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デューデリジェンスとは?種類や行う流れ、注意点までくわしく解説

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デューデリジェンスのイメージ

M&Aを進める中で行われるデューデリジェンスとは、どのような行為を指すのでしょうか。この記事ではデューデリジェンスの概要や種類、流れなどを解説します。そのほか注意する点にも触れており、デューデリジェンスに欠かせない情報が得られるでしょう。

デューデリジェンスとは?

M&Aでよく使われるデューデリジェンスとは、譲渡対象企業に対する事前調査のことです。英語であらわされるDue Diligenceは、日本語で「適当かつ相当な調査」と訳されます。Dueは「適当な・相当な」という形容詞で、Diligenceは「勤勉」という名詞です。

以下の項目ではM&Aに欠かせないデューデリジェンスについて、手続きの内容や実行する目的、意味・重要性を解説します。

M&Aにおいて、対象会社の調査を行う手続きのこと

M&Aにおけるデューデリジェンスとは、譲渡対象企業への調査手続きのことです。財務や法務、事業などの面から譲渡対象企業の情報を確かめて、内容を精査し、買収にふさわしい企業かどうかを検証します。

調査の範囲は、譲渡対象企業の業種や事業規模、企業価値評価の結果などによって違いがみられるでしょう。またデューデリジェンスは専門性が高く調査する範囲も広いため、専門家の協力を得て手続きが進められます。

デューデリジェンスの目的

デューデリジェンスを実施する目的は、経営統合の準備をはじめ、企業価値評価や情報収集、M&Aのリスク把握などが挙げられます。目的ごとの詳細は、以下のとおりです。

経営統合へ向けての準備を行う

経営統合の計画が曖昧では、円滑にM&Aを進められない、想定したシナジーを得られなかった、思わぬリスクを背負ったなどの事態が想定されるでしょう。譲渡対象企業・事業によって、企業理念や人事制度、利用システムなどはもちろん、統合によるシナジーや抱えるリスクなどが異なります。

つまり円滑な経営統合のためには、調査対象やシナジー、リスクの把握が欠かせないといえるでしょう。このような理由から、M&Aを実行にうつす企業は必要な調査対象や想定されるリスク、シナジーを把握するといった準備のために、デューデリジェンスを実施しています。

正確に企業価値評価をする

理論的に妥当な評価を下す企業価値評価だけでは、譲渡対象企業の適正な価値を把握できません。理由は、実際のM&Aでは得られるシナジー・簿外債務などのリスクも評価に加えるためです。

一方、デューデリジェンスは譲渡対象企業を総合的に調べることを目的にしているため、数字にはあらわれない点も調査対象に含めます。したがって、買収を進める企業はデューデリジェンスを実施して、正確に企業価値評価をする必要があるでしょう。

情報収集をする

買収する側は企業経営・事業の継続、一定期間後の売却などを目的にM&Aを実施します。そのため、譲渡対象企業の実態を把握しておくことは重要です。また買収後の経営計画を立てる・M&Aの方法を決めるうえでも、譲渡対象企業の情報取得は必須です。

そのほか、M&Aの説明では株主や社員、顧客の理解を得るために、譲渡対象企業の情報が欠かせません。このような理由から、M&Aに取り組む企業はデューデリジェンスを介して、譲渡対象企業の情報を収集しています。

M&Aにあたってのリスクを把握する

M&Aによる企業買収ではリスクがともなうので、譲渡対象会社を注意深く調べたり、譲渡対象企業の適正な価値をはじき出したりする必要があるでしょう。安易に買収を進めると、簿外債務の発覚、適正価格よりも高い金額で買収費用を支払うなどの事態が想定されます。このような理由から、デューデリジェンスはM&Aに欠かせない手続きといえるでしょう。

