「選ばれる企業の条件」。働き方改革で生産性を高め、人が集まり、持続する会社へ

登壇:小室 淑恵 氏(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)
開催:成長戦略セミナー2025 in 東京

「選ばれる企業の条件」。働き方改革で生産性を高め、人が集まり、持続する会社へ
登壇者プロフィール

小室 淑恵 氏(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)
資生堂勤務を経て、長男出産の3週間後に起業。以来20年にわたり「働き方改革」を本業として3,600社の組織変革を支援。年間約200回の講演をこなし、著書は34冊。産業競争力会議民間議員も務め、2018年の働き方改革関連法成立を後押しした。2児の母。

※本記事は成長戦略セミナー2025 in 東京での講演・採録・再構成したものです。

「人手不足」はもはや、待っていれば解消される問題ではない——。3,600社の働き方改革を支援してきた小室淑恵氏は、労働力人口が実は2019年以降増えていること、そして増えた人材が「残業や休日出勤を前提としない組織」にしか集まらないことをデータで示します。人口オーナス期に入った日本で、中堅・中小企業が「選ばれる企業」になるための条件を語っていただきました。

国を動かした「静かなる有事」という危機感

気づけばこのワーク・ライフバランスという会社を20年経営しています。5〜6万人規模の組織から数十人の企業、自治体まで3,600社をお手伝いしてきましたが、驚くのは中小企業の変革スピードの速さです。改革後に従業員の給与が1.5倍になり業績も向上、さらに「従業員のご家庭でお子さんが生まれる率が4.5倍に増えた」と喜ばれる社長様もいらっしゃいます。

私自身は長男を出産した3週間後に起業し、時間制限付きのまま経営してきました。秋田で講演しても青森で講演しても、幼稚園のお迎えは18時15分。絶対に守らなければなりません。だからこそ8時間以内の生産性を最大にして働いてきました。15年以上前からはコンサルタント養成講座も開き、全国に3,000人の受講生がいます。あえて「競合をたくさん作る」逆転の発想で、各地に表彰される企業が育っています。

2012年、初めて国会に呼ばれ、約700人の議員の前で公述しました。翌朝一番に電話をくださったのが石破さんです。「これは本当に重要な、静かなる有事でしょう」と。その後、安倍内閣の産業競争力会議で民間議員を務め、「この国に必要なのは労働時間の上限の法律です」と言い続けました。2018年に働き方改革関連法が成立し、2024年には建設・運輸を含む全業種に適用されています。

労働力人口は2019年以降、跳ね上がって増えています。ただし戻ってきた人材が選ぶのは、残業や休日出勤を前提としない組織だけ。「人手不足」と言っている企業は、その人材にとってニーズのない企業なのではないでしょうか。

― 小室 淑恵

人口ボーナス期の勝ち方は、もう通用しない

「時間を短くしたら業績が心配」という声をよく聞きます。しかし日本は先進国の中で最も長時間労働をしながら、生み出す付加価値が最も低い国です。時間が短くなったら稼げないのではなく、いま時間が長すぎて稼げない構造になっている——そう問題意識を持つべきです。

若者が多く高齢者が少ない「人口ボーナス期」には、男性が長時間働き、安く・速く・大量に作り、同じ条件の人材を揃えて一律管理する戦い方が有効でした。日本の高度経済成長はまさにこの人口比率が生んだもので、各国に一度しか訪れません。現在の「人口オーナス期」ではルールが真逆になります。男女問わず人材をフル活用し、短時間で成果を出し、エコやコンプライアンスなど複雑な条件もクリアする必要があるのです。

オーナス期の成長を決めるのは、第一に「現在の労働力を最大限確保できるか」。日本の女性は世界で最も教育と健康の水準が高いのに、経済の中で十分活用されていません。海外移住の6割は女性です。フランスは2000年に週35時間労働制を導入し、1日7時間働けば正社員という制度にしたことで労働人口が大きく増えました。

第二に「未来の労働力」、つまりこれから生まれ育つ子どもたちの確保です。私たちがコンサルティングするリクルートスタッフィングでは、深夜労働を86%削減したところ、従業員の家庭で子どもが生まれる確率が1.8倍に増えました。厚生労働省が同じ夫婦を11年間追った調査では、第1子誕生時に夫が育児・家事に参画しなかった家庭では、第2子が生まれていないことが分かっています。

鍵は「男性の働き方改革」と睡眠

核家族化した現代では、男性の育児参画が決定的に重要です。私自身、第1子出産時の夫の平均帰宅時間は深夜2時。いま振り返れば完全に産後鬱でした。現在、産後の妻の死因の1位は自殺です。産後のまとまった7時間睡眠のためには、男性の育児休業が必要です。2週間だけの「取るだけ育休」ではなく、数か月単位の「共育て育休」——つまり働き盛りの男性が数か月抜けても仕事が回る職場を、常日頃から作っておくことが求められます。私たちは「男性育休100%宣言」企業200社以上のリストを政府に提示しています。

日本はこれまで「少子化対策」「女性活躍」と施策を打ってきましたが、一番大事なのは「男性の働き方改革」です。他国で少子化対策として最も効果を上げているのは労働時間の上限を下げること。勤務と勤務の間を11時間空ける「勤務間インターバル」は多くの国で義務化されており、日本もそろそろ待ったなしの状況です。

そして生産性の面で最も大事なポイントが、実は睡眠です。人間の脳は起床から13時間で集中力が切れ、酒気帯び運転と同程度になります。15時間を過ぎれば酒酔い運転と同じレベルです。ホワイトカラーの残業中の労働生産性が最も低いのはこのためで、ミスや事故がクレーム対応の長時間労働を生む悪循環になります。6時間以下の睡眠を続けると認知症リスクは7倍。睡眠不足の上司ほど部下に屈辱的な言葉を使いやすくなりますから、部下だけでなく上司の残業時間も気にしてあげてください。慶應義塾大学・山本教授の研究では、平均睡眠時間が上位の企業ほど利益率が高く、その傾向は2年後も続いています。

生産性を高め、人が集まり、持続する企業になるために

具体的に必要なことは4つあります。第一に、役員がまず「7時間睡眠」と「11時間インターバル」を宣言し、自らロールモデルになること。女性が管理職になりたがらないのは「いま目の前にいる管理職のようにはなりたくない」からで、若い男性も同じです。第二に、「事情のある人だけ」ではなく「全員が」帰れて休める職場にすること。第三に、上からの「消灯指示」や労働時間目標の押し付けではうまくいかないと理解すること。隠れ残業と「やらされ感」を生むだけです。大切なのは、現場主体で心理的安全性の高い話し合いができる仕組みです。第四に、浮いた残業代は、まず賞与、次にベースアップ、そして採用力向上へ投資すること。働きやすさは採用競争力そのものです。

まずお勧めするのが「カエル会議」です。全員が付箋で職場の課題を一斉に出し合い、話し合いながら改善していく方法で、ヒエラルキーの一番下にいる人も意見を出せるようになると、組織が前向きに変わっていく実感が生まれます。

多様な人材が成果を出せるよう、仕事を小さく分解し「パス回し」できる職場に。休むことが前提で互いを気遣える職場は、満足度も高くなります。

― 小室 淑恵

中小企業の成功事例——残業月1.2時間、出産数4倍、過去最高益

最後に成功事例をご紹介します。新潟県の株式会社サカタ製作所さん(製造業・150名規模)は、改革前は多くの従業員が長時間残業をしていましたが、現在は1人あたり平均残業が月1.2時間。男性育休取得率は100%、しかも平均5か月で、地元では「この会社に入りなさい」と言われる存在です。

岩手の地ビール企業・株式会社ベアレン醸造所さん(50名規模)は、2017年に勤務間インターバル11時間を導入。どの部署のどの業務が時間を取っているかを可視化して改善した結果、従業員家庭の出産数が4倍に増え、黒ビールは世界一の評価も獲得しています。

関東のお寿司チェーン・株式会社銚子丸さんは、かつて「100人採用しても105人辞める」状態でしたが、いまは過去最低の労働時間で過去最高益を達成。板前さんとパートさんが一緒にカエル会議を行い、パートさんのアイデアから売上が186%に伸びました。

ボーナス期からオーナス期へ。この変化をチャンスに変え、さらに飛躍できる組織を一緒につくっていきましょう。

― 小室 淑恵
開催セミナー概要
セミナー名
成長戦略セミナー 日本創生2025
テーマ
選ばれる企業の条件 働き方改革で生産性を高め、人が集まり、持続する ~これからの中堅・中小企業の経営~
登壇者
株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室 淑恵 氏

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