「良い会社のうちに譲る」。譲渡・譲受両社長が実体験で語る、M&A成功のリアル

登壇:栗田 浩 氏(栗田建設株式会社 代表取締役社長)× 森 宏文 氏(株式会社森長組 代表取締役)
開催:成長戦略セミナー2025 in 兵庫

「良い会社のうちに譲る」。譲渡・譲受両社長が実体験で語る、M&A成功のリアル
登壇者プロフィール

栗田 浩氏(栗田建設株式会社 代表取締役社長):創業60年を機に事業承継を検討。2018年に簡易評価を実施し、2023年8月に株式会社森長組とのM&Aが成約。譲渡後も社長として継続。
森 宏文 氏(株式会社森長組 代表取締役社長):淡路島に本社を置く建設会社。M&Aを重要な成長戦略と位置づけ、本件が初めてのM&A。公共工事や大手ゼネコンの下請け工事を中心に手がける。

※本記事は事業承継セミナー2025 in 兵庫での講演・採録・再構成したものです。

譲渡した側と譲り受けた側、両方の社長が同じ壇上でM&Aを語る——。2023年8月に成約した栗田建設と森長組の対談では、相手探しから条件交渉、買収監査、社員への開示、そしてPMI(統合プロセス)の苦労まで、実体験ならではの本音が語られました。

胃がんの発見が「万が一」を考えるきっかけに

――事業承継を考えられたきっかけは?

【栗田社長】50歳くらいのときに考え始めました。創業から60年の節目を迎え、100年続く会社にしたいと考えたのがきっかけです。社員への承継も考えましたが、対価などのハードルが高く、現実的に難しいと判断しました。日本M&Aセンターのセミナーに参加してM&Aという手法を知り、時間はまだあると思いつつも、手間のかかることなので早め早めに動き始めました。2018年に提携仲介契約を結んでからは、半年に一度は株価診断を行って会社を見直していたので、不安はありませんでした。

――相手探しを始めた決め手は?

【栗田社長】健診で胃がんが見つかったことです。「自分に万が一のことがあったら会社はどうなるのか」と考えるようになりました。建設業界の人手不足もあり、不安はますます大きくなっていきました。

――相手探しで希望した条件は?

【栗田社長】一つ目は社名を変えないでほしいこと。そして自分を社長として継続雇用してほしいこと。社員は1人も辞めさせず、処遇も変えずに継続してほしいことです。

【森社長】我々は淡路島に本社を置き、M&Aを重要な戦略と考えています。この条件は我々のM&A戦略と沿っていました。社長にはしばらく継続勤務していただける方が良いと思っていましたし、社員の継続や処遇も全く変えるつもりはなく、条件と一致していました。

お相手選びと買収監査——「真面目な経営」は監査に表れる

――TOP面談では2社と会われました。森長組さんを選んだ理由は?

【栗田社長】もう1社は本社が遠方で、同業でもありませんでした。森長組さんとは初めて会ったときから笑顔で、森社長と年齢も近く、距離感の近さからこの会社が良いと感じました。

【森社長】初めてのM&Aでしたので、何かあった際にすぐ行ける近い距離が良いと思っていました。栗田社長の人柄にも惹かれました。同じ建設業でも詳細な業務は異なり、将来的なシナジーが見込めるのも魅力でしたし、社員の方々が平均的に若いことも、この先を考えたときの安心材料になりました。

――買収監査の印象は?

【栗田社長】普段から資料はかなり細かく整理しているつもりでしたが、それでも足りないものがありました。経理の事務員には「株価算定を行ってもらっている」と伝えて資料を集めました。もし65歳で実施していたら、かなりしんどかったと思います。

【森社長】監査を頼んだ業者さんからは「買収監査をすると1つや2つ何かが見つかるもの」と言われていましたが、終わってみると何も問題がなく、スムーズに終えられました。栗田社長が非常に真面目に会社を運営されているのだと感じました。

成約後の開示とPMI——「考えが甘かった」と両社長

――成約直後の社員さんの反応は?

【栗田社長】成約式が8月1日で、その日に神戸新聞に掲載される予定でしたので、掲載までに社員へ説明しました。本来は資本業務提携と言うべきところ、まずは業務提携という話から入りました。1年2年で答えが出るとは思っておらず、5年10年で成功させるつもりなので「この先も一緒についてきてほしい」と伝えました。社員たちは「え。」という表情で、不安な部分はあったと思います。

【森社長】社員の皆さんから不安や表情の硬さを感じたので、待遇が変わらないこと、栗田社長が継続されることを伝えました。中には「書面に書いてください」と仰る方もいましたが、栗田社長も継続されるので、少しの間は静観しようと考えました。

――PMIで苦労した点は?

【森社長】M&Aについて考えが甘かったと思いました。栗田社長が継続されるので、社員さんの不安は数か月で収まると思っていたのですが、退職意向の相談を受けてから、社風や給料、システム、本社の場所など、想像以上に不安が大きいことに気づきました。

【栗田社長】私自身も甘さを感じました。PMIということをもっと早く知り、勉強しておけば良かったと思っています。

――どのように対処しましたか?

【森社長】日本PMIコンサルティングに入っていただき、幹部と話し合いながら今後の経営計画を作成しました。ホテルで全社員向けの経営方針発表を行い、栗田社長にお話ししてもらいました。

【栗田社長】弊社は文鎮のような組織体制だったので、幹部や社員のポジションを可視化しました。採用方針も明確に決めていなかったため、今後毎年何名採用するかをしっかり定めました。

PMIの効果とシナジー——1年で9名の採用に成功

――M&Aから2年、PMIの効果があった点は?

【栗田社長】人事評価制度を立ち上げ、各社員に明確な目標や給与の引き上げ内容を示しました。この1年で技術者7名が入社し、管理部にも2名採用。合計9名を採用できました。

【森社長】採用方法のアドバイスをしたり、実際の採用現場に同行したりしましたが、栗田社長ご自身の魅力が大きかったと思います。

【栗田社長】森長組の方と学校を訪問したり、掲げた方が良い言葉や採用方法を教えていただいたのは大きかったです。

――シナジー効果が出ている点は?

【森社長】森長組は公共工事や大手ゼネコンの下請けが多く、栗田建設はメーカー内の業務が多い。栗田社長が入ったことで営業情報も多く入るようになりました。

【栗田社長】まだ明確な数字には表れていませんが、規模の違う企業と一緒に仕事をすることで、様々な情報を吸収できるようになりました。

最後のメッセージ——「若ければ若いほどM&Aは簡単になる」

【森社長】伝えたいことは2点です。1点目は、タイミング。いろいろな社長さんから「まだ頑張れるから10年後に買ってくれないか」と言われますが、10年後は社長だけでなく社員も10歳年を取っています。若ければ若いほどM&Aは簡単になりますから、早ければ早いほうがいい。2点目は、今回素晴らしいM&Aができましたので、もし森長組に譲渡したいという方がいれば、ぜひお声がけください。

【栗田社長】50歳で監査を受けるのもしんどかったですが、まずは「一緒に今後ともやっていける方」を選ぶべきです。困ったときではなく、いま自社が良い会社だと思うときにM&Aするべきです。譲渡するときは「勿体ない」と言われましたが、このタイミングだったからこそ、森長組という素晴らしい会社に巡り合えたと思っています。

困った時ではなく、「今、自社が良い会社だ」と思うときにM&Aするべきです。

― 栗田 浩
開催セミナー概要
セミナー名
事業承継セミナー 2025
テーマ
【対談】社長の実体験から学ぶ、M&A成功のリアル
登壇者
株式会社森長組 代表取締役社長 森 宏文 氏/栗田建設株式会社 代表取締役社長 栗田 浩 氏
聞き手
株式会社日本M&Aセンター 縄田

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