デューデリジェンスを行う意味・重要性

デューデリジェンスを行う意味は、譲渡対象企業が抱える問題を把握するためです。M&Aを終えてしまえば、契約の内容は変えられません。しかし、M&Aを終える前に問題点を把握できれば、問題点を踏まえた契約内容に変えられるため、契約を有利に進められる可能性があります。

また譲渡対象企業にとっても、契約前に把握した問題点を解消できれば、譲渡価格の低下・契約の破断を避けられるでしょう。このような理由から、デューデリジェンスはM&Aで重要な手続きとみなされています。

デューデリジェンスにはさまざまな種類がある

種類のイメージ

M&Aにともなうデューデリジェンスは、1種類だけでありません。調べる対象によって、いくつかの種類に分けられます。各デューデリジェンスの詳細は、以下のとおりです。

事業(ビジネス)デューデリジェンス

会社の経営・事業などを調査対象とします。調査する項目は、財務・経営管理の資料をはじめ、競合や仕入先、顧客、製品・サービス、市場、保有する技術などです。これらの調査から、対象企業・事業のビジネスモデルやSWOT(強み・弱み・機会・脅威)、市場・競合・収益性・事業計画などを分析して、買収に見合う企業・事業かどうかを判断します。

財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス

財務に関する資料を対象とした調査です。主に、実態純資産、正常収益力、簿外債務の有無、キャッシュフローの状況、内部統制の状況、買収後に生じるリスクなどを把握することを目的とします。また、税務・法務・事業デューデリジェンスなど他のデューデリジェンスと並行して実施することもあり、双方のデューデリジェンスで発見された事項を共有して調査範囲を広げたり絞ったりすることがあります。
中堅中小企業の決算書は実態から大きくかけ離れていることがあるため、財務デューデリジェンスの実施は必須といえます。

調査対象とする資料は決算書や総勘定元帳、具体的な証憑類、予算・事業計画書、監査法人による報告書、役員会の資料、銀行に提出した資料などです。また簿外債務を把握するために、雇用・不動産・法務関係の資料や契約書なども調査対象に含められます。

なお、公認会計士あるいは監査法人が行う「財務諸表監査」と混同されることがありますが、財務デューデリジェンスは財務諸表監査のように財務諸表の適正性について意見を表明するものではありません。他にも目的や調査対象、実施する手続きなど根本的に異なるものですので混同しないよう注意が必要です。

法務(リーガル)デューデリジェンス

譲渡対象企業・事業の法務を対象とした調査です。想定されるリスクを調べて、M&Aの手法・契約内容に反映させます。主な調査対象は、会社の基本事項(沿革・商業登記・株主・許認可・過去のM&Aなど)をはじめ、契約や資産・債務、訴訟などです。

調査対象のなかでも重点的に調べられるのは、許認可と訴訟といえるでしょう。許認可を引き継げなければ事業は継続できませんし、訴訟を抱えていれば賠償金を支払う可能性があるため、法務デューデリジェンスでは重要な調査対象だといわれています。

税務デューデリジェンス

税務に関する資料を対象とした調査です。主に、対象企業の過去の税務申告内容や納税状況を調べ、税務リスクを洗い出すことを目的とし、その調査結果は買収額やM&Aスキームに反映されます。

税務リスクの内容およびその程度を把握したうえで、重大な税務リスクがあればそのリスクを負ってでも買収するのかどうか、あるいは税務リスクを回避・軽減するM&Aスキームが取り得ないのかを検討するための調査といえば理解しやすいでしょう。

これらの調査は税務申告書や納税状況、税務処理などをチェックすることにより実施します。書類だけでは不十分な場合には、オーナーへのインタビューが実施されます。

これらの調査の結果次第では、当初予定していたM&Aスキームから変更したほうがよいとの結論に至ることがあります。特に、株式譲渡スキームの場合は譲渡対象企業の税務リスクをすべて引き継ぐことになるため、あまりにも税務リスクが高い場合には事業譲渡スキームに変更するといったことがあります。したがって、税務デューデリジェンスは非常に重要な調査手続きといえます。

