自社株買いとは?企業が行う目的、株価への影響などわかりやすく解説
⽬次
- 1. 自社株買いとは?
- 2. 自社株買いを行う目的
- 2-1. 株主への利益還元
- 2-2. 株価上昇による投資家へのアピール
- 2-3. 敵対的買収リスクの低減
- 2-4. ストックオプションへの活用
- 3. 自社株買いが株価上昇につながる仕組み
- 3-1. ROE(自己資本利益率)の向上
- 3-2. PER(株価収益率)の低下
- 4. 自社株買いを発表した企業
- 4-1. ENEOSホールディングス(2024年2月9日発表)
- 4-2. 三菱商事(2024年2月6日発表)
- 4-3. 野村ホールディングス(2024年1月31日発表)
- 4-4. キヤノン(2024年1月30日発表)
- 5. 自社株買いによって考えられるリスク
- 5-1. 自己資本比率の低下
- 5-2. 企業の成長を阻害
- 5-3. 取得した株式の処分で株価下落の可能性
- 6. 終わりに
- 6-1. 著者
東京証券取引所が上場企業に資本効率の改善を要請したことなどを背景に、自社株買いによって余剰資金を株主に積極的に還元する企業の動きが増えています。本記事では、上場企業の自社株買いの概要についてご紹介します。
自社株買いとは?
自社株買いは、企業が自社の株式を市場から買い戻すことを指します。企業は株主への利益還元や株価の上昇促進などを目的に自社株買いを実行します。
自社株買いを行う目的
企業が自社株買いを行う主な目的は、以下の通りです。
株主への利益還元
企業が自社株買いを行うと、市場に出回る株式数が減少するため、企業の利益総額が減らない限り1株当たりの純利益(EPS)は向上します。
つまり株主にとっては1株当たりの利益配分が増えます。そのため自社株買いは株主への利益還元、ポジティブなアピールを目的に実行されます。その結果、成長を期待した株主による長期保有や、継続的な株式の購入など、株主や投資家から関心を集めることが期待できます。
株価上昇による投資家へのアピール
一般的に自社株買いは、後述の通りPERやROEが改善され、結果的に株価上昇につながる可能性があります。その結果、多くの投資家の注目を集めることが期待できます。
敵対的買収リスクの低減
自社株買いは、敵対的買収を防ぐ目的として行われることがあります。市場から買い戻すことで自社株の持ち株比率を高め、外部から買い占められるリスクの低減につながるため防衛策として選択肢の一つに挙げられます。
敵対的買収とは?仕組みやメリット、防衛策、企業事例を解説
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ストックオプションへの活用
ストックオプションとは、社内の関係者が自社株をあらかじめ決められた価格で取得できる「権利」です。買い戻された自社株は、通常「消却(無効化)」されるほか「金庫株」として保管することもができ、従業員などに付与するストックオプションとして活用することができます。
ストックオプションとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説
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自社株買いが株価上昇につながる仕組み
自社株買いが株価上昇につながる背景には、ROEとPERの影響があります。それぞれについて見ていきましょう。
ROE(自己資本利益率)の向上
ROE(自己資本利益率)は、企業がどれだけ効率的に資本を利用して利益を上げているかを測る指標です。ROEの数値が高くなればなるほど、株主資本を効率的に使って利益を上げられていることを示すため、投資家からの期待や企業評価が高まります。
つまり自己資本を用いて自社株買いを行うと、自己資本(株主資本)が下がるため、ROEの数値は自然と高まります。そのことで投資家からの期待が高まり、株価上昇に影響を及ぼします。
ROE(自己資本利益率)とは?目安や、ROAとの違いをわかりやすく解説
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PER(株価収益率)の低下
PER(株価収益率)は企業の株価が利益水準に対して割高なのか、割安なのかを判断するために用いられる指標です。PERの数値が低いほど株価は割安であり、短期間で回収できることを意味します。反対に高い場合は投資コスト回収が長期化し、割高とみなされます。
PERは、株価をEPS(1株当たりの純利益)で割るため、自社株買いをして発行株式数株が少なくなると、必然的にPERの数値が下がり「割安な株」として投資家から注目が集まり、その結果、株価上昇が期待できます。
PER(株価収益率)とは?計算方法やPBRとの違いをわかりやすく解説
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自社株買いを発表した企業
直近、自社株買いを発表した企業をいくつかご紹介します。
ENEOSホールディングス(2024年2月9日発表)
【自己株式の取得を行う理由】 株主への利益還元として実施
三菱商事(2024年2月6日発表)
【自己株式の取得を行う理由】 中期経営戦略2024における株主還元及びキャッシュ・フロー配分の考え方に基づき自己株式を取得
野村ホールディングス(2024年1月31日発表)
【自己株式の取得を行う理由】 資本効率の向上および機動的かつ柔軟な資本政策の実施を可能とし、また株式報酬として交付する株式へ充当するため実施
キヤノン(2024年1月30日発表)
【自己株式の取得を行う理由】 株主還元策の一環として、自己株式の取得を実施
自社株買いによって考えられるリスク
自社株買いにはメリットがある一方で以下のようなリスクも懸念されます。
自己資本比率の低下
自社株買いは、手元のキャッシュ(自己資本)を使って行われるため、自己資本比率(自己資本÷総資本)が低下します。自己資本比率が低下することで財務リスクがあると見なされ、株主や投資家から懸念を持たれる可能性があります。
企業の成長を阻害
自社株買いは計画と実行に多くの時間や経営リソースを要します。企業はこれらのリソースを自社株買いに充てることで、他の重要な業務や戦略的な活動に割くことができなくなり、成長を阻害する可能性も考えられます。
取得した株式の処分で株価下落の可能性
自社株買いによって取得した自己株式の取扱い方法は、「資産として自社で保有」「売却して処分する」「消却」の3つがあります。
処分した場合、売却資金を獲得できる一方、売却した株式は市場に戻り、発行済株式総数が増える(元に戻る)ため1株当たりの利益は減少します。そのため株価下落の可能性も考えられます。
自己株式の消却とは?処分や取得との違い、目的・メリットを解説
自己株式の消却とは、会社が保有している自己株式を消滅させることを言います。自己株式の消却は、主に発行済株式数の適切化などを目的に実施されますが、その他にもさまざまな利用方法があります。本記事では自己株式の消却の目的・メリット、注意点、具体的な手続きなどについて詳しく解説します。日本M&Aセンターでは、M&Aをはじめ様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、ご支援を行っています。詳しくはコンサ
終わりに
以上、自社株買いの概要についてご紹介しました。自社株買いの実行を検討する際には、本記事で触れた目的、リスクをふまえ財状況や株主価値の向上を考慮し進める必要があります。