コラム

M&Aの「着手金」の役割とは?着手金をいただき続けていることへのこだわり

米澤 恭子

株式会社企業評価総合研究所(日本M&Aセンターグループ) 代表取締役社長

M&A全般
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M&Aの着手金
M&Aの仲介会社を選ぶシーンで、その仲介会社の料金体系が「着手金あり」か「着手金なし」かというのは、M&Aを検討する企業にとって、とても気になるところだと思います。

日本M&Aセンターは「着手金あり」の料金体系です。 今回は我々の「着手金の使い道」についてお話しさせていただきます。

日本M&Aセンターの着手金とは

日本M&Aセンターの着手金は 「企業評価料」と「案件化料」 から成ります。

企業評価とは、譲渡企業様の会社の価値を中立的に算定することです。
案件化とは、企業概要書を作成し、譲受候補企業様へご提案できる状態にすることです。

企業評価総合研究所は、企業評価と企業概要書作成の専門会社として、日本M&Aセンターからこれらの業務の委託を受けて行っています。企業評価総合研究所のサービス範囲は、以下の通りです。

着手金をいただき行うこと

ではその着手金をいただき、我々は何を行っているのでしょうか。

決算書のデータ化

我々の仕事は、まず譲渡企業様からお預かりした「決算書」をデータ化するところから始まります。具体的には、決算書を3期分データ化します。

日本全国のお客様の決算書入力業務を、スピーディに効率的に行えるように、専門のデータ化チームを大阪と沖縄2拠点に有しており、台風などの災害時のリスクを分散しながら、休まず対応できる体制を組んでいます。

決算書の数字を単純にパンチ入力するのではなく、簿記の資格を持ったスタッフが率いる専門チームが、すべての勘定科目を分析しやすい状態で、間違いなくデータ化を行います。

不動産調査

データ化と同時進行で、不動産調査チームは不動産の調査を開始します。

譲渡オーナー様の会社が保有、ないしはオーナー様から賃借している不動産の場所を地図上で特定し、固定資産課税明細と共に提携している不動産鑑定会社に調査依頼をします。

不動産の価値は株価の中でも影響がとても大きく 、商談の進行上、非常に重要なファクターです。 不動産の相場、現況、法的要件、いずれもお相手が見つかった後、最終調整段階で精査される項目です。

「容積率違反だった」「増築部分が違法だった」「登記がされていなかった」「市街化調整区域に建つ物件で、再建築不可だった」「間口が条例の要件を満たさなかった」など、不動産の価値評価は落とし穴がいっぱいです。

事前にしっかり調査をして、オーナー様ご自身が認識されておくことが、M&Aの交渉進行上、非常に重要です。

企業評価

その次に、企業評価チームによる分析が始まります。

企業評価はいわば「プレ・デューデリジェンス」です。勘定科目ごとに精査し、オーナー様には時価資料を揃えていただきます。

金融機関や会計事務所で経験を積んだ専任のスタッフが、勘定科目一つひとつを精査し「時価評価」や「退職給付引当金」など各種引当金の計算、営業権の計算などを行います。

高い専門性が必要とされ、かつ細かいコツコツとした作業ですが、これにより株価目線を持っておくことはもとより、論点を洗い出しておくことで、この後の商談やデューデリジェンスがスムーズに進められます。

概要書の作成

続いて、概要書の作成です。どのように作成が進められるのでしょうか。

譲渡企業様の魅力や強み を譲受候補企業様にお伝えするために、譲渡企業のオーナー様に対し「業界での優位性」「今後の伸びしろ」など重要なインタビューを丁寧に実施します。

我々はそのインタビュー結果をもとに、譲渡企業様のオーナー様のプロフィール、会社の製品、事業フロー、強みなどを資料でビジュアル化していきます。

実は、譲受け候補企業(買い手企業)様には、日々多くのM&A案件情報を受け取っています。
そのため、譲受け候補企業様が、提案された譲渡案件の一つひとつにかけられる時間は限られています。

そうした場合に、 短時間で譲渡企業様の事業内容、魅力が的確に伝わる概要書が作れるかどうか は、我々の腕の見せ所であり、お相手探しの成果を大きく左右します。

企業評価を行わないとどうなる?