人事デューデリジェンス

事業運営に欠かせない人材に焦点を当てた調査です。M&Aの方法によっては、2つの会社を1つにまとめられます。そのため、人事制度などの違いで問題が発生しないよう、調査結果を踏まえて条件のすり合わせが求められるでしょう。

調査対象は人事制度をはじめ、労使関係や社員、人件費などです。人材に関する調査を怠ってしまうと、待遇・ポスト・評価制度などに不満を感じて優秀な社員が会社を辞める、事業の生産性が下がるといった事態を招きかねません。したがって、社員の働く意欲が下がらないよう、調査を踏まえたすり合わせが必須といえます。

ITデューデリジェンス

情報システムに対する調査です。M&Aの方法によっては情報システムを1つにまとめる必要があります。そのため、譲渡対象企業の情報システムを調べて情報システムの有効性を図る、システム統合にかかる費用を把握する、新システム導入の是非を判断するといった対応が求められるでしょう。

調査対象は基幹業務関連のシステム(財務会計・人事労務・顧客管理・販売管理など)や、情報システムのコスト、システム管理を担う人材、セキュリティなどです。ITデューデリジェンスはM&Aの方法と譲渡対象企業によって対応が異なります。そのため調査を踏まえて、継続使用する情報システムの取捨選択やシステムを移行するまでの時間、移行にかかる費用などを考慮する必要があるでしょう。

その他のデューデリジェンス

取り上げたデューデリジェンス以外にも環境、知的財産、不動産、顧客、技術などの調査が挙げられます。

環境デューデリジェンス

譲渡対象企業が保有する不動産に関連した、土壌・地下水汚染のリスク調査です。

知的財産デューデリジェンス

譲渡対象企業が保有する知的財産と知的財産を使った活動について、価値とリスクを調べる行為を指します。

不動産デューデリジェンス

経済・物理・法的な側面から不動産の価値や状態、抱えるリスクを調べることです。

顧客デューデリジェンス

既存・新規の顧客に対する身辺調査のことです。

技術デューデリジェンス

特殊技術・設備といったハード面についての調査を指します。

人権デューデリジェンス

買収対象企業による人権侵害の有無を調べるもので、主に原材料の調達や途上国に保有する現地工場などでの就労条件、労働状況などが問題になります。

上記のとおり、デューデリジェンスには主要な調査のほかに、細分化された調査がみられました。M&Aを進める際は、自社と譲渡対象企業に合わせて調査する項目を決めましょう。

デューデリジェンスの流れ

流れのイメージ
M&Aでは、どのような流れでデューデリジェンスを進めるのでしょうか。この章では、基本合意契約締結後に行うデューデリジェンスについて、一連の流れをくわしく解説します。

  1. 調査チームをつくる
  2. 秘密保持契約を結ぶ
  3. 調査方針の決定
  4. 情報の確認
  5. 専門家との打ち合わせ
  6. 請求資料のリスト作成
  7. 資料の確認・調査
  8. 聞き取り調査の実施
  9. 専門家から報告を受ける
  10. 調査結果を踏まえた対応

1. 調査チームをつくる

調査方法に合わせて、業務の担当者と外部の専門家(弁護・公認会計・税理士など)を集めます。自社に専門家をおいていない場合は、外部の専門家を探して協力を求めましょう。

2. 秘密保持契約を結ぶ

調査では譲渡対象企業の情報を閲覧します。会社の重要な情報を扱うため、譲渡対象企業とは秘密保持契約を結ぶ必要があるでしょう。

M&Aが完了する前に情報が外へ漏れてしまうと、譲渡対象企業の経営に影響を及ぼす可能性があります。またM&Aを進めていることが関係者に知られてしまうと、取引の停止・社員の離職といった事態も想定されるため、秘密保持契約の締結は必須です。

