2度「買われた」経営者が、今は「買う」側へ。Boost Capital小澤隆生氏が語る、会社を強くするM&Aの思考法

登壇:Boost Capital株式会社 代表取締役 小澤 隆生 氏
開催:成長戦略セミナー2026 in 東京/変化する時代に挑む。経営みらい設計勉強会

2度「買われた」経営者が、今は「買う」側へ。Boost Capital小澤隆生氏が語る、会社を強くするM&Aの思考法
登壇者プロフィール

小澤 隆生氏(千葉県出身)
千葉で生コン事業とホテルを営む家庭の3代目。Eコマース企業を創業し2001年に楽天へ売却、楽天の役員に。2社目を創業しヤフーへ売却、ヤフーの社長を歴任。ヤフー在籍時は一休・ZOZO・クラシルなど大型買収を主導。
現在はBoost Capital株式会社 代表取締役として、買収と投資を軸に事業を展開

自身が創業した会社を2度、楽天とヤフーに売却した経験を持ち、その後はヤフーの社長として一休やZOZOなど数々の大型買収を主導してきた小澤隆生氏。現在はBoost Capital株式会社の代表として、買収と投資を軸に事業を展開しています。「買われる側」と「買う側」の両方を経験してきたからこそ語れる、M&Aを経営に活かすための考え方とは。国内M&A市場の最新動向から、大型買収の裏側にある「計算式」、そして買い手として成功するための条件まで、実体験に基づいて語っていただきました。

「買われる」を2度経験した経営者が見た、M&Aへの意識の変化

私は、千葉で生コン事業とホテルを営む中小企業の3代目として育ちました。父の会社がバブル崩壊で傾き、「別の事業を立てなさい」と言われたことをきっかけに、Eコマースの会社を創業しました。父の会社自体は残すことができませんでしたが、自分の会社は2001年に楽天に買収されました。今から25年前に、私の1社目は「売却」という形で区切りを迎えたことになります。その後にもう1社を立ち上げ、その会社は今度はヤフーに買収されました。つまり私は、2度「買われた」経験を持つ経営者ということになります。

私が少し珍しいのは、買収された会社に留まる、あるいは辞めるのではなく、楽天に買われたら楽天の役員、ヤフーに買われたらヤフーの社長と、親会社の経営陣に入ってきた点です。買われた会社の経営を担うだけでなく、社長まで務めさせてもらったのは、当時としても非常に珍しいことでした。

さらに、楽天でもヤフーでも今度は「買う側」に回り、特にヤフーではかなり大きな買収を手掛けました。併せてスタートアップへの投資も20年以上続けており、現在は買収と投資を行うBoost Capitalという会社を経営しています。買ったり、売ったり、投資をしたり。かつては良い印象を持たれにくかったかもしれませんが、もうそういう時代ではありません。

2度の「買われる」側から、「買う」側へ。
世の中のM&Aに対する印象は、大きく変わりました。

― 小澤 隆生 氏

M&A件数は10年で2倍に。国内市場の最新動向

昨年1年間で行われたM&Aは約5,100件にのぼります。2015年が約2,500件でしたから、およそ10年で2倍になった計算です。しかもこの5,100件は公表されている件数のみで、未上場企業同士など非公表の案件を含めると、実際には大なり小なり8,000件程度のM&Aが行われているとみられます。

件数の内訳は大きく4つに分類されますが、最も多いのは非上場企業を中心とした事業承継型のM&Aです。国内約350万社のうち、約60万社が「黒字なのに後継者がいない」会社と言われており、毎年多くの企業でオーナーチェンジが起きています。

次に存在感を増しているのが、主に非上場企業へ投資するファンドを買い手とするM&Aです。またスタートアップのEXITについても、上場できるのは年間60〜70社ほどである一方、投資を受ける会社は年間数千社にのぼります。投資を受けた以上、株式を現金化する手段は本来、上場か売却しかありません。売却は、投資を受けた経営者の責任として必ず検討すべき選択肢なのです。

なお税制面では、超富裕層への課税強化により、株式売却時の手取りが億単位で変わるケースも出てきます。売却をお考えの方は、適用時期も含めて注意された方がよいでしょう。

一休、ZOZO、クラシル ― 大型買収の裏側にある「計算式」

一休は、2015年に約1,000億円のTOBで完全子会社化しました。当時の売上は275億円、営業利益は22億円です。金額が大きいので、利益22万円の会社を1,000万円で買ったと置き換えて考えてみてください。利益の約50年分ですから、高い気がしますよね。それでもなぜ買うのか。「自分たちが経営したら、もっと利益を出せる」というストーリーを持っているからです。それがあるからこそ買えるのです。

ヤフーには旅行を検討するお客様が大勢来ており、従来はその送客で収益を得ていました。それを他社にお渡しするのではなく、自分たちの経済圏の中でホテルの予約までしてもらえばいい。検索しているお客様のうち何割が自社サービスで予約してくれれば利益がいくら出る、という非常に分かりやすいシナジーと計算式が立ったので、この金額を出しても大丈夫だと判断できました。結果、今では年間250億円ほどの利益が出ており、実質4年で投資を取り戻せた計算になります。

どの会社を買うときも、自分たちの強みを十分に理解した上で、ものすごくシンプルな計算式に落とし込んでから検討・実行します。たとえば一休のビジネスモデルは、1万人のお客様が来て、そのうち20%の2,000人が予約し、単価が2万円なら取扱高は4,000万円、その約10%の400万円が売上になる、という簡単な方程式で説明できます。ならば、その1万人を100万人にすれば100倍になるじゃないか、ということです。

思い通りにいかないのは、100万人と見込んだ送客が80万人や50万人にとどまる、といったずれです。それは「もう少し頑張らなければ」という程度の話であって、方程式そのものが崩れているわけではありません。この計算式さえ成り立っていれば、社内でも取締役会でも、そして株主に対しても説明がつくのです。

ZOZOの場合は、企業価値8,000億円に対して51%、4,007億円を投じた案件です。高いですよね。これも数式を懸命に叩いて「これならいける」と判断して買いましたが、蓋を開けるとうまくいかないことも多く、大変苦労しました。それでも買収時に約256億円だった利益は、皆さんの経営努力によって、今では700億円ほどの規模に成長しています。

一方、クラシルは取得金額93億円、会社の評価としては300億円を付けた案件です。赤字でしたが、一休やZOZOとは全く違う計算式で成り立つと判断して買いました。ところがその計算式自体がかなり狂ってしまい、社長と相当なやりとりを重ね、最終的にはスイングバイIPOという形で上場を果たしました。思い出深い案件ですが、再現性の乏しい特殊事例であり、こうした買い方はあまりおすすめしません。

買い手として成功する条件 ― 目的から入り、5年後・10年後から逆算する

会社を買うというのは、紹介されて初めて検討するのではなく、「こういう目的があるから、その目的に則ってこういう会社を探す」という順番が正しいのです。たとえば、お付き合いのある300社に新しい商品を売りたいなら、自分たちで作るのか、ちょうどその商品を作っている会社を買うのか。靴を売っていてブーツがよく売れているなら、ブーツの会社ごと買えば小売より利益率が高くなる。これは垂直統合です。仲介会社にも「こういう会社を探してください」と伝えた方が、ストーリーに則った買い方ができます。

私は、赤字の会社を買うことはほとんどありません。難易度が高すぎるからです。自社の経営だけでも大変なのに、赤字の会社のことまで考えたくない、というのが正直なところです。買うとすれば、仕入原価が半分になるなど、赤字の理由と改善ポイントが明確に見えている場合に限ります。逆に黒字の会社であれば、思ったようなシナジーが出なかったときに、もう一度売るという選択肢が残ります。その分、買うときのハードルはぐっと下がるのです。ヤフー時代も、会社の大小を問わず同じルールを適用していました。

会社を買おうと思ったとき、重要な点は大きく2つあります。1つはテクニカルな話です。その最たるものは「1回目ではうまくいかない」ということ。私はだいたい「小さめの買収を3回やってください」と申し上げています。100万円でも1,000万円でも、身の丈に合った買収で経験を積み、うまくいくようになってから、5億円、10億円と銀行から資金を借りながら大きな買収に挑めばよいのです。

もう1つが、先ほど来申し上げている「買うべきストーリー」と領域選びです。大企業からM&Aや新規事業のご相談を受けますが、私はまず「10年後、皆さんの会社はどうなっていたいですか」と伺います。ありたい姿から今の状態を引き算して、足りていないものを買収する、という考え方です。

私がよくお見せするのが、街づくりの例えです。皆さんが街をつくる責任者だとして、今は家が3軒、商店が3店舗、畑が2つあるだけ。10年後には遊園地も発電所も欲しいし、発電所を作るならダムも要る、田んぼも工場も必要だ、と思い描く。その足りていないものを、ゼロから作るのか、今あるものを育てるのか、人が持っているものを買ってくるのか。「作る・育てる・買う」を考えるわけです。

私自身、ヤフーの成長に決済サービスが絶対に必要だと考えたとき、PayPayは「作る」判断をし、クレジットカード会社と銀行は「買う」判断をしました。買収そのものが目的なのではなく、5年後・10年後のあるべき姿の実現が目的で、買収はそのための手段の一つなのです。

AI時代における「人の繋がり」の価値と、M&Aへの向き合い方

会社を辞めてからも、私は既に2社を買収し、いま3社目以降の買収を進めています。2025年に取得したのが、「顧問バンク」を運営するCOMMONBANKという会社です。上場企業に40年勤め、最後は営業部長を務めた方など、人脈やノウハウ、実績を持つ約1万人の「顧問」が登録しており、「建設業に強い人を紹介してほしい」といった企業のニーズとマッチングするビジネスです。

私たちのベンチャーキャピタルは、AIに関する領域と、AIが来ても関係なく伸び続ける領域に投資していますが、この会社は後者だと考えています。AIに代替されないものの一つが、人と人との繋がりです。情報が溢れ、電話もメールもAI同士がやりとりするような時代には、「あの人が言っているから」「あの人の紹介だから」という信用力の価値は、むしろ増していくはずです。

こうした人脈をお持ちの方が大量に所属する会社をゼロから作るのは大変ですし、既に黒字の会社です。7億円で買えるなら安いものだと判断しました。5年後、10年後に人と人との繋がりがより価値を増すタイミングで、上場か売却か。それまでしっかり育てていくつもりです。

毎年申し上げていることですが、M&Aという非常に効果的な経営ノウハウを使わないのは、もったいなさすぎます。私自身、楽天、ヤフー、ソフトバンクグループという、買収を徹底的に活用して日本で最も速く成長してきた会社に身を置いてきました。これだけ会社があり、成熟した産業の中で、自分たちより上の会社を追い抜いていくには、コツコツ努力することに加えて、飛び道具的な手段が使えた方がいいに決まっています。火縄銃が入ってきて戦い方が大きく変わったように、M&Aもそういう手段なのです。

そして、思っているだけではなく、1回より3回、3回より10回実行した方が、より上手に使えるようになります。売り手でも買い手でも、一回でも多くM&Aに携わることが同業他社との大きな差別化になり、皆さんの社業人生を切り開いていく、間違いのない手段になると思います。

ただし、その大前提として、5年後、10年後に自分の会社をどうしていきたいのかという理想やビジョンがない限り、宝の持ち腐れになってしまいます。ぜひ、ビジョンとセットで考えていただければと思います。

M&Aは、1回より3回、3回より10回実行した方が、
より上手に使えるようになります。

― 小澤 隆生 氏
開催セミナー概要
セミナー名
変化する時代に挑む。経営みらい設計勉強会/成長戦略セミナー2026 in 東京
テーマ
企業価値を高める経営判断 ― 成長のための戦略×M&A ―
登壇者
Boost Capital株式会社 代表取締役 小澤 隆生 氏

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