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譲渡先(売却先)候補へ自社の魅力を伝える「企業概要書」「ノンネームシート」とは

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譲渡側(売り手)の企業情報をまとめたものを「企業概要書」と言います。本記事ではその概要についてご紹介します。

自社の魅力を伝える「企業概要書」

企業概要書とは、譲受企業(買い手)候補に対して自社の内容を正しく知ってもらうために、譲渡企業(売り手)の事業概要をまとめた資料を指します。「インフォメーション・メモランダム:Information Memorandum」略してIMとも呼ばれます。

企業は物質としての存在を持ちません。そのため、「譲渡企業(売り手)がどんな企業か」伝えるためには整理された情報が必要です。企業の魅力をいかに伝えられるかは、資料を作成するM&A仲介会社の腕の見せどころです。

ヒト・モノ・カネなど定量的な情報だけではその企業の特徴や魅力が伝わり切らないため、多くの仲介会社では譲渡企業に対し事前にインタビューを行います。第三者の視点を通じて、企業自身が気づいていない自社の強みや魅力を引き出し、資料に反映していきます。

提案を受けた譲受企業(買い手)候補は、企業概要書(IM)の情報を元に「M&Aを実行したらどんなメリットがあるか」検討し、M&Aを進めるかどうかを判断します。

企業概要書の内容

企業概要書は全体で30~40ページ相当の充実した資料になります。主な構成を見ていきましょう。

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エグゼクティブサマリー

「譲渡企業(売り手)の魅力」を伝えるもっとも重要なパートです。
基本情報を網羅しつつメッセージで伝えたいことを明確にし、譲受企業(買い手)候補先企業の関心を高める目的があります。具体的には「会社の事業概要」、「事業フロー」、「財務ハイライト」、「業界情報」、「希望条件」などを掲載します。対象会社の全体像を分かりやすく伝えるため、写真やグラフなどビジュアルも多く用いられます。

事業内訳

次に事業内容について詳しく解説します。「主要販売先のランキング」、「製品別/店舗別売上高」、「主要仕入先や主要外注先」などを掲載します。また、工事業であれば「工事経歴書」、ホテルや介護施設の場合は「稼働率の推移」等を掲載するなど業種特有の情報を載せるケースもあります。譲受(買い手)候補企業に対し、どうすれば譲渡企業(売り手)の事業状況を分かりやすく伝えられるか創意工夫が求められます。

事業拠点・不動産

事業拠点や不動産を整理して掲載し、譲渡企業(売り手)の地理的特徴をイメージと共に掴んでもらうパートです。全国に事業所がある企業であればマップを掲載することも。「本社の所在地」や「面積」、「所有形態」などは必須項目です。製造業においては工場設備やレイアウトも会社の魅力を伝える重要な情報です。また「車両」、「リース資産」、「非事業用不動産」についても記載します。

組織

対象企業の組織、株主などの重要事項が掲載され、譲受企業(買い手)候補企業の関心が高く、質問が出やすいパートです。具体的には「代表者のプロフィール」、「会社沿革」、「株主・役員一覧」、「組織図」や「従業員概要」などが掲載されます。ここでは、数値化された情報と同時に、創業時の想い、営業力や人材の質等、定性的な情報を伝えることができます。有資格者や許認可の取得状況も記載します。

財務情報

過去3期にわたる「損益計算書」、「貸借対照表」等を掲載します。増減が顕著な場合や特殊事象があった場合は注記し、譲受企業(買い手)候補の理解を深めます。製造業であれば製造原価の推移も掲載します。同時に借入金や社債の一覧も同様です。エグゼクティブサマリーの財務ハイライトを裏付ける情報です。
以上が、一般的な企業概要書の内容です。

広く相手を探す場面で登場「ノンネームシート」

企業概要書が完成したら、次はお相手探しです。譲受企業(買い手)候補先を探す際、譲渡企業(売り手)を特定されない形で、候補企業に広く関心の有無を確認するために使用する資料が「ノンネームシート」です。ノンネームは企業名が匿名であることを指し、「ティーザー」と呼ばれることもあります。

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ノンネームシートはあくまで譲受意思の有無を確認するものであるため、「業種/エリア/企業規模」など特定されないような概略のみ、いわば企業概要書の内容を要約したものが記載されています。匿名性を確保するため、抽象度を上げた表現が用いられます。
自社のノンネームシートの匿名性(内容)は担当者と共に必ず事前に確認しましょう。
また「同業への提案は後にしたい」といった不安や懸念があれば事前に担当者に伝えましょう。情報漏洩などの後のトラブルを防ぐことに繋がります。

関心を持つ企業が見つかったら

実際の提案までの流れを説明します。

提案を許可する

譲受企業(買い手)候補先が初期的な関心を示したら具体的な提案が始まります。通常、企業概要書(IM)の提示にあたっては譲渡企業(売り手)が必ず事前に許可してよい相手先かを確認します。実際のM&Aでは譲渡企業(売り手)オーナーが多忙等の理由により許可取得までに時間がかかることがあります。結果として相手探しにも時間がかかったり、譲受企業(買い手)候補先のM&A意欲が減退することもあり得ます。担当者と連携することがM&Aの早期成約のカギとなります。まれに例外もあります。オーナーのご病気等により早期にM&Aを成約させたい場合などは、譲渡企業(売り手)オーナーの意思により担当者に一任することも可能です。

秘密保持契約を締結する

これは譲受企業(買い手)候補先企業とM&A仲介会社とのやり取りです。企業概要書の開示にあたっては必ず事前に秘密保持契約を締結します。譲渡企業(売り手)にとって企業概要書の開示は極めて重要なプロセスです。万が一情報漏洩等が起きた際には企業の存続に関わる問題となりえます。提案前に秘密保持の徹底について十分な説明を行います。過去既に譲受企業(買い手)候補先と締結している場合も再度その重要性について喚起します。

企業概要書を提案し本格的な検討を行う

いよいよ企業概要書の提案です。譲受企業(買い手)候補先企業の担当者が面談し、譲渡企業(売り手)の魅力を伝えます。企業概要書というパッケージがあるからこそ譲渡企業(売り手)の魅力を十分に伝えることができます。本格検討とならなければ企業概要書は秘密保持の観点から廃棄されます。本格検討となった場合は、企業概要書の内容を元に質問を受け付け、譲受企業(買い手)候補先の社内狭義資料として使用されます。
以上のように、候補先探しの過程において企業概要書は極めて重要な役割を果たしています。

終わりに

譲渡側(売り手)が企業概要書を提示することは、M&Aのファーストステップです。自社の情報を詳細に伝えることで、譲受側(買い手)候補にて具体的な検討、交渉が始まります。M&Aの成約、成功のために企業概要書は重要なカギとなります。
詳しくは専門のコンサルタントまでお気軽にお尋ねください。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

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