新規事業、国内M&A、海外M&Aを経てたどり着いた「ご縁」と「規律」のM&A戦略
岡山の地で1960年に創業したコムパス株式会社。現在はauショップ事業を中心に、通信設備工事、電線製造、電材商社、飲食FCなど多様な事業を展開する企業グループへと成長しています。
その変革を主導してきたのが、3代目社長である植野伸社長です。2019年以降、コムパス社は国内外で計6件のM&Aを実施。2026年5月にはシンガポールのデータセンター向け設備工事コンサル・メンテナンス業の「SJ Thames
Consulting Engineers/SJ Thames
Engineering」をグループに迎えました。「グローバル・ローカル・コングロマリット企業」として100年企業を目指すM&A戦略について、植野社長と妻で財務・人事等を管掌する植野晶子取締役にお伺いしました。(取材日:2026年7月8日)
「新規事業では勝てなかった」から始まったM&A戦略
――まず、コムパス社の歩みについて教えてください。
植野伸社長:
当社は1960年創業で、今期で67期目になります。私が3代目として経営を担っています。
現在はauショップを20店舗運営し、通信設備工事、電線製造、電材商社、飲食FCなど複数の事業を展開していますが、私が会社を引き継いだ頃は、実質的にauショップ事業と通信設備工事事業が中心でした。
今の事業ポートフォリオの多くは、私の代になってからM&Aを通じて加わったものですが、その歩みは決して順風満帆なものではありませんでした。数多くの新規事業への挑戦と撤退、社長就任後の財務の立て直し、そして国内M&Aから海外M&Aへと、少しずつ角度を変えて挑戦するようになりました。
コムパス代表取締役 植野伸社長
――もともとM&Aに取り組むきっかけは何だったのでしょうか。
植野社長:
実は、最初からM&Aに興味があったわけではなく、むしろ3代目として代表に就任するまではずっと新規事業に挑戦していました。インターネット関連の事業やパソコン教室、雑貨店や、ホテルの設備関連事業もありましたし、パン屋も手掛けました。通算すると7〜8回くらいは新規事業に挑戦したのではないかと思います。しかし、このような取り組みにもかかわらず、結果としてほとんどの事業は存続できませんでした。そこで、次のような考えに至りました。
「自分はもしかすると、ゼロから事業を立ち上げるより、すでに走っている事業を伸ばしたり、連携させたりする方が向いているのではないか?」と。
ちょうどその頃、主力だった携帯電話の市場も変化の時代を迎えていました。スマートフォンの普及期を通じて事業は非常に好調でしたが、市場の成熟や政府主導の料金値下げ政策などによって将来的な縮小も見えていました。スマホバブルが過ぎ去り、売上が大幅に減少することも予想されるなか、新しい柱が必要だ。そう考えた時に、M&Aを真剣に考えるようになりました。
国内4件、海外2件。2019年から加速したM&A
――現在までに6件のM&Aを実施されています。
植野社長: 2019年以降で国内4件、海外2件です。最初は電気通信工事や電材販売など、既存の通信設備工事業と比較的近い領域から始めました。いきなり大きく違う業界へ行くのではなく、「大きく離れすぎない」ということを意識していました。その結果として、少しずつ事業領域を広げることに繋がりました。M&A直後は社内から「携帯ショップでまだまだやれるではないか」との声も聞こえましたが、今では「色々な事業があって心強い」と前向きな意見も出るようになりました。
――M&Aを検討する際に大切にしている基準はありますか。
植野晶子取締役: 大きく2つあります。ひとつは業界が大きく離れていないこと。ふたつ目は財務規律と健全性です。
私たちがコムパスを経営するようになった当初は、財務基盤の整理にかなり苦労しました。
長年の事業運営で蓄積された大きな負債や、時価評価すると表面化する隠れた損失などもあり、それらをひとつずつ片付けるところからスタートしました。
このような経験もあり、会社の財務の「健康状態」を非常に重視するようになりました。
会社を生き物に例えるなら、健康状態が悪い会社をグループに引き入れてしまうと、こちらも病気になって一緒に倒れてしまう可能性があります。だからこそ対象会社のBS(貸借対照表)はしっかり確認し「財務がしっかりしていて規律があるか」を第一の判断基準にしています。海外のM&Aで言えば、二重帳簿や名義借り(ノミニー)は会社の財務基盤や規律を損なう可能性もあるので、特に注意するようにしています。
植野晶子取締役
「シナジーは作るものではなく、後から生まれるもの」
――M&Aではシナジーがよく語られます。
植野社長:
正直に言うと、私はM&Aにおけるシナジーを初期段階ではあまり期待していません。
もちろんシナジーが出たら嬉しいですが、「あったらラッキー」くらいの感覚です。
最初からシナジーありきでM&Aを進めると、双方にストレスがかかって無理が出ると思っています。むしろ大切なのは、お互いの会社を知ることではないかと考えています。
交流する。相手を理解することに注力して、まずは信頼関係を作る。
その結果として現場から、「実はこの事業とこの事業を組み合わせられますよ」という話が出てくることはあります。私の経験では、そういうシナジーの方が強いですね。
経営者がトップダウンで作ろうとしたものより、現場から自然に立ち上がってくるものの方が長続きする印象があります。
クロスボーダーM&Aへの挑戦
――海外M&Aに取り組もうと思われた背景を教えてください。
植野社長:
国内だけを見ていると、どうしても人口減少やマーケットの縮小、人手(技術者)不足といった問題があります。もちろん国内にもまだまだ数多くのチャンスはありますが、グループ全体の成長を考えるなら、やはり海外にも目を向ける必要があると思いました。また、子どもの留学をきっかけにシンガポールを訪問する機会が増えたことも大きかったですね。
実際に現地を見てまわる中で、「ここなら事業にも取り組めるかもしれない」という感覚を持つようになりました。
――海外M&Aは難しかったですか。
植野社長:
もちろん簡単ではありません。文化や商習慣も違いますし、法律や税務も違います。ただ、やってみて感じたのは、思っていたほど特別なものではなかったということでした。
国内M&Aでも最初は分からないことばかりでしたので、海外も本質的には同じだと思っています。
「全部理解しようとしないこと」が海外M&A成功の第一歩
――海外M&Aを検討している企業へアドバイスをお願いします。
植野取締役:
まず、自分たちだけで全てを理解しようとしないことです。海外では法律も違えば税制も違う。当然、自社だけでは分からないことばかりです。だからこそ、信頼できる現地の専門家を頼るべきだと考えています。私たちも現地の法律事務所や会計事務所、日本語で相談できる専門家の方々に支えてもらいながら海外M&Aを進めてきました。
わからないことは、その分野のプロに任せて規律を守る。経営者はコミュニケーションや経営判断に集中する。この切り替えが大切なのではと考えています。
――言語面への不安を持たれる企業も多いと思います。
植野取締役:
昔ほど気にしなくていいと思っています。
今はAI翻訳もありますし、オンライン会議でも翻訳機能や字幕がかなり使えるようになってきています。もちろん現地の言葉や文化を理解しようとする姿勢は重要です。ただ、「英語ができないから無理」という時代ではないと思います。むしろ欠かせないのは、現地の信頼できる専門家やパートナー(助言者)を持つことではないでしょうか。
PMIで最も大切なのは「管理」ではなく「関心」
――海外M&A後のPMIで意識していることを教えてください。
植野社長:
相手企業との信頼関係です。日本企業は、海外企業を買収したら誰かを送り込んで管理しないといけないと考えがちなのではないかと思いますが、私は必ずしもそうではないのでは、と思っています。
言葉も違います。
文化も違います。
事業も違います。
そういう中で自社の人材を送り込んでも、必ずしもすぐに直接的な成果につながるものでもありません。むしろ現場の邪魔になってしまい、お互いに足を引っ張り合うことになるかもしれません。だから私たちは、「管理」よりも「関心」を重視しています。
年に4〜5回は定期的に現地訪問する。毎月オンラインで対話する。お客様を紹介する、あるいは紹介してもらう。現地メンバーと細かくコミュニケーションを続ける。
そうやって信頼関係を積み上げていくことがPMIの本質ではなかろうかと思っています。
「お客様こそ我々を導く羅針盤」
――グループ経営で大切にしている価値観を教えてください。
植野社長:
当社には先代から引き継いだ「お客様こそ、我々を導く羅針盤」という社是があります。
私はこの言葉を深く掘り下げてどうすればこれが実現できるか懸命に考えました。
そして最終的に、
・お客様の興味・関心に耳を傾けましょう【Attention】
・お客様の立場になって考えましょう【Consideration】
・お客様のご要望に真摯にお応えしましょう【Integrity】
・お客様にいつも笑顔で応対しましょう【Smile】
・お客様を大切にしましょう【With Care】
という5つの姿勢に落とし込みました。
特に大事にしているのは「関心(耳を傾けること)」です。
お客様に関心を持つ。相手の会社に関心を持つ。社員に関心を持つ。
これはお客様に対してもM&A先に対しても、同様に重要なことではないでしょうか。
海外M&Aにおいても、この価値観を大切にして取り組むようにしています。
SJ Thames Consulting Engineers社のアンディ社長(右から2人目)と植野社長
ご縁と規律を軸に、100年企業へ
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
植野社長:
以前は中期売上目標も立てていました。でもなかなか思った通りにはいかないものです。
現在は「売上数字だけ」を追いかけることはしていません。
今とても大事にしているのは機会を重視する姿勢です。
目の前の機会を十分に活かすこと、ある意味で、ご縁も機会の一つだと思っています。
人との出会いがあり、良い会社との出会いがあり、機会が来た時に真剣に向き合う。
その積み重ねが、結果として事業を成長させていくのだと思います。
私は最近、当社を「グローバル・ローカル・コングロマリット」だと考えるようになりました。
それぞれの地域(ローカル)に根差した事業を大切にしながら、世界(グローバル)にも目を向ける。創業の地である岡山から東南アジアにまで機会(チャンス)は広がっています。そして人や会社との出会いを大切に、挑戦を続けていきたいと考えています。
これからも一歩ずつ新しい出会いを積み重ねながら、グローバル・ローカル・コングロマリットとして100年続く企業グループを目指していきたいと思っています。
- 日本M&Aセンター M&Aコンサルタント コメント
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※役職は取材時海外チャネル M&Aコンサルタント 岡部 吉弘
商談中からシンガポール現地で、譲渡企業様と丁寧にコミュニケーションを取られていたことが印象的でした。コムパス様のご縁を大切にされる経営姿勢が導いた素晴らしい成約につながったと感じております。岡山の地から世界へと、さらなるご発展に向けて今後も伴走させていただきます。