M&Aにおける最終契約のフェーズ。押さえておきたいポイント
⽬次
- 1. 最終契約書とは
- 1-1. 概要・目的
- 1-2. M&Aのクロージングとは
- 1-3. 最終契約書はなぜ複雑になるのか
- 1-4. 締結する当事者
- 2. 最終契約書の基本構造
- 2-1. 全体の構成
- 2-2. 前文・定義
- 2-3. 株式譲渡の合意・価格
- 2-4. 表明保証
- 2-5. 誓約事項(譲渡日までの義務)
- 2-6. クロージング条件
- 2-7. 誓約事項(譲渡日後の義務)・付帯合意
- 2-8. 損害賠償又は補償・解除
- 2-9. 一般条項
- 3. 最終契約書において意識しておくべきポイント
- 3-1. 表明保証について
- 3-2. 表明保証とはなにか
- 3-3. どのような内容について表明保証するか
- 3-4. 表明保証できない事項について
- 3-5. 損害賠償又は補償について
- 3-6. 契約の解除について
- 4. 終わりに
- 4-1. 著者
最終契約書とは
概要・目的
最終契約書(Definitive Agreement、通称「DA」)とは、M&Aの最終段階において締結される、当事者間の最終的な合意事項を定めた最も重要な契約書です。
基本合意書は、デューデリジェンス(買収監査)実施前における、交渉過程の確認や中間的な合意を確認するためのものであり、今後の交渉を阻害しないための約束事(独占交渉権限の付与や秘密保持義務の設定その他の一般条項)以外は、原則として法的拘束力を持たない契約となっています。
これに対し、最終契約書は、これまでの当事者の交渉を通じて確定した合意事項をすべて盛り込んだものです。契約当事者の一方が最終契約書の内容に違反し、当該違反により他方当事者に損害が生じた場合には、当該違反をした当事者に対し、損害賠償請求ができる旨が定められた法的拘束力を持つ契約となります。デューデリジェンス(買収監査)は、この最終契約書を作成するために実施するといっても過言ではありません。したがって、この最終契約書を締結するタイミングは、譲受側(買い手)が実施するデューデリジェンス(買収監査)が終わり、その結果を踏まえ、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)との間で、全ての条件が合意できた時になります。
当事者間で「最終契約書」というタイトルの契約を結ぶわけではなく、通常は、株式譲渡なら株式譲渡契約書(Share Purchase Agreementまたは Stock Purchase Agreement、通称「SPA」)、事業譲渡なら事業譲渡契約書と呼ぶことが多く、単に「契約書」「基本契約書」と名付けることもあります(これらの契約書を一般的に「最終契約書」と呼びます。)。
M&Aのクロージングとは
M&Aの手続きで、「クロージング(closing)」や「デリバリー(delivery)」という言葉を耳にする機会ががあるかと思いますが、これは、最終契約書に基づく株式譲渡や事業譲渡などのM&A取引を実行し、譲渡側(売り手)から譲受側(買い手)に対し、M&Aの対象となる会社や事業の経営権を移転させることを意味します。
一般的には、譲渡側(売り手)の履行義務である譲渡対象物の引渡しと、譲受側(買い手)の履行義務である対価の支払いがなされますが、スキームによって内容は変わってきます。
株券発行会社における株式譲渡の場合には、一般的には譲渡側(売り手)からの株券の引渡しに対し、譲受側(買い手)からは譲渡対価の支払いが行われます。
また、事業譲渡の場合には、譲渡側(売り手)から譲受側(買い手)に移管させる資産、負債及び権利義務について、個別に移管手続きを行い、譲受側(買い手)から譲渡側(売り手)への譲渡対価の支払いで完了となります。
次項で背景を説明しますが、実際はクロージングをするために、一般的には最終契約書においてM&A実行のための前提条件(「クロージング条件」といいます。)が定められています。クロージングするためには、この前提条件を満たしていることが必要となるので、最終契約書の締結日からクロージングする日(呼称には、「譲渡日」「クロージング日」「決済日」あるいは「実行日」等がありますが、ここでは「譲渡日」と呼びます。)まで、一定の期間をあけることが多くなっています。もっとも、最終契約書の締結の時点で、クロージングに必要な手続きがすべて完了していて、クロージング条件が満たされている場合には、最終契約書の締結日と同一日に実行する場合もあります。
最終契約書はなぜ複雑になるのか
ここでは、中小企業M&Aのスキームにおいて用いられることが多い「株式譲渡」を例にとって説明します。株式譲渡も売買契約の一種ですが、不動産や車両等の他の売買契約書と比べて、複雑でボリュームのある契約書になるケースが多く見られます。なぜでしょうか。
株式譲渡は、端的に表すと、株式と代金の交換です。つまり、株式譲渡契約は『株式』の売買契約ですので、譲渡対象物、譲渡価格、当事者、譲渡日だけで成立することになります。したがって
「甲(売り手)と乙(買い手)は、●年●月●日に、甲が乙にX会社の株式●株を譲渡し、乙は甲にその代金として●●●●円支払うことを約束した」
というだけで十分有効な契約となります(株券発行会社の場合には、上記に加え株券の交付が必要となりますが、ここでは、株券不発行会社を例に説明しています)。
この場合、譲渡側(売り手)が譲受側(買い手)に対し、株式を引き渡すことで、最終契約書上の義務を履行したことになります。したがって、もしX会社が、多額の未払残業代の問題を抱えていたり、株式譲渡の実行後に、X会社の大口の取引先が今回のM&Aを理由として取引を停止したり、譲渡側(売り手)が優秀な従業員を引き抜いて同種の事業を立ち上げて、X会社に大きな損害を生じさせたとしても、譲受側(買い手)は譲渡側(売り手)に何ら責任を問えないことになります。
このようなことにならないよう、両者が安心・安全なM&Aによる事業承継を進められるようにしなくてはなりません。実際の契約書では、譲渡価格等の条件だけでなく、クロージング条件や相手方に対する表明・保証、誓約事項等、数多くの事項について、特約として追加して定める必要があるため、通常の売買契約書に比べボリュームのある内容になります。
締結する当事者
選択するスキームによって異なりますが、株式譲渡の場合には、譲渡側(売り手)である株主と、譲受側(買い手)が当事者となります。M&Aの対象となる会社(以下「対象企業」)は、当事者となることは多くありません。対象企業に関する事項については、譲渡側(売り手)である株主に義務を負わせれば足りると考えられるからです。株主が複数いる場合でも、事前に株式を買い集めない限り、100%株式譲渡を行うのであれば、その全員が契約当事者になる必要があります。
事業譲渡や吸収分割の場合には、譲渡側(売り手)となる会社と譲受側(買い手)との間で契約を締結しますが、事案により両者の代表者が保証人の立場で当事者に加わる場合もあります。
最終契約書の基本構造
ここでは、中小企業M&Aにおいて主流である株式譲渡について、掘り下げて解説します。
全体の構成
株式譲渡の契約で、最もスタンダードな構成は、表に示すと次のような形になります。
前文・定義
まず、この契約の当事者が誰であるかを掲げ、今回の契約の締結目的や定義付けが記載されます。
「締結する当事者」 にあるとおり、譲渡側(売り手)である株主が複数いる場合には、その全員が契約当事者となるため、全員の名前を記載することになります。
最終契約書には、直接全員が署名捺印をする方法のほか、一部の株主が他の株主に契約締結の権限を委任する方法をとることもあります。その場合には、必ず最終契約書の締結前に、一部の株主から委任状をもらっておくようにしましょう。事前に委任状をもらわずに最終契約書を締結してしまい、後で「M&Aに反対だから、委任状は出せない」ということになると、大きな問題に発展しかねません。
また、株主に未成年者が含まれる場合には、その法定代理人である親権者が未成年者に代わり契約書に署名捺印する必要があります。そのほか、認知症その他の理由により判断能力が不十分な方が株主に含まれる場合には、家庭裁判所における成年後見制度を利用し、家庭裁判所により選任された成年後見人が代わりに契約書に署名捺印することもあります。
契約本文の中で、特に頻繁に使用される用語(例えば「対象会社」「対象株式」「譲渡日」などの用語)については、見やすくするため冒頭の箇所でまとめて記載するケースが多いことも覚えておきましょう。
