでしょう。
しかし、買収した会社にが保有する技術・ノウハウ・従業員や取引先を引き継ぐことで、スムーズに新規ビジネスへの参入、事業拡大が見込めます。

事業規模の拡大が見込める

自社と同業、もしくは関連事業を展開する企業を買収することで、既存事業の規模拡大やシナジー効果の創出が期待できます。

つまり、仕入れコストの削減、製造ノウハウの共有、物流面の連携、販売面の連携など、販路・人材・資産を相互に活用し、自社単独で行動するより大きな成果を生み出すことが期待できるのです。

文化の継承や社会貢献に実現できる

事業によっては、その会社しか保有していない特殊な技術を持つ場合があります。そうした技術・ノウハウが廃業によって消滅することは、国や社会にとって大きな損失となりえるでしょう。

そうした会社を譲り受けることで、技術やノウハウ、それにひもづく文化を次世代に引き継げることは、結果として国や社会への貢献につながるという点でメリットとして挙げられます。

後継者のいない会社を買う注意点


後継者のいない会社を買う場合の主な注意点は、以下の通りです。

従業員、顧客との信頼関係の構築

後継者のいない中小企業では、経営者の求心力によって従業員、取引先、顧客と強固な関係を構築しているケースが多く見られます。
そのため、譲受けた後もその関係性を維持するために、M&Aを行った目的、今後の方針について十分な説明とコミュニケーションを意識的に行う必要があります。

簿外債務への注意

株式譲渡などで会社を譲受ける場合、貸借対照表上に記載されていない簿外債務など、不要な資産を引き継いでしまうリスクもあります。
譲受けた後に発覚することを回避するためには、オーナー経営者への確認、デューデリジェンスの実施が必要不可欠です。

簿外債務の主な項目は以下の通りです。

簿外債務の例 ポイント
未払い残業代 過去に支払われなかった残業代を従業員が請求するケースは少なくありません。
譲受ける側にとっては予定外の支払いとなり、本来であれば買収価格に加味すべき事項です。

隠れ債務として存在していた場合、買収価格に反映されないため、あらかじめ把握しておく必要があります。
退職給付引当金 退職給付引当金は、実際に退職金を支払うタイミングで費用計上されるため、簿外債務となるケースが多くあります。

退職金制度の有無、就業規則や規定を事前に確認しておくことで回避できます。
債務保証 中小企業間では、契約書を締結せず債務保証してしまうケースがゼロではありません。契約書がない為、後から簿外債務として発覚するケースがあります。

対象企業が債務保証している企業からの保証金入金の有無などを確認する必要があります。
偶発債務 偶発債務は、将来的に債務になる可能性があるものを指します。具体的には、訴訟に負けた場合に支払う必要がある賠償金や、自社の事業が引き起こす可能性がある公害に対する補償金などが挙げられます。

買収監査時に訴訟案件の有無や付近の住民からのクレームなどを確認して、将来的に債務になりうるものを把握しておくことや、発生する可能性がある債務の金額も想定しておくことが重要です。

後継者のいない会社を買うには

後継者のいない会社を譲受けたい場合、相談先としては、事業承継・引継ぎ支援センターとM&A支援会社が挙げられます。
それぞれの概要は、以下の通りです。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターとは、後継者不足に悩む中小企業・小規模事業の事業承継をM&Aなどの活用によってサポートすることを目的とする国の事業です。創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主を引き合わせ、創業と事業引継ぎを支援する「後継者人材バンク」などの支援が受けられます。
公共機関であるため全国各地で安心して相談できること、中小企業診断士や税理士、公認会計士などの専門家に無料で相談できる点がメリットである反面、M&Aの直接的な仲介、相手との交渉など、一貫したサポートを受けることはできない点に注意が必要です。

M&A仲介会社

会社を買いたい場合の相談先には、M&A支援をする民間のM&A仲介会社も挙げられます。M&A仲介会社は、豊富な経験とネットワークにもとづいて、買収希望者に対してニーズに合った会社を探してくれるところからサポートしてくれます。