企業評価や資料作成など事前準備は、譲渡企業様にとって決して楽なことではありません。

ですが、これをやるとやらないとでは 成約率が全然違う ことを、我々は長年の経験から知っているのです。
このプロセスを省略すると、どうしても「デューデリジェンス(買収監査)に持ち越し」が多発します。

基本合意後のデューデリジェンスを経て、それまで聞いたことがなかったような論点、課題が次から次に出てきたら、お相手はどう思うでしょう。 「こんなはずじゃなかった」「ほかにも隠し事があるのではないか」「このオーナーは信用できない」と疑心暗鬼になります。

M&Aは両想いになって初めて成約するものですから、最終段階で疑心暗鬼になっては、うまくいきません。

きちんと事前準備をやっておくことで、譲受候補企業様からの質問にも落ち着いて的確に答えられ、デューデリジェンスも円滑に終えられます。

もしM&A仲介会社から「まずはデューデリジェンスをやりましょう」と求められたら、それは少し慎重に判断したほうが良いのではないかと私は思います。

また、途中でM&Aに向けた交渉がブレイクし、検討が長引くことや、デューデリジェンスを繰り返し行うことは、それだけ情報漏洩のリスクが高まることを意味します。

情報漏洩は、会社の存続を揺るがしかねない重要なリスクです。 事前にしっかり準備をして、短期間で決める こと。それが安全なM&Aの大原則なのです。

着手金がないと事前準備にコストをかけられない分、後の工程で影響が出ると考えられます。

譲受けを検討されている買い手企業様から見ても、本気でない企業を精査している時間はありません。

事前に準備を終えている企業様と、まだよく精査されていない企業様とでは、どちらが譲受候補企業様に本気に映るのか 明確ではないでしょうか。

大切な着手金をいただくことへの想い

我々は、経験豊富なスタッフを揃え、丁寧な企業評価・案件化を行ったうえでお相手探しを行います。

当然、これらのプロセスには人件費やシステム料、調査費用がかかりますから、そのために着手金をお支払いいただくことがどうしても必要になるのです。

企業評価・案件化は我々とオーナー様二人三脚の大変な作業 です。正直なところ、この企業評価・案件化の手続きを省略しても、きちんと成約するのであれば、お客様のご負担も少なく、それに越したことはないと思っています。

しかしながら、 我々は長年の経験から、この手続きを経ることが、成約率を高め、結果お客様のためになる と知っています。

ですから、目先のことにとらわれることなく、着手金をご負担いただき、しっかりと事前準備する方法を30年間、今も頑なに守っているのです。 成約実績を見ていただければ、それがお客様にとって「安全で安心なM&A」の実現への道であるとお分かりいただけると思います。

ひとえに、 お客様にとって「安全で安心なM&A」を実現したい と想うからです。
誰しも保険をかけずに車に乗るような危険は冒したくないものです。

「これまで何十年もかけて大切に経営されてきた会社を、リスクなく、安全で安心のM&Aを行っていただきたい。」

日本M&Aセンター、企業評価総合研究所、グループの社員は日々、そのような想いを持って邁進しています。

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著者

米澤 恭子

米澤よねざわ 恭子きょうこ

株式会社企業評価総合研究所(日本M&Aセンターグループ) 代表取締役社長

中堅・中小企業のM&Aにおける取引事例法企業価値評価を研究。 2020年に取引事例法評価システムV-Compassをリリース。 M&A取引の参考となる中立的な企業評価の提示により、中堅・中小企業のM&Aマーケットの健全な成長を目指す。 同年株式会社スピアとのM&Aを実施。同社代表取締役社長を兼任。税理士。

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