コラム

「顔も合わせたことない人たちが・・・」3代目社長を悩ます問題とは?

竹内 直樹

日本M&Aセンター 取締役 戦略本部長

事業承継
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「この会社は、私の父が、兄弟3人で創業したんです」 社長がおっしゃったその一言で、社長が今抱える悩みが推測できました。 先日、とある3代目社長にお会いしたときのことです。 その社長は、大学を卒業してから約20年、某有名メーカーの経営企画部に勤務していました。 お父様である先代の社長から「今年の年末年始は、必ず帰って来い」と連絡があったのは、3年前の年末だったそうです。 「お前に会社を継いでほしい。あいつはやっぱりだめだ。」 お父様が「あいつ」と呼んだのは、次期社長候補として社内で勤務している従兄弟のこと。 当時の社長は、東京で結婚して子供もでき、大きな仕事も任されている状況でした。妻や子供、勤務先のことを考えたら、すぐに「はい、継ぎます」とはいえません。 しかし、後を継ぐことを考える上で一番悩みの種となったのは、もっと別のことだったそうです。

株主構成は大きな問題

後を継ぐ時に考えたのは・・・後ろにいる株主のこと

分散していた株式

「後を継ぐかどうかは少し考えさせてくれないか。親父、会社の株は今誰が保有しているんだい?」 「私が持っている会社の株は1/3だ。あとは、兄さんの息子2人と弟が保有しているよ。」 その事実を聞いたとき、“自分が継ぐのは難しい”と思ったそうです。 さすが、経営企画部に長年勤務してきた方です。会社経営における、株式の重要性をとてもよく分かっていらっしゃいました。 そう、会社を引き継ぐ際に重要な問題となるのが、『株式の分散』なのです。

株主構成

株式は親族4名に分散していた

父は3人兄弟の真ん中。 会社は兄弟3人で創業し、資本金も3人で出し合って設立されました。そのため、当時は株式も兄弟で3等分して保有していました。初代社長は一番上のお兄様です。 数年前にお兄様がご逝去され、1/3の株式は兄の息子2人に相続されました。 そして2代目社長としてお父様が就任。その際、お父様と弟で話し合い、3代目はお兄様の長男(従兄弟)に継ぐことに決め、教育されてきたそうです。 しかし・・・ 「彼(従兄弟)は経営者としては優しすぎる。社長業は決断力がないとやっていけない。彼は関連会社の管理をするほうが向いているのではないか。」 これが、残された兄弟で出した結論でした。

引き受けたのはいいけれど・・・

父や父の弟(叔父)の説得もあり、結局は後を継ぐことを決意。父が保有している株を引き継いで、今に至っているということでした。 「重要なことを決めるには、株主である3人(叔父+従兄弟2名)に同意を求めなければなりませんでした。とはいえ、全員社内にいるので、特に問題を感じたことはなかったのですが・・・」 叔父さんも他界し、その株式は娘さん2人が相続したそうです。

株主構成

会社に関与していない親族も株主となった

「叔父の娘さんたちは東京にいます。実は私は顔を合わせたことがありません。当然、事業のことも知らないまま、株式を相続してしまっていて。 設備投資や新規事業の立ち上げが必要だと説明しても、なかなか理解を得られない。親戚同士なのに歯痒い思いでどこにぶつけていいかわからないんです。」 事業内容を知らない株主がなぜ社長を苦しめているのか― 株主総会で決議しなければならない事項は限定的ですが、株主には役員の選任権があります。株主の意向に背いた経営はできません。そのことが、社長を悩ませていました。

株式の集約のために

「このままでは思い切った経営ができない、と思いました。 さらに、株式がこのまま相続のせいでさらに分散してしまったらと考えると、不安というより恐ろしくなってきたのも事実です。 今のうちに何とかしないと、そう思ったんです。でも、株を買い集めるお金はどうしたらいいのか、方法が分からないので袋小路なんです。」 株式を集約する方法は、 ・個人での買い取り ・会社での買い取り ・投資育成やファンドの活用 などがあげられます。 それぞれのメリット・デメリットを踏まえてどれを選択するかにより、親族や会社の未来が変わってきます。 今、この3代目社長とは、ひとつひとつの選択肢を検討している段階です。

会社を存続させるため、成長戦略として株主構成を考える

株主は会社の基礎となるものです。会社をうまく経営していくためには、それを支える株主(構成)が必要です。 株主構成を気にする経営者の方は少ないと思います。しかし、“何か”が起きてからではなかなか短期間では解消できないのが、株主の問題です。株主構成を戦略的に作り上げておくことが、会社を存続・成長させるために大事なことだと、私は思っています。

竹内の書籍『どこと組むかを考える成長戦略型M&A』

Think Owner's

著者

竹内 直樹

竹内たけうち 直樹なおき

日本M&Aセンター 取締役 戦略本部長

当社内最大件数(年間100件超)を成約させる事業法人部の責任者として5年間牽引し、上場後の当社の業容拡大に大きく貢献。事業法人部は主にマッチングを行う部署であるが、買い手と売り手との双方の成長戦略を描くなかで、譲渡案件のソーシングにも従事。昨今はミッドキャップ案件(売買金額20~100億円程度)を中心に、ソーシングからクローズに至るまでの全てのフェーズにて陣頭指揮をとっている。買収も売却も実行できるミッドキャップ企業をターゲットとした「成長戦略セミナー」を2015年からスタートさせ、2019年10月で同セミナーは10回を数え、累計参加者は3,000名を超える。 著書に『どこと組むかを考える成長戦略型M&A──「売る・買う」の思考からの脱却と「ミニIPO」の実現』がある。

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