M&Aのクロージング、押さえておきたいポイント
⽬次
- 1. M&Aのクロージングとは?
- 2. M&Aのクロージングの手続き
- 2-1. ① 株式譲渡契約の締結
- 2-2. ②必要書類の交付
- 2-3. ③株式代金の決済
- 2-4. ④株券の授受(株券発行会社の場合)
- 2-5. ⑤役員登記の変更
- 2-6. ⑥役員退職金の支払い(退任役員がいる場合)
- 2-7. ⑦連帯保証、担保の解除
- 2-8. ⑧重要物品の授受
- 3. M&Aのクロージング条件とは?
- 3-1. 表明保証
- 3-2. 誓約事項の履行
- 3-3. 主要取引先からの同意取得
- 3-4. 必要な許認可の取得
- 3-5. 社内のキーマンの承諾取得
- 4. M&Aのクロージングで注意すべきポイント
- 5. 終わりに
- 5-1. 著者
M&Aのクロージングとは?
一般的なビジネスにおけるクロージング(商談成立・案件完了)の意味と同様に、M&Aのクロージングは「 M&A取引が成約すること 」を指します。
最終契約書の締結からクロージングまでは、最終契約に定めたクロージングに必要な条件、手続きをクリアする必要があるため、 契約締結から一定の期間を空ける のが一般的です。
具体的には主要取引先からの同意の取得、事業によっては必要な許認可の取得などが挙げられます。
これら様々な手続きが完了した段階で、売り手から買い手に経営権が移り、M&A成約となります。(もちろん最終契約締結までに、クロージングに必要な手続きが完了している場合は、契約締結と同日に実施する場合もあります。)
そのため、クロージングに必要な項目をリストアップし、抜け漏れが無いように進めることが大切です。
M&Aの最終契約書(DA)締結
M&Aの最終契約書(DA)とは?M&Aにおける最終契約書(DA:DefinitiveAgreement)とは、M&Aの最終段階において締結される、当事者間の最終的な合意事項を定めた最も重要な契約書です。株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書」(SPA:SharePurchaseAgreementまたはStockPurchaseAgreement)、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」などスキームによって名
M&Aのクロージングの手続き
M&Aのスキームによってクロージングの手続きは異なりますが、ここでは未上場の売り手企業の株式譲渡の場合を例にご紹介します。主な手続きは以下の通りです。
① 株式譲渡契約の締結
売り手、買い手は、株式譲渡の最終契約である「株式譲渡契約書(SPA)」へ署名、捺印を行います。これにより、取引の条件や内容が確定し、法的に拘束力を持つ契約となります。契約書は捺印者の人数分を製本し、全てに捺印する必要があります。
②必要書類の交付
売り手・買い手間で株式譲渡承認請求書や承諾通知書、株主総会議事録の写しなど必要書類の交付を行います。
【必要書類の例】
- 株式譲渡承認の議事録
- 株式譲渡承認書兼承認通知書
- 株主名簿記載事項書換請求書
- 株主総会議事録
- 株主名簿 など
③株式代金の決済
買い手が書類を確認し、売り手へ対価を支払います。この支払いは、契約書で定められた支払いスケジュールに基づいて行われます。売り手の株主の指定口座に送金する方法が一般的です。
④株券の授受(株券発行会社の場合)
売り手が買い手に対して株券を引き渡します。株券発行会社では株券の占有が第三者対抗要件となるため、必ず株券の授受を行います。非上場かつ株券不発行会社の場合、この手続きは必要ありません。(株主名簿の書き換えは必要)
⑤役員登記の変更
株式代金の決済、株券の授受等が完了したら、売り手の役員変更登記を行います。(あらかじめ司法書士との打ち合わせが必要になります。) 買い手の代表者や役員が新たに登記され、経営権や決定権が移転します。
⑥役員退職金の支払い(退任役員がいる場合)
売り手から退任役員への役員退職金の支払いを行います。支払い金額は譲渡対価の一部として扱われるため、売り手と買い手の間で協議を行い、最終契約書に定めておきます。
会社売却後の役員退職金、従業員退職金はどうなる?
会社売却後に退職する場合、退職金はもともとの規定が引き継がれるのでしょうか。支払われる金額や方法、時期などに変化が生じるのでしょうか。本記事では、会社売却にともない退職者が出た場合の従業員や役員の退職金、注意すべきポイントについて解説します。@sitelink退職金とは退職金とは、従業員の退職時に雇用主である会社が支払う金銭のことで、通常の給与や賞与とは別に支給されるものです。退職金制度の導入は法
⑦連帯保証、担保の解除
速やかに譲渡オーナーの連帯保証や担保を解除する必要があります。この手続きは、金融機関との交渉を要します。
個人保証とは?メリットやデメリット、関連ガイドラインを解説
中小企業の経営者が金融機関から融資を受ける際、個人保証を求められることがあります。個人保証に応じると融資が受けやすくなる反面、資金難に陥った場合は、経営者の個人資産を切り崩すなどの必要が生じます。本記事では、個人保証の概要、メリットやデメリット、そして「経営者保証に関するガイドライン」について取り上げるほか、M&Aによる個人保証の解除についてもご紹介します。個人保証とは個人保証とは、企業が金融機関
⑧重要物品の授受
重要物品の内容については両者の間の話し合いで決まりますが、一般的には、代表者印、銀行印、通帳、印鑑カードなど、会社の経営移転に必要な物品が該当します。
以上、株式譲渡の場合の手続きについてご紹介しましたが、事業譲渡の場合は買い手に移譲される資産・負債などについてそれぞれ手続きを行い、対価の支払いをもってクロージングになります。
これらクロージングに必要な手続きは、M&A仲介会社など専門家のアドバイスを受けながら、適切に実施することが重要です。
株式譲渡とは?中小企業が用いるメリット・注意点・手続きを解説
株式譲渡は、株式の譲渡によってM&Aが完了し、比較的簡易な手続きであることから、中堅・中小企業のM&Aで多く用いられるスキームです。本記事では、株式譲渡の概要、メリットやデメリット、手続きの流れ、税金についてM&Aに精通した税理士がご紹介します。株式譲渡とは株式譲渡とは、譲渡対象企業の株主が保有する株式を売却し、経営権を承継する手法です。比較的簡易な手続きで譲渡対価を株主(譲渡オーナー)が受け取れ
M&Aのクロージング条件とは?
M&Aの最終契約書では「クロージング条件(資金決済条件)」が定められていることが一般的です。
クロージング条件は、 M&A実行において両社が譲れない前提条件 、つまりこの条件が整わなければクロージングできないである、という点で非常に重要なものになります。
内容としては「表明保証した内容が正しいこと」「譲渡日までの義務が遵守されていること」の2つが柱となります。具体的な内容として例を挙げてご紹介します。
表明保証
売り手、買い手ともにそれぞれ表明保証を行い、契約締結日や譲渡日の時点で、契約に定めた表明保証の内容が正しくあることを表明し、その内容を保証します。その表明保証の内容が正確であることがクロージングの前提条件となります。
M&Aにおける表明保証とは?押さえておきたいポイントを解説
表明保証という言葉は、法律を勉強されたことがある人でも、聞きなれない言葉ではないでしょうか。表明保証は英米法において発展した概念であり、日本の法律には規定されていないことがその一因とも言えます。本記事は、M&Aにおける表明保証について概要をご紹介します。表明保証の解説動画日本M&Aセンターは、YouTubeで当社コンサルタントによるM&Aの基礎解説動画を公開しています。表明保証の解説動画も合わせて
誓約事項の履行
売り手、買い手はクロージング日までに履行すべき義務とした事項について、M&Aを実行するための前提条件とします。これらの事項がクロージング日までに履行されていなければ、クロージングに至りません。
主要取引先からの同意取得
売り手の主要取引先企業とM&A後も取引を継続させるために、取引継続の同意を条件に定める場合があります。同意は書面や口頭による承諾があります。
また、売り手と当該企業の契約には、チェンジオブコントロール条項(COC条項)が存在するケースがあります。その場合は、クロージング日までに当該企業へ事前の対応が必要になることも考えられます。
チェンジオブコントロール(COC)条項とは?記載例やメリット・デメリットを解説
チェンジオブコントロール条項(以下、COC条項)は、M&Aの場面で特に買い手側企業が把握しておきたい条項です。本記事ではCOC条項が設定されるケースやCOC条項のメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこ
必要な許認可の取得
事業に必要な許認可の種類によっては、M&Aに際し届出が必要となり、クロージング条件に定められるケースもあります。
社内のキーマンの承諾取得
買い手にとって、事業の推進に欠かせない売り手側のキーパーソンがM&Aを機に離職してしまうことは回避しておかなければなりません。
そのため売り手のキーパーソンからM&Aの承諾を取得することも、クロージング条件に含まれる場合があります。
M&Aの伝え方、情報開示(ディスクロージャー)のポイント
譲渡オーナーにとって、M&Aの実行を従業員や取引先、金融機関など関係者に「いつ伝えるか」「どう伝えるか」は大きな関心事の1つです。本記事ではM&Aの情報開示について、押さえておきたいポイントをご紹介します。日本M&Aセンターは、30年以上にわたり中小企業のM&A・事業承継をご支援してきました。経験豊富なコンサルタントが、大切な情報開示の場面でも強力にバックアップします。M&A・事業承継のご相談はこ
M&Aのクロージングで注意すべきポイント
ご紹介したように、M&Aのクロージングでは様々な手続きが発生します。
株券の授受、退職金の支払い、株式代金の決済、重要物品(会社代表印、通帳等)の引き渡しなどのほか、場合によっては、不動産売買や車両売買等も実施することがあります。
これら手続きは、事後トラブルを回避するため、原則全て同日中に完結することが一般的です。
終わりに
以上、M&Aのクロージングについてご紹介しました。クロージングに関する手続きは様々存在し、法律に基づいた手続きになります。
必ず抜け・漏れが無いようにクロージングに必要な項目を洗い出し、事前に売り手と買い手、M&A仲介会社の協力を得ながら進める必要があります。