コラム

IT業界におけるクロスボーダーM&A 2024年の展望

河田 航佑

営業本部 法人チャネル IN-OUT推進部

海外M&A
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日本M&AセンターにてASEANのクロスボーダー案件を手掛けている河田です。

日本国内でも多くの件数を誇るIT業界のM&Aですが、最近は海外マーケットへの進出を検討している企業も増えてきております。本記事では、IT業界のクロスボーダーM&Aについて2023年の振り返りと2024年の展望について解説します。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか? 日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

IT業界クロスボーダーM&Aの2023年振り返り

コロナ禍を経て投資機会が活発に

2023年のIT業界ではベンチャー企業や大企業・上場企業同士の大型M&Aなど多くのM&Aが行われました。特に、コロナ禍による行動様式の変化とDX化の進展(オンライン面談やIT、クラウドシステムの普及)が起こったことにより、多くのIT企業にとってはビジネスを成長させる機会が訪れたと言えます。

多くの企業がITインフラへの投資を加速していく中でマーケットは拡大していますが、その市場規模の拡大に対してエンジニア不足が顕著となり、日本国内では多くのM&Aが行われました。また人材獲得のみならずキラリと光った事業やアイデアを持つベンチャー企業への投資も増えてきており、単独のIPOを目指すだけでなく、会社・事業の成長のために大手グループの資本を活用するといったケースも増えてきています。

M&AプロセスのDX化

コロナ禍におけるDXやオンライン化の進展は、今までハードルが高かった国境をまたいだクロスボーダーM&Aの検討もスピーディーに行うことを可能にしました。現地に渡航せずオンラインでの面談を重ね条件を交渉するケースや、デューデリジェンス時における資料収集のクラウド活用、AI翻訳機能の性能向上などあらゆる点でメリットの享受ができディールにかかる時間の短縮に大きく寄与する形となりました。

クロスボーダーM&Aにおける2023年のIT企業の譲受事例

日本国内だけでなくエンジニアやマーケットを求めて、海外のIT企業への投資を行いたいという企業が増えてきていますが、特にAIやクラウドシステムなど高度な技術を持った企業への投資が増加しています。なかでも製造業や建設業界の企業が海外の技術力の高いIT企業を譲受け、自社のシステム開発の内製化や工場や建設現場のDX化を推進している傾向が顕著になってきています。

特に従来から生産拠点を海外に移してきた日系製造業の複数社が、海外IT企業のAIやクラウドシステムを用いた最先端技術を求めM&Aを行い、自社のバリューチェーンの効率化を実現しています。

事例1:三菱電機 × Evercomm(シンガポール)

参考:三菱電機「三菱電機と Evercomm 社が協業契約を締結製造業のカーボンニュートラル実現を支援するソリューションを提供 」2023年9月7日
https://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2023/0907-b.pdf

IT業界クロスボーダーM&Aの2024年展望

人件費高騰で脱オフショア化

COVID-19によるパンデミックが収束し、世界的には高インフレ率に苦しんだ1年となった2023年ですが、物価の高騰に合わせて人手不足も相まって多くの国では賃金も上昇していきました。その結果、従来はオフショア開発の拠点と目されていた新興国(ベトナム、フィリピン等)でのエンジニアの給料も高騰しています。AIやクラウドを扱う高度人材においては日本のエンジニアより高い条件でオファーを出しているケースもあり、単なる安価な人材供給地のオフショア市場から変化してきています。また昨今の円安の影響もあり円建てで見た際の人件費も高騰しており、新興国への外注メリットも減少してきています。

参考記事:日本のIT開発、ベトナム頼み転機 欧米系年収1000万円も(日本経済新聞、2023年7月25日付)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC193A90Z11C22A2000000/

成長マーケットを求めての海外進出

このような海外人材の所得増や円安の影響もあり、新興国も含めた海外(特に成長著しいASEAN市場)での売上を増やしていくことが重要だと考える企業も増えています。

今までは安価な労働力や開発拠点を求めて新興国に進出してきたIT企業ですが、自社のサービスやシステムを提供する先の消費地としてのマーケットとして注力拠点と位置付けるようになってきています。特に新興国ではスマートフォンや通信インフラの普及や日本に比べて若い平均年齢が後押しとなり、DX化が非常に速いスピードで進んでいます。企業のITインフラ投資も年々増えており日本のIT企業にとっても大きなビジネスチャンスが訪れています。

従来までの最先端技術の内製化を目的とした海外M&Aのトレンドに加え、ASEANや新興国のような成長著しい市場への進出を目的としたIT業界のM&Aが2024年以降は増えていくと予想できます。

為替相場に落ち着きの兆し

2023年は金利差の拡大などにより急激な円安が進行し企業経営にとって大きな影響を及ぼしました。特に海外への投資を検討していた企業にとっては、円建てで見た際の投資額の増加がネックとなり新規案件の検討を一旦見合わせるといったケースも見られました。特にIT業界のM&Aでは対象企業の資産が大きくないことから、実際の会社の純資産に対してのれん金額が高額になることが多く円安による投資金額の増加は大きなインパクトとなっていました。

しかしながら昨年末から米国の利下げ観測や日銀のマイナス金利の修正といったニュースから円安に歯止めがかかり、為替相場は一旦の落ち着きを見せている状況となっています。先行きが不透明だった昨年に比べると海外への投資(M&A含む)についてよりクリアに検討が可能になり、投資件数も増えていくのではないかと考えています。

2024年も引き続き、IT業界含め多くの企業の海外進出に貢献できればと思っております。海外進出や事業承継についてご相談をご希望される方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

日本M&Aセンターの海外クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。

海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

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データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

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著者

河田 航佑

河田かわた 航佑こうすけ

営業本部 法人チャネル IN-OUT推進部

埼玉県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本M&Aセンターに入社。入社以来、業種特化事業部にて業界再編型のM&Aに取り組む。外資系企業とのクロスボーダー案件他、主担当として20件以上の成約実績がある。2020年3月期新人賞を受賞。2023年4月より海外事業部に参画。海外事業部では主にシンガポール、ベトナム、インドネシア企業との資本提携をサポートしている。

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