コラム

PMIを検討するポイントとは?買い手企業目線の留意点を解説

皆己 秀樹

日本M&Aセンター M&Aサポート倶楽部責任者 

M&A実務

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PMIを検討するポイントとは?
国内外のM&Aの専門家であるDr.M が、身近なM&A事例を用いて、独自の視点でポイントをわかりやすく解説する「Dr.MのM&Aワンポイント解説」。第4回となる今回はM&Aのその先に待ち構えるPMIについてです。

M&Aが具体的検討フェーズに進んだら、はじめにPMIを考えよう!

—ドクター本日のテーマをお願いします。

Dr.M: 今回のテーマは「PMI」です。「PMI」とは、「ポスト・マージャー・インテグレーション」の略で、M&A後の統合プロセスを指し、「経営統合」、「業務統合」、「意識統合」の3段階からなります(中小企業庁:PMIガイドライン策定小委員会より)。

―中小企業庁が今春「中小PMIガイドライン」を初めて策定するなど、なぜ今PMIが注目されているのでしょうか。

Dr.M: 「M&Aをしたが期待していたような成果につながらなかった」という声は少なくありません。M&Aを成約したからといって自動的に成功につながるわけではないのです。成約後の取り組みの中でどのようなトラブルが発生しそうか、どのような成果が期待できるかをあらかじめ洗い出し、戦略を描き実行していくことで両社の思い描く成長を実現していく、それがPMIです。これまでは成約後のPMIの実行が十分でないことが課題となっていたことから、M&Aの成功につなげるアプローチとして期待と注目を集めています。

―一般的にM&Aというと大手企業同士で行われるイメージですが、中小企業のM&Aで成約後のPMIはあまり必要ないように感じますが…。

Dr.M: そんなことはありません。中小企業のM&Aだからこそ、PMIがより重要となってきます。大手企業同士のM&Aの場合、企業経営はある程度しっかりとしているため、M&Aの直後であろうと、ビジネス自体は成り立ちます。しかし、中小企業ではそのようにうまくはいきません。従業員1名のベクトルが異なる方向に向いただけでガタガタになってしまいます。細心の注意が必要となります。

また、当初想定されていたシナジーが得られなかったとM&A案件自体が悪かったと考える買い手企業のM&A担当者もいます。原因は一概には断定できませんが、大半はPMIをうまく推進できなかったことが原因だと思われます。我々もM&Aを行うメリット・良さを正しく知って頂き、成長戦略を描くうえで、何度も積極的にM&Aに取り組んで頂きたいと考えています。「M&Aは難しい」「自社のステージには合わない」と成長戦略を描く経営陣方がM&Aに対して二の足を踏んでしまうことは本意ではありません。

―なるほどです。でも、中小企業同士のM&Aの場合、コストがかかるので、そう簡単にはPMIを取り入れることができないのではないでしょうか。または、M&A担当者はそもそも規模から、組織立ててPMIに取り組む必要性が低いと思っているのではないでしょうか。

Dr.M: おっしゃるとおりで、そのように考えている買い手企業側のM&A担当者が多いことは確かです。今回、私があえてPMIを取り上げたかったことはそこにあります。PMI自体を解説している本はいっぱいあります。それを手に取って読んで学んでいる方は、PMIの必要性をそもそも知っている方々です。

「PMIなんて当社に関係ない」と思い込んでしまっている、もしくはあまりご存じのない方々に今回お伝えしたいのは。「一度PMIを考えてみましょう」ということです。多額のコストをかけなくてもできることもありますし、自社内できちんとPMIを取り入れている企業もあります。まずは正しく知っていただき、PMIを含めてM&Aに目を向けて頂ければ幸いです。

買い手担当者が押さえておきたいPMI3つのポイント

―ドクターの思いは分かりました。ではPMIで留意すべき点とは何でしょうか。

Dr.M: 3点あります。それについて、今回はそれをご紹介していきたいと思います。 一つ目は 「開始すべきタイミング」 です。
交渉がスタートする前からすべての案件について、PMIを検討し取り組む必要はありません。でも一つだけ言うとすれば、どの人を売り手企業に派遣するかは想定しておいてください。それにより、交渉スタートした段階で、M&A後、何に留意すべきかイメージがわきます。

そして、PMIを本格的に意識し始めるのは、相手と交渉がスタートしたとき、つまりトップ面談が行われるフェーズからです。トップ面談が設定されたなら、必ずその前に成約後に行うべきことをイメージして、相手側の現状に関して尋ねるQ&Aを作成してください。それをM&Aアドバイザーと共有し面談にのぞんでください。面談メモもしっかりと取ってください。

トップ面談時は、議事録はM&Aアドバイザーに任せ、成約後についての確認に集中してください。そして、面談時に出た問題点などを整理しておいてください。これを一つ一つ解決していくこと、そして留意していくことがPMIを行う前提として求められます。

Dr.M: 二つ目は 「連携」 です。連携とは、売り手オーナー、買い手側M&A担当者、M&Aアドバイザー、デューデリジェンスに携わる会計士、弁護士などの先生方、そして実際にM&A後に派遣される買い手側担当者、自社の顧問税理士、顧問弁護士との連携です。成約前までは秘密裏に進めることが求められますが、M&Aは一連の流れの中で関連する方々にすべて共有しておくことが必要です。そして、その一連の流れで出てきた課題をそれぞれがM&A後に解決していくことが求められます。一人で解決していく作業量ではありません。周りを巻き込んで解決していかなければなりません。M&A成約前から関係者と密に連携を図ることでスムーズなPMIにつながるでしょう。

Dr.M: 三つ目は 「外部委託」 です。PMIを外部に依頼するかどうかの判断基準を持っていただきたいです。
そもそもM&A自体が初めてである場合は、ぜひ外部PMIコンサルタントを利用してください。何も毎回利用してくださいと言っているわけではありません。はじめは自分のやり方に固執することなく、積極的に外部PMIコンサルタントを利用してください。それにより、PMIでの留意点の網羅性を学ぶことができます。

また、M&A担当者とM&A後に実際に派遣される方が異なる場合もぜひ検討してみてください。
M&A担当者は交渉の過程から本件をよく知っているため不安は少ないでしょうが、実際に派遣される人は、本件を初めて知るのはM&A実行の直前である場合も少なくなく、不安でいっぱいです。何に留意すべきかを把握するのに時間もかかります。相談できるプロがいるのといないのとでは歴然たる差があります。

さらに会計周りの手続きの改善が必要場合もぜひ積極的に検討してみてください。会計に対する考え、処理方法を統合させておくことは、グループ全体の経営判断をしていく上で重要となってきます。その統合作業だけに1名従業員を派遣できる体力がある買い手企業ならば問題ないですが、中小企業の場合、人的リソースの観点でPMI専任の体制を構築することは難しい場合が多いため、外部の専門家に依頼することをお勧めします。以上が、買い手の担当者が心得ておくべきPMIです。

PMIの失敗としてよく言われるのが、意気込みすぎて、売手企業の従業員にアレルギー反応がでて、士気が低下することです。
最初から完璧なるシナジーを求めて早急に統合作業をしたい気持ちは痛いほどわかるのですが、今回紹介した3つの留意点を踏まえて、フォームハート、クールヘッドで取り組んでみて下さい。

著者

皆己 秀樹

皆己みなみ 秀樹ひでき

日本M&Aセンター M&Aサポート倶楽部責任者 

一橋大学卒業後、大手金融機関及び大手外資系証券会社で法人営業。その後、大手外資系金融機関プライベートバンキング部の日本支社立ち上げプロジェクトに参画。現在は日本M&Aセンターにて、上場企業を中心に M&A戦略からクロージングに至るまで幅広いアドバイスを行う。戦略的M&Aをテーマに、研修・セミナー講師としても活躍。

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