M&Aを学ぶ

地域別にみる中小企業のM&A動向

鈴木 啓太

著者

鈴木啓太

日本M&Aセンター案件管理統括部/上席課長/公認会計士/CFA協会認定証券アナリスト(2022年8月時点)

M&Aの基礎知識を学ぶ
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理想の買い手企業が見つかります。会社売却先シミュレーションM-Compass。シミュレーションする

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国内の421万企業のうち99.7%を占める中小企業。地域資源の活用、歴史的背景、立地特性など地域ごとにその特徴も様々です。本記事では、地域別に中小企業のM&A動向について迫ります。

全国でM&A件数の圧倒的No.1は?

中小企業M&Aの件数は経済活動の規模に比例します。
下記の図1は当社におけるM&Aの実績と、「県別の経済活動の規模」を比較したものです。東京を例にとると、グラフ左端が東京の企業が譲渡もしくは譲受側として関わる「M&A件数」です。
一方、東京における「県別総生産」は全国の約20%弱に該当します。グラフにある通り、全国におけるM&A件数と県内総生産、つまり経済規模は、ほぼ等しい数値を示します。

図1
M&Aの実績と県別総生産の比較

出典:M&Aシェアは日本M&Aセンターの2018~2020年度の実績より筆者作成(譲渡/譲受企業を別カウント)。県内総生産は内閣府、県民経済計算(2018年度)より筆者作成。

東京は経済規模以上に全国でM&A件数が多い地域です。一方、例えば島根県はM&Aの件数が非常に少なく、要因は様々に考えられますが「アクセスのしやすさ」など地理的な要因も大きく影響しています。
「産業」という視点でM&Aの事例を見た時にも、地域によって大きく異なります。例えば北海道では製造業の事例が少ないのに対し、交通網が発達した太平洋沿いの地域では製造業が多く見られます。このように地域によって特徴が異なることをふまえ、全国各地のM&A動向を個別に見てまいりましょう。

北海道地方のM&A動向

広大な土地を有する北海道

北海道といえば広大な土地が、まず特徴の一つとして挙げられます。
どのくらいの広さかご存知でしょうか。
実は日本の面積の約20%が北海道に該当します。関東甲信越、近畿+東海4県+四国、九州+中国地方より広い面積を誇ります。
そうした広大な土地を有する北海道はM&Aが盛んです。日本M&Aセンターが支援した中で、2018年度~2020年度の3年間における実績では、東京・大阪・名古屋に続いてM&A件数が多い地域になります。
当社の北海道における実績の内訳は
・北海道内でのM&A:約50%
と道内でM&Aが完結することも多く、そのほか

  • 道外の地域の会社が道内の会社を買収するケース:約30%
  • 道内の会社が道外の会社を買収するケース:約20%
    が続きます。あくまで筆者の印象ですが、例えば子供が会社を継がない、従業員も会社を継げない、となった後継者不在問題に際して、合理的な選択肢としてM&Aを決断される経営者が比較的多いよう見受けられます。

北海道を代表する産業は農林水産業・建設業・サービス業

北海道と聞いて「食」のイメージを連想する人は多いのではないでしょうか。
実際に北海道を代表する産業として、まず農林水産業が挙げられます。「海の幸」「じゃがいも」「牛乳」など有名な特産品が数多くあり、売上規模の大きい会社が存在します。例えば水産加工会社では販売先が日本全国にわたり、売上規模が数十億円の会社も見られます。
そのような環境下で、業界内ではM&Aが多く行われています。

次に挙げられるのが建設業で、こちらもM&Aの事例が多くみられます。土地柄、道路が広く新幹線や高速道路の開発が進む北海道。冬は除雪のニーズがあり、建設業がその役目を担います。人口が数千人~数万人の都市においても、売上規模が数十億の建築土木の会社があるのは北海道の特徴でしょう。
また建設業全体でいえることですが、仕事の担い手が少なくなっていることもM&Aが多く行われている要因の一つと言えます。札幌以外では人口減少や高齢化が著しく、請負業者が無くなってきたという声も聞きます。M&Aで札幌の会社と経営統合し、状況を打開しようと一手打たれる方もいらっしゃいます。