買収を検討するにあたって、自社のM&Aの目的にあった条件や交渉などの助言を行うほか、公認会計士や弁護士など内外のプロフェッショナルのネットワークを活用し、事前の買収監査をしっかり行える体制があることもメリットとして挙げられます。一方で報酬体系など各社異なる点を比較検討しておく必要があります。

日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継をご支援しています。中小企業のM&Aに精通した専任チームが、お客様のM&A成約まで伴走します。 詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

終わりに

以上、後継者のいない会社を買うをテーマにご紹介しました。後継者のいない会社は事業承継のタイミングを逸した高齢の経営者の増加、家業を引き継ぐといった価値観の希薄化によって増加しており、大きな社会課題となっています。そうした後継者のいない会社の中から、自社とのシナジーを描ける会社に出会えた場合、M&Aで譲受けることで、自社の飛躍的な成長の一歩に近づくことができます。

日本M&Aセンターは、譲渡を検討している企業様の公開情報、非公開情報を豊富に保有しています。案件情報や買収ニーズ登録をぜひご活用ください。

M&A案件一覧(売却・事業承継案件)はこちら

買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?

著者

M&A マガジン編集部

M&A   マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「買収」に関連するコラム

TOB(株式公開買付け)とは?目的やメリット、手続きをわかりやすく解説

M&A全般
TOB(株式公開買付け)とは?目的やメリット、手続きをわかりやすく解説

TOB(株式公開買付け)とは?TOB(Take-OverBid)は株式公開買付けのことで、買付け価格や期間などを公表して株主から株式を売却するよう呼びかけ、買付ける手法を指します。一般的に買付け価格や市場価格より高く設定され、株主は市場価格よりも高く株式を売却できる可能性があります。他の企業を買収、組織再編する場合や、MBO(経営陣による買収)で非上場化する場合などに用いられます。TOBを仕掛ける

ロングリストとは?M&Aにおける活用方法、ショートリストとの違いを解説

M&A実務
ロングリストとは?M&Aにおける活用方法、ショートリストとの違いを解説

M&Aの重要なプロセスの一つが、M&Aの対象候補となる企業の選定と絞り込みです。このプロセスにおいて、大切な役割を果たすのが今回紹介するロングリストです。本記事ではロングリストの概要や重要なポイントを解説します。ロングリストとは?ロングリストとは、M&Aの初期段階においてターゲット候補となる企業を一定の条件で絞り込みを行い、作成された候補企業リストです。M&Aの提案候補をなるべく広く検討するため、

企業買収とは?買収スキームやメリット・デメリットを解説

M&A全般
企業買収とは?買収スキームやメリット・デメリットを解説

事業承継や業界再編への対応策として、企業買収の動きは今後ますます加速することが考えられます。本記事では、企業買収の基礎を整理した上で、その種類やメリット・デメリット、具体的な流れなどについて解説します。まずは、買収の希望条件を登録してみませんか?法人の買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から

個人も会社を買う時代。個人M&Aのメリット・注意点をわかりやすく解説

M&A全般
個人も会社を買う時代。個人M&Aのメリット・注意点をわかりやすく解説

法人だけでなく個人による買収の動きが活発化しています。本記事では個人、法人が会社を買うメリット、注意点についてご紹介します。まずは、買収の希望条件を登録してみませんか?法人の買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件を登録してみる(無料)この記事のポイント個人M&

M&Aのプロが振り返る2024年のM&Aニュース&2025年予測

M&A全般
M&Aのプロが振り返る2024年のM&Aニュース&2025年予測

M&A業界の経験豊富な2人が、世の中の企業のM&Aニュースを紐解き解説する「M&Aニュースサテライト」。今回は「2024年のM&Aニュースの振り返りと2025年のM&A動向の予測」をテーマに解説します。※本記事はYouTube動画の内容を編集してご紹介します。解説のポイント2024年のM&A市場は大きく変化し、特にTOBやMBO案件が目立つ年であった。特に「同意なき買収提案」が多く見られた。第一生

