コラム

インサイダー情報の取扱い~平成25年金商法改正の影響~

大場 寿人

三宅坂総合法律事務所弁護士

M&A法務
更新日:

⽬次

[表示]

2012年、大手証券会杜から一部の投資家へインサイダー情報が漏えいしている問題が発覚し、世間の耳目を集めた。

これまでの事例を踏まえ、2013年6月、金融商品取引法(金商法)が改正された。これまでは規制対象とされなかったインサイダー情報を他人へ伝達する行為(情報伝達行為)や、インサイダー情報があることを仄めかして取引を推奨する行為(「詳しいことは言えませんが、今のうちに当社の株を買ったら儲かりますよ」など)(取引推奨行為)があらたに規制の対象とされることとなった。

法で禁止されるのは、これらの情報伝達行為や取引推奨行為のうち、相手方にインサイダー取引等を行わせて利益を得させる目的をもってなされた行為である。また、処罰の対象とされるのは、それらの行為によって実際にその相手方がインサイダー取引等を行った場合に限られる。

インサイダー情報の取扱い

インサイダー情報の取扱い

このような不持な目的をもってインサイダー情報を外部に漏らすこと自体は、従前から各社の内部規程等においても禁止されているはずであるから、今回の法改正によっても従前の実務が大幅に変更されることにはならない。しかし、ひとたび不正なインサイダー取引が発生してしまった場合には、その情報源となった情報伝達者の行為についても、嫌疑の目が向けられるリスクは避けられない。また、後日、いくら当事者同士が「インサイダー取引等を行わせて利益を得させる目的はなかった」と主張しても客観的な状況次第では、処罰の対象とされてしまうリスクが否定できない。

ところで、M&A実務では、関係各所への根回しのため、公表前に外部者に対しM&A実施に闘する説明を行う場面も少なくない。M&A実施に関する情報は、インサイダー情報に該当するから、最悪の場合には、5年以下の懲役及び500万円以下の罰金が科せられるリスクがある。今まで以上に慎重な対応をとることが必要になろう。

<参考>金商法改正を踏まえた実務上のポイント

(1)M&A情報等の重要情報は、知る必要のない者には知らせない。
(2)外部者への伝達が必要な場合には、事前に、情報を知らせる相手方、時期、内容及び方法等について、法務部門がチェックを行う。
(3)実際に外部者へ情報伝達する場合は、書面によるものとし、その情報伝達の宛先及び目的を明示しておく。
(4)外部者へ情報伝達した場合、経過に関する記録を作成し保存しておく。

広報誌「Future」 vol.3

Future vol.3

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.3」に掲載されています。

広報誌「Future」バックナンバー

著者

大場 寿人

大場おば 寿人ひさと

三宅坂総合法律事務所弁護士

2003年弁護士登録。三宅坂総合法律事務所パートナー。M&A・事業再生を中心に会社法務全般を取り扱う。M&Aを巡る各種訴訟(表明保証違反、独占交渉権侵害、株式買取請求等)や株主代表訴訟その他企業関連の紛争解決案件にも多数の実績がある。 【事務所概要】 上場企業、金融機関、その他各種企業、ファンド等のクライアントを中心に国内外の紛争解決、M&A等トランザクション、事業再生・倒産処理、コンプライアンス・リスク管理、国際法等の企業法務等全般を幅広く取り扱い、各分野において高度の専門性を有する各弁護士の知識とノウハウを活用してクライアントの利益に合致するリーガルサービスを提供している。急速に進展する日本とアジア経済の一体化、企業活動の国際的展開に対応するため、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールその他ASEAN諸国、インド等との企業の取引事業活動、M&A等の対応を多数実施している。

この記事に関連するタグ

「広報誌・M&A法務・成長戦略」に関連するコラム

会社法改正によるM&A実務への影響

M&A法務
会社法改正によるM&A実務への影響

会社法改正とM&A周知のとおり、改正会社法は2014年6月20日に通常国会で成立しており、本稿作成時点においては、2015年5月1日より施行される見込みとなっている。今回の改正項目の中にはM&A実務に影響を与えるものもあり、特にスクイーズ・アウト(キャッシュ・アウト)に関しては、新たな制度の導入や既存の制度の見直しが多々なされているため、以下に概説する。なお、M&Aに関連する改正項目としては、他に

カーブアウトの法務

M&A法務
カーブアウトの法務

カーブアウトの法的スキーム企業グループの既存事業を見直し、選択と集中を行う場合、ノンコア事業部門を事業売却する手法は、カーブアウト(又はスピンアウト)と称され、数多くの活用事例がある。ノンコア事業が100%子会社の形態で存在する場合は株式譲渡の手法によるが、企業内の事業部門である場合、以下が主要な方法である。1.事業部門を事業譲渡する2.事業部門を会社分割の方法で分割したうえでその事業部門を承継し

M&Aの手法とPMIにおける人事労務対応の特色

PMI
M&Aの手法とPMIにおける人事労務対応の特色

M&Aにおける人事労務面の統合(PMI)は、吸収合併、株式譲渡、事業譲渡・会社分割により進め方・特色に違いがある。PMIとは|M&A用語集吸収合併の場合被買収会社の人事労務体系を買収会社の人事労務体系にいわば「片寄せ」できるかは、M&Aの実務上大きな課題である。事業譲渡(譲受)の場合と異なり、合併では被買収会社の労働者の地位はクロージングにより包括的に承継されるので、合併前に人事労務面の統合に関す

M&A成功に必要な戦略と中期経営計画

M&A全般
M&A成功に必要な戦略と中期経営計画

企業において、『中期経営計画』は極めて重要なものだ。「この企業を取り巻く環境は、どうなっているのか?」、「その環境を踏まえて、この企業を5年後にどのようにしたいのか?」、「在るべき姿にする為のアクションプランはどのようなものか?」を明確にするのが『中期経営計画』である。また、『中期経営計画』は、自社の成長にとって不足する経営資源を確認する役割も持つ。オーガニックな『自助努力』によって計画した成長を

M&Aのフェアバリュー実現に必要な「取引事例法」とは

企業評価
M&Aのフェアバリュー実現に必要な「取引事例法」とは

売り手と買い手双方が納得できる適正価格未上場会社のM&Aは活況を呈しており、マーケットが形成されつつある。そんな中、一層のM&Aの普及に関しては、M&Aにおける取引価格決定の透明化・円滑化が大きな課題のひとつとなっている。一般的に“価格”と“価値”は異なると言われている。日本公認会計士協会が公表している企業価値評価ガイドラインによると、「価格とは、売り手と買い手の間で決定された値段である。それに対

戦略的M&AにおけるPMIの優先順位

PMI
戦略的M&AにおけるPMIの優先順位

売り手と買い手がともに成長するPMIPMIとは「PostMergerIntegration(合併後の統合)」の略語である。そのためPMIは「買い手目線」で語られることが多いが、「統合」や「吸収」という視点だけでPMIを進めていくことはできない。「戦略的M&A」においては、売り手企業の良さを活かす、従業員のモチベーションを高める、といったことが両社の成長に必要不可欠な要素となるためだ。我々は、PMI

「広報誌・M&A法務・成長戦略」に関連する学ぶコンテンツ

基本合意書(MOU)とは?M&Aで締結する目的・留意点を解説

基本合意書(MOU)とは?M&Aで締結する目的・留意点を解説

M&Aにおいて基本合意書は、主に交渉内容やスケジュールなどの認識を明確にし、スムーズに交渉を進めることを目的として締結されます。本記事では、基本合意書の概要や作成するにあたり注意すべき点などについてご紹介します。なお、本文では中小企業M&Aにおいて全体の8割程度を占める、100%株式譲渡スキームを想定した基本合意書の解説とさせていただきます。日本M&AセンターではM&Aに精通した弁護士・司法書士・

M&Aの最終契約書とは?ポイントを専門家が解説!

M&Aの最終契約書とは?ポイントを専門家が解説!

本記事ではM&Aの最終段階において締結される最終契約書のポイントについて、M&Aの専門家がわかりやすく解説します。日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこちらM&Aの最終契約書とはM&Aにおける最終契約書(DefinitiveAgreement、通称「

契約締結前の最終条件調整。押さえておきたいポイント

契約締結前の最終条件調整。押さえておきたいポイント

M&Aの最終契約に盛り込まれる事項は多岐に渡ります。ここでは、最終条件の交渉を行う上で、主要な事項及び細目事項をご紹介します。日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこちら最終条件の交渉とは最終契約書が締結されて、M&Aは実行フェーズにうつります。株式譲

M&Aにおける法務を詳しく解説!

M&Aにおける法務を詳しく解説!

本記事ではM&Aの法務の必要性、留意点等についてわかりやすくご紹介します。M&Aにおける法務の必要性M&Aの実行に当たってはビジネス・財務・法務、すべての観点が欠かせません。このうち、ビジネスの観点は、譲受側(買い手)の経営陣が得意とされるところです。そして財務的観点は、ほとんどの中小企業で決算書等の数字を中心に、まず確認される点です。これらの2つに加え重要になるのが「法務的観点」です。そもそもM

M&Aにおける登場人物とその役割

M&Aにおける登場人物とその役割

M&Aの実行には高度な論点が複雑に絡み合い、高い専門性や知識が必要とされるため当事者以外に多くの関係者が登場します。本記事ではM&Aの関係者・専門家について解説していきます。分類登場人物概要・主な役割M&Aの当事者M&Aの取引対象M&Aで取引されるもの(会社・事業など)譲渡希望企業(M&Aの売り手)「M&Aの取引対象」の保有者(株主・会社)譲受け希望企業(M

M&Aの相談先。頼れる専門家について

M&Aの相談先。頼れる専門家について

自社の今後を見据え、M&Aという選択肢が浮かんだ時、あなたらどうするでしょうか。まず誰か詳しい人に話を聞いてみよう、相談しようと考える人が多いのではないでしょうか。M&Aの実行には高度な論点が複雑に絡み合い、高い専門性や知識が必要とされるため、当事者以外に専門家をはじめ様々な関係者が関係してきます。本記事では具体的に誰に、M&Aの相談をするのがふさわしいのか解説していきます。M&A分野の専門家まず

「広報誌・M&A法務・成長戦略」に関連するM&Aニュース

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース