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M&Aの従業員開示をスムーズに 社長の想いを効果的に伝える方法

M&A実務
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譲渡を決断したオーナー経営者がM&A後真っ先に取り組む仕事のひとつが、従業員にM&Aしたことを報告する「従業員開示(ディスクローズ)」です。このやり方ひとつで、従業員の受け止め方は180度変わってしまいます。発表のタイミングや表現、社長と想いを同じにするキーパーソンへの事前の根回しなど、細心の注意を払って進めることが重要です。M&Aの成功は、従業員への開示がうまくいくかどうかにかかっていると言っても過言ではないのです。
今回は、2005年に日本M&Aセンターに入社して以来、アドバイザーとして数多くの開示の現場に立ち会ってきた中村 健太 氏(現在は人材戦略部 兼 営業開発部 部長)に、開示の流れや注意点について話を聞きました。

重要なのは「経営者自身の言葉で正確に伝える」こと

――従業員への開示にM&Aの成功がかかっているとはどういう意味でしょうか。

中村: M&A後も従業員が変わらず働き続けているということは、譲受け企業にとって一番重要なポイントです。特に中小企業では従業員一人ひとりが担う業務や責任が大きいため、辞めてしまえば大きな損失になります。譲渡企業にとってもM&Aは従業員に安心して働き続けてもらうための決断です。どちらにとっても、従業員の存在がとても大きいのです。

――開示で大事なポイントを教えてください。

中村: 一番は「じかに経営者自身の言葉で正確に伝える」ということです。そして極力同じタイミングで全従業員に伝える。事業所が複数ある場合も、できるだけ日を空けずに行います。最悪な事態は人を介して情報が伝わってしまうことです。いきなり「会社を譲渡する」と聞いて動揺しない人はいません。不安な気持ちも手伝って内容が歪んで伝わったり、話してもいない表現が加わったりして、M&Aがネガティブなニュースとして伝わってしまうことがあるので注意が必要です。

次に大事なポイントは「開示のタイミング」です。休祝日の前、長期休暇の前は避けたほうがいいでしょう。スケジュールは次のようなスケジュールが理想的です。

火曜:キーパーソンへの開示
水曜:従業員への開示
木曜:通常業務

開示の翌日も通常どおりに業務ができている。「あれ、何も変わっていない」と思えることが大事なのです。

開示風景

――キーパーソンはどういう立場の人を指しますか。

中村: ここでいうキーパーソンは、開示時に社長の立場に立ってくれる幹部従業員のことです。まずはキーパーソンに社長の想いを理解、納得してもらいます。そうすることで、突然の開示に従業員が動揺していても、キーパーソンから社長の想いが本心であることを伝えてもらうことができます。ここでのポイントは、誰がキーパーソンかを正しく見極めるということです。社長がキーパーソンだと思う人物が開示においてはキーパーソンではないということもあるからです。

経営者の想いを次につなげる「従業員開示用冊子」

――開示では何を伝えればいいのでしょうか。

中村: まず伝えるのはM&Aという決断の背景にある社長の想いです。次に今回の相手企業を選んだ理由が、従業員の幸せを第一に考えてのことだと伝えます。従業員の処遇は変わらないと約束してくれた会社だと、社長自身の言葉でしっかり伝えましょう。時間はおよそ10分程度。長すぎても短すぎてもいけません。
従業員へのメッセージは、社長からの最後のラブレターのようなもの。これまで伝えることのできなかった経営者の本音です。だから内容はよく練らなければいけません。本番は一度きり。失敗は許されません。

オフィス風景

M&Aアドバイザーは、そうした開示の場面を何度も経験しています。唯一の経験者として、開示のタイミングや内容、話し方、キーパーソンの見極めなど、安心して当日を迎えられるようにサポートしています。
また、日本M&Aセンター独自のサービスとして譲渡企業、譲受け企業から従業員へのメッセージをまとめた冊子(従業員開示用冊子)も作成しています。もちろん、開示の際には経営者から直接想いを伝えますが、開示の後に冊子という形で渡すことで、経営者の想いはいつまでも従業員の中に残り続けます。

従業員開示は、M&A前と後のちょうどパイプのつなぎ目にあたる部分です。うまくつなぐことができなければたちまち水が漏れだしてしまいます。このつなぎ目を強固なものにするためにも、経験豊富なM&Aアドバイザーのサポートは必要です。

<従業員開示にともなう日本M&Aセンター独自のサービス>
従業員開示用冊子
M&A成約前に譲渡企業と譲受け企業の社長にそれぞれインタビューを行います。譲渡オーナーには従業員へのメッセージのほか、これまでどんな想いで経営をしてきたか、経営者としての喜びや苦労、M&Aという決断の背景などを丁寧にお聞きして文章にまとめます。譲受け企業には、働く環境が変わらないことや両社で一緒に実現したいビジョンなど、従業員が安心して希望をもって働き続けられるようなメッセージをお聞きします。

取材ではM&Aを決断するまでの経緯を丁寧にお聞きしますので、譲渡オーナーがM&Aすることの本来の目的を再確認される場にもなっているようです。
開示冊子イメージ

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

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