そのほかサービス業が道内に多い点も特徴です。例えばホテル業です。北海道には有名な観光地がたくさんあります。札幌をはじめ、小樽、ニセコ、函館、富良野と観光の見どころが各地に存在するため業種として盛んであり、M&Aの事例もよく見られます。
広大な土地で「食」「観光」と、魅力的なコンテンツを持つ北海道。M&Aにおいても関連する会社が多く登場します。そんな魅力ある北海道はM&Aで一層活性化する可能性を秘めています。

東北地方のM&A動向

後継者不在は多いがM&Aは活発とはいえない

東北地方といえば何を思い浮かべるでしょうか。
青森県のねぷた祭をはじめとする伝統的なお祭り・文化、冬の豪雪、せんべい汁や盛岡三大麺…と様々なイメージが浮かぶように、郷土色豊かな地域が数多く存在します。

東北地方のM&Aに目を向けますと、他の地域と比べて件数は多くはありません。
東北の中でよりフォーカスしてみると、仙台を有する宮城県でのM&A件数は多いのですが、都道府県単位では全国トップ10に入る規模には至りません。一方で、他の地域と同様、高齢化が確実に進んでいます。
財務省のデータによれば、2015年の就業人口を100とした場合、東北地方は70との予想になっています(全国平均は80)。潜在的にはもっとM&Aが行われていてもおかしくない地域です。

近隣でのM&Aが多い

東北地方はとても広いです。青森~福島までの6県の面積は、本州の約3割を占めています。東北新幹線沿いは比較的移動しやすい反面、その他の地域は移動に時間がかかります。東北の会社で行われたM&Aの事例を見ると、やはり近隣エリア同士の事例が多く存在します。青森県の会社でしたら、山形や岩手、北海道の会社が視野に入ってきます。福島県であれば、宮城県はもちろん、関東の会社も検討されます。

震災復興から次の一手

東北地方に大きな変化を与えたのは、やはり2011年の東日本大震災でしょう。
マグニチュード9.0、日本で観測史上最大の地震です。M&Aという視点で見ると、土木工事の会社を中心に復興作業が長らく進められてきていましたが、10年を経過した今、復興需要もピークアウトしてきており、土木建築の会社は次の一手を探す動きが見られます。

例えば、福島県に売上高約110億円の佐藤工業というゼネコン(土木・建築)の会社があります。規模が規模だけに、地元では「超」名門企業でした。復興関連に伴う工事増など復興需要もあり、売り上げも順調だったようですが、2019年12月、戸田建設のグループ入りが決まります。県内を中心とした受注ではやがては規模が縮小していき、成長するためには更なる技術の獲得や他県での受注を狙っていく必要があり、戸田グループ入りをご決断されたようです。こうした事例のように大手企業の傘下に入り経営の安定を目指す方。他社を買収する側として、他地域での事業展開を目的に検討されている方。現在の事業とはまったく異業種に参入、もしくは提携によって新しい可能性を模索される方。様々な次の一手を検討する経営者の方が東北地方にもたくさんいらっしゃいます。

関東地方のM&A動向

M&Aでも存在感の強い東京

関東地方は実際の経済活動でも、M&Aの件数でも実質「一強」と言える状態です。東京の経済規模は2位の大阪と比べて2.5倍、M&A件数に至っては約3倍に相当します。
関東圏の人口は、日本全体の3分の1を占めます。千葉県、神奈川県、埼玉県を含めた1都3県では、M&A件数は全国の4割弱を占めます。
東京に本社を置く企業が売り手(譲渡企業)の場合は、全国から買い手(譲受け企業)が集まります。一方、東京の企業が買い手(譲受企業)の場合は、日本全国の企業を対象に買収活動(譲渡企業探し)が行われます。全国各地の企業を対象にM&Aが実施されるという点が、東京で行われるM&Aの特徴の1つともいえます。マッチングでは幅広くオールマイティーな地域です。
東京を中心に交通網が発達していることによるアクセスの良さもM&Aに影響しています。神奈川県と埼玉県は隣接県ではありませんが、移動時間はそれほど長くありません。そのため、首都圏内という形で県をまたぐM&Aのケースも多く見られます。

