M&Aの伝え方、情報開示(ディスクロージャー)のポイント
⽬次
- 1. M&Aの情報開示とは?
- 2. M&Aの情報開示はいつ行う?
- 3. M&Aの情報開示を行う対象とは?
- 4. 親族への情報開示
- 5. 従業員への情報開示
- 5-1. 社長が直接想いを伝える
- 5-2. 買い手も質問に答える
- 5-3. 幹部社員には先に伝える
- 6. 取引先企業への情報開示
- 7. 金融機関への情報開示
- 8. メディアへの情報開示
- 9. 証券取引所への情報開示
- 10. 終わりに
- 10-1. 著者
譲渡オーナーにとって、M&Aの実行を従業員や取引先、金融機関など関係者に「いつ伝えるか」「どう伝えるか」は大きな関心事の1つです。
本記事ではM&Aの情報開示について、押さえておきたいポイントをご紹介します。
M&Aの情報開示とは?
一般的に情報開示(Disclousure:ディスクロージャー)は「情報開示、情報公開」の意味を持ち、ビジネスでは企業が株主などに対して経営内容などを開示することを指します。
M&Aにおいての情報開示は、売り手・買い手双方の従業員や取引企業、取引のある金融機関などのステークホルダーに対し、M&A実行の事実を伝えることを指します。
最適なディスクローズ(情報開示)のタイミングとは?
M&Aで譲渡を決断されたオーナー社長様にとって、その事実を「誰に」「どのタイミングで」開示するかは極めて重要なテーマです。会社を取り巻く関係者は様々です。社長の家族、株を保有している親族、役員・従業員はもちろんのこと、取引先、顧問税理士、取引金融機…これだけの関係者に、M&Aで会社を譲渡する事実と、その「背景」にある社長の想いを「どこかのタイミングで」伝えなければなりません。もちろん、M&Aは秘密
M&Aの情報開示はいつ行う?
一般的には「M&Aが実行された直後(契約締結後)」に情報開示が行われます。
M&Aは秘密保持の観点で、一般的には自社の従業員であってもM&A実行前に公表されることはありません。M&Aを予定していることが第三者に伝わってしまうと、会社の存続に関わる可能性があるためです。
但し、M&Aのプロセスに大きく関わる幹部社員、従業員(経理担当者等)や、条件交渉の内容に関わる重要取引先に対し事前に情報開示するケースや、幹部社員や重要取引先等への事前開示や賛同が、M&Aのクロージング条件(資金決済条件)に含まれる場合もあります。
M&Aの情報開示を行う対象とは?
M&Aの情報開示を行う主な対象は以下の通りです。
・従業員(一般社員・幹部社員)
・取引先企業
・金融機関(メインバンクなど)
・メディア(新聞社など)
・証券取引所 ※上場企業の場合
以降では、上記対象者別にポイントを見ていきます。 ※情報開示は上述のようにケースバイケースであることが多いため、本記事ではあくまで一般的なポイントとしてご紹介します。
親族への情報開示
中小企業では、親族が会社の役員や経理を担うなど、親族が社内にいるケースは少なくありません。
業務への関与度合や株式の所有割合によっては、親族に対し早い段階での情報開示と同意形成が必要になります。
そのため日頃から、会社のこれからについて家族、親族で話し合い、譲渡オーナーご自身がどうしたいかを共有しておくことが大切になります。
事業承継を考えるとき、何から準備すればいい?