バイアウトとは?目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

M&A全般
バイアウトとは?目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

企業が経営再建、事業継続を検討する手段のひとつにバイアウト(BuyOut)があります。本記事では、バイアウトの概要やそれぞれの手法の特徴、成功に導くためのポイントをご紹介します。バイアウトとは?バイアウト(BuyOut)とは、経営再建による事業継続や収益向上を目的に、経営者や従業員が自社の株式の過半数を取得し、経営権を握る買収手法を指します。一般的には、企業の経営陣や従業員が自身の資金や外部の投資

「買収」に関連する学ぶコンテンツ

買収先の本格検討・分析

買収先の本格検討・分析

買収先の探し方でご紹介したように、買い手はノンネームシート、企業概要書で買収先についてM&Aを進めるかどうか検討します。本記事では、買い手が企業を検討する際流れと、陥りがちな注意点についてご紹介します。この記事のポイント買い手がM&Aを進める際、最初にノンネームシートや企業概要書を通じて対象企業を検討し、提携仲介契約を結んだ後に質疑応答を行う。M&Aの目的を明確にし、買収先にすべての問題解決を求め

買収先の探し方

買収先の探し方

買い手の相談先でご紹介したように、M&A仲介会社などパートナーを選定したら、いよいよ買収先の候補企業を探すステップに移ります。本記事ではM&A仲介会社を通じてお相手探しを行う主な方法について、日本M&Aセンターの例をもとにご紹介します。この記事のポイント買収先の探し方には「譲渡案件型」と「仕掛け型」の2つがあり、譲渡案件型ではノンネームシートや企業概要書を通じて情報を開示し、秘密保持契約を締結する

買い手にとってのM&A。目的や留意点とは?

買い手にとってのM&A。目的や留意点とは?

買い手の買収戦略には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。この記事のポイント買い手がM&Aを行う目的には、市場シェアの拡大、事業領域の拡大、事業の多角化、人材獲得・技術力向上、効率性の向上がある。買収により、企業は迅速に成長を加速し、顧客ベースや販売チャネルを拡大することができる。M&Aにはコストや中長期的な取り組みが必要で、成約後の経営統合計

「買収」に関連するM&Aニュース

フーデックスホールディングス、焼鳥「串八珍」「元祖串八珍」など展開の豊創フーズを買収

株式会社フーデックスホールディングス(東京都豊島区)は、ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社が投資助言を行うファンド「みのり2号投資事業有限責任組合」が保有していた豊創フーズ株式会社(東京都文京区)の株式取得が完了したことを発表した。フーデックスグループは、飲食店(特にラーメン店、居酒屋、鮮魚店)の企画・運営・経営等を行っており、「東京豚骨ラーメン池袋屯ちん」「大衆酒場かぶら屋」「COFF

アリマンタシォン・クシュタール社、セブン&アイHDへの買収提案を撤回

株式会社セブン&アイ・ホールディングス(3382)は、アリマンタシォン・クシュタール社(以下、ACT社)が、セブン&アイ・ホールディングスとの協議を一方的に終了し、買収提案を撤回する決定を下したことを確認したと発表した。セブン&アイ・ホールディングスは、ACT社より、法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていると2024年8月に発表していた。

米SBCメディカルグループHD、美容医療業界に特化したコンサルティングファームのMB career loungeの株式取得

SBCメディカルグループホールディングス(米国カリフォルニア州、以下:SBC)は、2025年7月17日、株式会社MBcareerlounge(東京都港区)の株式取得を完了したことを発表した。本取引を通じて、MBcareerloungeの支援を受ける医療法人美咲会運営のJUNCLINICが、SBCメディカルのクリニックネットワークに新たに加わる。SBCは、医療機関(総合美容医療・歯科・AGA治療・婦

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース