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M&A検討の第一歩。譲渡側(売り手)の事前準備

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M&A検討の第一歩。譲渡側(売り手)の事前準備
はじめてのM&Aには不安が多いもの。具体的に着手する前、可能な限りの準備を進めておくことで、心に余裕をもってM&Aを開始できます。譲渡企業(売り手)にとって、理想的な事前準備とは何か?どのような状態にしておけばいいのか?あるべき姿から逆算した“スムーズなM&Aのための事前準備”をご紹介します。

準備のポイント① 資料収集

候補企業探しは「企業概要書」からはじまる

M&Aの相手を探すに際し、譲渡企業の実態を正確に理解してもらうため、譲渡企業の対象会社や対象事業に関する情報をまとめた資料を作成します。これを企業概要書(インフォメーション・メモランダム/IM)といいます。
様々な角度から第三者目線で企業実態を明らかにしていくため、多くの資料を必要とします。

企業概要書についてはこちらから

「企業概要書」作成のために必要な資料

企業概要書の作成、企業価値の評価においては、多くの資料が必要になります。下は、実際にあるM&A仲介会社が、譲渡企業(売り手)に依頼している資料の一蘭です。
資料の収集は譲渡企業(売り手)の第一のハードルと言えます。日々の事業活動を行いながら資料収集を進めることは経営者や現場のストレスに繋がります。いつかはM&Aをと考え始めた段階で、少しずつ資料を整備していきましょう。

カテゴリ 必要資料
会社概要 会社案内、製品・サービスのカタログ など
決算資料 決算書、固定資産台帳、会計ソフトデータ など
時価関係資料 保険、株式、ゴルフ会員権保有に関する資料 など
事業内訳 3期分の売上内訳、仕入内訳、外注内訳
拠点・不動産 不動産登記簿謄本および公図、固定資産税課税明細書、不動産賃貸契約書
組織・人事規程 組織図、各種社内規程 など
従業員データ 従業員名簿、給与台帳、賞与台帳
契約関係 銀行借入金資料、リース契約書、取引先との取引基本契約書 など

準備のポイント②M&A実行時のリスクの把握

企業を経営する上では、様々な課題・リスクがつきもの。何かしらの課題やリスクを抱えていてもM&Aを進めることは可能です。しかし、具体的な交渉が進んでからリスクが発覚すると、デューデリジェンスや株価交渉に影響を与えかねません。リスクを事前に把握することで、対策が可能になります。どういったリスクの分類があるか、具体的と共に解説します。

財務に関するリスク

財務に関するリスクとは、企業の財務面から発生するリスクのことです。
具体的には、偶発債務、簿外債務などがあります。
偶発債務とは、現時点では未発生だが、将来にわたりある条件を満たした時に発生する債務の総称です。例えば係争中の案件を抱えており、将来に損害賠償金を支払う可能性が高いなどといったケース等があります。
簿外債務とは、帳簿すなわち貸借対照表に記載されていない債務を指します。代表的なものでは未払いの残業代や買掛金等があげられます。簿外債務があることにより、貸借対照表が実態よりも良く見え、企業価値に影響を与える、といったことが考えられます。

法務に関するリスク

法務に関するリスクとは、対象企業の契約や法令順守に関するリスクです。
例えば、譲渡企業(売り手)の保有する許認可が、買収後の事業継続に必要なのにも関わらず承継できない、M&Aを実行することにより重要な取引先との契約が解除される(チャンジオブコントロール条項)、譲渡企業(売り手)の名称や事業内容が他社の知的財産権を侵害している、等といったことです。
法務リスクによっては、買収価格を減額する要因になります。また、重大なリスクが潜んでいた場合、M&Aの実行自体が困難になる場合もあります。法務デューデリジェンスにおいてはもちろん、M&A前に可能な限り法務リスクを把握する必要があります。

人材・労務に関するリスク

人材・労務に関するリスクとは、役員、従業員など「人」に関するリスクを指します。
M&A実行は役員や従業員に大きな影響を与えます。ある企業では役員がキーマンであるにも関わらず、M&Aの内容に納得がいかず、その後経営にコミットしてもらえず、業績が悪化してしまったという事例がありました。
また、従業員から理解を得られず、M&A後に大量に人が辞めてしまったというケースもあります。譲受企業(買い手)としても、買収後の円滑な事業運営のために、人材流出リスクは避けたいものです。この影響は業種によっても顕著で、例えばシステムエンジニアを多く抱えるIT企業の場合、大量にエンジニアが離職してしまえば事業の継続が危ぶまれます。結果としてM&A自体が破談になることもあります。
これを防ぐには、プロセスの途中段階において従業員へ情報開示することを避けることが重要です。限られたメンバーで交渉を進めましょう。労務面では、特に社会保険の加入・支払い状況に注意をしておきましょう。残業代の未払いも同様に株価交渉時の減額要因になるリスクです。

その他の事業運営上のリスク

その他の事業運営上のリスクとは、上述した分類以外に発生する経営全般に関するリスクです。
例えば今後の事業計画の不確実性の問題があります。現在ニッチ市場で好調な事業でも、今後大手企業が同じ市場に進出してくるかもしれません。その競争に敗れれば最悪の場合、将来的な収益悪化が見込まれます。結果として事業継続に支障をきたす可能性が高くなります。
また、企業が何らかの課題を抱えていて、M&Aに影響を及ぼす場合もあります。具体的な例では、ある製造業の企業は、ある時、自社の工場が違法建築であるという指摘を受けました。今まで問題なく事業を行ってきました。しかしM&Aを希望し、譲受企業(買い手)候補があらわれたものの、建築の違法性が解消されない限り交渉を進められないと指摘されてしまいました。
違法性の解消には工場の建替えが必要ですので、長い時間と大きなコストがかかります。

準備のポイント③株式

株式の分散とは(株主分散)

一つの企業に対し複数の株主がいる状態が、M&A実行時の問題になることがあります。企業を譲渡するとは、会社の経営権を第三者に譲り渡すこと。株式会社の場合、経営権の所有者は株式を所有する株主です。株主は一人の場合もあれば、複数のこともあります。複数の場合、創業時に複数人が出資した場合などがあります。また、業歴の長い企業などは相続を繰り返す中で株式が複数の株主に分かれてしまうこともあります。これを株主分散といいます。発行済株式について、1人の株主に集約されていない、複数の株主が株式を所有している様をあらわします。

株式が分散するデメリット

株主分散がなぜスムーズなM&Aを妨げるのでしょうか。
一般に、発行済株式総数の2/3超の株式を有していれば、その株主は支配株主であると言われます。定款の変更といった特別決議を単独で決めることができるからです。しかし、例え1%分の株式しか持たない株主であっても、株主は株主です。株主名簿上で管理し、株主総会の招集通知を出す等、株主への対応が必要になります。未上場企業の場合、こうした業務は社内で行うケースも多く、株主が増える程、管理の費用や労力が増大します。他にも、株主総会の議案提案権や帳簿閲覧権、取締役解任の訴求等、株主に認められている権利は多くあります。

持株比率 2/3以上 定款変更や取締役の解任、会社の合併や解散など、経営に重要な特別決議を単独で決めることができる。
持株比率 1/2超 経営権の取得、剰余金の配当、取締役・監査役の選任・解任など普通決議を単独で決めることができる。
持株比率 1/3以上 特別決議を単独で阻止することが可能。
持株比率 3%以上 株主総会の招集を要求したり、会社の帳簿を閲覧することを請求することができる。
持株比率 1%以上 株主総会における議案提出権を行使できる。

もし少数株主が経営方針に反対し、経営者に対し様々な要求を行った場合、経営者はそれに対応しなければなりません。結果として円滑な企業運営が阻害される要因になります。未上場企業の場合、株式が分散するメリットはほぼありません。特に事業承継の観点で考えた時は、株主を集めておくことで不要なトラブルを未然に防ぎ、その後の企業運営を円滑に進めることが可能になります。

株式が分散している際の対策

分散している株式は、「集約」することができます。株式の集約とは、複数の株主に分散している株式を、ある一人の株主に集めることです。特に、事業承継の場合には親族内外に分散している株式を社長や後継者が買い集め、集約することがあります。
ここでネックになるのは、「株価」と「資金負担」です。
株式譲渡では、株式の売り手と買い手と双方が合意した金額でもって売買を行います。双方にとって妥当な、合意できる金額とはいくらでしょうか。上場会社株式であれば簡単です。市場での取引価格と所有する株数から金額を求めることが可能です。
これに対し、まずもって流通することのない非上場会社の株式は取引価格市もないため、譲渡する場合には、時価の算定が必要となってきます。それには複雑な計算が必要です。また、集約の方法は株主が協力的な場合、そうでない場合でも対応は異なります。
株式の集約は、株価算定から株主との交渉、登記手続きにいたるまで税務・法務の高度な知識が必要になります。専門家ではない当人が独断で進めると、交渉が決裂したり、思わぬ税金を課されることも。今日では株式の集約を専門的に取り扱うコンサルティングサービス等もあります。上手く活用し、トラブルを未然に防ぎましょう。

終わりに

今回はスムーズなM&Aための事前準備のポイントをご紹介しました。全てを完璧に整えてからM&Aを開始しようとすると、1~2年と時間がかかり、タイミングを失う可能性があります。全てが揃わなくてもM&Aを始めることは可能です。早期に専門家に相談することで、M&Aを進めながら解決すること選択肢も。不安や懸念材料を明らかにすることで、M&Aにかかる時間を短くし、スムーズな成約を目指しましょう。

詳しくは専門のコンサルタントまでお気軽にお尋ねください。
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M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

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STEP1

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STEP2

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STEP3

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