非上場株式とは?譲渡するメリット、手続き、税金などをわかりやすく解説
⽬次
- 1. 非上場株式とは?
- 1-1. 譲渡制限株式
- 2. 非上場株式と上場株式の違い
- 3. 非上場株式を譲渡・譲受ける方法
- 3-1. M&A
- 3-2. 直接交渉
- 3-3. 相続・贈与
- 3-4. ストックオプションの付与
- 3-5. クラウドファンディング
- 4. 非上場株式を譲渡する場合のメリット
- 4-1. 多額の資金獲得が見込める
- 4-2. 相続に比べ、税金負担を軽減できる
- 4-3. 事業承継の手段として活用できる
- 5. 非上場株式を譲受ける場合のメリット
- 5-1. 将来上場した際に、利益を見込める
- 6. 非上場株式を譲渡する場合の注意点
- 6-1. 流動性の低さ
- 6-2. 非上場株式の評価
- 6-3. 譲渡制限株式の取り扱い
- 7. 非上場株式を譲受ける場合の注意点
- 7-1. デューデリジェンスの徹底
- 8. 非上場株式の評価方法
- 9. 非上場株式を譲渡・譲受ける場合にかかる税金
- 9-1. 相続税・贈与税(譲受ける側)
- 9-2. 所得税・復興特別所得税(譲渡する側)
- 9-3. 法人税(譲渡する側)
- 9-4. 住民税(譲渡する側)
- 10. 非上場株式を譲渡する手続き
- 11. 終わりに
- 11-1. 著者
非上場株式の譲渡は、中小企業の後継者不足などを背景とし、近年増加傾向にあります。本記事では、非上場株式の概要、メリットや注意点、手続きの流れについてご紹介します。
非上場株式とは?
非上場株式とは、証券取引所に上場していない会社の株式を指します。
日本には、約178万社(※1)の法人企業が存在していますが、そのうち上場している会社は約3,900社(※2)と全体の約0.1%にとどまります。
つまり、多くの日本企業の株式は、非上場株式であると言えます。
※1.令和3年経済センサス-活動調査(総務省・経済産業省)
※2.日本取引所グループ「上場会社数・上場株式数」(2023年8月16日時点)
譲渡制限株式
非上場株式の多くは、株式の譲渡に制限が定められており、発行会社の承認なく譲渡の手続きを進めることができません。このような株式を「譲渡制限株式」と言います。
中小企業では意図しない第三者が経営に関与するのを避けるため、多くの場合、株式に譲渡制限がかけられています。譲渡制限株式を譲渡する場合の流れについては、後述します。
非上場株式と上場株式の違い
その名の通り、証券取引所で取引されている上場企業の株式が、上場株式です。
上場株式は、日々の証券取引所での取引によって、市場での取引価格が形成されています。現在、東京証券取引所では「プライム」「スタンダード「グロース」の3つの市場区分で、上場株式の取引が行われています。
一方、非上場株式は証券取引所での取引が行われていないため、市場での取引価格が存在しません。つまり、上場株式は誰もが簡単に取引できますが、非上場株式の取引を行うのは容易ではありません。
非上場株式を譲渡・譲受ける方法
非上場株式を譲渡・譲受ける主な方法をご紹介します。
M&A
非上場株式の譲渡手法として近年増加しているのが、株式譲渡を用いたM&Aです。後継者不在の問題によってM&Aによる事業承継のニーズが増えており、その際の手法として株式譲渡が選択されるケースが多くなっています。
M&Aのスキームは様々存在しますが、中小企業のM&Aでは株式譲渡が多く用いられています。
M&Aスキーム(手法)を選ぶポイント
中小企業のM&Aで用いられるスキームとは?M&Aを行うスキーム(手法)は「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「合併」など様々な種類が存在します。どの手法を用いるかは、M&Aの目的や戦略に合わせて決められますが、一般的に中小企業のM&Aでは「株式譲渡」が主に用いられます。実際に、日本M&Aセンターの過去の成約実績1,000件が、どの手法で行われたか調べた結果が以下の通りです。すると、約9割の案件にお