3. 調査方針の決定

闇雲に調査を進めると、調査内容が不十分だったり調査期間が長引いたりします。必要な調査を一定期間までに完了できるよう、調査方針を決めましょう。取り決める内容は実施するデューデリジェンスをはじめ、重点的に調査する項目や調査にかけられる予算、調査完了までのスケジュールなどです。

4. 情報の確認

譲渡対象企業から受け取った情報を確認してください。情報は自社だけではなく、外部の専門家も目を通します。効率的に調査を進められるよう情報を整理して、以降の手続きをスムーズに進めましょう。取得する主な資料は以下のとおりです。

  • 基本情報の資料(会社概要・定款・謄本・株主名簿など)
  • 財務諸表関連の書類(決算書・法人税務申告書など)
  • 事業体制・状況を把握できる資料(組織図・事業の概要・仕入先・販売先、仕入の実績・販売の実績など)
  • 人事・労務関係の資料(役員名簿・社員名簿・給与明細・労務関連の規定など)
  • 契約関係の書類(賃貸不動産の契約・リース契約・取引契約など)
  • その他の情報(許認可・係争の有無・偶発債務・子会社または関連会社など)

5. 専門家との打ち合わせ

調査に関わる人物を集めて、M&Aの概要や取得した譲渡対象企業の情報、実施するデューデリジェンス、調査のスケジュールなどを説明します。打ち合わせは基本的に、デューデリジェンスごとに行います。

しかし関係の深い調査(財務・税務・法務)は、一緒に実施するケースも少なくありません。行うデューデリジェンスに合わせて、個別・複数での実施を決めましょう。

6. 請求資料のリスト作成

調査に用いる資料は、デューデリジェンスの種類によって異なります。事前に譲渡対象企業から取得した資料だけでは、調査を進められません。調査ごとに必要な書類をリスト化して、譲渡対象企業に提出を求めましょう。譲渡対象企業は、受け取ったリストに合わせて資料を集め、買収企業または専門家に提出してください。調査ごとに必要な資料は、以下のとおりです。

事業(ビジネス)デューデリジェンスの資料

譲渡対象企業の経営や事業、収益性などを把握するために、以下のような資料の提出を促しましょう。

  • 貸借対照表
  • キャッシュフロー計画書
  • 損益計算書・対象ごと分割した損益計算書
  • 中長期の事業計画書
  • 取引先など

財務・税務デューデリジェンスの資料

財務と税務の調査は、関連する項目が多いので、必要な資料をまとめて紹介します。

  • 基礎資料(決算報告書、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳、補助元帳、など)
  • 財務関連(BS項目)の個別資料(銀行残高証明書・預金通帳、売上債権に係る年齢表・貸倒実績一覧・発行請求書(控)、棚卸資産に係る在庫一覧・年齢表、固定資産台帳・不動産登記簿謄本、有価証券や出資金の明細・直近の時価情報、仕入債務に係る支払管理資料・請求書綴り、借入金に係る明細・契約書・返済予定表、リース契約書、など)
  • 財務関連(PL項目)の個別資料(売上管理資料、取引先別の取引実績一覧表、主要な取引契約書、仕入先・外注先別の取引実績一覧表、給与台帳、関連当事者との取引実績一覧表、など)
  • 税務関連の資料(税務申告書、税務調査の資料、税務の修正申告書、税務の更正通知書、決定通知書、事業の税務に関する紛争と問題の概要、税務当局への照会文書と税務当局からの回答など)
  • 事業計画及びその前提条件

法務(リーガル)デューデリジェンスの資料

法務に関する調査では、主に以下のような資料が請求されています。

  • 会社組織(過去3年間のM&Aと組織再編の一覧・過去3年間の株主総会、取締役会などについての議事録・会社の規定・遵守事項のマニュアル・過去3年間の寄付金表など)
  • 株式と株主関連の資料(株式発行表・株主の変動表・株式の取得規制・株券と種類株券の写し・新株予約と新株引受権の原簿など)
  • 役員に関する資料(役員報酬などの規定・競業禁止と制限に関する規定・秘密保持の規定・会社と役員の取引に関する契約書など)
  • 社員に関する資料(労働協約・労働組合などと結んだ協定書・社員と結んだ契約書・社内労働組合の説明資料・社外の労働組合に加入する社員および加入を示す資料・過去3年間の労使間交渉に関係した議事録・過去3年間のストライキと労使紛争の資料・過去3年間の不祥事についての資料など)
  • 業務に関する資料(業務の流れとマニュアルを示す資料・取引のある専門家と交わした契約書・過去3年以内の業務提携に関する契約書など)
  • 紛争に関する資料(現在抱えている訴訟・表にあらわれていない訴訟・取引先と顧客からのクレーム・クレームの対応についての書類・過去3年間に受け取った内容証明郵便など)
  • 許認可に関する資料(事業運営に必要な許認可の一覧・過去3年に受けた官公庁からの指導などの内容・官公庁による検査結果の報告など)

人事デューデリジェンスの資料

人事に関する調査では、以下のような資料を提出してもらいましょう。

  • 雇用関係の資料(雇用形態・社員数・採用者数・離職率などの資料)
  • 人事規定の資料(就業規則・資格・評価・社員研修制度などの資料)
  • 年金関連の契約書類
  • 労使関係の資料(労働組合協定書・労使交渉・労働協約と全国組織組合などの資料)
  • 人件費の資料(給与の水準・厚生年金基金・健康保険組合・退職金制度・貸付金制度などの資料)

ITデューデリジェンスの資料

情報システムに関する調査では、以下の資料などが請求の対象です。

  • 組織に関する資料(情報システムの体制・業務の範囲などを示す資料)
  • アプリケーションに関する資料(システムの状況・ソフトウエアの利用状況などがわかる資料)
  • インフラに関する資料(ハードウエアとネットワークの利用状況、システムの変更状況などがわかる資料)
  • コストに関する資料(投資と運用保守費用の状況、用途と取引先ごとの支払いなどがわかる資料)

7. 資料の確認・調査

請求した資料が届いたら、資料を確認します。資料の情報は必ずしも正しいとはいえません。いくつかの資料と照らし合わせて、情報の正確性を確かめましょう。

調査を進めるうちに必要な資料が明らかになる場合もあるため、その都度調査に必要な資料を請求してください。とはいえ、譲渡対象企業がリストの資料をもっていない場合も考えられます。必要な資料が手に入らないときは、手持ちの資料から情報を集めましょう。

8. 聞き取り調査の実施

資料だけでは得られない情報もあるので、専門家が経営陣への聞き取り調査を実施します。質問シートをエクセルなどでつくっておくと、調査を進めやすいでしょう。一般的に聞き取り場所は、譲渡対象企業の社内としています。訪問する際は、M&Aを進めている事実が社員たちに感づかれないよう注意を払いましょう。

9. 専門家から報告を受ける

レポートなどにまとめられた報告書が専門家から提出されます。買収する側の経営陣は報告を受けて、譲渡対象会社がM&Aにふさわしい会社かどうかを議論します。買収する企業が調査結果に納得しない場合は、追加で調査を依頼してください。

また譲渡対象企業は、調査報告で明らかにされた問題点について、解決策の提案を要求されるケースもあります。M&Aの続行・中止に関わるので、真摯に対応しましょう。

10. 調査結果を踏まえた対応

調査結果を受けて、M&Aを進めるか中止するかを決定します。M&Aによって抱えるリスクが大きい場合には、M&Aの中止を選んでください。リスクが中程度なら、買収価格を引き下げて、価格交渉に臨みましょう。

不良債権や未払いの残業代、役員退職金などを引き合いに出して、交渉を進めてください。リスクが小さい場合は、そのままM&Aを進めます。

デューデリジェンスにはどのくらいの期間がかかる?

調査に要する期間は、およそ1~2ヵ月ほどですが、譲渡対象企業・事業の規模や業種、調査する範囲などによって完了までの期間に違いが出ます。短ければ2週間ほどで調査が完了するケースもあるでしょう。
なお、急ぎの案件ということで、いくら調査側が頑張ったとしても、被調査側である譲渡対象企業が要求されている資料や回答を用意できなければ一向に調査は終わりません。デューデリジェンスは被調査側である譲渡対象企業の協力無くしては実施できないことに留意するとともに、その点も考慮してスケジュールを組むなどの対応が必要となります。
また、M&Aを急ぐあまり、特定の調査を省略することは控えるべきと言えます。M&Aのあとに大きなリスクを負う可能性があるからです。調査期間の内訳は、以下のとおりです。

デューデリジェンスの手続き 期間
資料・デューデリジェンスの準備 2週間
調査・聞き取り 数日~2週間
調査結果の分析・中間報告 1~2週間
最終報告・追加分析 1~2週間

デューデリジェンスを実施するタイミング

調査を実施するタイミングは、基本合意契約のあとにしましょう。基本合意契約を結べば、M&Aの内容におおむね納得し、前向きに手続きを進めてくれると考えられます。基本合意契約の前は、譲渡対象企業が譲受側(買い手)を絞り込めていません。ほかの企業も視野に入れている段階だといえます。

したがって基本合意契約の前に調査をはじめると、M&Aが白紙に戻される事態も考えられるので、費用と時間を無駄にする恐れがあるでしょう。デューデリジェンスを実施するなら、基本合意契約を結んでから、調査に取りかかってください。

デューデリジェンスにはどのくらいの費用がかかる?

デューデリジェンスを実施した場合、どの程度の費用がかかるのでしょうか。この章では、調査にかかる費用について、費用の内訳と相場を解説します。

デューデリジェンスの費用内訳

主な調査(事業・財務・法務・税務・人事・IT)では、費用に違いがみられるのでしょうか。各種調査の費用の目安は以下のとおりです。

調査の種類 1時間あたりの費用 総額
事業 2~10万円 30~300万円ほど
財務 2~5万円 100~500万円ほど
法務 2~5万円 70~200万円ほど
法務 2~5万円 35~200万円ほど
人事 2~5万円 44万円~
IT 掲載なし 15万円~200万円ほど

デューデリジェンスの費用相場

調査費用は、譲渡対象企業・事業の規模や調査の範囲・深度、協力を求める専門家の数などによって変化します。企業・事業の規模を目安にしたおおよその費用相場は、以下のとおりです。
また、調査の依頼先によっても費用が大きく異なります。例えば譲受側が上場企業であれば利害関係者が多くなり説明責任も相応に高まるため、きちんとしたレポートが必要となり、大手の監査法人や法律事務所に依頼することがありますが、そのような場合には費用が高額になる傾向があります。案件規模によって依頼先を変え調査に要する費用をコントロールしている企業もあります。

譲渡対象企業の規模 費用相場
中小企業 数十万~数百万円ほど
大企業・規模の大きい事業・海外の会社 数百万円~数千万円ほど

デューデリジェンスを行う際の注意点

調査を進める際は、どのような点に注意を払えばよいのでしょうか。調査に関する注意点は、以下のとおりです。

買収額に見合った規模・費用のデューデリジェンスを行う

買収する側は、M&Aの規模と調査費用を考慮して、デューデリジェンスを実施しましょう。買収額に対して調査費用が低すぎると、不十分な調査によりリスクを背負う可能性があります。また買収額に対して調査費用が高すぎると、M&Aの必要性が問われるでしょう。

