コラム

物流業界のM&Aが増加している背景とは?わかりやすくニュース解説!

臼井 智

プロフィール

臼井智

日本M&AセンターTOKYO PRO Market事業部 上場推進部長

西川 大介

プロフィール

西川大介

株式会社日本M&Aセンター 執行役員 成長戦略開発センター長/ 株式会社ネクストナビ 取締役

M&A全般
更新日:

⽬次

[表示]

2024年問題が影響?物流業界のM&A増加の背景をわかりやすく解説
日本M&Aセンターの中で特に業界での経験豊富な二人のスペシャリストが、世の中の企業のM&Aの動き、プレスリリースを中心に解説する「M&Aニュースサテライト」。今回は物流業界のM&Aが近年増加している背景について詳しく解説します。

本記事の動画はこちらからご覧いただけます。

物流業界に差し迫る「2024年問題」

西川: 前回、前々回と日立物流の事例を取り上げてきましたが、今回はその流れで物流業界に関するM&Aにフォーカスしていきたいと思います。

臼井: はい、どうぞよろしくお願いします。

西川: さっそくですが物流業界のM&Aはこの4.5年見ていても、年々増えている印象です。その背景には 「輸送効率の悪化」、「環境規制への対応」、「深刻な人手不足」、「労働環境の改善」 という4つの外部要因が挙げられます。いわゆる「2024年問題」が示す課題でもありますが、いずれも対応するのが大変であり、場合によってはコストもかかります。そもそもコストや時間をかけても対応しきれない、という会社も多いという状況もM&A増加の背景にあるとも考えられます。特に「2024年問題」は非常に今話題になっていますが、臼井さんはこのテーマをどう捉えていますか。

臼井: 非常にインパクトが大きい問題ですよね。ざっくりとした表現で言うと、働き方改革関連法案に伴い「労働時間を少し減らしてください、抑えてください」という規制が2024年4月から適用されることで懸念される諸問題が「2024年問題」と言われています。

臼井: そもそも今ドライバーさんの数が少なくなっています。そして高齢化が進む一方で世代交代が十分に行われていない。若い人は車の免許そのものを持っている人が少なくなっていますし、ましてや大型の運転に慣れていない、とこういう状況です。
昔のトラックの運転手さんは、それこそ1年のうち半分をトラックの中で過ごすほど「労働時間を長くして稼ぐ」ということに魅力を感じていたと思うのですが、その世代の人たちがちょうど引退の年齢に差し掛かっています。その一方、次の世代にとって魅力的な業界になっているか、というと待遇や働く環境など諸条件でなかなかそうもいかない。加えて労働時間が減るということは、その分昔のように稼げなくなるということになりかねません。

西川: 大変な問題ですよね。

産業の中でも大きな割合を占める物流業界

西川: そもそも物流業界自体はかなり大きな市場であり、この2024年問題の影響を受ける人たちはたくさんいらっしゃいます。市場規模としては約20数兆円、ちょうど外食産業と同じくらいでしょうか、様々な産業がある中でも市場規模が大きい業界です。その物流業界のうち6割、約14~15兆円ほどが、いわゆるトラック運送業です。トラック運送業の9割程度が「一般貨物運送」、その事業者数は6万者を超えているということで、そのほとんどが中小企業だと思われます。

この中小企業に所属する従業員の方々が非常に高齢化している。長時間働きたいけれども、無理をすると事故の可能性もある。いわゆるコンプライアンス問題ですね。2024年の4月からの規制適用で時間外労働の上限が年960時間となりますが、将来的にはさらに短くなるだろうと見込まれています。

臼井: 西川さんのお話で、トラックの事業者数が6万者とありましたが、20年近く前の規制緩和で参入障壁が低くなり、物流の事業者数自体が増えたという背景もあります。新規参入だったり、仲間を連れて独立する人が出てくるなどして大幅に増えました。それから20年近く時間が経ちましたので、例えばその時独立した50歳の社長は今や70歳になってそろそろリタイアを考えてる。ドライバーの中心だった40歳の人は60歳になって「長距離の運転は体力的にも厳しいなぁ」と、こういう状況だと思います。

西川: この事業ってやはり設備投資、あるいはメンテナンスを含めて永続的に高額なコストがかかると思います。加えて時間外労働の問題がありますから、今後予想されるのは拠点をこれまで以上に、より細かいメッシュで作っていく必要があるということ。

西川:そもそもトラックのお金でも相当な金額なのに、さらに拠点を増やしていかなければいけない。こんなコストを負担できる会社は非常に限られていると思うんですよね。
中規模、大手の未上場もしくは上場企業クラスにならないと、なかなかコストの負担ができないということで業界再編が進んでいますし、今後もっと増えることが予想されます。

臼井: M&Aというのは買い手、売り手がそろわないともちろん成立しないわけですけれども、売り手の事情でいうと事業承継問題、あるいは前回の日立さんのような「事業の選択と集中」による売却、一方買い手側の事情でいうとこれからの時代を考えると環境・労働問題への対応、設備投資などいずれもスケールメリットがないと戦っていけない。これら双方の事情がマッチしているという状況だとみています。

西川: 法人の取引先だけでなく、一般の消費者含めて物流会社さんに対する要求が非常に多様化していますし、そこに求める品質レベルもどんどん高くなっていますから、物流会社さんは大変だなと感じます。

臼井: 物流業は最近始まったビジネスではなく、非常に歴史が長いですよね。自動車を扱うようになったのは戦後ですけれども、物を運ぶというのはかなり歴史が長い。誰かきちんと物を運ぶ人がいないと世の中が回っていかない、という我々の生活に欠かせない大切な産業です。今後いかに効率や品質をさらに高めて、そして中で働く人たちの幸せを考えて業界全体を成長・発展させていくか。その文脈の中にM&Aがあるのだろうと考えます。

物流関連のM&Aを活発に行う企業とは

西川: 業界についてここまでご紹介してきましたが、それでは実際にどういった企業が買い手になっているのかを見てみました。
例えば3PL(サードパーティーロジスティクス)の世界だと、 センコーグループホールディングス さんですとか、 SBSホールディングス さん、 ハマキョウレックス さんという会社が挙げられます。


ここ10年の間で、センコーグループさんの場合だとおそらく20件を超えるM&A、同様にSBSさん、ハマキョウレックスさんも10件を超えるM&Aを行っているということが各社プレスリリースから確認できます。

あるいは総合物流、国際物流の世界でみると NIPPON EXPRESSホールディングス さん、 日本郵政 さん、 山九 さん。倉庫系だと 三井倉庫ホールディングス さん、路線トラック系だと セイノーホールディングス さん、 トナミ運輸 さん、宅配便の ヤマト運輸 さんが例に挙げられます。そのほか物流情報サービスを得意としている トランコム さん、新車・中古車輸送の ゼロ さん、総合商社だと 三菱商事 さんなどが挙げられます。

こうした企業が有力な買い手として物流関連のM&Aを行っています。今挙げた企業の中に名前は入っていませんが、今年に入って日立物流さん以外にも物流業界で大掛かりなM&Aが行われました。次回はその事例について掘り下げていきたいと思います。

臼井: どんな事例が出てくるでしょうか、次回もどうぞお楽しみに!

本記事の動画はこちらからご覧いただけます。

<関連コラム>
物流業界が直面する2024年問題とは?M&A含め具体的な対策を解説

上場企業向け企業戦略サービス

日本M&Aセンターでは上場企業の成長を実現するM&Aをサポートします。戦略実現のためのプロアクティブサーチや企業組織再編など、高度なスキーム提案を上場企業専門チームが行います。

プロフィール

臼井 智

臼井うすい さとし

日本M&AセンターTOKYO PRO Market事業部 上場推進部長

1991年に山一證券株式会社に入社、M&A部門に配属。同社自主廃業後、大手証券会社M&A部門を経て2009年に日本M&Aセンター入社。27年間にわたり一貫して国内外のM&A仲介アドバイザリー業務の第一線に従事。上場企業同士の経営統合から中小企業の事業承継案件まで、規模の大小を問わず幅広い業界にて200件超のM&A成約実績がある。最近は、S&P Global Market Intelligenceに2024年M&A展望についてコメントを寄稿。