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3次産業がメイン

関東の産業構造としては、1次産業が少ない一方、3次産業が多く見られます。首都圏で農業が売り手(譲渡企業)というケースは非常に稀です。(千葉県など一部に該当するケースが見られます)。基本的には3次産業が、特にサービス業、卸売業、小売業が多く見られます。なお経済規模で言えば、銀行や証券会社といった金融業も産業としては関東に集中していますが、中小企業のM&Aではあまり見られません。

盛んな製造業

茨城県のM&A事例では、製造業が多く見られます。
例えば日立市は日立製作所・日立グループの関連会社が多く存在しています。中小企業のM&Aという点でも、日立グループとの取引を主とした金属部品の製造業や、機械部品の製造業といった事例が見られます。
群馬県のM&A事例では、製造業が多く見られます。有名なところでは、自動車のSUBARUの工場が太田市にあります。中小企業では関連する輸送用機器の金属部品や、電子部品の製造業といった事例が見られます。
栃木県も同じく製造業が盛んであり、特に自動車・医療関連が経済規模としては大きい地域です。一方、これまでのM&Aの事例を見ると、色々な業種で幅広く行われています。

中部地方のM&A動向

三大都市圏の一つ

中部地方はなんといっても三大都市である東名阪のうちの一つ、愛知県名古屋市があります。日本の中でも3番目に大きい経済圏となります。M&Aにおいても、やはり名古屋を中心に展開されています。周辺の地域・県からは「名古屋に進出したい」というニーズが多くありますし、逆に「名古屋から周辺に商圏を広げたい」というニーズもあります。そのため、名古屋のA社×他地域のB社という組み合わせはよく見られる例です。

トヨタ自動車の存在感

中部地方には、世界的企業のトヨタ自動車があります。株式時価総額では日本でダントツトップの30兆円強(2021年7月現在)、売上30兆円と巨額の規模です。日本の国家予算が一般会計で100兆円ほどで、シンガポールやマレーシアのGDP約30兆円規模(世界で約40位)と考えるとその規模の大きさに驚かされます。トヨタは中部地区において圧倒的な影響力を持っています。

自動車業界では、完成車メーカーを筆頭に(トヨタやホンダなど)、各パーツを供給するメーカーをTier1(ティアワン)、Tier1の請負業者をTier2(ティアツー)、その次がTier3・Tier4、と続いていきます。Tier1で有名な会社でいうと、デンソー(売上5兆円規模)・アイシン(売上4兆円規模)・豊田自動織機(売上2兆円規模)があります。いずれも愛知県の会社です。日本M&Aセンターにご相談いただく中にはTier2・Tier3…といった製造業のお客様もいらっしゃいます。
そうした製造業は大手自動車メーカーの影響を大きく受けます。分かりやすい例では、EV化があります。従来の内燃機関から駆動系がモーターに移行していく場合、新しく必要となる部品、不要となる部品、引き続き必要な部品に分かれます。そうした時、不要となる部品の製造を請負っている会社は先行きが不透明となり、M&Aを検討するケースが見受けられます。

東京⇔大阪の中間という地の利を生かした物流のM&A

愛知県は、東京⇔大阪の2経済圏の中心にあるという点も見逃せません。先に同地域内でM&Aが完結することが多いと触れましたが、物流業界に関して言えば関東・関西を繋ぐルートとして、東海エリアにおける運送業者を買収するケースが特徴的です。これは、関西圏の会社が中部へ進出するケース、関東圏の会社が中部へ進出するケースの両方が見られます。また異業種の例もあります。卸売業者や小売業者は物流機能が重要となりますが、同時に多くのコストがかかる部分です。2017年10月にはヤマト運輸が27年ぶりに運賃の全面改訂をしたことで、一躍ニュースをにぎやかしました。それに追随する形で、値上げに踏み切る会社も少なくなかったようです。一般事業者からすれば運賃で業績が大きく左右されてしまうため、これを内製化しようという動きも見られました。