リスクを負わない、無駄な買収をしないためにも、M&Aの規模と調査費用を踏まえてデューデリジェンスを進めてください。

優先順位をつけてデューデリジェンスを行う

闇雲に調査を進めると、時間と費用を浪費します。調査の期間内に必要な情報を探し出せるよう、調査する項目に優先順位をつけましょう。提出される資料をもとに調査する項目を絞っておくと、期間内に調査を終えられます。優先順位をつけておけば調査の範囲を広げずに済むため、費用と時間の節約が可能です。

質問事項をチェックリスト形式でまとめておく

聞き取り調査では、気になる点をチェックリストにまとめて、質問に対する回答を得ておきましょう。事前に質問内容を考えておけば、質問を忘れたという失敗も避けられます。文書では解消できなかった点についても、聞き取り調査で回答を得ることが可能です。

リスクを確実に伝える

譲渡対象企業は、事前に自社が抱えるリスクを伝えておきましょう。あとからリスクの存在が明らかになれば、M&Aが破談に終わる可能性があります。簿外債務などのリスクを伝えておけば、譲受側(買い手)の信頼を損なわずに済むので、M&Aの手続きをスムーズに進められるでしょう。

積極的に情報提供を行う

譲受側(買い手)から要求された資料は、できるかぎり提出しましょう。必要な資料を提供できれば、調査期間の短縮につながりますし、譲受側(買い手)の信頼を得られます。

とはいえ、秘密保持契約で守られている情報(社員の個人情報・取引先のデータなど)は、取り扱いに注意してください。秘密保持契約を結んで、調査のために得た情報をM&A以外で使用できないよう、制限をかけましょう。どこまで情報を出してよいかわからないときは、専門家に協力を求めて、開示する情報の範囲を決めてください。

開示してもらった情報の管理を徹底する

譲受側(買い手)は、譲渡対象企業と秘密保持契約を結んで、デューデリジェンスに必要な情報を取得します。取得した情報からは譲渡対象企業の内情が知ることが可能なので、取り扱いには細心の注意を払う必要があるでしょう。

万が一情報が漏れた場合、譲受側(買い手)は譲渡対象企業から秘密保持契約に反したとして、損害賠償を請求される可能性があります。情報の漏洩が心配なら、デューデリジェンスに関わる専門家・社員にも、秘密保持契約を結ばせるようにしましょう。

M&Aの専門会社に委託する

M&Aでは譲渡対象企業に対するデューデリジェンスを実施して、買収にふさわしい相手かどうかを見極めます。そのため、自社に専門家がいない場合には、M&Aの専門会社に調査を依頼する必要があるでしょう。

とはいえ、M&Aの規模によっては調査の範囲は多岐にわたります。専門会社に協力を仰いだとしても、調査する項目が決まらない、情報を見落とす、調査が長引くなどの問題に直面する場合もあるでしょう。

日本M&Aセンターでは、経験豊かな公認会計士・税理士などの専門家が社内におります。また、譲受側(買い手)と譲渡側(売り手)双方の希望や要望を受けて適切なデューデリジェンスの実施に関して日程調整や立ち会いなどの手続き面のサポートを行っています。適切なサポートを求めることで、譲受側(買い手)と譲渡側(売り手)双方のデューデリジェンスの負担を軽減でき、定めた期間内で必要な調査を終えられるでしょう。M&Aの専門会社に任せきりにすることは避けたいという経営者の方は、日本M&Aセンターの利用を検討してみてください。

まとめ

M&Aで実施するデューデリジェンスについて、調査の種類や手続きの流れ、注意点などを解説しました。
M&Aでは譲渡対象企業の現状や抱えるリスク、収益性などを把握するために、徹底した調査が欠かせません。とはいえ、調査に割ける費用にも限りがあるので、調査費用が膨らまないようポイントを絞って、M&Aに適した会社・事業かを見極めましょう。