西川 大介

西川にしかわ 大介だいすけ

株式会社日本M&Aセンター 執行役員 成長戦略開発センター長/ 株式会社ネクストナビ 取締役

大手プラントエンジニアリング会社(海外プラント建設)、Big4系コンサルティングファーム(PMI等)、大手証券会社(M&Aアドバイザリー)を経て、2010年に当社に入社。通算20年近いM&A実務経験に強み。現在、上場会社グループに特化してM&Aサービスを提供する部門を率いる。事業ポートフォリオ再構築プランやM&A戦略の立案サポートから、クライアント毎のオーダーに基づく案件オリジネーション、交渉・実行サポートを行う。弊社において、大型案件、複雑案件、及びノンコア切離し案件をリードする。

この記事に関連するタグ

「買収・業界再編・業界別M&A・カーブアウト・事業承継」に関連するコラム

ENEOS(エネオス)の買収事例にみる石油業界の今後【M&AニュースサテライトVol.1】

M&A全般
ENEOS(エネオス)の買収事例にみる石油業界の今後【M&AニュースサテライトVol.1】

「世の中のM&A事例をわかりやすく解説してほしい」そんな声にお応えする解説動画が、YouTubeの公式チャンネルでスタートしました。解説を行うのは、日本M&Aセンターの中でも長年業界に携わってきた、M&Aマスターの二人です。本記事では動画の内容をご紹介します。動画はこちらから西川:皆様こんにちは!日本M&Aセンター企業戦略部の西川です。どうぞよろしくお願いいたします。臼井:日本M&AセンターTOK

2024年問題とは?物流・運送業への影響、対策をわかりやすく解説

経営・ビジネス
2024年問題とは?物流・運送業への影響、対策をわかりやすく解説

2024年問題は、主に物流・運送業界、建築業界などに様々な影響を及ぼすとされています。本記事では、物流・運送業界における2024年の概要、想定される影響や対策についてご紹介します。M&Aの目的、検討ポイントは業界・業種によって異なります。物流・運送業をはじめ各業界・業種に精通した専門チームがあなたの会社のM&Aをご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。物流・運送業界のM&Aについ

新NISAがM&Aのきっかけ?ドコモのマネックス証券子会社化を解説

M&A全般
新NISAがM&Aのきっかけ?ドコモのマネックス証券子会社化を解説

業界経験豊富なM&Aのスペシャリストが、世の中の企業のM&Aの動きについて、プレスリリースを紐解き解説する「M&Aニュースサテライト」。今回はNTTドコモとマネックスグループ・マネックス証券のニュースを解説します。※本記事はYouTube動画の内容を抜粋・編集してご紹介します。日本M&Aセンターは上場企業、中堅・中小企業のM&A・企業戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。ご相談は無料、秘密厳

M&A動向2023年の予測、そして2022年の振り返りをM&Aのプロが解説!

M&A全般
M&A動向2023年の予測、そして2022年の振り返りをM&Aのプロが解説!

2022年に行われたM&Aを振り返る西川:今回は2022年のM&Aの振り返りと予測ということで・・・年末企画みたいな感じですね(笑)1番のポイントとなるのは、昨年、日本企業が関与したM&Aの公表件数ですね。どれぐらいあると思いますか。臼井:多分、4,304社ぐらいじゃないですかね・・新聞に出てました(笑)。西川:臼井さんがおっしゃったようにレコフM&Aデータベースによると4,304件ありました。レ

M&Aの進め方とは?検討からクロージングまで、流れやポイントを解説

M&A実務
M&Aの進め方とは?検討からクロージングまで、流れやポイントを解説

M&Aは、検討を始めてから実行までの間にやるべきことが多く、その全容を正しく理解することは簡単ではありません。本記事では、M&A仲介会社の支援を受けた場合のM&Aの進め方について、「1.初期検討・相談」「2.マッチング・候補企業の検討」「3.面談・基本合意」「4.最終条件調整・成約」の主なフェーズごとに、押さえておきたいポイントを含めてご紹介します。参考:M&Aの全体の流れ(日本M&Aセンター)P