直接交渉
既に非上場株式を保有するオーナーや経営陣など、株主と直接交渉して譲受ける方法も挙げられます。ただし、非上場会社のオーナーや株主との交渉を行うには、彼らとの強固な関係性が前提であるため、難易度が高い方法とも言えます。
相続・贈与
非上場株式も相続財産となるため、非上場株式の所有者が亡くなった場合、相続人が非上場株式を譲受けます。また、非上場株式は財産的価値のあるものであるため、贈与によって譲渡することも可能です。
ただし非上場会社のオーナーが、株式の贈与によって親族内承継をする場合、相続税よりも贈与税の方が高い税率となります。親族内で非上場株式の譲渡を行う際には、税金も考慮したうえで、適切な手法とタイミングを選択する必要あります。
ストックオプションの付与
ストックオプションは、対象会社の株式を、一定価額で譲受けできる権利のことです。
ベンチャー企業など将来的に成長が見込める企業では、従業員や投資の対価としてストックオプションを付与するケースがあります。
後継者候補や、創業時の社員などにストックオプションを与えておくことで、権利行使のタイミングで非上場株式を譲渡・譲受けできます。
ストックオプションとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説
ストックオプションとは?ストックオプション(StockOption)とは、企業が従業員や取締役に対して株式を購入する権利を与える制度です。頭文字をとり「SO」と表記されます。対象者は、あらかじめ決められた価格で一定の期間内に企業の株式を購入することができます。対象者には一定の要件を満たした外部協力者を含める場合もあります。アメリカで開始された制度ですが、1997年の商法改正にともない日本でも認定さ
クラウドファンディング
近年、非上場会社では株式投資型クラウドファンディングで、出資を募るケースも多くなっています。クラウドファンディングとは、インターネットを利用して、不特定多数の人から出資を募る資金調達の方法のことです。クラウドファンディングの出資者は、出資の対価として非上場株式を譲受けることができます。
非上場株式を譲渡する場合のメリット
非上場株式を譲渡する場合の主なメリットは、以下の通りです。
多額の資金獲得が見込める
経営状態が良好な企業や、成長が期待できる企業の非上場株式は高く評価されるため、譲渡することで多額の資金獲得が見込めます。創業者が順調に成長させてきた企業の株式を売却するケースでは、創業時よりも株価が大きく上昇しているため、より多額の創業者利潤を獲得できるでしょう。
相続に比べ、税金負担を軽減できる
非上場株式を相続した場合には「相続税」が、譲渡した場合には「所得税」などの税金が発生します。
相続税の税率は累進課税となっており、最低でも10%、最大の場合55%もの税金が発生します。一方、株式譲渡で発生する税金は、個人の場合で20%ほど、法人の場合でも30~40%ほどです。
そのため、株式の内容や評価額によっては、相続で譲受けるよりも株式譲渡の方が税金を抑えられる可能性があります。具体的には、評価額が1億円を超えるような株式の場合、相続するよりも株式譲渡の方が、税金を安く抑えられる可能性が高いです。
事業承継の手段として活用できる
非上場会社が大半を占める中小企業では、後継者不在の問題に直面するケースが多く見られます。非上場株式の譲渡は、後継者問題を解決し会社を存続させる手段としても活用できます。
非上場株式を譲受ける場合のメリット
続いて、非上場株式を譲受ける場合の主なメリットは、以下の通りです。
将来上場した際に、利益を見込める
非上場株式の譲受け後、対象会社の企業が上場すれば、譲受け時の株式よりも株価は大きく上昇します。将来有望な成長企業の株式を譲受けることで、大きな利益が期待できるでしょう。ただし、投資目的で非上場株式を譲受ける場合には、会社の現状や将来性を十分に調査することが重要です。
非上場株式を譲渡する場合の注意点
非上場株式を譲渡する場合の、主な注意点は以下の通りです。
