デューデリジェンス(DD)とは?目的や種類をわかりやすく解説
⽬次
- 1. デューデリジェンスとは
- 2. デューデリジェンスを行うタイミングと期間
- 3. デューデリジェンスが必要な理由
- 3-1. リスクの特定と対応を見極めるため
- 3-2. 企業価値を正しく評価するため
- 4. デューデリジェンスの種類
- 4-1. 事業(ビジネス)デューデリジェンス
- 4-2. 財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス
- 4-3. 法務(リーガル)デューデリジェンス
- 4-4. 税務デューデリジェンス
- 4-5. ITデューデリジェンス
- 4-6. 人事デューデリジェンス
- 4-7. その他のデューデリジェンス
- 5. デューデリジェンスの手順
- 5-1. 1. 調査チームの組成・調査準備
- 5-2. 2.資料の分析・聞き取り調査の実施
- 5-3. 3. 調査結果の検討
- 6. デューデリジェンスの費用相場
- 7. デューデリジェンスを行う際の注意点
- 7-1. M&Aの規模、内容に応じて適正な範囲で行う
- 7-2. 期間内に優先順位をつけて行う
- 7-3. 対象企業は積極的に情報提供を行う
- 7-4. 情報管理を徹底する
- 8. 終わりに
- 8-1. 監修
M&A成功の鍵は、取引前に行うデューデリジェンス(Due Diligence)、つまり、事前調査にあります。
本記事ではデューデリジェンスの目的、種類、進め方についてわかりやすく解説します。
デューデリジェンスとは
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資を行う際に、投資先の価値やリスクなどを調査することを指します。
一般的にM&Aでは、譲受け企業(買い手)が対象企業に対し、財務状況、法律問題、営業状況、IT環境など、様々な角度から調査・評価を行ってリスクを把握し、将来のビジネスチャンスを探り、買収にふさわしい企業かどうかを検証します。
「Due=当然行われるべき」「 Diligence=義務・努力」は「DD」と略され、日本語では「買収監査」とも呼ばれます。
調査の範囲は、対象企業の業種や事業規模、企業価値評価の結果などによって異なります。それぞれの種類については後述しますが、デューデリジェンスは専門性が高く調査する範囲も広いため、公認会計士や弁護士など専門家の協力を得ながら進めていきます。
デューデリジェンスを行うタイミングと期間
M&Aでは、基本合意契約を締結した後に、デューデリジェンスが行われることが一般的です。
デューデリジェンスに要する期間は、およそ1~2ヵ月ほどですが、対象企業・事業の規模や業種、調査する範囲などによって、調査完了までの期間に違いが生まれます。場合によっては、2週間ほどで完了するケースもあると言えます。
また、デューデリジェンスは調査される側である、対象企業の協力無しには実現できません。必要書類の用意や回答が進まなければ、急ぐ必要があったとしても実現は困難です。その点も考慮して計画立てる必要があります。
デューデリジェンスが必要な理由
M&Aにおいて、デューデリジェンスが重要なプロセスと見なされる理由は、主に以下の通りです。
リスクの特定と対応を見極めるため
デューデリジェンスは、財務リスク(不良債権、過大評価の資産など)、運用リスク(効率的でないプロセス、技術的な問題など)、法的リスク(訴訟、法規制違反など)等の特定と評価を目的としています。あらかじめ潜在的な問題を含めて把握し、それらを考慮に入れてM&Aの実行やリスクへの対応など、適切な決定を下すことができます。譲渡企業(売り手)側にとっても、契約前に把握した問題点への対応を講じられるため、契約後のトラブル回避にもつながります。
企業価値を正しく評価するため
取引の対象となる企業や資産の真の価値を評価する際に、デューデリジェンスは不可欠です。企業の財務状況、市場ポジション、競争力、将来の成長性などを詳細に調査し、取引価格が適正かどうかを評価します。
また、新たなビジネスチャンスを見つけるためにもデューデリジェンス有用です。例えば、対象企業の製品や技術が自社のビジネスとどのように統合し、新しい市場機会、シナジーを生み出すことができるか重要な判断材料にもなりえます。
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスは、調査対象に応じて様々な種類が存在します。M&Aで行われる主なデューデリジェンスの種類をご紹介します。
事業(ビジネス)デューデリジェンス
事業デューデリジェンスは、対象企業のビジネス全体を詳細に調査し、理解するプロセスです。これには主要な事業活動、市場競争力、戦略、顧客との関係、将来の成長見通しなどが含まれます。
主な目的は、M&Aの際に対象企業の事業戦略や状況を正確に把握し、リスクや機会を明らかにすることです。
各種決算資料、事業計画書、競合や仕入先、顧客、製品・サービス、市場、保有する技術など
財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、対象企業の財務状況を詳細に調査するプロセスです。これには財務諸表、収益、費用、資産、負債、キャッシュフローなどの要素が含まれます。
主な目的は、実態純資産、正常収益力、簿外債務の有無、キャッシュフローの状況、内部統制の状況等の財務的な健全性を確認し、潜在的な財務リスクを特定することです。
税務・法務など他のデューデリジェンスと並行して実施し、それらの結果をふまえて調査範囲を調整する場合もあります。中堅・中小企業のM&Aでは、決算書と実態がかけ離れている場合があるため、財務デューデリジェンスの実施は必須といえます。
また、財務デューデリジェンスは、公認会計士あるいは監査法人が行う「財務諸表監査」と混同されることがありますが、財務諸表監査のように財務諸表の適正性について意見を表明するものではありません。他にも目的や調査対象、実施する手続きなど根本的に異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
決算書や総勘定元帳、具体的な証憑類、予算・事業計画書、監査法人による報告書、役員会の資料、銀行に提出した資料。(そのほか、簿外債務の把握のため、雇用・不動産・法務関係の資料や契約書なども含める場合もある)
法務(リーガル)デューデリジェンス
譲渡対象企業・事業の法務を対象とした調査です。想定されるリスクの把握を目的に行われます。
調査対象のなかでも「許認可と訴訟」について重点的に調査が行われる傾向にあります。許認可が引き継げなければ事業は継続できず、訴訟を抱えていれば賠償金を支払う可能性があるため、法務デューデリジェンスでは重要な調査対象となります。
会社組織に関する資料、株式と株主関連の資料、役員・社員に関する資料、業務に関する資料、紛争に関する資料、許認可に関する資料など
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、対象企業の税務関連情報を詳細に調査するプロセスです。これには過去の税務申告内容や納税状況、税制度遵守、未解決の税務問題などが含まれ、税務リスクを洗い出すことを目的に行われます。
もし重大な税務リスクが発覚した場合「そのリスクを負ってでも買収するのかどうか」を判断する、あるいは「税務リスクを回避・軽減するM&Aスキーム」を検討するための調査です。書類のみで調査が不十分な場合には、対象企業のオーナーへインタビューが実施されるケースもあります。税務デューデリジェンスの結果次第で、当初予定していたM&Aスキームから変更に至ることもあります。
特に、株式譲渡スキームの場合は、譲渡対象企業の税務リスクを引き継ぐことになるため、あまりにも税務リスクが高い場合には事業譲渡スキームに変更するケースもあります。したがって、税務デューデリジェンスも非常に重要な調査の1つと言えます。
決算報告書・勘定科目内訳明細など各種基礎資料、財務関連の個別資料、税務関連資料など
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスは、対象企業の情報技術(IT)インフラストラクチャー、ソフトウェア、セキュリティ、データ管理などの詳細を調査するプロセスです。
M&A後に、両社の情報システムを統合するケースがあるため、ITデューデリジェンスでは、対象企業のITリスク、セキュリティの問題、システムの効率性を評価し、M&A後におけるITの課題を特定します。
ITデューデリジェンスはM&Aの手法(スキーム)方法と対象企業によって対応が異なります。そのためITデューデリジェンスの結果を踏まえて、継続使用する情報システムの取捨選択やシステムを移行するまでの時間、移行にかかる費用などを考慮する必要があります。
情報システムの体制など組織に関する資料、アプリケーションに関する資料、インフラに関する資料、コストに関する資料、システム管理を担う人材、セキュリティなど
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスは、対象企業の人事関連情報を調査するプロセスです。これには組織構造、人事政策、人材のスキルやパフォーマンス、福利厚生、従業員の関係などが含まれます。
主な目的は、従業員に関連するリスク、文化の適合性、スキルの適切な評価を行い、人事の側面からのM&Aの課題を特定することです。人事制度などの違いで問題が発生しないよう、調査結果を踏まえて条件のすり合わせを行うことを目的に行われます。
雇用関係の資料、人事規定の資料、年金関連の契約書類、労使関係の資料、人件費の資料など
その他のデューデリジェンス
取り上げたデューデリジェンス以外にも環境デューデリジェンス、知的財産デューデリジェンス、不動産デューデリジェンスなどの調査が挙げられます。
最近では、企業の社会的責任が高まる中、人権デューデリジェンスなど、ニュースで耳にする機会も増えています。M&Aを進める際は、自社と対象企業に合わせて調査する項目を決めましょう。
デューデリジェンスの手順
具体的に、どのような流れでデューデリジェンスを進めていくのか、M&Aの基本合意契約締結後に行うデューデリジェンスについて、一連の流れを見ていきます。
1. 調査チームの組成・調査準備
譲受け企業(買い手)は、デューデリジェンスの種類に合わせて、業務の担当者と専門家(弁護・公認会計・税理士など)でチームを組成します。
デューデリジェンスでは対象企業の機密情報に触れるため、対象企業と秘密保持契約を結ぶ必要があります。
チームを組成したら、実施するデューデリジェンスをはじめ、重点的に調査する項目や予算、調査完了までのスケジュールなどを決めておきます。
M&Aの概要や、既に入手している対象企業の基本情報、実施するデューデリジェンス、調査のスケジュールなどを専門家含めたチームで共有します。
また、調査ごとに必要な書類をリストアップし、対象企業に提出を行うなど準備を進めます。
2.資料の分析・聞き取り調査の実施
資料を入手したら、他の資料と照らし合わせて情報の正確性を確認する必要があります。
また、調査を進めるうちに、追加資料が必要になる場合もあります。対象企業側での用意難しい場合は、手持ちの資料から情報を集めます。
資料だけですべての情報が得られない場合、専門家が対象企業のオーナーへ聞き取り調査を実施します。一般的に聞き取り場所は、現地調査を兼ね、対象企業の社内で行われる場合があります。M&Aを進めている事実を知られないように、土日など社員がいないタイミングで実施するなど計画立てることも重要です。
3. 調査結果の検討
デューデリジェンスの報告書は、専門家から提出されます。内容をふまえて、譲受け企業側の経営陣は、M&Aについて議論を行います。
M&Aによって抱えるリスクが大きい場合には中止も視野に検討が行われます。リスクが何らか軽減できる可能性がある場合は、価格交渉が行われる場合もあります。
一方、譲渡企業側は、調査の結果明らかになった問題点について、解決策の提案を求められることがあります。M&Aの続行・中止に関わるため、真摯に対応する必要があります。
デューデリジェンスの費用相場
デューデリジェンスの調査費用は、対象企業や事業の規模や調査の内容、協力を求める専門家の数などによって大きく変化します。
また、調査を依頼する譲受け企業側によっても予算・費用が異なります。例えば上場企業による依頼であれば、利害関係者が多く、説明責任も相応に高まるため、多面的に調査したレポートが必要になり、大手の監査法人や法律事務所に依頼するケースがあります。そのような場合には高額になる傾向があります。
そのため一概にいくらと言い切れませんが、対象企業・事業の規模を目安にしたおおよその費用相場は、以下の通りです。
譲渡対象企業の規模 | 費用相場 |
---|---|
中小企業 | 数十万~数百万円ほど |
大企業・規模の大きい事業・海外の会社 | 数百万円~数千万円ほど |
デューデリジェンスを行う際の注意点
デューデリジェンスを行う場合、注意すべき点をご紹介します。
M&Aの規模、内容に応じて適正な範囲で行う
M&Aの規模に見合ったデューデリジェンスの実施が必要です。規模に対して、調査範囲が限定的だと、不十分な調査によりリスクを背負う可能性があります。一方、むやみやたらに調査範囲を広げて実施すると、M&Aの必要性が問われます。
また、M&Aを急ぐ、あるいは調査コストを軽減するために、本来必要な調査を省略する、あるいは外部専門家に依頼せず、自社内の担当者だけで完結しようとすると重大なリスクを見逃す可能性もあります。M&Aの規模と調査費用をふまえ、適正な範囲でデューデリジェンスを行うことが必要です。
期間内に優先順位をつけて行う
調査の期間内に必要な情報を探し出せるよう、調査項目に優先順位をつける必要があります。見るべき調査項目に優先順位をつけておくことで、調査の範囲を広げず、費用と時間の節約が可能です。
また、譲受け企業(買い手)側が、M&Aを急いでいたとしても、調査される側である「譲渡対象企業の協力」無くして、デューデリジェンスは実施できません。その点に留意して計画立てることが必要です。
対象企業は積極的に情報提供を行う
譲受け企業(買い手)側から請求された資料の提供や、聞き取り調査など、協力姿勢で対応する必要があります。
また、あらかじめ認識している自社が抱えるリスクについても、隠さず伝えておくことが重要です。後からリスクの存在が明らかになることで、最悪の場合破談につながる可能性もあるため、両社の信頼関係のためにも、積極的に情報提供を行うことが大切です。
情報管理を徹底する
デューデリジェンスでは、譲受け企業(買い手)側が対象企業の機密情報に触れるため、秘密保持契約を締結します。入手した情報の取扱いに細心の注意を払う必要があります。調査のために得た情報をM&A以外で使用できないよう、譲渡企業(売り手)側は制限をかけ、場合によっては、専門家に開示範囲について助言を求めるのが良いでしょう。
終わりに
以上、M&Aで実施するデューデリジェンスについて、調査の種類や手続きの流れ、注意点などを解説しました。
M&Aでは譲渡対象企業の現状や抱えるリスク、収益性などを把握するために、徹底した調査が欠かせません。
調査費用や対象企業の状況に応じて調査方針を定め、対象会社や事業がM&Aに適しているか見極める必要があります。
デューデリジェンスの実施にあたって、当社コンサルタントは、日程や場所の調整、連絡など事前準備、当日の立ち会いなど手続き面のサポートを行います。
また、デューデリジェンスの結果を受け、社内の弁護士、公認会計士、税理士などを含めたチームで対応を協議し、成約に向けてサポートを行います。
適切なサポートを求めることで、当事者である両社のデューデリジェンスの負担を軽減でき、定めた期間内で必要な調査を終えられるでしょう。
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