譲渡企業(売り手)がM&Aで押さえておきたいポイントとは?
⽬次
- 1. M&Aにおける、譲渡企業のメリット
- 1-1. 事業拡大のチャンス
- 1-2. 従業員の雇用を維持
- 1-3. オーナー利益の実現
- 1-4. 後継者問題の解決
- 2. M&Aにおける譲渡側(売り手)の注意事項・リスク
- 2-1. 情報漏洩の懸念
- 2-2. 従業員・取引先の理解を得られない
- 3. M&Aのスムーズな実行向けて
- 4. 終わりに
- 4-1. 著者
譲渡を検討するオーナーにとって、M&Aは、一生に一度の選択です。
大切に育ててきた会社を譲るという事実に加え、一度譲渡した後にやり直しはできません。失敗したくない、後悔したくない、最大の結果を得たいと思うのは当然のことです。満足度の高いM&Aの実行で最大の結果を得るために、実行前に押さえておきたいポイントについて確認していきましょう。
M&Aにおける、譲渡企業のメリット
M&Aにおいて、譲渡企業側にとってのメリットは主に以下の通りです。
事業拡大のチャンス
経営資源の獲得による事業発展
M&Aの実行で譲渡側(売り手)が期待できるメリットの1つは譲受側(買い手)の経営基盤を得ることで、成長に必要な経営資源の獲得ができるようになることです。
GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)といった巨大IT企業の台頭、著しく変化する顧客の消費行動、日本国内の人口減少、新型コロナウイルスによる経済混乱など、外部要因によって企業経営の難易度が年々増しています。
これに対応するには、時代に合わせた事業戦略に加え、自社へ人材・設備・資金などの経営資源を投下し続けていく必要があります。しかし、単独でそのような経営資源を投下し、自社を成長させ続けることは容易ではありません。
そうした環境下で「自社を成長させるための手段」として売却を決断するケースが多く見られるようになりました。
また、呼応するように、譲受側(買い手)によるM&A後の経営支援も、資金・情報・設備・実績など手厚くなる傾向にあります。
売り手・買い手の双方から、M&Aの動きを後押しする傾向になってきていると言えるでしょう。
「選択と集中」のための事業分離売却
M&Aは必ずしも会社全体の譲り渡しとは限らず、選択する手法によっては、一部の事業だけを譲渡する場合もあります。
不採算事業を譲渡し、事業の整理を行うことで、本業に集中できるようになります。これは「過去に事業を幅広く展開させた結果、現在の経営の効率性を欠いている」といった課題を抱える企業にとって特に有効な手立てとなります。
「選択と集中」とは?手法やメリット・デメリット、企業事例を解説
どの企業にも強みと弱みがあります。すべての強みを伸ばしながら弱みを小さくして事業成長を図るのが理想的ですが、活用できる経営資源は限られているため、実現は難しいでしょう。そこで考えられたのが、「選択と集中」という経営戦略です。本記事では、「選択と集中」とはどのような経営戦略で、メリットとデメリットにはどういったものがあるのかを解説し、実行する際のポイントなども説明します。日本M&Aセンターは場企業の
従業員の雇用を維持
廃業や精算で従業員を解雇するのは、経営者として苦渋の決断です。
M&Aを活用することにより、従業員の雇用を守れる可能性が高まります。
中堅・中小企業のM&Aでは多くの場合、「従業員の雇用維持」が譲渡先への条件のひとつに挙げられます。M&A実行後、従業員は新しいオーナーのもと同条件で引き続き雇用され、お客様や取引先もそのまま継承されるケースが一般的です
オーナー利益の実現
M&Aの売却益によって、譲渡側オーナーの手元に多く現金が残ることもメリットの一つです。相続時などを除き、通常、未上場会社の株式を売買する機会はほとんどありません。
M&Aでは土地や商品といった会社の資産を時価評価し、更に営業権を加味した結果、純資産額よりも高い株価評価を受けるケースは決して珍しくありません。M&Aを活用し、自社の株式を譲渡(売却)するということは、大きなキャッシュポイントとなり得ます。譲渡側オーナーが、自社の譲渡後に新たな事業を始める、余裕あるセカンドライフを送るという事例も見られます
後継者問題の解決
M&Aを実行し、第三者承継により新しい経営者を迎えることができれば、後継者問題が解決され、企業は存続し続けることができます。そもそも、M&Aが一般的に広く知られるようになったきっかけは、後継者不在による事業承継問題を解決する手段としてでした。
中小企業庁の調査によると、中小企業の経営者平均年齢は年々上昇、2020年には30万人以上の社長が70歳超えです。同時に、中小企業の70%近くが「後継者不在」と回答しています。後継者問題を抱えている企業にとって、M&Aは事業承継と事業成長を一度に叶える選択肢になりえます。
「後継者不在率」が2023年、過去最低53.9%に。TDB 全国「後継者不在率」動向調査
企業の後継者問題は改善傾向が続いています。本記事では、2023年の後継者不在の状況について、2023年11月21日に公表された帝国データバンクの調査結果をもとにご紹介します。出典元:帝国データバンク・全国企業「後継者不在率」動向調査(2023)日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継をご支援しています。中小企業のM&Aに精通した専任チームが、お客様のM&A成約まで伴走しま
M&Aにおける譲渡側(売り手)の注意事項・リスク
多くのメリットが期待できる一方、M&Aには懸念点やリスクが存在することを忘れてはいけません。M&Aが意に沿わない結果にならないよう、事前に注意事項や、リスクの観点をよく把握しておくことが大切です。
情報漏洩の懸念
M&Aにおいて財務情報・従業員情報・事業詳細などの開示なしに譲受(買い手)候補先と交渉することはできません。
しかし、そうした情報は当然会社の根幹に関わる重要な情報であり、万が一漏洩した際には会社は大きな損失を被る可能性があります。
M&Aは、「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言われます。
すでに事情を知っている関係者へ、秘密保持の重要性を十分に伝えた上で、いかに対処・対策していくかが重要です。
従業員・取引先の理解を得られない
M&Aの事実を伝えた際、既存の取引先や従業員から不安や不満の声がでる可能性があります。
情報開示の場面できちんと経営者の口からM&Aを行った背景、今後の処遇について丁寧に説明を行い、不安を取り除くことが大切です。
開示のタイミング、表現など留意して臨みましょう。
M&Aのディスクロージャー(情報開示)はいつ行う?従業員への伝え方などポイントを解説
M&Aは「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」と言われるほど、秘密保持を重視しています。一般的には最終契約書にサインされるまで、たとえ身近な自社の従業員であってもその事実は公表されることはありません。情報漏洩により、M&Aの予定を第三者に知られては会社の存続に関わる問題となりうるからです。本記事では関係者へのディスクロージャー(情報開示)にあたって、あらかじめ押さえておきたいポイントをご紹介します
また、M&Aを準備する段階では、必ず主要な取引先との契約内容を確認しましょう。
注意すべき代表的なポイントとして、チェンジオブコントロール条項(COC)があります。これはM&Aなどを理由に一方に経営権の移動があった場合、契約内容に制限がかかったり解除することができる規定となります。
この規定があった際、契約相手に通知し承諾を得る旨が定められている場合もあります。
M&Aによって、既存の取引先や顧客との取引条件が見直され、取引が停止されたという事例があります。
今後の取引先との関係性継続については、事前に譲受企業と意見交換を行いM&A後の取引内容の大幅な変更を防ぐことが、理解を得るために有効な手段です。
チェンジオブコントロール(COC)条項とは?記載例やメリット・デメリットを解説
チェンジオブコントロール条項(以下、COC条項)は、M&Aの場面で特に買い手側企業が把握しておきたい条項です。本記事ではCOC条項が設定されるケースやCOC条項のメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこ
M&Aのスムーズな実行向けて
全体の流れを最初に理解をしておくことで、心構えや準備の面で余裕が生まれ、スムーズなM&Aにつながります。良いお相手候補が見つかったら、お相手候補先に会うまでの流れをイメージしておきましょう。検討・準備段階で行う各プロセスを理解することで、「なぜこのプロセスが必要か?」納得感をもってM&Aを進めていただけるはずです。また、自社の情報など準備すべき情報、費用が発生するか認識しておくことも重要です。
終わりに
誰にも頼らず自力でM&Aを完了することは極めて難しい選択肢です。もし譲渡先のお相手に心当たりがあったとしても、実行~完了までには法務・労務・税務など様々な観点からリスクを洗い出す必要があり、専門的なサービス、仲介会社などを利用することが成功の近道といえます。セミナー・勉強会・書籍などでM&Aについての知識を得ることは可能ですが、それは一般的な内容に過ぎません。
一つとして同じ企業がないように、業種・エリア・規模・財務状況によって自社を取り巻く環境は様々であり、お相手候補先も異なります。
自社の株価評価はどのくらいなのか?どのような企業が譲渡先候補に挙がってくる可能性があるのか。
これらのイメージをもっておくだけでも、今後の企業経営の一つの選択肢としても参考になります。そうした意味でもM&Aの検討をはじめた段階から、M&Aの専門家に相談されることをお勧めします。