流動性の低さ
非上場株式は流動性が低く売買の機会が限られているため、上場株式に比べ売却することが難しいケースが多くあります。
そのため、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーなどの専門家の力を借りて候補企業を見つける必要があります。
非上場株式の評価
非上場株式には市場価格がないため、譲渡価格は最終的に当事者間の合意によって決められます。実態とかけ離れた譲渡価格を設定した場合、高額の税金が課される可能性が高くあります。適正な譲渡価格の算定には専門的知識が求められるため、税理士やM&A仲介会社などの専門家に相談することをおすすめします。
譲渡制限株式の取り扱い
譲渡制限株式である場合には、譲渡の際に取締役会(株主総会)の承認手続きが必要です(会社法136条以下)。譲渡先を見つけたとしても、譲渡の承認を得られなければ株式譲渡を実行することができません。
また、株式譲渡による事業承継で会社の全株式を譲渡する場合には、すべての株主の同意を得て株式を集める必要があります。
非上場株式を譲受ける場合の注意点
非上場株式を譲受ける場合の、主な注意点は以下の通りです。
デューデリジェンスの徹底
株式譲渡で非上場株式の会社を譲受ける場合、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含めてすべてが承継されます。
非上場株式は上場株式とは異なり、開示情報がないため、株式を譲受ける側としては事前のデューデリジェンス(買収監査)によるリスクの洗い出しが重要です。
デューデリジェンスを効果的に実行するには、譲渡企業側の協力も欠かせません。
非上場株式の評価方法
非上場株式には市場価格がありません。そのため、非上場株式を譲渡・譲受ける場合、株式の評価方法が問題となります。譲渡価格と時価に差があると、高額の税金が課される可能性があるため、株式の評価は適切な方法で行わなければなりません。
以下は3つの主な評価アプローチです。
評価アプローチの詳細は関連記事をご参照ください。
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?算定方法、ポイントを解説
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?M&Aにおける「企業価値評価」とは、文字通り企業全体の価値を評価することを意味します。「企業全体の価値」とは、企業が保有する資産の価値だけでなく、企業が今後創出すると見込まれる収益力、及びその源泉となる無形資産をも含めた価値を指します。これらは以下のように言い換えることができます。企業価値=「事業価値(事業が生み出す経済的価値)」+「非事業用資産(余剰
非上場株式を譲渡・譲受ける場合にかかる税金
非上場株式の譲渡・譲受けにかかる主な税金は、以下の通りです。
相続税・贈与税(譲受ける側)
非上場株式を相続・贈与によって譲受けた場合には、相続税・贈与税が課税されます。
相続税と贈与税はどちらも累進課税の仕組みをとっているため、非上場株式の価格によって税率が変化します。
多くの場合、相続税や贈与税の税率は、株式譲渡で発生する所得税等の税率よりも高いです。税金の面を考えるのであれば、相続・贈与よりも、株式譲渡の方法をとった方が、発生する税金を抑えられます。
所得税・復興特別所得税(譲渡する側)
非上場株式の株式譲渡で個人が売却益を得た場合、譲渡所得に対して、所得税(15%)と復興特別所得税(0.315%)、住民税(5%)が課税されます。
譲渡所得の計算式は、次のとおりです。
譲渡所得=譲渡金額-(取得費+譲渡費用)
ここでの取得費とは、非上場株式を譲受けた際の費用のことです。非上場会社の創業オーナーが株式を譲渡する場合、基本的には資本金の額が取得費となります。
譲渡費用は株式譲渡のために発生した費用のことで、消費税や各種専門家への手数料などが含まれます。
株式譲渡において、譲渡価格と時価との差が大きい場合、差額については「みなし譲渡所得税」や「みなし贈与税」が課税されるため注意が必要です。
法人税(譲渡する側)
非上場株式の株式譲渡で法人が売却益を得た場合、譲渡所得に対して法人税(29~42%)と住民税(5%)が課税されます。
法人税は個人に課される所得税とは異なり、税率は一律ではありません。法人の規模や年間の法人所得、事業年度によって変動します。
住民税(譲渡する側)
住民税は、株式譲渡で売却益を得たのが個人であっても、法人であっても発生します。税率は、譲渡所得に対して5%です。非上場株式の株式譲渡で売却益を得た場合の税金をまとめると、以下のようになります。
- 個人の場合:所得税(15%)+復興特別所得税(0.315%)+住民税(5%)=20.315%
- 法人の場合:法人税(29%~42%)+住民税(5%)=34~47%
M&Aの税務を専門家が解説
M&Aの税務知識はなぜ必要か?中小企業のM&Aでは、想像以上の大きな対価で取引が行われることが少なくありません。その際に、採用するM&Aスキーム(手法)によって税負担や手取額が大きく異なるケースがあります。譲渡オーナーがM&A後に引退する場合、M&Aによって獲得する対価はその後の人生の生活資金となります。さらに、子や孫に財産を多く残したいと考える場合、M&Aによる最終的な手取り額は非常に重要です。
非上場株式を譲渡する手続き
非上場株式を譲渡する際には、法律に従った適切な順番で手続きを進める必要があります。非上場株式を譲渡する主な流れについてご紹介します。
主な手続き | 概要 |
---|---|
①株式譲渡の基本合意 | 譲渡・譲受ける側の両者で、株式の内容や価格などの基本事項を決定します。非上場株式に譲渡制限がない場合には、この時点で株式譲渡契約を締結します。 |
②株式譲渡の承認手続き |
株式譲渡の承認手続きの流れは次の通りです。 ・株式譲渡の承認請求 会社に対して株式譲渡の承認を請求します。 ・承認手続き 承認請求を受けた会社は、取締役会もしくは株主総会の決議で株式譲渡を承認します。 ・承認の通知 株式譲渡の承認決議がされたら、会社が承認の通知を行います。 |
③株式譲渡契約の締結 | 株式譲渡の詳細な内容を決定し、デューデリジェンス(買収監査)の結果をふまえ最終契約を締結します。 |
④決済 | 株式譲渡契約の内容に従って、代金の決済と株式の譲渡を行います。 |
⑤株主名簿の書き換え | 株券不発行会社の場合、代金を決済した時点で株式譲渡は成立しますが、株式の譲渡を第三者に対抗するには株主名簿の書き換えが必要です。そのため決済後、株主名簿の書き換えを行います。 |
M&Aの全体の流れについては、関連記事をご参照ください。
M&Aの進め方とは?検討からクロージングまで、流れやポイントを解説
M&Aは、検討を始めてから実行までの間にやるべきことが多く、その全容を正しく理解することは簡単ではありません。本記事では、M&A仲介会社の支援を受けた場合のM&Aの進め方について、「1.初期検討・相談」「2.マッチング・候補企業の検討」「3.面談・基本合意」「4.最終条件調整・成約」の主なフェーズごとに、押さえておきたいポイントを含めてご紹介します。参考:M&Aの全体の流れ(日本M&Aセンター)P
終わりに
日本の中小企業では、後継者問題が深刻となっています。中小企業庁の試算では、2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は約245万人で、うち約半数が後継者未定といった状況です。そのため、第三者への株式譲渡の手法を用いて、M&Aで後継者不在の問題に対応するニーズが増えています。
後継者不在の問題が深刻化するにつれて、中小企業の非上場株式譲渡がますます増えることが予想されます。 ただし、非上場株式は市場価格がないため、適正に株価評価行う必要があります。
専門性が求められる株価算定や、株式譲渡の手続きには専門家への相談が不可欠です。まずは、信頼のできる専門家・専門事業者を探すところから始めましょう。