株式譲渡の合意・価格
契約の要素になる部分の記載になります。契約当事者間で、譲渡対象となる株式の内容や譲渡価額、支払日(譲渡日)、支払方法、実行場所等について、具体的に定めます。
また、株式譲渡代金の受領と引き換えに、譲渡側(売り手)から譲受側(買い手)に引き渡す必要があるもの(「重要物品」といいます。)を規定します。
重要物品の一例
- 株券
- 役員の辞任届
- 株式譲渡承認にかかる各種議事録
- 株主名簿の名義書き換え請求書 等
この他、交渉の過程で取り決めた事項を確認する書類が加わることがありますが、通常、後述の「2.1.4誓約事項(譲渡日までの義務)」に関連するものとなります。譲受側(買い手)としては、これらの重要物品から、M&Aの前提となる譲渡側(売り手)の手続きが完了して、スムーズに対象企業の支配権を引き継げる状態にあることの確認が行えます。
表明保証
日常生活では、まず使われない言葉ですので、初めて目にする人も多いかと思います。
詳細は、「3.1表明保証について」にて後述しますが、「対象企業は、最終契約書の締結日や譲渡日の時点では、このような状態であることに間違いありません。」といった内容を、譲渡側(売り手)である株主が譲受側(買い手)に約束することが中心となります。この表明保証の内容は、損害賠償請求できる範囲にも繋がるため、最終契約書の中でも重要な条項になります。
通常、譲渡側(売り手)である株主、譲受側(買い手)ともに、それぞれ表明保証を行い、譲渡日の時点で、この契約に定めた表明保証の内容が正しくあることが、後述するクロージング条件になります。
誓約事項(譲渡日までの義務)
最終契約書の締結日から譲渡日まで、一定の期間をあけることが多いことは、「M&Aのクロージングとは」でお伝えしましたが、その場合に、譲渡日までに行うべき手続き、あるいは、禁止事項を定める部分になります。表明保証と並んで、きちんと遵守されていることが、クロージング条件になります。
デューデリジェンス(買収監査)で判明した問題点について、譲渡側(売り手)である株主が譲渡日までに解決・改善することを条件とした場合には、この誓約事項(譲渡日までの義務)に加えることになります。
譲渡日までに行うべき手続きの例として、「チェンジ・オブ・コントロール条項(Change of Control、通称「COC」)のある契約への対応を行うこと」があります。
このCOCとは、取引基本契約や不動産賃貸借契約によく見られ、「経営体制や代表者の変更がある場合には、事前に承諾を得ないと契約を解除する」というような条項のことです。
この場合、譲渡側(売り手)である株主は、その契約の相手方(例:主要な取引先企業、本社が入居する建物の貸主など)にあらかじめM&Aで変更があることを説明して、今後も取引を継続してもらうことの承諾を得ておくよう、譲受側(買い手)から求められることがあります。譲渡日までの禁止事項としては、「実際に株式譲渡するまでは、対象企業に重大な変更を加えないこと」等が挙げられます。
クロージング条件
株式譲渡を実行するための条件を指します。特に譲受側(買い手)からすると、「この条件が満たされないのであれば、M&A自体を止める」というような、絶対に譲れない前提条件を定めます。表明保証した内容が正しいこと、譲渡日までの義務が遵守されていることの2つが柱となりますが、事案により様々な条件が加わることもあります。
万が一、譲渡日にクロージング条件が満たされなかった場合の取り扱いについても定めておきます。
誓約事項(譲渡日後の義務)・付帯合意
譲渡日後に株式譲渡に付随して、譲渡側(売り手)、譲受側(買い手)が遵守すべき事項を規定します。「2.1.4誓約事項(譲渡日までの義務)」とは異なり、クロージング条件には該当しません。
譲渡側(売り手)に対しては、一定期間の引継業務を行うこと、競業避止義務や従業員の引き抜き禁止の義務について課す場合があります。
譲受側(買い手)に対しては、M&Aに伴って辞任する役員への退職慰労金の支給、従業員の雇用条件の維持や保証債務の解除の義務について課すことが多く、中小企業M&Aにおける譲渡側(売り手)の大きな関心事となっています。
また、M&Aに伴い何か取り決めを行う場合には、その内容を定めます。例えば、対象企業が使用している工場が、譲受側(売り手)である株主所有の不動産であるような場合には、M&Aと同時に、その株主から対象企業に売却することを付帯合意として定めます。
損害賠償又は補償・解除
契約書の当事者に、契約上の義務違反や表明保証違反があった場合の損害賠償や補償について定める部分です。賠償額や期間の定めも含め、交渉の中心になる場合もあり、最終契約書において重要な条項になります。
中小企業M&Aの場合、一般的に契約解除はクロージング前に限るとすることが多いため、契約締結日と譲渡日が同一日である最終契約書に定めるケースはあまり見られません。
一般条項
契約書に記載する一般的な内容が多い部分となりますが、大事な条項として「完全合意」というものがあります。「これがM&Aについての唯一の契約書であり、この契約書に記載されていない従前の合意、了解事項、交渉、協議等については、譲渡側(売り手)である株主と譲受側(買い手)との間で最終契約書の締結がされることをもって、すべて失効する」という内容です。
そのため最終契約書の締結前に当事者が合意していた事項であっても、最終契約書に記載していなければ、当該合意事項は無かったものと扱われるため、合意事項が全て盛り込まれているか確認することが重要になります。
この他、秘密保持義務や契約の変更方法、費用負担、管轄裁判所、準拠法、誠実協議条項などについて定めます。
最終契約書において意識しておくべきポイント
表明保証について
表明保証とはなにか
表明保証という言葉は、法律を勉強されたことがある人でも、聞きなれない言葉でしょう。なぜかというと、これは英米法において発展した概念であり、日本の法律には規定されていないからです。
一般的に表明保証とは、「当事者の一方が、相手方に対して、契約締結日や譲渡日において、一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証すること」を指しますが、なかなかイメージが付きにくいのではないでしょうか。
例えば、契約締結日や譲渡日において
- 「私には、判断能力が十分にあります。契約を結び、M&Aを実行する当事者として問題ありません」
- 「私は、対象企業の株式を適法に保有している株主です」
- 「対象企業には、従業員に対する未払いの賃金は存在しません」
- 「対象企業の計算書類は、適正に作成されています」
以上のような内容を譲渡側(売り手)である株主が譲受側(買い手)に対して、表明し保証すること(つまり約束すること)を、表明保証といいます。そして、M&Aにおいて、この表明保証は非常に重要な意味を持つことになります。
ここでは株式譲渡を例に説明したいと思います。「最終契約書はなぜ複雑になるのか」で説明した通り、株式譲渡契約は『株式』の売買契約ですので、売買対象物や取引価格、当事者を特定するだけでも、契約として成立します。つまり、表明保証は「必須」ではなく、「特約」としての位置づけとなります。
しかし、この表明保証が契約書に記載されていないと、株式譲渡により譲り受けた対象企業に何かしらの問題があった(例えば、従業員に対する未払いの賃金が存在した、事業に必要な資産を保有していなかった)場合に、譲受側(買い手)は譲渡側(売り手)に対し、損害賠償の請求をすることが難しくなります。
なぜかというと、表明保証の内容を記載していない場合、譲渡側(売り手)としては、譲受側(買い手)に株式を譲渡すれば、契約書上の義務を履行したことになるからです(あくまで売買契約ですので、株式を合意した金額にて譲渡することにより、有効に売買は実行されます)。つまり、契約で約束していないことについて責任追及はできないということです。
譲受側(買い手)は、株式をただ譲り受ければいいのではなく、それを通して対象企業を承継するのが目的です。対象企業全体の価値として株価を決めているため、その株価の前提となっている事実(例えば、対象企業の計算書類が正しいことや事業に必要となる資産を保有していること等)については、譲渡側(売り手)に保証してもらう必要があります。
また、デューデリジェンス(買収監査)を実施したからといって、対象企業の問題点をすべて把握できるというわけではありません。そのため、一般的には次に挙げる事項について、譲渡側(売り手)に網羅的な表明保証をしてもらうことによって、譲受側(買い手)に何かしらの問題があった場合には、譲渡側(売り手)に対して責任追及できるようにしておきます。
この表明保証を譲渡側(売り手)が負うことにより、「譲渡日時点で正しいとされていた事柄が実は間違っていた」ということが、M&A実行後に発覚した(例えば、計算書類に記載されている資産が無かった、従業員から未払い賃金の支払いの請求がされた)場合には、譲受側(買い手)は譲渡側(売り手)に賠償請求していくことができます。但し、これは、あくまで、譲渡日までに対象企業に生じていた表明保証違反の事実に限られます。
また、譲渡側(売り手)よりも項目は少ないながら、譲受側(買い手)にも表明保証を負ってもらいます。
どのような内容について表明保証するか
では、どのような事項について、一般的に表明保証するのか見ていきましょう。
譲渡側(売り手)の場合には、譲渡側(売り手)である株主自身のことのほか、対象企業に関しても表明保証を行うことになるので、項目が多く設けられています。
譲渡側(売り手)株主の主な表明保証の例
項目 | 内容の具体例 |
---|---|
権限および授権 | 最終契約の締結や履行に必要な権限や能力を有し、必要な手続きを経ていることなど |
反社会的勢力からの断絶 | いわゆる反社会的勢力とは無関係であることなど |
許認可等の取得 | 本契約の締結や履行に必要とされる許認可等があれば、その取得等が適切に行われていることなど |
法令等との抵触の不存在 | 株主による本契約の締結や履行は法令等に違反するものではないことなど |
対象株式の存在 | 対象会社の株式数は正確であり、それ以外に新株予約権などの潜在株式を発行している事実はないことなど |
対象株式の所有 | 株主は、対象会社の株式を完全に保有しており、株式には担保権その他の権利が付着していないことなど |
株主名簿の記載の真正 | 株主名簿の記載内容が真実であること |
存続及び権能 | 対象会社が適法かつ有効に設立され、存続していることなど |
計算書類等 | 対象会社の計算書類等の正確性や適正性など |
資産等 | 対象会社の資産保有の十分性や適法性など |
債務及び負債 | 対象会社に簿外負債や偶発債務が存在しないことなど |
税務申告等の適正 | 対象会社の税務申告の適正性や追加の課税処分を受けるおそれが存在しないことなど |
債務不履行の不存在 | 対象会社における債務不履行の不存在など |
要承諾取得契約の不存在 | 対象会社は取引先やテナント等と、株主の変更が解除理由になるような契約を結んでいないことなど |
知的財産の所有 | 対象会社が所有する知的財産権の有効性など |
職務発明の帰属及び対価 | 対象会社が所有する知的財産権の有効性など |
その他知的財産権の非侵害 | 対象会社が他者の知的財産権を侵害していないことなど |
労働関係 | 対象会社と従業員との労働関係の適正性や適法性など |
環境関係 | 対象会社の環境問題(土壌汚染・産廃など)の不存在など |
紛争の不存在 | 対象会社を当事者とする紛争は存在していないことなど |
法令順守、許認可 | 対象会社が法令順守していることなど |
保険契約 | 対象会社が適切な保険を付しており、保険金請求もなされたことが無いことなど |
変更の不存在 | 譲渡側(売り手)が対象会社に対して、一定時点(基本合意の締結日等)以降、重大な変更を加えていないこと |
開示情報 | 譲渡側(売り手)や対象会社が買い手に対して開示した情報の正確性や網羅性など |
譲受側(買い手)の主な表明保証の例
項目 | 内容の具体例 |
---|---|
存続及び権能 | 譲受側(買い手)が適法かつ有効に設立され、存続していることなど |
権限及び授権 | 最終契約の締結や履行に必要な権限や能力を有し、必要な手続きを経ていることなど |
反社会的勢力からの断絶 | いわゆる反社会的勢力とは無関係であることなど |
許認可等の取得 | 本契約の締結に必要とされる許認可等があれば、その取得が適切に行われていることなど |
法令等との抵触の不存在 | 譲受側(買い手)による本契約の締結や履行は法令等に違反するものではないことなど |
※上記はあくまで一般的な契約内容の簡易な解説にすぎないので、網羅性・正確性を保証するものではありません。
表明保証できない事項について
「どのような内容について表明保証するか」に掲げた事項について、すべて問題がないという会社は、なかなかありません。最終契約書のドラフトでは、完全無欠な会社であるという前提になっていますが、実際は、何か問題がある部分について調整し、契約書の修正を図っていく流れになります。ここが、M&A実務における山場の1つともいえるでしょう。
契約締結前に判明している問題点でも、解決が簡単で軽微なものであれば、譲渡日までの義務(誓約事項)にするケースが多くあります。
一方、問題の解決が簡単ではない場合、表明保証の範囲を「約束できる範囲」に限定し、その分、株価を下げる調整を行うのがオーソドックスな形です。M&A実行後にトラブルが生じる懸念が払しょくされるので、スムーズな解決方法といえます。
契約を締結する時点で問題を認識しているものの、金額として見積もることが困難な場合には「約束できる範囲」を限定しつつ、契約締結時では株価を下げる調整は行いません。後日、問題解決にかかった費用は、譲渡側(売り手)が負担するという取り決め(「特別補償」と呼びます。)を行うこともあります。
損害賠償又は補償について
最終契約書に定めた誓約事項や付帯合意に関して違反が発覚したり、表明保証した内容に違反があったことにより損害を受けた場合には、相手方に対して、当該損害の賠償の請求又は補償を求めることができる、と契約書に定めることは一般的です。
M&Aの契約書において、この賠償の条項で注意すべきポイントは、損害賠償の請求又は補償を相手方に求めることができる「期間」、そして賠償額の「上限」についてきちんと定められているかという点になります。
損害賠償又は補償を相手方に対して求めることができる期間が契約書上定められていないと、将来にわたりずっと賠償責任が課される可能性があります。また上限額が設定されていないと、受領した譲渡代金以上の責任が課される可能性もあります。ですので、この「期間」と「上限額」の定めがあるかが、損害賠償の条項において重要なポイントになります。
契約の解除について
M&Aにおいて、契約の解除ができる時期は、「クロージングまで」と定めるケースが一般的です。その理由はM&Aの実行後、原状回復(=M&Aを無かったことにすること)が困難であるためです。
M&Aの実行後は、対象企業の役員は入れ替わり、従業員や取引先に対してもM&Aについて開示を行うことになります。そして、新役員体制のもと新たに会社はスタートすることになりますので、M&Aの実行後のそのような状態で、契約を解除し、M&A自体を無かったことにすることは通常困難です。そのため契約の解除ができる時期について、クロージングまでと定めてあるか、確認する必要があります(M&A実行後に、例えば表明保証した内容に違反が発覚した場合には、相手方に対して賠償の請求、つまり金銭で解決することが一般的です。)。
終わりに
以上、最終契約書に関わる内容を紹介してきました。ポイントを意識して、最終契約書の内容を定める必要がありますが、複雑で難しい交渉になることもあります。M&A仲介会社やM&Aアドバイザーをパートナーとしている場合でも、彼らから提供されるものは契約書の草案(ドラフト)ですので、当事者双方自身が、最終的な判断に基づいて意思決定し、責任をとる必要があります。特に表明保証や誓約事項については、クロージング後に違反が発覚する可能性が残り、契約解除や損害賠償問題に発展する場合もあります。
必要に応じて、弁護士等の専門家のサポートを受けながら、最終契約書で曖昧な点がないか、あるいは、これまで協議してきた内容と最終契約書の内容に相違がないか、きちんと確認することが重要になります。
譲渡側(売り手)、譲受側(買い手)ともに、スムーズに思い描いていたような事業承継が行えるよう、後日のトラブルが起きないような最終契約書にして、M&Aの最終局面を迎えましょう。
日本M&Aセンターではコンサルタントのほか、弁護士、会計士、税理士などのプロフェッショナルが在籍して契約に関するサポートを行っております。
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