監修

横井 伸

横井よこい しん

日本M&Aセンター法務室/法務室長/弁護士

東京大学経済学部卒。旧防衛庁勤務を経て、2006年司法試験合格。2010年に日本M&Aセンターに入社。法務全体の統括責任者として、中堅中小企業のM&Aに関する契約審査、リスク管理、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・株式交換などのスキーム構築など、多数の案件に関与している。著書に「事業承継を成功に導く中小企業M&A」(きんざい、2013年、共著)、「買い手の視点からみた中小企業M&AマニュアルQ&A」(中央経済社、2019年、編著)などがある。

山崎 祐慶

山崎やまざき 祐慶ゆうけい

日本M&Aセンターコーポレートアドバイザー統括部/コーポレートアドバイザー1部 上席課長/公認会計士

大手監査法人、税理士法人(FAS事業部)でのDD・バリュエーション業務等を経て、2015年当社へ入社。 累計関与案件500件超の経験をもとに、M&A実務の教育研修活動を社内外で行うなど、M&A業界全体の品質向上に精力的に取り組んでいる。

STEP1

M&Aの基礎知識を学ぶ

STEP2

M&Aの流れを学ぶ

STEP3

M&Aの専門知識を学ぶ

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人気セミナー買収の参観日 デューデリジェンス編

広報室だより
人気セミナー買収の参観日 デューデリジェンス編

M&Aの買い手企業として知っておきたい考え方やテクニックを紹介する日本M&Aセンターの人気オンラインセミナー「買収の参観日~はじめてのM&Aを考えてみよう」が2021年9月10日に開催されました。4回目の今回はM&Aを成功させるために欠かせないデューデリジェンス(DD、企業精査)を中心に、東日本事業法人チャネル統括部長の川畑勇人が解説しました。売り手企業の実態を知るためのデューデリジェンスM&Aの

ネットM&Aに対する意識調査アンケートを実施~取引相手や、財務情報に不安の声が”79.0%”~

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近年、急速にネットM&Aが広がっています。しかし、ネットM&Aは「手軽」で「スピーディ」な一方、肌で感じられない取引相手や、財務情報に対して不安の声が高まっています。今回のアンケートにより、ネットM&Aには「中小M&A向けデューデリジェンス」と「買収後のリスクヘッジ」が求められていることが分かりました。インターネット型完結M&Aサービスを利用された人はどのようなメリット、デメリットを感じているので

設立10年の節目での会社譲渡が増えている理由

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日本M&Aセンターがお手伝いするM&Aは、後継者不在による事業承継型M&Aだけだと思っていませんか?実は、ここ数年で若い経営者様からのご相談が急速に増えています。私がM&A仲介をお手伝いした経営者様も、設立10年といった会社の節目を機に大手企業へのM&Aによるオーナーチェンジを検討され、会社・個人ともに充実した人生を選択されました。経営者様はまだ30代(40代)なのに、です。“設立10年”という会

IT(情報ネットワーク関連)企業の資本提携をめぐる法務アプローチ

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情報ネットワーク関連企業の特色IT関連の企業の買収において、対象企業を分析し買収に伴う法務リスクを事前検討するアプローチは、製造業とは相当異なることになる。一概にIT関連といっても業種は様々であるが、近年はインターネットを中心とする情報ネットワークが産業の重要な基盤となっているので、情報ネットワーク関連企業を念頭においてみたい。対象企業は、概ね下記の業務に大別される。ネットワーク・インフラの提供(

アジアにおけるクロスボーダーM&A -失敗しないためのアプローチ-

海外M&A
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アジアへの投資は衰えずアベノミクスにより日本国内景気が上向き、円安の進行が進んでいる。それにもかかわらず、日本企業の海外進出・投資は依然として衰えていない。シンガポールにおいて日本企業を支援している筆者からも、日本市場の縮小とアジア新興国の所得水準向上という長期的トレンドから、国内市場を主戦場としてきた企業でさえ、持続的な成長のために海外戦略を加速させている状況が見て取れる。アジア地区への日本から

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