M&Aにおける登場人物とその役割
⽬次
- 1. M&Aの対象・当事者
- 1-1. M&Aの対象
- 1-2. 譲渡側(売り手)オーナー、企業
- 1-3. 譲受側(買い手)
- 2. M&Aアドバイザー
- 2-1. M&A仲介会社
- 2-2. FA(ファイナンシャルアドバイザー)
- 3. M&Aの専門家
- 3-1. 税理士・会計士
- 3-2. 弁護士
- 3-3. デューデリジェンスの専門家
- 4. その他の機関・関係者
- 4-1. 金融機関
- 4-2. その他関係者
- 5. 終わりに
- 5-1. 著者
M&Aの実行には高度な論点が複雑に絡み合い、高い専門性や知識が必要とされるため当事者以外に多くの関係者が登場します。本記事ではM&Aの関係者・専門家について解説していきます。
M&Aの対象・当事者
まずM&Aの主役、実行される対象・当事者についてご紹介します。
M&Aの対象
譲受側(買い手)の目線で「取得する対象は何か」によって異なります。
株式譲渡の場合は「株主が保有する株式(会社そのもの)」、事業譲渡であれば「会社が保有している事業」になります。取引対価については、現金が採用されるケースが多いですが、昨今では株式を採用するケースも増えてきています。
譲渡側(売り手)オーナー、企業
M&Aの対象の所有者です。例えば株式譲渡の場合、売り手は株式を保有する株主に該当し、事業譲渡の場合は事業を保有している会社が売り手になります。解釈を拡げれば、譲渡側(売り手)企業の役員陣なども当事者といえるでしょう。
譲受側(買い手)
売り手からM&Aの対象である株式や事業を取得し、その対価を支払う者を指します。買い手は、支払いの対価として「M&Aの対象」を新たに所有することになります。買い手は、個人の場合もあれば、会社の場合もあります。
M&Aアドバイザー
譲渡側(売り手)自力で売却先候補を探してM&Aを行うことは非常に難易度が高いため、一般的にはM&Aの仲介会社もしくはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)といったM&Aアドバイザーを利用するケースが多く見られます。ここでは仲介会社・FAそれぞれについて説明します。
M&A仲介会社
M&Aの仲介会社とは、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)の間に着任し、中立的な立場で交渉の仲介・助言を行う者を指します。
サポートの範囲は会社により異なりますが、大手仲介会社では、案件の組成、お相手探し、交渉、デューデリジェンス(買収監査)、契約書類の作成、そしてM&A後の統合と一気通貫したサービスを提供しています。また、全国の金融機関などのネットワークやノウハウを駆使し、お相手探しが難しいと言われる未上場会社においても、最適な候補先を発見できることも強みとしています。結果、譲渡側(売り手)譲受側(買い手)双方納得のいく形でM&Aを進めることが可能となります。
FA(ファイナンシャルアドバイザー)
M&AにおけるFA(ファイナンシャル・アドバイザー)とは、M&Aの計画から交渉、スキーム立案・クロージングまでの幅広い範囲でアドバイスを行い、M&A実行を支援する者を指します。仲介会社と大きく異なる点は、FAは必ず譲渡側(売り手)もしくは譲受側(買い手)のどちらか一方につくということです。顧客利益の最大化を最優先に行動できるというメリットがある一方、双方の利益の主張が激しくなり、交渉決裂を招きやすくなるリスクもあります。FAは「上場企業同士のM&A」や、「海外企業とのM&A(=クロスボーダーM&A)」等の大規模、もしくは専門性の高いM&A支援の際に利用されることが多く、証券会社の投資銀行部門・コンサル会社・大手会計事務所が対応するケースがよく見られます。
M&Aの専門家
税理士・会計士
財務・税務のアドバイザーとして譲渡側(売り手)、譲受側(買い手)の初期の相談からM&A支援に携わります。