事業承継の準備は、まず家族と話し合うことから始める会社の将来を真剣に考える中で、事業承継について経営者の方がまず行うべきは「将来についてできるだけ早く家族と話し合う」ことです。これは顧問税理士や公認会計士、取引のある金融機関など第三者への相談よりも、優先した方が良いでしょう。驚くべきことに「子どもが事業を継ぎたいのか、継ぎたくないのか」という基本的な意識確認、「親として継がせたいのか、継がせたくな
従業員への情報開示
対象者の中でも、特に売り手側の「従業員」に対しては、伝える段取り、タイミング、メッセージを慎重に検討して行う必要があります。
社長が直接想いを伝える
ある日突然「会社を譲渡する」と聞かされたら、動揺してしまうのは当然のことです。
その後も、変わらずに勤め続けることができるのか、待遇や業務内に変化はないのかなど、不安を感じてしまうのは当然のことです。
そのため、従業員への情報開示の場面で、丁寧に詳しく伝えるべきは次の2つです。
②今後、処遇はどうなるのか
①については、社長ご自身がM&Aに至った理由、想いを直接お伝えするのが適切でしょう。
今回のM&Aがポジティブな選択である認識してもらうために、M&Aという言葉がネガティブに捉えられかねない場合は、「資本提携」「融合」などの表現を用いて、友好的なM&Aである事を伝えましょう。
「M&Aが会社や従業員にとって最良の選択肢である」ということが伝われば、従業員の納得度は高まります。
買い手も質問に答える
また、従業員への情報開示の場には、買い手の経営陣、担当者も揃って、従業員からの質問に答えるなどコミュニケーションを取ることが理想的です。
②のような今後の処遇、業務内容などについては、買い手側が直接答えることで従業員の不安解消につながります。
従業員への情報開示では、彼らが抱く不安や疑問を、一緒にその場で解決していくことが大切です。
情報開示の後も、個別で面談を設定する、質問に答える場を設けるなど従業員へのフォローは不可欠です。丁寧、且つ従業員目線で不安や疑問を払拭し、社内全体の士気が高めることがスムーズな統合の第一歩につながります。
幹部社員には先に伝える
M&A後、スムーズな融合を図るには、売り手側の幹部社員たちの協力が不可欠です。買い手も幹部社員が協力的かどうかを重視します。
そのため他の一般社員に先駆けて、幹部社員に情報開示を行うケースもあります。ただし対象は限定し、情報漏洩の徹底を対策しておく必要があります。
M&Aの従業員開示(ディスクローズ)をスムーズに。社長の想いを効果的に伝える方法
譲渡を決断したオーナー経営者がM&A後真っ先に取り組む仕事のひとつが、従業員にM&Aしたことを報告する「従業員開示(ディスクローズ)」です。このやり方ひとつで、従業員の受け止め方は180度変わってしまいます。発表のタイミングや表現、社長と想いを同じにするキーパーソンへの事前の根回しなど、細心の注意を払って進めることが重要です。M&Aの成功は、従業員への開示がうまくいくかどうかにかかっていると言って
取引先企業への情報開示
取引先へ情報開示する場面でも、売り手と買い手が揃って企業を訪問する、あるいは、挨拶状を送付してお知らせすることが一般的です。
M&A実行前に、取引先企業との関係性に応じて伝えるべき方法、タイミングを綿密に計画しましょう。
また、取引先企業との契約において「通知条項」等の名目で、代表者変更や株主変更の事実が「通知義務」となっている場合があります(チェンジオブコントロール条項)。
通知期限や方法が詳細に定められている場合もあるので、あらかじめ取引先との契約書を確認し、定められた内容に沿ってしっかりと対応しましょう。
チェンジオブコントロール(COC)条項とは?記載例やメリット・デメリットを解説
チェンジオブコントロール条項(以下、COC条項)は、M&Aの場面で特に買い手側企業が把握しておきたい条項です。本記事ではCOC条項が設定されるケースやCOC条項のメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこ
金融機関への情報開示
取引先金融機関に対しても、今後の円滑な資金調達やその他金融取引、地場情報の収集等の観点で、デリバリー後も友好な関係を築くことが大切です。
一般的には、M&Aの最終契約書に売り手の保証債務解除を定めている場合が多いため、メインバンクなど融資取引のある金融機関にはM&A実行後、速やかに売り手と買い手両社が揃って金融機関を訪問し、説明を行うのが望ましいでしょう。
メディアへの情報開示
今後の事業戦略上、マーケットにM&Aの事実を周知させることが得策と考えらえる場合は、検討されることをお勧めします。
一般的には、売り手企業の本社所在地や主な活動エリアにある新聞社、業界紙などで情報開示を行うケースが見られます。
証券取引所への情報開示
M&Aの当事者のいずれかが上場企業の場合は、金融商品取引法上の開示規制に加えて、金融商品取引所の規則に基づく情報開示制度である「適時開示」に留意する必要があります。
適時開示とは、上場企業に対して「重要な決定事項、発生事実の情報」「決算に対する情報」「 株式・(支配)株主に関する情報」の開示を求め、投資家が適切な投資情報を入手し、投資判断を可能とさせる情報開示制度のことです。
例えば東京証券取引所においては、M&Aの最終契約書を締結する前段階であっても、基本合意書の締結等の際に、適時開示に該当する事項を会社が実質的に決議・決定すれば、直ちに情報開示が必要とされています。
終わりに
以上、M&Aの情報開示についてご紹介しました。多くの関係者にM&Aの情報開示を行う際には、伝える相手の立場・目線で、様々なケースを想定しながらシナリオを組み立てる必要があります。
中堅・中小企業のM&Aは後継者不在を解消する手段としてM&Aを選択し、隣接業種へ展開するケースが多く見られます。そのため、従業員の雇用確保が前提となり、買い手側としても譲り受ける会社の優秀な従業員たちが離職してしまっては困るケースがほとんどです。
情報開示の場面では、ご紹介したポイントをふまえ、M&A仲介会社など専門家からのアドバイスを求めるようにしましょう。