まだまだ業界再編の余地がある中部地方

中部地方の会社の経営者は、直観的というよりは熟考してから動く方が比較的多く、M&Aもじっくりと検討される傾向にある印象です。
反面、決断が遅れないように意識をすることが課題といえるでしょう。例えば中部地方では特に小売業界など業界再編がさらに加速化することが想定されます。変化の激しい状況下において、慎重かつベストなタイミングでM&Aの決断を下すことが求められます。

近畿地方のM&A動向

日本第2位の経済圏

近畿地方は関東地方に次いで全国第2位の経済圏です。特に大阪は都道府県単位でも2位、M&Aの実績においても東京に次いで多い地域です。大阪を中心に兵庫、京都と続くのに比例し、近畿地方全体のM&A件数は多い傾向にあります。この京阪神を中心にどのようなM&Aが行われているのか、見てまいりましょう。

商人の街、大阪

近畿地方のM&Aは大阪を中心に行われています。M&Aの買い手企業(譲受企業)は大阪に本社を置く企業が多く、近畿圏全体で買収が行われている傾向があります。
一方、売り手企業(譲渡企業)が大阪の企業の場合、周辺の県の企業が買い手(譲受企業)として大阪進出を図る、という動きがあります。

産業として多いのは小売・卸売業です。古くは豊臣秀吉が大阪城を築き、政治・経済の中心地となり、江戸時代には天下の台所と呼ばれるほど商業の中心地でした。現在においても、卸売・小売の比率は全国的にも高く「商人の街」の呼び名で知られています。大阪の卸売業の企業を買収することができれば、大阪に広く販路を持てることが期待できます。

また、M&Aの事例では製造業の企業もよく見受けられます。大阪には“パナソニック”や“キーエンス”といった巨大メーカーが君臨しています。東大阪は中小零細企業、特に高い技術力をもった工場が多数存在し「モノづくりのまち」として有名です。中小企業のM&Aで、東大阪の製造業企業を時折見かけるのは地域的な特徴と言えるでしょう。

山陽新幹線沿いが活発、兵庫

兵庫県は近畿地方の中でも面積が大きく、大阪寄りの場所から日本海側まで広がっています。日本海側へのアクセスは時間を要する為、経済活動はJR山陽新幹線沿いが中心になります。したがってM&Aの事例も、この山陽新幹線沿いに集中しています。
兵庫県のM&Aは多岐に渡り、ほかの地域と比べ業種に目立った偏りは見られません。建設業、調剤薬局、製造業と様々な業種のM&A事例が見受けられます。その中でも地域的な特徴として港がある神戸エリアでは、海運・物流関係のM&A事例があります。有名企業である港湾運送最大手の“上組(かみぐみ)”が本社を置くことでも知られています。姫路エリアになると製造業の企業が多くなるのが特徴です。
売り手企業(譲渡企業)が兵庫県の企業の場合、買い手企業(譲受企業)は県内、もしくは大阪や東京の企業のケースがよく見られます。

伝統と革新、京都

古都京都。ここには伝統的な産業から製造業、ITに至るまで、様々な企業のM&A事例が見られます。歴史ある和菓子のお店、伝統工芸にあるような繊維業など日本文化を代表する企業がM&A事例に名を連ねるのはこの地域独自のものでしょう。
そして京都には製造業、つまりメーカーが多いのも特徴のひとつです。“任天堂”を筆頭に“オムロン”、“京セラ”、“ローム”といった名だたる企業が京都に本社を置いていることから、取引先など関連する製造業企業のM&A事例が見られます。

また、京都はITベンチャー企業が集積する街としても有名であるという意外な一面を持ちます。京都大学発のベンチャー企業“Rist”は主に製造業向けに、ディープラーニング(AI)技術を用いた画像認識システムを開発していました。2019年、この企業を京セラグループが買収したニュースは当時大きな話題となりました。

中国・四国地方のM&A動向

山陽地域を中心にM&Aが行われる

中国・四国地方の9県では、主要都市である広島市(人口約120万人)、岡山市(人口約70万人)など経済活動の中心は、日本海と反対側のJR山陽新幹線沿いに位置します。したがってM&Aも広島県、岡山県を中心に行われています。
地理的には瀬戸内海を挟みながら、瀬戸大橋など陸路が発達している為、「広島県⇔愛媛県」「岡山県⇔香川県」「徳島県⇔近畿地方」といった地域間は移動しやすく経済交流も盛んです。一方、「山陽地方⇔山陰地方」のように地理上の直線距離は近くとも移動に時間を要する地域間もあります。移動時間はM&Aの検討において重要な要素であり、近隣地域の企業を買収するというのは地続きだけでなく、アクセスが良ければ海をまたぐケースも頻繁に見られます。

工業・製造業が盛んな瀬戸内工業地域

地理的な特徴として、瀬戸内海は内海のため波が穏やかであり、水運が便利なこと、沿岸の埋立てにより工業用地が得られることから、石油化学コンビナートや製鉄所などの重化学工業が発達してきました。倉敷、水島、福島などは特に有名です。
広島県には世界の“マツダ”の本社があり、自動車産業も有名です。“マツダ”を中心に、各自動車部品メーカーや、その下請けの製造業が集まっています。また伝統的な産業としては、造船業や繊維工業があります。関連する船舶部品や機械の会社も多くあります。鳥取県、島根県などの山陰地方では、情報通信機械や電子部品・デバイスが盛んであり、四国地方は海運や水、木材の確保などの立地特性から、紙パルプも有力な産業のひとつです。

このように工業地域に属した製造業がM&A事例にも多く見られます。自動車関連部品の製造、造船業、船舶用の部品がよく見られるのはこの地域の特徴でしょう。また、全国的に見られる傾向でもありますが建設業のM&Aも豊富です。建設業全体では高齢化や後継者不在が他の業種よりも著しく、また国の基幹産業であり就業人口も多いです。ゼネコン、サブコン問わず、幅広い建設業関係者によるM&Aは活発に行われています。

これからM&Aが加速していくエリア

日本M&Aセンターでは2018年4月に広島営業所(現 広島支店)を開設し、地域密着のM&Aを提供し続けております。開設前と比べて、当社にご依頼いただく売り手企業の数は2倍以上に増えました。中国・四国地方におけるM&Aの件数は、過去3年間(2018年~2020年)の都道府県ランキングで見ると広島県が15位前後に入っているほか、全国的にはまだ活発な地域ではありません。しかし、これから正にM&Aが活況になっていくだろうと予測される地域でもあります。

九州地方のM&A動向

福岡を中心にM&Aが活発

九州地方の域内総生産(GDP)は約50兆円にのぼり、関東・関西・中部地方に次いで大きな経済圏になります。中でも福岡県は約20兆円と約4割を占めており、九州地方の経済の中心地となっています。
中小企業M&Aの観点からも、福岡県を中心に動きが活発です。M&Aの買い手(譲受企業)、売り手(譲渡企業)、双方ともに多く検討されています。日本M&Aセンターが支援するM&Aの中でも、首都圏、大阪、愛知に次いで福岡県はM&A実施件数が多い地域です。福岡県を除く地域ではJR九州新幹線が通る熊本県、鹿児島県でM&Aの動きが多く見られます。

業種もさまざま

業種別という視点では、偏りなく広範囲業種でM&Aのニーズが発生していますが、日本M&Aセンターが支援している事例では土木・観光・医療・太陽光発電・通販が多い傾向にあります。1次産業で見ると、農業、漁業、林業など九州各県に広く分布しています。当社にお問合せいただくお客様の中には、提供価値を「一工夫」しているユニークな会社が見受けられます。例えば「まず~い、もう一杯!」の有名なキャッチコピーで有名な青汁な会社です。インパクトのあるCM効果もあって青汁の市場が拡大し、その後も粉末状の青汁など常にチャレンジングな試みが行われています。
そのほか6次産業(1次産業「生産」、2次産業「加工」、3次産業「販売」に総合的に関わる)のように、特徴ある地場の食材を使って、面白いアイデアで商品化されている会社が多く見受けられます。
2次産業では、別名「シリコンアイランド」の名で知られるように、半導体産業が九州の基幹産業を長年担ってきました。近年ではトヨタ、日産、ダイハツなどの自動車メーカーが工場を構えており「カーアイランド」と呼ばれるほど自動車関連の産業が主力となっています。
製造業では半導体関連、自動車部品関連はもちろんのこと、金属切削加工、製缶板金、ゴム加工、配電盤製造、など様々な業種の会社がM&Aを検討しており、当社にもお問合せいただくケースがあります。建築、土木、といった建設業でも多数のM&Aが見られます。
そのほか観光業、医療・介護サービス、運送業、小売業、卸売業、など3次産業の業種でも幅広くM&Aを検討されています。

廃業か、承継か。選択を迫られる経営者

事業承継の手段として、中小企業庁のガイドライン*によれば次の3つの方法があります。

  1. 親族内承継
  2. 役員や従業員への承継
  3. 第三者への承継(M&A)

その他の選択肢として「廃業」があります。やむなく廃業という選択をするに至る場合も、しっかり従業員の次の就職先まで面倒をみて、迷惑がかからないように仁義を通して廃業する。あくまで筆者の感想になりますが、そういった責任感の強い経営者が九州地方には多い印象です。ただ昨今のコロナ禍では廃業を選択し従業員の再就職先探すにも、業界によっては難しい状況になっていることから、M&Aによる第三者への承継を選択する経営者が増えています。

九州を地方創生のモデルケースへ

2019年の総務省の人口推計によると、九州・沖縄8県の人口は前年比0.38%減少の1,425万人となりました。なかでも福岡県は2004年以来の減少で、少子高齢化・若年層の首都圏への流出が強まってきています。また、長崎県は県内に本社を置く上場企業が無く、若者が就職したくなるような企業の誘致が求められています。
九州地方全体を見ると経済規模も大きく、魅力的な企業がたくさんあります。地方創生、という点ではこの上ないポテンシャルを秘めている地域です。日本M&AセンターではM&Aのほか、東証「TOKYO PRO Market(TPM)」への上場支援も行っています。九州地方から地方創生のモデルケースが誕生するよう、支援につとめてまいります

海外(東南アジア諸国)のM&A動向

海外(東南アジア諸国)のM&A動向

日本の中小企業と同じM&A事情

海外のM&Aと聞くと「全く想像できない」「映画やテレビにあるような派手な買収合戦が繰り広げられているのではないか」と色々なイメージを持たれている方がいらっしゃいます。しかしどの国にも共通して言えるのは、実は日本と事情が変わらない、ということです。例えば、「20年前に独立。必死で会社を大きくしてきて、従業員もよくついてきてくれている。しかし自分も歳を重ね、体力や健康に不安。自分がいなくなった時にこの会社はどうなるのか考えるようになった。子供も従業員も継げない。困った・・・」という声を海外でもよく耳にします。言葉の違いはあれ、義理堅く、従業員を大切にし、会社に誇りを持っています。中小企業におけるM&Aという点では、実は根本的なところで日本と通ずる部分があると言えるでしょう。

日本の中小企業と同じM&A事情

海外のM&Aと聞くと「全く想像できない」「映画やテレビにあるような派手な買収合戦が繰り広げられているのではないか」と色々なイメージを持たれている方がいらっしゃいます。しかしどの国にも共通して言えるのは、実は日本と事情が変わらない、ということです。例えば、「20年前に独立。必死で会社を大きくしてきて、従業員もよくついてきてくれている。しかし自分も歳を重ね、体力や健康に不安。自分がいなくなった時にこの会社はどうなるのか考えるようになった。子供も従業員も継げない。困った・・・」という声を海外でもよく耳にします。言葉の違いはあれ、義理堅く、従業員を大切にし、会社に誇りを持っています。中小企業におけるM&Aという点では、実は根本的なところで日本と通ずる部分があると言えるでしょう。

日本に対して友好的な現地の企業

ASEAN諸国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)は、日本に対して比較的フレンドリー、友好的な企業が多いのも特徴です。日本に対し、高品質な製品、洗練されたビジネス、実直で真面目な気質というイメージを持ち、日本の企業からM&A(譲受)の申し出があると現地の企業に大いに喜ばれるというケースも見られます。このようにASEANでは友好的に受け入れられるケースが多く、「海外の会社だから・・・」といって身構える必要はありません。

東南アジアの成長力は大きな魅力

日本では高齢化・人口減少により、GDPが長期的に停滞する見込みであることは周知のとおりです。日本国内だけのビジネスでは、なかなか将来の成長が描きづらい環境にあります。しかしASEAN諸国では各国3~8%ほどの実質GDP成長率があります。人口動態は高齢者を上に、若者を下にグラフをとると、帽子のような形(若い人が多い)になります。そこにいるだけでも高い成長率がある、この成長力はASEAN諸国の大きなメリットです。

身構えず、ポジティブに検討を

一番お伝えしたいのは、「海外だから」と警戒したり、身構える必要は全くないということです。海外のM&Aは大企業だけが行うものではありません。特にASEAN諸国は今後の成長を考えれば、中堅・中小企業のオーナーにこそ、一番に目を向けて欲しいマーケットです。少し離れた地域の社長と交渉する、そのくらいの心持ちでマ向きに検討する人が増えれば、お互いの未来に向けて選択肢が広がるのではないでしょうか。

***
日本M&Aセンターは、2016年、シンガポールにオフィスを開設し、その後、インドネシア・ベトナム・マレーシアと海外拠点を広げ各国でネットワークづくりを進め、ASEAN全域につながるM&A情報網を築き上げています。
具体的にはシンガポールの40の会計事務所を含めたASEANローカル会計事務所や仲介会社と提携し、現地でM&Aを希望する企業の情報を共有しています。また、ASEAN諸国の売り手(譲渡企業)に対する直接アプローチを積極的に行っており、人物重視の「顔の見えるマッチング」に力点を置いています。中堅・中小企業のM&A総合支援企業として31年間培ってきたM&Aのノウハウがあり、中堅・中小企業のカルチャーや考え方をM&Aアドバイザーがよく把握しています。そのため、日本企業とASEANの企業のM&Aにおいても、最適なマッチングを提供することができます。
ご自身の会社の展開エリア、業種などの詳しい情報について経験豊富なコンサルタントがお答えしますので、お気軽にお問い合わせください。
お問合せはこちらから

監修

■北海道のM&A動向:椛田國仁(日本M&Aセンター 人材戦略部)
北海道、東京、九州と様々な地域でのM&Aを経験。後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の存続と発展を支援。

■東北地方のM&A動向:佐戸卓也(日本M&Aセンター  地域金融1部)
みずほ銀行を経て2017年に日本M&Aセンター入社。中堅・中小企業の事業承継型・成長戦略型M&Aに加え、再生型M&A案件等、数多くの成約実績を誇る。2021年から課長職としてチームマネジメント中心に活動し、東日本の地域金融機関を担当。地域金融機関と共に後継者問題解決に日々取り組んでいる。

■中部地方のM&A動向:谷川佑介(日本M&Aセンター 営業本部名古屋支社副支社長)
名古屋でのM&Aを多く経験。後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の存続と発展を支援している。

■中国・四国地方のM&A動向:小川洋輝(日本M&Aセンター 会計事務所3部 日本生産性本部認定コンサルタント M&Aシニアエキスパート)
大学卒業後、政府系金融機関である商工組合中央金庫に入庫。福山支店→名古屋支店→本店(ソリューション事業部・M&Aチーム)→東京支店に計12年間勤務後、2009年に日本M&Aセンターに入社。
事業承継・M&Aの経験は合計15年。これまで100件以上のM&A成約実績あり。2018年の広島営業所立ち上げに参画、現在は広島営業所長として中四国地方にて最前線でM&A業務に携わりつつ、セミナー講師やM&Aシニアエキスパート講座の講師なども務める。

■海外(東南アジア諸国)のM&A動向:西井正博(日本M&Aセンター 海外事業部 ASEAN推進課)
大学卒業後、日本M&Aセンター入社。シンガポール国立大学のMBA課程修了後、シンガポール支店を立ち上げ、当社海外M&A事業を牽引。上場企業を含む大手日系企業による東南アジアのM&A支援を専門とし、10年超に及ぶ国内外の豊富なM&A成約実績を有する。

著者

鈴木 啓太

鈴木すずき 啓太けいた

日本M&Aセンター案件管理統括部/上席課長/公認会計士/CFA協会認定証券アナリスト(2022年8月時点)

モルガン・スタンレーMUFG証券にて証券アナリスト業務に従事。後に、Fintech系ベンチャー企業にて、バックオフィスの責任者として参画。2017年に日本M&Aセンターに入社。年間で数百件~数千件に渡る企業をチェックし、リスク把握などアドバイスをおこなう。社内の仕組み改善など多数のプロジェクトも推進している。

STEP1

M&Aの基礎知識を学ぶ

STEP2

M&Aの流れを学ぶ

STEP3

M&Aの専門知識を学ぶ

「海外M&A・地域別M&A・M&Aの基礎知識」に関連する学ぶコンテンツ

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譲渡企業(売り手)がM&Aで押さえておきたいポイントとは?

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譲渡を検討するオーナーにとって、M&Aは、一生に一度の選択です。大切に育ててきた会社を譲るという事実に加え、一度譲渡した後にやり直しはできません。失敗したくない、後悔したくない、最大の結果を得たいと思うのは当然のことです。満足度の高いM&Aの実行で最大の結果を得るために、実行前に押さえておきたいポイントについて確認していきましょう。日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継

譲受け企業(買い手)がM&Aで押さえておきたいポイントとは?

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一言でM&Aといっても、買収戦略を実行していく譲受企業(買い手)側には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。【登録無料】買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録はこちらM&A実行の目的・メリット一般的に

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「いばらき経営相談窓口」がスタート!日本M&Aセンターの地方創生プロジェクト第三弾

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日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継をご支援してまいりました。創業33年を迎える2024年4月、いばらき経営相談窓口がスタートします。地方創生プロジェクトの第三弾となる「いばらき経営相談窓口」について、担当コンサルタントに話を聞きました。会社の経営・事業承継に関するご相談は無料、秘密厳守で対応いたします。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。いばらき経営相談窓口

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本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれ

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近年アジアなど成長著しい市場をターゲットに、海外M&Aを検討する中堅・中小企業は増えております。しかし、海外M&Aでは日本国内で実施するM&A以上にノウハウが不足していることが多く、海外M&Aを実施するハードルが高いと言わざるを得ません。そこで本記事では、日本M&Aセンター海外事業部の今までの経験を踏まえて、海外M&Aの内容や実施される目的、またメリットや注意点・リスクなどさまざまなポイントについ

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本記事ではタイでのM&Aにおいてよく問題となる、タイ特有の留意点について解説します。(本記事は2023年2月に公開した内容を再構成しています。)※日本M&Aセンターホールディングスは、2021年にASEAN5番目の拠点としてタイ駐在員事務所を開設、2024年1月に現地法人「NihonM&ACenter(Thailand)Co.,LTD」を設立し、営業を開始いたしました。タイ王国中小企業M&Aマーケ

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味の素、米国の遺伝子治療薬企業を約828億円で買収

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