譲渡側(売り手)の立場においては、案件組成段階から関与する場合が多く、税理士の協力があれば資料収集がスムーズになります。また、算出された企業価値評価に対し譲渡側(売り手)の目線から妥当性を検証してくれます。
譲受側(買い手)の立場においては、M&Aにあるリスクの中でも簿外債務・偶発債務・資産の価値低下など、会計や税務の高度な知識がなければ判別しにくい点を、専門家の観点から指摘してくれます。これにより、あらかじめリスクとなる要因や資産を特定した上で交渉に望むことができます。
弁護士
弁護士は、法務の観点から譲渡側(売り手)、譲受側(買い手)に対しM&Aのサポートを行います。
M&Aでは様々な契約が締結されます。譲渡側(売り手)であれば提携仲介契約、株式譲渡契約(SPA)、譲受側(買い手)であれば、秘密保持契約(NDA・CA)、株式譲渡契約(SPA)が挙げられます。
専門家の視点から契約内容のリスクの洗い出し、問題の有無についての確認を行います。また、譲受側(買い手)の弁護士には別の役割もあります。法務デューデリジェンス(監査)の実施時に、法務面からアドバイスを行うことです。
また、弁護士が契約書を作成する場合もあります。その際は財務・税務・法務デューデリジェンス等、各種調査で発見された事項を全て落とし込み、交渉結果を反映させた契約書を作成することとなります。
デューデリジェンスの専門家
対象企業の価値査定や法律に関わる資産について、調査する作業を専門に担当する者のことを指します。
デューデリジェンスの範囲は広く、財務・法務・ビジネス・人事・ITなど多岐に及びます。通常、譲受側(買い手)が外部の専門家または会計事務所に監査の依頼を行います。何をどこまで調査するかは譲受側(買い手)の意思決定次第ですが、全ての項目においてデューデリジェンスを実行することは、費用や時間の面から現実的ではありません。対象企業(事業)の特性や、事前情報をふまえて、優先順位を付けて実行されます。
その他の機関・関係者
金融機関
M&Aの譲受側(買い手)は、株価を支払うために資金を用意する必要があります。手元資金で支払う場合もありますが、多くの場合は外部から資金を調達します。ここでの金融機関の役割は融資であり、譲受側(買い手)の取引先銀行が担当します。
常日ごろ取引があるとはいえ、億単位の資金をスムーズに調達するには、事前の相談交渉が欠かせません。またその際、財務資料や事業計画書有の提出を求められる場合がほとんどですので、あらかじめ事前準備を進めることが大切です。
その他関係者
M&Aの関係者はアドバイザーや士業だけではありません。M&A前後にわたり、様々な協力者が存在します。
例えば譲渡側(売り手)オーナーが、自社の経営課題の解決する手段としてはじめからM&Aを選択肢に入れているとは限りません。財産承継のコンサルティング、生命保険の代理店、地元の商工会議所など、様々な経路からM&A仲介会社などへの紹介につながる可能性もあります。彼らは実際にはM&Aを行いませんが「M&Aという選択肢を提示する」という意味で重要な役割を果たします。
また、M&A実行後には経営統合(Post Merger Integration:PMI)が始まります。PMIはいわば統合という手術後に日常生活を円滑に過ごすための準備期間です。このある意味特殊な期間は、通常の営業オペレーションから外れた事態も多く起こり、M&A対象会社、譲受側(買い手)共にストレスがかかる期間でもあります。少しでもお互いに負荷を少なく目標を達成するため、専門家の手を借りることは賢い選択です。現在PMIを専門に扱うコンサルティング会社もその数を増やしています。
終わりに
M&Aの関係者に言及する際に、「外科手術」に例えられることがあります。外科手術が、執刀する医師、麻酔科医、看護師、臨床工学技士など多くのプロフェッショナル達によって支えられているのと同様、M&Aも多くの専門家の協力を得て進めていくものであるからです。
M&Aによる相乗効果を最大限に発揮するためにも、関係者の力を上手く借りて取り組んでいくことが重要となります。
詳しくは専門のコンサルタントまでお気軽にお尋ねください。
お問合せはこちらから