企業統合に関する改正会計基準の実務上の留意点

青木 孝光

著者

青木孝光

株式会社AGSコンサルティング税理士

M&A実務
更新日:

⽬次

[表示]

イエローハットは、ドライバースタンドの取得により、2,027百万円の負ののれん発生益を認識している(2014年3期及び2015年3期の有価証券報告書より)。当該負ののれんの一括収益認識は、2008年12月26日「企業結合会計基準」の一部改正によるものであり、20年以内の一定の年数で規則的に償却する処理から、一時の利益に計上する処理に改正された。

負ののれんの一括収益認識は、国際財務報告基準(IFRS)とのコンバージェンスの観点から、従来の取扱いが見直された処理であり、引き続き、コンバージェンスに向けた段階的な見直しが行われている。

次ステップとして、2013年9月13日に公表された改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」及び関連する他の会計基準等が公表されている。主な改正ポイントは以下の点である。

(1)非支配株主持分の取扱い
(2)取得関連費用の取扱い
(3)暫定的な会計処理の確定の取扱い
(4)表示方法の変更

(適用時期)2015年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用 表示方法(連結基準第39項)を除き、2014年4月1日以降での早期適用も可(但し、すべての基準の早期適用が条件)

今回は、改正基準に伴う組織再編の影響が考えらえる(1)及び(2)について簡単に触れたいと思う。

(1)については、現金対価により支配獲得後に完全子会社化する場合は、支配獲得後の取得においては、のれんが生じないため、支配関係のない会社を現金取得や株式交換などで完全子会社化するケースと比較し、のれんの金額が異なるため、損益インパクトも異なる結果となる(下記図解参照)。従って、改正前の会計基準と比べて、特に共通支配下の取引等に影響を及ぼすため、スキーム検討には留意が必要となる。

改正による損益インパクトの有無

改正による損益インパクトの有無

(2)については、外部のアドバイザリー等に支払った特定の報酬・手数料等が多額である場合、改正前と比較し、統合年度の損益インパクトは改正前と比べて多額になる一方で、のれんの額が改正前に比べて小額となるため、償却額が小さくなる結果となる。

当該改正点は、連結財務諸表における子会社の取得原価の論点であるため、個別財務諸表における子会社の取得原価は、従来と同様に「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定することとなるため、投資と資本の相殺消去の際に把握する子会社と取得原価と個別財務諸表上の取得原価が異なる点に留意が必要となる。

本改正は、コンバージェンスに向けた段階的な見直しが行われる中の一環に過ぎないため、改正対象外となっている論点も多数存在する。改正企業会計基準の今後の動向に留意する必要がある。

広報誌「Future」 vol.3

Future vol.3

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.3」に掲載されています。

広報誌「Future」バックナンバー

著者

青木 孝光

青木あおき 孝光たかみつ

株式会社AGSコンサルティング税理士

【会社概要】株式会社AGSコンサルティング・AGS税理士法人事業内容:MS(マネジメント・サービス)事業、IPO支援事業、M&A事業、TA(企業再生支援)事業、IS事業(国際業務)、J-SOX関連サービス、会計及び税務顧問他

この記事に関連するタグ

「広報誌・M&A会計・M&A税務・成長戦略」に関連するコラム

海外のM&Aにおいて税務・会計面での留意点

海外M&A
海外のM&Aにおいて税務・会計面での留意点

はじめに自動車や家電など資本財メーカーに加え、消費財メーカーやサービス業の日本企業によるアジア、特にASEAN5(インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア)へのM&Aによる進出が盛んだ。近年ではさらに、メコン経済圏(ミャンマー・カンボジア・ラオス)も注目を集めている。数はまだ少ないが、メコン経済圏への日本企業の直接投資も始まっている。ユニチャームは、2013年3月、ミャンマーの紙おむつ

プレミアム分析 会計・税務の観点から -イオンによるダイエーの子会社化-

M&A実務
プレミアム分析 会計・税務の観点から -イオンによるダイエーの子会社化-

本公開買付けは、公表日時点において市場株価がTOB価格を上回る価格となっている。上場会社であれば、客観的な株価指標として市場株価が形成されているが、かかる市場株価を下回る価格でのTOB価格となっていることが本公開買付けの特徴と言える。かかる点を踏まえ、以下でプレミアム分析を行う。プレミアム分析本公開買付けの買付価格270円は、本公開買付けの実施について公表した日の前営業日である2013年3月26日

「負ののれん」とは?発生する原因や会計・税務上の処理を解説

M&A実務
「負ののれん」とは?発生する原因や会計・税務上の処理を解説

「負ののれん」とは、買収価格が対象企業の純資産額より低い金額で成立した場合の差額を指します。「負ののれん」が発生する主な原因には、簿外債務や訴訟リスク、その他事業リスク等が挙げられます。本記事では「負ののれん」が企業に与える影響や、適切な対処方法について解説します。「負ののれん」とは?M&Aにおいて算出する買収対象企業の価値は、企業が保有する有形資産(土地、建物、機械等)だけでなく、無形資産(ブラ

のれん償却とは?メリットやデメリット、仕訳方法などをわかりやすく解説

M&A実務
のれん償却とは?メリットやデメリット、仕訳方法などをわかりやすく解説

会社の財政状態及び経営成績を理解する上で、企業価値を左右する「のれん償却」は見過ごせない要素です。本記事では、のれん償却の概要や、メリット・デメリットなど詳しく解説します。のれん償却とはのれん償却とは、会計処理の一つで、主に企業の買収や合併などで発生する「のれん」の価値を、一定期間にわたり規則的に償却することを指します。具体的には無形固定資産に計上した「のれん」の一部を、一定の期間ごとに「のれん償

減価償却とは?対象資産、計算方法、仕訳をわかりやすく解説

M&A実務
減価償却とは?対象資産、計算方法、仕訳をわかりやすく解説

建物や機械、設備などの資産のうち、時間の経過とともに価値が減少していくものについて減価償却という会計処理を行います。本記事では減価償却の概要、M&Aにおける影響など、専門家がわかりやすく解説していきます。日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこちら減価

【連載「会計事務所のための補助金解説」①】補助金をおすすめする3つの理由

事業承継
【連載「会計事務所のための補助金解説」①】補助金をおすすめする3つの理由

※本記事は、中小企業の経営者から経営、事業承継についてご相談を受ける機会の多い、会計事務所のご担当者に向けた連載記事です。皆さんこんにちは。株式会社湘南フロンティアで補助金サポーターをしております、藤井と申します。会計事務所のご担当者に向けて、補助金を分かりやすく解説する活動を行っております。今回は、会計事務所に補助金をおすすめする理由を解説します。会計事務所に補助金をおすすめする理由補助金をおす

「広報誌・M&A会計・M&A税務・成長戦略」に関連する学ぶコンテンツ

「広報誌・M&A会計・M&A税務・成長戦略」に関連するM&Aニュース

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース