[M&A事例]赤字会社も1年で黒字化。半年で3社を譲り受けた印刷会社社長に聞く

株式会社エムアイシーグループ

譲受け企業情報

  • 社名:
    株式会社エムアイシーグループ(愛知県)
  • 事業内容:
    印刷・デザイン、デジタルコンテンツ企画制作、インターネットサービス他
  • 売上高:
    約15億円(2023年6月期)
    従業員数:
    118名(2023年6月時点)

愛知県西尾市の総合印刷会社エムアイシーグループは、2023年1月、5月、8月と約半年の間に3社を譲り受けました。うち1社は赤字だったところをわずか1年あまりで黒字化することに成功。三浦 康太郎社長に、あらためてM&Aの目的とPMIのポイントを伺いました。(取材日:2023年11月20日)

M&Aは設備投資とは全く違う

――エムアイシーグループが創業したのは119年前と伺いました。老舗企業ですね。

譲受け企業 エムアイシーグループ 三浦様: 1905年、明治38年の創業です。私の曽祖父が商業を学んでいた東京で印刷技術を身に付けて帰り、印刷所を立ち上げました。当時、西尾市で初めての石版印刷所だったそうです。
太平洋戦争中に祖父に事業を継がせたのですが、曽祖父は営業気質で、息子に経営を任せると今度は営業に出て商圏をどんどん広げていきました。自社広告には「なんでも印刷できます」とコピーを打って、PRに関わるあらゆることを仕事として請けていたようです。

父親の代では多角化を進め、営業エリアも西尾から名古屋、東京に広げていきました。エムアイシーグループという社名に改名したのもこの時です。マルチメディア(エム)、アイデア(アイ)、コミュニケーション(シー)という意味が込められています。現在は総合印刷会社として紙の印刷に限らずWeb制作やBPO業務支援などを行っています。

長い業歴の中では戦争やリーマンショックなど大変な局面もありましたが、常に新しいものを取り入れていく、お客様の求めがあれば初めてのことでも引き受けて、それからやり方を考えるという創業者の「挑戦する気質」を代々受け継いできたことが、これだけ長く続けてこられた当社の強みだと思います。

1942(昭和17)年当時

1942(昭和17)年当時

――M&Aを経営戦略に組み込まれた理由をお聞かせください。

三浦様: 社長就任当時からM&Aは検討していました。というのも当社は擬似エンボス印刷という特殊印刷の技術を持ち、WebやSNSにも対応できる。BPOといった周辺事業にも事業を広げている。三河エリア以外でも十分に戦える会社なんじゃないかと私は思っていたんです。
そこで、当時からブログで情報を発信したり県外の展示会に出展したりしながら営業エリアの拡大に動いてはいたのですが、スピード感としては遅い。しっかりと関東や関西に拠点を設けて地盤を固めていくために、M&Aは有効な手段だと思っていました。

――どのように検討を進めていらっしゃったのですか。

三浦様: 主に金融機関から案件を紹介してもらって検討していましたが、なかなか成約まで至りませんでした。6年ほど検討を続けて思ったのは、設備投資とは全く違うなと。設備投資なら資金があって買いたい気持ちがあれば自社の都合とタイミングでできますが、M&Aは相手がいますし、相手のタイミングもあります。戦略として必要なことだと思っていましたので、早く進めたい、どこかと一緒になりたいという気持ちはありましたが、なかなか進まない状況の中でコロナ禍に突入してしまいました。

「UV特殊印刷技術(擬似エンボス印刷)」はエムアイシーグループの強みの一つ

「UV特殊印刷技術(擬似エンボス印刷)」はエムアイシーグループの強みの一つ

自社の目的に合致した提案で
スムーズに話が進み
半年の間に3社を譲り受ける

――検討を続けられ、日本M&Aセンターからの提案で2023年1月、5月、8月と立て続けに3社を譲り受けましたね。

三浦様: 自分でもここまで短い期間に3社譲り受けるとは思っていませんでしたが、担当コンサルタントの大久保 正太さんが当社のやりたいこと、一緒になりたい会社をよく理解してマッチする企業を提案してくれたので、スムーズに話を進めることができました。

――3社それぞれのM&Aの目的、決め手となったポイントを教えてください。

三浦様: 1社目の西川印刷所は大阪にある業歴91年の印刷会社です。誠実なお人柄の社長と奥様にお会いし、その誠実さがデューデリジェンスの進行、財務諸表や業歴の長さにも表れていると感じました。
よく、5年、10年で会社を急成長させてEXITしたいという案件を紹介いただくこともあるのですが、その先の見通しがつけづらいというところがあります。その点西川印刷所は長年培ってきた土台があります。信頼でつながっているお客様がいて、それをつないでいる従業員さんがいますので、将来性という面でも安心して話を進めることができました。 2社目のクラックスは東京都のマーケティング支援、Web制作をする会社で、3社目の国栄は同じく東京都にある老舗の印刷会社です。3社ともに「営業エリアの拡大」という目的にマッチしており、事業内容の面でもクロスセルが見込める会社でした。

――西川印刷所は赤字の会社でしたが、そこは懸念材料にならなかったのでしょうか。

三浦様: あまりならなかったですね。西川印刷所は紙の印刷をメインにしている会社でしたので、エムアイシーグループのWeb制作や特殊印刷、BPOのノウハウを提供すれば、絶対に売上げを伸ばせるし、利益が出ると思いました。

――実際に1年で黒字化されましたね。

三浦様: いくつか要因がありますが、先ほどお話したような事業面でのクロスセルや、経費を見直したり、お互いの得意分野を相互に仕事として請け負ったり、外注先を一緒にして発注効率が向上しコスト削減につながったことや、「利益面を重視したい」という経営方針発表会での私の気持ちをスタッフの皆さんが理解してくれて、価格や納期を交渉して案件ごとの粗利が増えたことなどが奏功しました。今後も展示会に一緒に出展したり、仕入れ先を統合したり、グループ全体での最適化をもっと突き詰めていきたいと思います。

愛知県西尾市にある本社外観

愛知県西尾市にある本社外観

PMIはM&A直後が大事
全従業員との面談と
経営方針発表会で理解を促す

――譲り受けた会社とはどのようにコミュニケーションをとられていますか。

三浦様: 基本的に、親会社のほうが立場は上といった空気にはしたくないと思っています。私が会社を継いだ時もそうでしたが、私より経験豊富な従業員がたくさんいる中で、そうしたベテラン従業員を頼りにしながら社長としてやってきたので、M&Aでも同じように会社のこと、お客様のことをよく理解しているグループ会社の従業員さんたちに教えていただくというスタンスで接しています。従業員開示の際にも、「皆さんのこと、会社のことをたくさん教えてください」と必ず伝えますね。

また、M&Aから1、2ヵ月の間には一人ずつと面談をします。早めにこうした時間を設けるのはとても大事だと思います。従業員開示での挨拶だけでは買収されたということしか頭の中に残らないので、「なんでうちが…」とか「私はどうなるのだろう」といった気持ちになってしまうようです。面談では入社の理由やどんなお仕事をされているのかといったことから、自社の強みや弱みまでいろいろとお聞きします。やりたいことがあればその後押しもしますし、心配事もその場で解決できることは解決させて、前向きな気持ちになっていただけるようにしています。

その後も、営業面ではエムアイシーグループの営業スタッフが定期的にグループ会社に行って一緒に取引先を訪問するなどしています。私が同行することもあります。
Web制作でもクラックスのスタッフの方に講師となってもらって当社のスタッフが勉強させてもらったり、当社のスタッフが講師となって西川印刷所の方に教えたりと、勉強会を重ねながらスキルアップを図っています。

――今回、1社目の西川印刷所と3社目の国栄に、日本M&AセンターグループのPMI専門会社である日本PMIコンサルティングが入りPMIの支援を行いましたが、具体的にどんな取り組みをされましたか。

三浦様: 西川印刷所では、PMIコンサルティングさんから西川印刷所のスタッフ全員と面談をしていただきました。全体的な人間関係や課題を抽出してもらった後に、改めて私と西川印刷所の方々とで面談を行い、全員との面談が終わった頃に経営方針発表会を行いました。その後、方針を実行する上での課題などをグループディスカッションしていただき、最後に決起集会も行いました。ある程度、今後の方針について理解いただけたのではないかと思います。国栄さんでは、面談だけでなくPMIコンサルティングさんに入ってもらって経営方針の策定まで手伝っていただきました。さまざまな意見が出ましたが、重要な意見の抽出や、まとめ方は非常に上手に行っていただけたので安心感がありました。今後は決めたことをどこまで実行できるかですね。

愛知・東京・大阪をつなぐグループネットワーク

――PMIで苦労したことはありますか。

三浦様: 苦労と感じたことはそれほどありませんでしたが、国栄さんとの面談で、2人の従業員から辞めようと思っているという話がでた時は心配しました。結果的に、相互に思いが伝わり、思いとどまってくれましたが、こうした心配は尽きないですね。
特に面談ではPMIコンサルティングさんに入っていただいたことで、事前に人間関係など触れにくい部分も含めて情報をいただけましたので、非常に助かりました。

――そのほか、PMIをスムーズに進めるポイントがあれば教えてください。

三浦様: PMIは両社が一緒に並走していくことだと思うので、エムアイシーグループ側の従業員の協力が必要です。一緒に深く関わってくれる人にこちらから声を掛けるのですが、どの従業員も快く承諾してくれるのでありがたいですね。西川印刷所、クラックスの社外取締役を依頼した時もそうでしたし、国栄は社長の退任が条件でしたので弊社の専務に「グループ会社の社長をやってくれないか」と打診したところすぐに承諾してくれました。

――社内でM&Aへの理解が浸透しているんですね。

三浦様: 結構浸透していると思います。勉強会や経営方針の発表の場などでM&Aの目的を何度となくしているので、ある程度メリットのあることとして受け止めてくれているようです。M&Aは決まるまで情報開示ができませんので、日ごろから戦略としてM&Aを考えているということや、メリットなどの話をしておくことが大事だと思います。

――最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

三浦様: 私が社長に就任した際、エムアイシーグループの従業員たちに伝えたのは「お客様の魅力を発信していこう」ということです。そのためには印刷に限らずPRに関することは何でも最初に相談していただける会社にしていこうと。そして今はグループ各社にもこの想いを伝えて、皆がそこを目指しています。今後もエムアイシーグループのノウハウや技術を惜しみなく共有していきながらお互いに成長することで、業界全体を盛り上げていきたいと思っています。

日本M&Aセンター担当者コメント

東日本事業法人3部 チーフ 大久保 正太
(株式会社エムアイシーグループ担当)

東日本事業法人3部 チーフ  大久保 正太(株式会社エムアイシーグループ担当)

三浦社長はトップ面談の際、お相手についてしっかり理解しようと傾聴の姿勢を持たれていたことが印象的でした。そしてその姿に、売主様が三浦社長に対して非常に良い印象を持たれ、その後スムーズにご縁が進んでいきました。トップ面談からすでにPMIを意識されているからこそ、実際に成功しているのだと感じています。

※役職は取材時

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