コラム

中堅・中小企業のM&A法務は株の問題にはじまり株の問題に終わる

横井 伸

著者

横井伸

日本M&Aセンター 品質本部・法務部 部長/弁護士 博士(経営法)Ph.D.

M&A法務
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株の問題というのは、まさに中堅・中小企業のM&A法務に特有の問題です。 中堅・中小企業のM&A法務は“株の問題にはじまり株の問題に終わる”と言っても過言ではありません。

株主の賛成可否が中堅・中小企業の未来を左右する?!

株式の分散、反対株主・・・

上場企業のM&Aとなると、株そのものについては証券会社などで厳格に管理されていますし、上場審査も経ておりますので、中堅・中小企業に比べればそこまで深刻な問題は生じないといっていいです。 しかし、中堅・中小企業となると話は変わります。M&Aを進めようとすると時に重くのしかかるのが株の問題です。少し例を見ていきましょう。 「株式の分散」というのは、最近のM&A実務ではよく見かける深刻な問題です。 株主の高齢化で相続が生じている場合や、上場を目指していたけど断念した場合、会社の株に分散が生じます。M&Aで譲渡する際は全ての株を買い集める必要がありますから、株の分散の程度にもよりますが、一般的に買い手は株式の分散した会社の引受けに抵抗感を持つことが多いのも事実です。 とはいえ、分散した株をひとつにまとめ直すのは簡単なことではありません。 また、「反対株主がいる場合」というのも最近多く見かけるテーマです。 反対株主もその議決権割合次第で対処法は様々なのですが、近時の法改正によってスクイーズアウトがより簡易になりました。 2/21開催の「M&Aカンファレンス2018」ではこういった点を法務的ににどう対処したらいいのか解説する予定です。

株の問題は時に会社の未来を阻む

中堅・中小企業のM&A法務は“株の問題にはじまり株の問題に終わる”―これを深く感じたことがあります。 とある案件の話です。 財務も明るく、好調に実績を積み上げてきた会社がありました。創業者は、仲間ときっかり50:50で株を持ち合って会社を運営してきました。仲間ときっちり半分というのは、潔く公平な割合に見えます。 ところがM&A法務的には、きっかり50:50だと困ってしまうことが起こります。 例えば、株主総会において決議を通せるのは「過半数」の賛成がなくてはなりません。この会社の場合だと、必ず全員一致でないと決議できないのです。 M&Aを実行する時に意見が割れてしまったとすると、どうすることもできずM&Aは断念せざるをえなくなります。 「全員一致するまで交渉すればいい」という方もいるかもしれません。しかし現実には時間がかかるため、M&Aは破談になってしまう場合が多いのです。  株の持ち合いが51:49でスピーディーなプロセスを踏めていたら、あるいは50:50でも株主間で意見の相違があり、会社としての決議ができない場合の決着方法を株主間協定という形であらかじめ取り決めておいたなら・・・会社の未来はつながったかもしれません。 この案件から、改めて“中堅・中小企業M&Aにおいて株の問題は重要だ”ということを実感しました。 これから起業を考えられている方、かつて仲間とともに事業を立ち上げた方、これを機に株の問題についてしっかり考えて頂ければと思います。

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日本M&Aセンターの公認会計士・弁護士・税理士・司法書士

著者

横井 伸

横井よこい しん

日本M&Aセンター 品質本部・法務部 部長/弁護士 博士(経営法)Ph.D.

東京大学経済学部卒。旧防衛庁勤務を経て、2006年司法試験合格。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2023年一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻博士課程修了。 ディール進行上のコンプライアンス・受託スキームの検討など法務全体の統括責任者を務めている。 主な著書に、「買い手の視点からみた中小企業M&AマニュアルQ&A(第2版)」(中央経済社)、「M&Aの視点からみた中小企業の株式・株主管理」(中央経済社)など。 神戸大学大学院経営学研究科 客員教授(2023年6月1日就任)。

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