インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

安丸 良広

プロフィール

安丸良広

株式会社日本M&Aセンター 営業本部 海外事業部 ASEAN推進部(2026年1月当時)

海外M&A
更新日:

⽬次

本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。

(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)

M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。

特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれからのPMIについて正しく過程を踏んでいかないと思い描いたゴールにたどり着けません。
また軌道に乗るまでの期間については、かなり時間を要しますので、投資企業側では、“忍耐・我慢”が必要なことは言わずもがなかと思います。よってPMI計画については余裕を見ての計画立案が必要です。

会計・税務領域の統合

まず、PMIで必須の会計・税務領域の統合についてです。こちらは予想以上にインドネシアの場合時間を要します。そもそもインドネシア企業の財務諸表の透明性が低いことが最大のポイントです。

未上場企業の場合の注意点

未上場企業の場合、当然のようにIn-house決算書(実際の利益が出ているベース)と対税務局&銀行用の節税ベースの決算書(一定の規模の会社は監査済のものもあり)の通常2種類が作成されている点があげられます。

仮に監査を受けていても形ばかりの決算書もあり、投資後は会計事務所と相談し、外資企業(PMA)として一定の水準の決算書を作成していくことになります。またご承知の通り外資企業(PMA)企業となった場合、会計監査は必須となります。
この点インドネシアでの上場会社等の決算書が監査済で、比較的財務諸表の信憑性が高い企業については、会計・税務領域での統合は非監査企業と比較し簡単になります。

決算書の問題への対策

具体的には、未上場企業の場合、会計事務所の指導のもと、税務会計ベースの決算書をインドネシア会計基準の決算書(IFRSに近い財務会計ベース)へ変更していくことになります。インドネシアでの中小企業では、そもそもデーターを紙ベースで保管し、簡単なエクセル等で決算書を作成している(毎月の必要な税務申告のみ実施し、決算書作成は半期に1回のみのような会社もある)ことも多いのですが、PMAとなった場合、可能であれば会計システムを導入し、月次決算への対応、内部統制の整備、経営管理資料の作成、及び管理会計の導入の検討も必要となります。

よくあるケース

よくあるケースとしては製造業で実地棚卸が曖昧で、この棚卸を簡易な形で実施し、原価計算が実態を現していないケースや、従業員の退職給付債務に関して未計上の場合等があります。また監査済みの企業の場合でも、連結ベースで月次で決算書を作成していくとなると、かなりの労力が必要となります。

そもそも会計システムへの入力に時間を有するケースがあり、会計事務所がどこまで関与するかについて、綿密に事前打ち合わせを実施する必要があります。会計事務所選択の良し悪しがインドネシアのPMIには多分に影響を及ぼします。なお決算後の税務申告については、監査済の決算書に基づき申告する形となりますので申告の時期及び税務当局からの指導が入るかどうかに留意が必要です。

ビジネス領域

次にビジネス領域の論点について述べます。

統合後のビジョン

まず統合後の経営ビジョンについて両社でしっかり共有することが必要です。成長のための戦略会議については、まず現状の把握、続いて問題点の抽出、そしてその改善対策を協議し、およそ3ヵ月後にどのような状態まで向上すべきか?についてしっかり共有しておくことが重要となります。その後おおよそ1年後のあるべき姿を共有しておく必要があります。その他、人材採用育成及び製造業では設備投資計画等の資金計画面のすり合わせが必要となります。

人材・雇用

特に人材採用育成(雇用計画)は重要で、まず投資企業側の考えを、譲渡側インドネシア企業のパートナーへ説明し、それを踏まえ従業員へも開示の上、グループ企業としての経営方針をインドネシア企業のキーマン社員に落とし込むことが重要です。具体的には、投資企業としては、従業員に数年後にこのような社員になって欲しい(目標と育成方針の共有化)という明確な目標設定を個々に持てるまで指導していくことが必要となります。これにはインドネシア企業側のオーナーの協力が必要となります。インドネシア社員も最初は戸惑うケースが多いのですが、軌道に乗れば社員のやる気を引き出すことが可能となります。

設備投資計画

また製造業では設備投資面でも、M&Aの交渉前から交渉の中で設備投資計画は共有しているものかと思いますが、M&A後はより詳細に今後描く成長戦略を説明させ、そのための設備投資計画を共有しておくことが重要です。特にその資金調達手段についてもインドネシア企業からはしっかりと説明させることが重要です。投資企業にとってもやはり成長戦略の中で、投資企業の資金繰りが最重要課題であることは明白で、配当政策と合わせ入念に打ち合わせをする必要があります。

土地の所有権

最後に土地の所有権についても、外資企業(PMA)企業となった場合は留意が必要です。
きちんとHGB(Hak Guna Bagunan)と呼ばれる土地の使用権(建設権)を設定することが必要です。もしインドネシア企業と何らかの形でM&A後に揉め、この使用権の設定が出来ていない場合、製造業の場合この土地から出ていけと言われる可能性もゼロではないためです。

コミュニケーション領域

最後にコミュニケーション領域の論点について述べます。

M&Aで統合したわけですから、日本の投資企業としては、シナジーの創出を何としても実現させたいかと思います。ただ最初からシナジーを狙った経営をしていくのは時期尚早かと思います。

派遣する人材の選定

まず重要なのは、投資企業から派遣する人物の選定についてです。仮に日本からインドネシア企業に日本人を派遣する場合、なぜその人を選定したのかについて、インドネシア企業にきちんと説明し、理解を得ることが重要です。またその派遣される人物自体が、派遣につき自分に何が期待されているのか?について十分理解した上でインドネシアの地を踏むことが重要です。そもそも生活自体になれるまで時間を要しますが、じっくり取り組む必要があるかと思います。

