2025年版中小企業白書、キーワードは「経営力」
2025年4月25日に2025年版「中小企業白書」が公表されました。今回の白書では、厳しい経営環境の中で持続的な成長と発展を実現するために不可欠な「経営力の強化」に焦点が当てられています。
本記事では、「経営力」の重要性と具体的な成長戦略について分析している白書の第2部「新たな時代に挑む中小企業の経営力と成長戦略」を中心に、概要をご紹介します。
⽬次
2025年版中小企業白書の特色
円安・物価高の継続や「金利のある世界」の到来による生産・投資コスト増、構造的な人手不足など、中小企業・小規模事業者が直面する状況は依然として厳しい状況です。
一方で、地域経済・日本経済全体の成長の観点からも、雇用の7割を占める中小企業・小規模事業者への期待は大きく、地域コミュニティ・経済・文化・課題解決の担い手として、地域経済基盤を維持し、地域のニーズに細やかに対応する役割も期待されています。
激変する環境において、中小企業・小規模事業者が課題を乗り越え、成長・持続的発展を遂げるに当たっては、経営者自らが置かれている状況と方向性を把握し、適切な対策を打つ力としての「経営力」が重要です。本白書では、この「経営力」に焦点を当て、事例を交えながら分析が行われています。
「経営力」とは?
中小企業白書において「経営力」とは、中小企業の成長や持続可能性の向上に寄与し得る、経営戦略の策定力 及び 経営資源のマネジメント力 、経営者の成長的志向 、従業員にとって健全な環境や待遇を整備する能力 等、と定義されています。
つまり、「経営力」とは単なる経営者の能力だけでなく、経営戦略の策定・実行力、組織や人材のマネジメント力、経営の透明性・開放性など多面的な要素から構成されるものであり、これらの経営力が高まることで売上や利益の拡大、人材確保の促進、イノベーションの推進につながるとされています。
「経営力」を高めるには?
それでは経営力を高めるために何をすればいいのか。具体的な取組みについてポイントをご紹介します。
経営者のリスキリング・交流ネットワーク
経営者自身がリスキリング(学び直し)を行い経営力向上に取り組むことは、社内の従業員の意識改革に影響を与え、業績や付加価値向上に結び付く可能性があると示唆されています。
また、経営者が特に「異業種」かつ「広域」のネットワークに参加することは、成長に向けた新たな発想の獲得や、企業の成長意欲を醸成することが調査結果に表れており、こうした交流が経営者自身の成長につながっていることが示されています。
出典:2025年版「中小企業白書」(159ページ)より抜粋
経営計画の策定と運用
外部環境が大きく変化する中、足元の課題だけでなく長期的な視野での投資や人材確保に向けた戦略の検討、見直しが求められます。
実際に、長期的な視野で経営計画を策定、実行している企業ほど、付加価値額が大きく増加していることが調査結果で示されています。
出典:2025年版「中小企業白書」(83ページ)より抜粋
適切な価格設定
自社の製品・サービスの差別化や市場環境に対応した経営を行う会社ほど価格転嫁が進んでいます。
こうした経営が自社の競争力強化に結び付き、価格転嫁の実現に影響している可能性があり、適切な価格設定は経常利益率や設備投資、賃金水準が高く好循環を実現できていることが示唆されています。
経営の透明性・開放性の向上
さらに、経営計画の透明性を高め、従業員やステークホルダーと情報を共有することも重要です。
経営情報の共有や外部への経営課題の相談など、経営の透明性と開放性を高める取り組みが、組織風土の変革や経常利益の改善につながることについても言及されています。
出典:2025年版「中小企業白書」(91ページ)より抜粋
また、「閉じた経営」に陥る可能性がある同族企業では、「取締役会の設置」は一定進んでいるものの、「社外取締役の登用」などガバナンス体制の強化がさらに求められています。
人材確保に直結する働き方改善・福利厚生の整備
中小企業で最も重要な経営課題とされる人材確保については、賃上げ実施による待遇改善だけではなく、社内の風通しの良さ、心理的な働きやすさが人材の定着につながっているとも示唆されています。
特に働き方改善の取組み有無によって人材確保に差が生じていることからも、その重要性があらためて浮き彫りになっています。
出典:2025年版「中小企業白書」(137ページ)より抜粋
脱炭素化・経済安全保障・人権尊重といった価値観への対応
「脱炭素・経済安全保障・人権尊重」などの価値観に対応している中小企業はいまだ限定的です。そのため、これらに自主的に取り組む経営が、取引先や働き手から選ばれる企業となる可能性があることについても言及されています。
成長戦略を表すキーワード
以上のように経営力を高めることで、中小企業は変化する経営環境に柔軟に対応し、持続的な成長と競争力の強化を図ることが期待されています。
ここでは成長の壁を打破するための戦略やスケールアップについて触れていきます。
売上高規模ごとに異なる戦略
企業規模拡大に向けて重視する戦略は、売上高規模によって異なります。
例えば、売上高10億円未満の企業と100億円以上の企業の組織・人材戦略を比較すると、次のような違いが挙げられます。
売上高100億円以上 | 売上高10億円未満 | |
---|---|---|
組織・人材戦略 | ・経営者と同じ目線で判断できる経営人材の確保 ・DXによる業務変革を主導できる人材の確保 |
・経営者にないスキルを補完する専門人材の確保 ・経営者に集中する権限の委譲(経営者一人の経営体制の限界克服) |
売上高100 億円以上の企業では、拡大する組織を経営者と共に支える経営人材やDX 人材の確保等が重要と考えられる一方、成長の加速段階にある企業では、経営者にないスキルを持つ「補完型人材の確保」や、経営者の職務権限分散による一人経営体制の克服が重要と考えられます。
賃上げや地域経済の維持に影響をもたらす100億円企業
売上高規模が大きい中小企業ほど、賃上げの実施割合や上昇幅が大きく、域内仕入れ高も高い傾向にあります。こうした企業は輸出等によりスケールアップが重要となります。
中小企業が「売上100億企業」を目指して成長することで、経済環境が変化する中においても持続的な賃上げの実施で地域経済、さらには日本経済全体の成長に寄与することが期待されています。
成長の壁を突破するM&A
M&Aを通じて経営資源の補完や新規事業展開を図ることで、成長の壁を突破するケースが増えていることが報告されています。M&A(合併・買収)は企業規模拡大や市場シェア拡大の有効手段として位置づけられており、買収先との信頼関係構築やPMIを経営者が主導する姿勢、具体的な取組みが成功の鍵となっています。
企業の競争力強化に直結するイノベーション
イノベーション活動も重要な成長ドライバーであり、プロダクト・イノベーション、ビジネス・プロセスイノベーションへの取り組みが企業の競争力強化に直結しています。
売上規模が小さい事業者では「支援機関」を活用する割合が比較的高く、100億企業では「仕入れ先」「大学等」など外部と連携し、オープンイノベーションに取り組んでいる事業者が一定数いることにも言及されています。
海外展開や輸出促進
売上規模が大きい企業ほど輸出を行っている傾向があり、輸出による海外展開はスケールアップに寄与しています。こうした輸出拡大によりさらなる外需の獲得も期待されています。
以上のように、第2部は中小企業が抱える課題を多角的に分析し、経営力の向上と具体的な成長戦略の実践が今後の発展に不可欠であることを示す内容となっています。
終わりに
以上、2025年版中小企業白書の概要をご紹介しました。今回の白書では、激変する経営環境の中で中小企業が生き残り、成長するためには「経営力の強化」が不可欠であることが明確に示されています。
経営計画の策定・運用、経営の透明性向上、人材戦略の充実、経営者のリスキリングとネットワーク活用、イノベーション推進など、多角的な取り組みを通じて経営力を高めることが、業績向上や人材確保、スケールアップの鍵となります。
政府の支援施策もこれらの取り組みを支え、中小企業の持続的な発展を促進しています。また、M&Aは企業規模拡大やイノベーション促進の有効な手段として位置づけられており、経営力向上と連動して積極的に活用することが成長加速に寄与すると報告されています。
今後も中小企業は、変化に柔軟に対応しながら経営力を磨き、地域経済や日本全体の成長に貢献していくことが期待されます。
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