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事業承継を乗り越えた2代目、承継後に頭を抱えた意外な理由とは?

「M&Aによる成長戦略に興味があるので話を聞かせてください!当社には少し特殊な事情もあって・・・」

とある製造業の2代目社長の言葉です。
面談のはじめ、社長は自身が会社経営を引き継いだ経緯を話してくれました。

「父は5年前に病気で倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまいました。そこで、私が急遽会社を継いだのです。」

事業承継は先代の病気により突然訪れたそうです。
もっとも、社長は会社を継ぐつもりで先代が倒れる数年前から入社していらっしゃいましたし、先代の社長も徐々に業務や取引先・金融機関などの引継ぎを始めていたそうで、幸いにも事業承継自体にはそれ程苦労されなかったそうです。

事業承継

事業承継を乗り越えた後に、本当の悩みのタネがまっていた

突然訪れた事業承継

「想定よりだいぶ前倒しの事業承継になってしまいました。
しかし、家族・従業員・株主達が『会社の緊急事態だ』ということで、とても協力してくれました。
皆のおかげで無事に事業承継を乗り越えることができました。とても心強い仲間に恵まれましたね。」

感謝を述べつつも、その表情に一点の曇りがあったのが印象的でした。

その時の私は、“社長を悩みの原因はきっと今後の成長戦略にあるのだろう”と思いました。
しかしこの後、話は私の想像と違う方向に向かっていきます。


2代目社長の悩み

「当社のいる業界は付加価値がつけにくい業界です。その中で生き残るには、いかに設備投資をして生産性を上げるか、または新たな収益の柱を作っていくことが必要です。
先手を打ってこの会社を成長軌道に乗せることが、2代目の自分の責任だと思っています。」

変わりゆく業界とその中での自社ポジションを冷静に俯瞰して先手を打とうとする社長の姿勢に、私は“この会社は次の成長期に入っていける実力がある”と感じました。

「ですが、その次の一手が打てないのです。」

「え、どういうことですか?」

思わず私は声を大きくして聞いてしまいました。
会社の財務はキレイで資金も十分にある、何よりこの社長には成長に向けた強い思いがある、するべくして成長していく会社に思えたからです。

「当社の株主は父の弟2人と自分の3人です。
株主でもある叔父さん達には私が小さいころから良く可愛がってもらいました。お正月には親族全員集まりますし、家族ぐるみで旅行に行くこともあるような、良好な関係でした。父が亡くなった時にも親身になって協力してくれました。
だからこそ、自分が描く成長戦略に、叔父たちも理解をしてくれると思ったのです。」

株主構成

大株主である叔父たちが会社の今後に大きく関わる?!


成長戦略を妨げるもの

株主である叔父さんたちはかつて先代と一緒に会社を支えてきたメンバーであり、今は第一線からは退いています。
先代は創業期を支えてくれた2人に感謝をし、皆で公平に利益を分けようと株式の配当を積極的に支払っていたそうです。今も高額な配当が支払われています。

社長が考える成長戦略を実現するためには、資金が必要です。社長も資金捻出に頭を抱えました。
そして、苦渋の選択で、資金捻出のための配当減額の相談を、叔父さんに持ちかけたのです。

「昔から自分を可愛がってくれたので、自分の相談なら聞いてくれるだろうと思ってたんです。
今までの延長線上として考えていました、甘かったですね。」

案の定、叔父さん2人は社長の相談に猛反対。

「先代社長はずっと同額の配当を支払うと約束してくれたんだ」
など、先代の時代にまで話はさかのぼり、建設的な議論ができなかったそうです。

その一件から大株主として会社の決定事項ひとつひとつについて何かと意見を言われるようになり、すんなりと社長の意見を通すことは出来なくなってしまったというのが現状ということでした。

「叔父さんたちとしては、小さいころから知っている私が経営者として意見すると、生意気なことを言っていると感じるようですね。
経営戦略としては自分が正しいことを言っている自信があるので悔しいです。こんな時に父がいてくれたらとよく思います。」


株主との関係は、承継できない

お話を伺っていて、先代は事業承継についてかなり周到に準備をされた方なのだろうと感じました。しかし用意周到な準備の中でも抜け漏れていたのが、株主との関係だったのです。

後継者は事業だけでなく、株主をはじめとする様々な人間関係も承継することになります。
現経営者が特段意識していない人間関係でも、実は会社の経営を支える大切な基礎になっていることが多々あります。

今、2代目社長は、“じっくりと時間をかけて株主である叔父さんたちに会社や業界の状況について説明をし、理解を得る”というスタート地点に立っています。


事前の整理が重要なのが株主関係

人間関係、つまり株主との関係は、簡単に引き継げるものではありませんから、次期社長が誠心誠意向き合って再構築していくことも大切です。
しかしそれには時間がかかります。

変化の激しいこの時代、時間のロスは会社にとっての致命傷になりかねません。
“何か”が起きてからではなかなか短期間では解消できないのが、株主の問題です。株主構成について戦略的に考えておくことは、次の世代へのスムーズな事業承継の第一歩になると、私は思います。

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写真:竹内 直樹

竹内たけうち 直樹なおき

日本M&Aセンター 取締役

中堅中小企業・上場企業に対して買収提案を行う事業法人部の責任者として、10年に亘り、戦略的なM&Aを提案してきた経験を有する。買収企業だけでなく、譲渡企業の成長も実現させた数多くの実体験から「成長戦略型M&A」を提唱し、自らが講師を務める「成長戦略セミナー」を2015年よりスタートさせた。当該セミナーでは、従来の「事業承継」を目的としたM&Aではなく、中堅中小企業における「企業の成長」を目的としたM&Aの必要性・有効性を多くの経営者に伝えている。著書に『どこと組むかを考える成長戦略型M&A──「売る・買う」の思考からの脱却と「ミニIPO」の実現』がある。2016年、事業承継ナビゲーターの取締役にも就任(現任)。詳細プロフィールはこちら

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