また投資企業としては、自社の都合(投資回収等)を第一優先とするのではなく、インドネシア企業のかかえる問題&その不安解消にまずは重点を置く(じっくりと話を聞き、歩み寄る姿勢)姿勢を見せることがまず必要かと考えます。「上から目線」の対応は、インドネシアでは最も嫌われます。

目標を達成し、信頼を得る

まずは3ヵ月、そして1年と共有する目標を共に達成していくことが重要で、投資先のインドネシア企業の従業員から「オーナーにこの資本提携を決断していただいて良かった」「投資企業からは色々学ぶべきことがある」「成長のチャンスが広がった」という声がでてきて初めて、次のステップであるシナジーの創出が実現可能となることをご認識いただければと思います。

以上、インドネシアのM&Aに関するPMIについて私の考えを述べました。
言葉の壁、宗教、文化等日本とインドネシアは異なりますが、我々は同じ人間です。歴史的にもお互いを尊重できる国同士かと思います。
是非、ご一緒に両国の発展に寄与できる成長型M&Aを増やしていきましょう。

日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます

データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。
日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

プロフィール

安丸 良広

安丸やすまる  良広よしひろ

株式会社日本M&Aセンター 営業本部 海外事業部 ASEAN推進部(2026年1月当時)

総合商社、監査法人を経て2002年日本M&Aセンターに入社。2013年に前身である海外支援室の設立に参画。これまでの成約案件は100件を超える。2019年インドネシアオフィスの設立に携わる。インドネシア駐在歴は、前職の商社時代を含め約10年となる。 米国公認会計士(USCPA)。

この記事に関連するタグ

「クロスボーダーM&A・海外M&A・インドネシア」に関連するコラム

インドネシア アンボン島出張記

海外M&A
インドネシア アンボン島出張記

皆さん、こんにちは。インドネシア駐在員事務所の河田です。先日、とあるインドネシア企業の現地視察にて、インドネシア東部マルク州の州都であるアンボンに出張してきました。約17,000以上の島で構成されているインドネシアですが、アンボン島もその1つであり、アンボンは、そのアンボン島の主要都市です。なかなか馴染みが無いという人も多いと思いますので、今回はアンボン島と、今回視察してきたインドネシア企業につい

インドネシアの2025年はどうなる? ~経済、外交、国家長期開発計画~

海外M&A
インドネシアの2025年はどうなる? ~経済、外交、国家長期開発計画~

こんにちは、ジャカルタの安丸です。2025年におけるインドネシアのマクロ的な展望につき、私見を交えて解説させていただきます。(今回のこのコラムは、2025年1月8日に作成しています。)2024年の振り返り最初に2024年にインドネシアで起こった重要なイベントを、簡単に振り返ってみたいと思います。2024年はインドネシアにとって、重要なイベントが目白押しの1年でした。新大統領の就任10年振りの大統領

インドネシアと日本の歴史的関係

海外M&A
インドネシアと日本の歴史的関係

ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちらこんにちは、ジャカルタの安丸です。2023年6月、天皇皇后両陛下がご即位後、新型コロナウィルス感染症によるパンデミックの影響で止まっていた海外友好親善を目的とした訪問の最初の国として、インドネシアを訪問されました。日本でも大々的にニュースで取り上げられていましたので、皆様もご存

海外M&Aは、本当に「大企業だけのもの」なのか ― シンガポール現地法人コンサルタントに聞く、中堅企業の海外挑戦

海外M&A
海外M&Aは、本当に「大企業だけのもの」なのか ― シンガポール現地法人コンサルタントに聞く、中堅企業の海外挑戦

ベトナム・シンガポールで40件超の案件に携わったコンサルタントが語る、中堅企業でも挑める海外M&Aの現実と、成否を分ける現地支援の力とは。海外M&Aサイトを見る>海外M&Aは、本当に「大企業だけのもの」なのか「海外企業の買収なんて、体力のある大企業の話だ」「言葉も商習慣も違う国で、日本のやり方が通用するはずがない」。海外M&Aという選択肢を前に、多くの経営者がまずこう考えます。円安と国内市場の縮小

海外事業10周年!マリーナベイ・サンズで記念イベントを開催

海外M&A
海外事業10周年!マリーナベイ・サンズで記念イベントを開催

2026年9月1日、日本M&Aセンターの海外事業10周年を記念し、シンガポールのマリーナベイ・サンズで記念イベントを開催しました。日本およびASEAN各国から約350名の関係者が集い、これまで歩んできた軌跡を振り返るとともに、未来への展望を共有しました。イベントの模様を紹介します。新しくなった海外M&Aサイトを見る>2名でスタートした海外事業が10年で約65名体制に!日本M&Aセンターは2016年

「クロスボーダーM&A・海外M&A・インドネシア」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

日本ライフラインが米医療機器開発のCross Vascularを買収へ

日本ライフライン株式会社(7575)は、CrossVascular,Inc.(米国カリフォルニア州)の全株式を取得し、完全孫会社化することを決定した。株式は、完全子会社のJLLMedUSAInc.を通じて取得する。日本ライフラインは、不整脈領域のEP/アブレーション事業で国内のリーディングポジションを確立している。CrossVascularは、心房中隔穿刺用高周波システムの開発を手がけている。RF

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース