文化の違いを乗り越え、M&Aから10年で実現した「人」と「組織」の成長

株式会社トウヨーネジ×株式会社シマキュウ

譲渡企業情報

  • 社名:
    株式会社トウヨーネジ(埼玉県)
  • 事業内容:
    ネジ・締結部品の販売
  • 売上高:
    4億円

譲受企業情報

  • 社名:
    株式会社シマキュウ(新潟県)
  • 事業内容:
    高圧ガス販売、機械工具、産業資材の販売
  • 売上高:
    94億円

※情報はM&A実行当時

2013年、新潟県長岡市に本社を置くシマキュウは、埼玉県のネジ・締結部品専門商社であるトウヨーネジを譲り受けました。北関東市場への進出と約1,000社の顧客基盤の獲得を実現したこのM&Aは、同グループの成長戦略を象徴する取り組みの一つです。
一方で、M&A後の統合初期には組織文化や価値観の違いによる課題に直面し、苦労があったといいます。
M&Aから10年、シマキュウ 代表取締役社長の島田隆昭様と、トウヨーネジ 取締役社長の内田佳菜子様に、M&Aの裏舞台と、PMI(統合プロセス)を通じて得た学びについて伺いました。

(トウヨーネジ:2026年6月1日、シマキュウ:2026年6月24日)

M&Aで北関東進出を実現 顧客基盤に見出した成長の可能性

――トウヨーネジとのM&Aは貴社の成長戦略の中でどのような位置づけでしたか。

譲受企業 シマキュウ 島田様: 当社にとってM&Aは、単なる事業拡大の手段ではなく、成長戦略そのものとして位置づけています。創業者である父の時代は、新たな地域へ進出する際、自ら土地を買い、建物を建て、人を採用してゼロから顧客を開拓していました。当時はそれで成長できましたが、市場全体の成長が鈍化する中、同じやり方を続けるのは難しくなっていました。
また、新潟や東北を中心とした既存の事業エリアでは人口減少が進んでいたため、新たな市場への進出も重要な経営課題でした。
自社単独での事業拡大には限界を感じていた中で、未進出だった「北関東への進出」と、「新たな商材の獲得」を同時に実現する方法としてM&Aを検討していました。

――トウヨーネジを評価されたポイントは何だったのでしょうか。

島田様: 最大の魅力は約1,000社に及ぶ顧客基盤でした。トウヨーネジは50年以上にわたり埼玉県を中心に事業を展開し、多くの取引先との信頼関係を築いてきました。私は「会社の価値は決算書だけでは測れない」と考えています。売上や利益も重要ですが、それ以上に価値があるのは長年かけて培われた顧客との信頼関係です。ネジは消耗品ですから、定期的な訪問や継続的な取引を通じて顧客との接点が生まれます。そうした関係性は一朝一夕で築けるものではありません。当社が扱う機械工具やガス関連の商材をその販売網に展開できれば、大きなシナジーを創出できると考えました。

――一方で、このM&Aを進めるうえで懸念もあったそうですね。

島田様: 正直に申し上げると、M&Aの検討を進める中で想定していなかったことは多々ありました。中でも大きかったのは営業スタイルの違いです。
当社では営業担当者が顧客を訪問し、提案を通じて商材を販売します。一方、当時のトウヨーネジは豊富な在庫を保有し、顧客からの注文に迅速に対応することを強みとしていて、営業に対する考え方には大きな違いがありました。
さらに、在庫管理に関しても想定とのギャップがありました。M&A後に詳細を確認したところ、不良在庫が当初の想定を大きく上回っていたのです。その結果、数千万円規模の在庫整理が必要になりました。今だからこそお話しできますが、その時は「PMIは想像以上に難しいものになるかもしれない」と感じました。ただ、それ以上にM&Aを進める価値があると思っていました。

組織文化の違いに直面 10年かけて築いた信頼関係と一体感

――内田様(トウヨーネジ)は、M&A実行時は現場にいらっしゃいましたね。社員の立場で、当時はどのような状況でしたか。

譲渡企業 トウヨーネジ 内田様: もともと当社は比較的フラットな組織で、明確な数値目標や管理を重視する文化はありませんでした。ところがM&A後は、シマキュウの管理体制や目標管理の考え方が導入されます。さらに中途採用の社員も増え、既存社員との間で考え方の違いが生じるようになりました。組織全体が同じ方向を向いているというより、それぞれが異なる方向を見ているような状態だったと思います。今振り返っても、「激動」という言葉が最もふさわしい時期でした。

――M&A後のギャップに対し、どのように向き合われたのでしょうか。

島田様: まず感じたのは、人間関係を整えなければ何も始まらないということでした。当初は、シマキュウから派遣した社員と現場の社員との間で摩擦も起きました。会社が違えば文化も異なります。こちらでは当たり前のことでも、相手にとっては当たり前ではありません。
そこで私は毎週のようにトウヨーネジへ足を運びました。制度を整えること以上に、まずは現場の空気を変えることが重要だと考えたからです。
振り返ると、相手の会社を十分に理解する前に変えようとしていた部分もあったと思います。今では、まず現場を知り、人を知った上で、少しずつ変化を積み重ねていくことが大切だと考えています。

――現場ではどう乗り越えていったのでしょうか。

内田様: 特別なことをしたというより、小さな積み重ねの連続だったと思います。社員一人ひとりの話に耳を傾け、ときには間に入って調整しながら、少しずつ信頼関係を築いていきました。
また、時間の経過とともに人の入れ替わりもあり、組織は徐々に落ち着きを取り戻していきました。ただ、それは数か月や1年で実現できるものではありませんでした。
組織全体が同じ方向を向き、自律的に動けるようになるまでには、結果として約10年の歳月が必要だったという実感があります。

――M&A実行後は島田様がトウヨーネジの社長を務められ、その後2025年に内田様を社長に選ばれました。内田様のどのような点を評価されていたのでしょうか。

島田様: M&A当時、内田さんは営業課長でした。もともとは内勤としてトウヨーネジに入社された方ですが、その後営業にも携わるようになり、当時のトウヨーネジの中では数少ない「外に出てお客様と向き合える人材」でした。ネジに対する探究心や向上心も当時から際立っていましたね。
「もっと知りたい」「もっと良くしたい」という思いが強く、新しいことにも積極的に挑戦する姿勢があり、早い段階から「将来的にはこの人が会社を引っ張っていく存在になるだろう」と感じていました。
実際に社長就任後は、その期待通り現場と向き合いながら組織をまとめ、会社の成長を牽引してくれています。
トウヨーネジとの統合後、グループで別のネジ関連企業の買収を検討する際にも内田さんに同行してもらいました。私はネジの専門家ではありませんが、内田さんは現場のプロです。在庫の状況や商品価値の見極めなど、重要な意思決定の場面でも大きな役割を担ってもらいました。

社員の成長が組織を変えた

――M&A後、トウヨーネジはどのような成長を遂げたのでしょうか。

内田様: 最も大きな変化は、やはり人の成長です。
もともとは指示を受けて仕事を進める風土がありましたが、徐々に自ら考え、自ら行動する社員が増えていきました。新しい商材を扱い、小さな成功体験を積み重ねる中で自信が生まれ、「次も挑戦してみよう」という前向きな雰囲気が広がっていったのです。
そうした人の成長に伴い、組織のレベルも大きく向上しました。
例えば以前は、書類の保管場所一つとっても担当者ごとに管理方法が異なり、必要な資料を探すのに時間がかかることもありました。しかし現在ではルールが整備され、業務の標準化や作業の平準化が進んでいます。
また、シマキュウグループの一員になってからは、新社屋への移転やピッキングロボットの導入など積極的な設備投資も行われました。
導入当初は「本当に効果があるのか」という声もありましたが、結果として倉庫業務の効率は大きく向上し、今ではロボットを活用しながら日々多くのピッキング作業を行っています。
こうした人材育成や業務改善の積み重ねが成果につながり、昨期は過去最高の業績を達成することができました。売上が伸び、その利益を社員へ還元できるようになったことは経営者として非常に嬉しく感じています。

――M&Aを通じて島田社長が得た最大の学びは何でしょうか。

島田様: M&Aは、人がすべてだということです。会社を譲り受けることはできます。ですが、信頼関係を買うことはできません。だからこそ、私は今でもM&Aの成否を決めるのは人間関係だと考えています。どれだけ優れた戦略を描いても、現場が納得していなければ前には進みません。

――このM&Aは、その後のグループ戦略にも影響を与えたのでしょうか。

島田様: 非常に大きな影響がありました。実は当社の幹部からも当初、「なぜネジ会社を買うのか」と反対の声が上がっていました。ただ、私が見ていたのはネジそのものではなく、その先にいるお客様でした。
本件を経験したことで、幹部たちの「会社を見る視点」も変わったと思います。そして何より、「買うこと」と「経営すること」は全く別だということを学びました。私にとって本件は、「M&Aとは何か」を教えてくれた案件です。この経験から得た学びが、その後のグループ経営や連続M&Aの礎になっています。

――M&Aから10年以上が経った今、トウヨーネジ社長として現状をどのように捉えていますか。

内田様: 組織の在り方も、人の考え方も大きく変わり、その変化を受け入れるまでには相応の時間がかかりました。ですが、それだけ大変な時期があったからこそ、現在のトウヨーネジがあると感じています。
今のトウヨーネジは、ようやく次の成長フェーズに入ったという実感があります。振り返ると、M&Aは会社を変えるだけでなく、人を成長させる出来事だったのだと思います。

――トウヨーネジ、シマキュウ両社の今後の展望をお聞かせください。

内田様: 今後は「人づくりから始まる成長経営」を軸にトウヨーネジを成長させていきたいと考えています。
昨年からは年に1度の全社員研修もスタートしました。私は、人なくして企業は成長しないと思っています。社員一人ひとりの人間力が高まり、その結果として会社の成長や利益向上につながる。そんな組織を目指しています。

島田様: 私は来年をめどに社長職を息子へ引き継ぐ予定です。そのため、今後は一歩引いた立場からグループ全体を支えていくつもりです。ただ、M&Aについては長年の経験やノウハウが必要な部分も多いため、しばらくは私自身も関わりながら見ていくことになると思います。
一方で、グループ各社にはそれぞれ自立した経営を行ってもらいたいと考えています。これまではシマキュウ側がさまざまな面でサポートしてきましたが、今後は各社が自ら判断し、成長していける組織づくりを進めていきたいですね。

――最後に、これからM&Aを検討する経営者へメッセージをお願いします。

島田様: M&Aは決して魔法のような手法ではありません。
譲り受けた瞬間に成果が生まれるわけではありませんし、思い通りにいかないことも数多くあります。だからこそ大切なのは、「なぜこのM&Aを行うのか」という目的を明確に持つことです。
何を実現したいのか。どのような未来を描きたいのか。その目的が明確であれば、統合後に困難に直面しても乗り越えることができます。
私は、M&Aは単なる会社の統合ではなく、会社の未来をつくるための手段だと考えています。

日本M&Aセンター M&Aコンサルタント コメント

東日本事業法人1部 部長 榊原 啓士

東日本事業法人1部 部長 榊原 啓士

今では業界でも有名なM&A巧者となっているシマキュウ様ですが、本件が初めての異業種を譲り受けるM&Aでした。初めての経験でご苦労もあったようですが、島田社長自らが問題解決をされる姿勢で乗り越えられていらっしゃいます。結果的に両者の発展に貢献できたことは地域経済にも大きな意味があったと考えています。

※役職は取材時

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