西日本におけるIT企業のM&A事情とは?IT業界の事業譲渡にも迫る

M&A全般
西日本におけるIT企業のM&A事情とは?IT業界の事業譲渡にも迫る

小森:買収の参観日チャンネル、今回は大阪支社からゲストに登場してもらいます。岡部:西日本事業法人部の岡部と申します。主にIT関連のお客様のM&Aをお手伝いしております。小森:岡部さんと一緒に、西日本のIT業界のM&A事情を色々掘り下げていきたいと思います。IT業界と建設業は似ている?小森:岡部さん自身がITに興味を持ったのは、どういうきっかけでしょうか。岡部:IT企業というと、勢いのあるベンチャー

「買収・業界再編・業界別M&A・カーブアウト・事業承継」に関連する学ぶコンテンツ

業界別にみる中小企業のM&A動向

業界別にみる中小企業のM&A動向

現在、あらゆる分野・業種で、大小さまざまな規模のM&Aが行われています。業界再編が進みM&Aが活発な業界や、近年、急激にM&A案件数が増えている業界など、業種や業界によってM&Aの検討のポイントは異なります。本記事では主な業界の現状動向についてご紹介してまいります。医薬品卸・小売業界医薬品卸売・小売という大カテゴリーの中でも、中小企業のM&Aで圧倒的に多く見られる調剤薬局についてご紹介します。調剤

譲渡企業(買収先)の探し方。ロングリスト、ショートリストとは

譲渡企業(買収先)の探し方。ロングリスト、ショートリストとは

M&A仲介会社などパートナーを選定したら、次は買収先、つまり譲渡企業(売り手)を探すステップに移ります。お相手探しは主に2つの方法で行われます。それぞれについて詳しく見てまいりましょう。買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録(無料)はこちら譲渡企業の探し

譲受け企業(買い手)がM&Aで押さえておきたいポイントとは?

譲受け企業(買い手)がM&Aで押さえておきたいポイントとは?

一言でM&Aといっても、買収戦略を実行していく譲受企業(買い手)側には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。【登録無料】買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録はこちらM&A実行の目的・メリット一般的に

「買収・業界再編・業界別M&A・カーブアウト・事業承継」に関連するM&Aニュース

さくら野百貨店、北上店を北上都心開発に承継へ

株式会社さくら野百貨店(青森県青森市)は、百貨店事業のうち北上店に関して持つ権利義務を、新設立する株式会社いわて北上リテールマネジメントに承継させる新設分割を決定した。その後、新会社の全株式は、2023年8月末に北上都心開発株式会社(岩手県北上市)が買収し、子会社化する。北上都心開発は、2000年の開店より北上店が入居しているツインモールプラザを運営している。なお、新会社とさくら野百貨店は商標等ラ

伊藤忠丸紅鉄鋼、米国現地法人を通じ米Worthington Specialty Processing社所有のジャクソン工場を買収

伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社(東京都中央区)は、米国現地法人であるMarubeni-ItochuSteelAmerica,Inc.(米国ミシガン州ジャクソン、以下MISA)を通じ、WorthingtonSpecialtyProcessing社のジャクソン工場(米国ミシガン州ジャクソン)の買収を2022年11月1日(米国時間)に完了した。また、MISAは新会社「MISASpecialtyProcessin

パナソニックコネクト子会社の米ブルーヨンダー、米ワンネットワークを約1270億円で買収へ

パナソニックコネクト株式会社(東京都中央区)の100%子会社でサプライチェーンのリーディングソリューションプロバイダーであるBlueYonder(米国アリゾナ州)は、サプライチェーンを根本的に変革する取り組みを続けており、2024年3月29日、米国OneNetworkEnterprises(OneNetwork)社を約8億3,900万ドル(約1,270億円*)で買収する契約を締結したことを発表した

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース