M&Aの買い手担当者必見!最初にチェックすべき5つのポイント

M&A実務
更新日:

⽬次

[非表示]


国内外のM&Aの専門家であるDr.M が、身近なM&A事例を用いて、独自の視点でポイントをわかりやすく解説する「Dr.MのM&Aワンポイント解説」。第3回となる今回は・・・

日々受け取るM&A案件情報の中から、どう見極めるか

—ドクター本日のテーマをお願いします。

Dr.M: 今まで企業事例取り上げながら、気になるトピックをご紹介してきましたが、今回は少し趣向を変えまして。よくお客様から質問されることが多い「初期の検討段階で押さえておくべきポイント」についてご紹介します。

―我々のお客様は「自社の譲渡を検討されるお客様」と「譲受け、いわゆる買い手のお客様」それぞれいらっしゃいますが。

Dr.M: 譲り受ける側のお客様視点でお話できればと思います。ここでは、わかりやすく「買い手」担当者とお呼びします。

―買い手側のご担当者というのは、実際どのような部署、お立場の方が多いのでしょうか。

Dr.M: 会社の規模によっても異なりますが、経営企画室、IRご担当の方がM&Aについて兼務されている場合が多いですね。複数の事業を展開している会社さんだと、事業部門別、さらに北海道、東北、関東など広域エリア別に担当者がアサインされているところも見られます。

―そうしたご担当者は、どのように譲渡案件の情報を入手しているのでしょうか。

Dr.M: 一般的は、取引のあるM&A仲介会社などから日々ダイレクトメールなどを通じて相手先企業名が伏せられた状態の1次情報を受け取っていることが想定されます。その情報量は日々膨大な量であることが想定されます。

ちなみに企業名を伏せた資料を「ノンネームシート」と呼びます。
買い手のお客様が興味を持ち、当社のような仲介会社と秘密保持契約を結ぶことで企業名など詳細を知ることができます。

日々受け取る情報を一件、一件、時間をかけて吟味することは大切ですが、おそらく現実的ではないでしょう。なので、今回はどういう視点でスクリーニングしていけばいいのか、基本的な「スターチェック(5つのチェック)」をご紹介します。

買い手担当者が押さえておきたいスターチェックとは

Dr.M: ひとつめは 「バックキャスティングで考えよう」 です。

―詳しくご説明いただけますか。

Dr.M: バックキャスティング、つまり最初に未来像を描き、それを実現するために未来から現在へさかのぼることを指します。
前々回、KIRINグループの事例で「企業の存在意義は何なのか」「10年後、自分たちがどういう企業であるべきか」、現状を分析し、そこに向けて現状との乖離を埋めていくのが経営であり、M&Aはその「あるべき企業の姿」の実現を果たすための一手段である、というお話をしました。

外部から紹介される譲渡案件は、もちろん「タイミング、ご縁、出会い」と捉えられることもありますが、こうした長期戦略、未来像を見据えた上で「この会社を迎えることで目指すべき姿に近づけるのか」、原点に戻って冷静に考える必要があります。
これが第一ステップですね。

―続きまして、第2のスターは。

Dr.M:サプライチェーン 」についてです。
サプライチェーンは、ご存じのとおり、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費まで、一連の経済活動の流れを指します。業種や業態によって様々なサプライチェーンが存在します。複雑に込み入っているからこそ、M&Aによってポジティブにもネガティブにもなりえます。
例えば、同業同士のM&Aでは、相手先企業と自社の仕入れ先、販売先が競合している場合、両社が一緒になることで、かえって悪影響を及ぼす可能性も考えられます。

よって、M&Aの初期検討段階では、「この会社と一緒になったら、自社のサプライチェーンの中で、どのような変化が期待できるか/懸念はないか」という視点が必要になります。

そのためM&A担当者には、自社のサプライチェーンの事情や細部を把握し、立体的に捉えることができる、というスキルが求められるでしょう。特に経理や財務などの管理部門の方は現場の事情に詳しくないケースも多く、この部分のチェックがおろそかになる会社さんは少なくありません。ですので現場含め、他部署のキーパーソンを巻き込んで検討するケースも見られますし、会社を俯瞰する、現場を把握する、という意味で日頃の現場とのコミュニケーションを積極的にとられている担当者の方もいらっしゃいます。

—3番目のスターは何でしょう。

Dr.M:シナジー効果 」です。お互いの相乗効果がどこまで見込めるか、最終的な企業評価、つまり譲渡金額を決定する上で大きな要素となってきます。

シナジーには
・顕在的、短期的なシナジー
・潜在的、長期的なシナジー
の2つがあります。

すでに表面化している、顕在的なシナジーだけでなく、潜在的なシナジーをどう考えるか、それこそがM&Aの醍醐味であり、重要な論点だと私は捉えています。
そしてそれは外部が提言することではなく、自社の中に答えがあると考えます。そのためまず自社内で分析することが極めて重要です。これができている会社は意外と多くありません。

―4番目は「 投資対効果 」ですね。

Dr.M: よくM&Aの世界ではお客様含め「良い案件、魅力的な案件」という言葉を耳にします、そうした「良い」案件は、極論、どの会社にとっても「良い、魅力的」な案件です。需要が多いので必然的にプライスも高額になります。

みんなにとって、ではなく自社にとっていい案件は何か。それはもちろんそれぞれの企業によって違います。最初のスターの話にも重なりますが、何を目的にM&Aをするのか、相手企業のブランドや価格に左右されず検討するためには原点に戻る必要があります。
自社が相手企業を迎え入れることで、さらに相手の価値、自社の価値を高められる。そういう相手を、M&Aの熾烈な競争の中でどう選びとれるかが勝負になります。

企業評価(価格付け)も企業によって考え方は異なります。
主には次の3つが挙げられます。

純資産法(コストアプローチ) :対象企業の純資産価値から評価
類似業種批准法(マーケットアプローチ) :同業種の上場株を基準とした相対的評価
ディスカウントキャッシュフロー法(インカムアプローチ) :将来の収益力に着目した評価

それぞれの評価方法について詳しくは関連コラムをご覧ください。
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?

誤解のないようにお伝えすると、1つの企業に対し、1つの方法で評価するというものでもありません。たとえば複数事業を保有する場合。各事業を分解し、それぞれ適切な評価方法で見ていく必要があります。場合によっては一部の事業を切り離して考える、という選択肢が生まれてくることもあるでしょう。

―いよいよ本日最後のスターとなりました。

Dr.M: 5番目は「 相手企業の譲渡理由 」です。今回ご紹介している5つはすべて大事なポイントですが、これを初期の検討段階で十分にできている会社は意外と少ないのです。

もちろん最初に目を通す概要資料には「譲渡理由:後継者不在のため」などと書かれてはいます。
ただ「なぜ、いまこのタイミングなのか」「ほかに理由があるのではないか」など表面的な理由を鵜呑みにせず、相手の真意をM&A仲介会社を通じて確認し、それが納得できる理由か判断する必要があります。

最初の検討段階で意思の確認を十分に行わず、本格的な交渉に進むことはきわめて危険です。後々のトラブルを防ぐという意味でも、譲渡理由に十分納得したうえで本格的な検討を進めるべきでしょう。

以上が、買い手の担当者が最初にチェックすべきスターチェックです。
よく初期の段階から相手先の財務状況、売掛金はどうなっているか、詳細を質問される担当者の方がいらっしゃいます。
最初から細かく把握して社内に提案したい、その気持ちは痛いほどわかるのですが、前提として今回紹介した5つの視点でチェック、スクリーニングするということが本当に大切です。財務・法務・税務・労務面について、対象企業のデューデリジェンス、いわば健康診断は、最終契約前に弁護士、会計士など専門家によって行われます。

そうした全体フローをふまえて、本格検討を進める前に、この5つのポイントで対象企業について検討する。いずれかに当てはまらなければ見送り、次を検討する。そうしたスピード感、感覚でなければ日々持ち込まれる数多くの情報を前に、身動きがとれなくなってしまいかねません。まずは自社で5つのポイントで候補企業にふさわしいかどうか、見極めることから始めてみましょう。

プロフィール

皆己 秀樹

皆己みなみ 秀樹ひでき

日本M&Aセンター 成長戦略チャネル(2022年12月時点)

一橋大学卒業後、大手金融機関及び大手外資系証券会社で法人営業。その後、大手外資系金融機関プライベートバンキング部の日本支社立ち上げプロジェクトに参画。日本M&Aセンター入社後は、上場企業を中心に M&A戦略からクロージングに至るまで幅広いアドバイスを行う。

この記事に関連するタグ

「買収」に関連するコラム

バイアウトとは?目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

M&A全般
バイアウトとは?目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

企業が経営再建、事業継続を検討する手段のひとつにバイアウト(BuyOut)があります。本記事では、バイアウトの概要やそれぞれの手法の特徴、成功に導くためのポイントをご紹介します。バイアウトとは?バイアウト(BuyOut)とは、経営再建による事業継続や収益向上を目的に、経営者や従業員が自社の株式の過半数を取得し、経営権を握る買収手法を指します。一般的には、企業の経営陣や従業員が自身の資金や外部の投資

TOB(株式公開買付け)とは?目的など概要をおさらい

M&A全般
TOB(株式公開買付け)とは?目的など概要をおさらい

TOB(株式公開買付け)とは?TOBとは、株式公開買付け(TakeoverBid)の略で、対象企業の経営権取得を目的に、株式の買付価格や期間、株式数などを公告し、取引所外で多くの株主から大量に買付ける手法を指します。一般的にTOBを仕掛ける買収側を「公開買付者」、実施される側を「対象者」と呼びます。東京証券取引所の市場再編やPBR(株価純資産倍率)改善要請を背景に、成長を意識した買収、上場企業への

同意なき買収(敵対的買収)とは?対応方針や事例を解説

M&A全般
同意なき買収(敵対的買収)とは?対応方針や事例を解説

同意なき買収(敵対的買収)とは同意なき買収とは、経営権の獲得を目的に、対象会社の経営陣や株主などの合意を事前に得ることなく行う買収を指します。英語のhostiletakeoverに相当する買収が含まれます。同意なき買収が行われる背景には、企業の成長戦略や競争力強化の動機、株主の期待、経営陣と株主との対立、市場状況などが挙げられます。この記事のポイント同意なき買収(敵対的買収)は、企業の経営権を獲得

コングロマリットとは?メリットや企業事例を紹介

M&A全般
コングロマリットとは?メリットや企業事例を紹介

不透明な時代を生き抜くための戦略として、コングロマリット型経営は注目されており、国内ではその動きが活発化しています。本記事では、コングロマリットの特徴やメリットなどについて解説していきます。日本M&Aセンターでは、M&Aをはじめ様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、ご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。無料相談はこちらコングロマリットとはコングロマリット(co

新NISAがM&Aのきっかけ?ドコモのマネックス証券子会社化を解説

M&A全般
新NISAがM&Aのきっかけ?ドコモのマネックス証券子会社化を解説

業界経験豊富なM&Aのスペシャリストが、世の中の企業のM&Aの動きについて、プレスリリースを紐解き解説する「M&Aニュースサテライト」。今回はNTTドコモとマネックスグループ・マネックス証券のニュースを解説します。※本記事はYouTube動画の内容を抜粋・編集してご紹介します。日本M&Aセンターは上場企業、中堅・中小企業のM&A・企業戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。ご相談は無料、秘密厳

「後継者のいない会社」を買うメリットとは?

M&A全般
「後継者のいない会社」を買うメリットとは?

近年、後継者不在の会社を第三者が譲受けるケースが増加傾向にあります。本記事では、後継者のいない会社を買う場合のメリット、認識しておきたい注意点、会社の探し方や相談先についてご紹介します。買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録(無料)はこちら後継者のいない

「買収」に関連する学ぶコンテンツ

買収先の本格検討・分析

買収先の本格検討・分析

買収先の探し方でご紹介したように、買い手はノンネームシート、企業概要書で買収先についてM&Aを進めるかどうか検討します。本記事では、買い手が企業を検討する際流れと、陥りがちな注意点についてご紹介します。買い手が買収先を検討する流れ企業概要書をふまえ、さらに具体的に検討を進めるに一般的には「M&A仲介会社との提携仲介契約の締結」「個別詳細情報についての質疑応答」のステップがあります。買い手候補企業の

買収先の探し方

買収先の探し方

買い手の相談先でご紹介したように、M&A仲介会社などパートナーを選定したら、いよいよ買収先の候補企業を探すステップに移ります。本記事ではM&A仲介会社を通じてお相手探しを行う主な方法について、日本M&Aセンターの例をもとにご紹介します。買収先の探し方①譲渡案件型お相手探しは大きく「譲渡案件型」と「仕掛け型」の2つにわかれます。譲渡案件型は、M&A仲介会社が保有する売り手企業(譲渡を希望する企業)の

買い手がM&Aを行う目的

買い手がM&Aを行う目的

買い手の買収戦略には様々な目的があります。M&Aの成功に向けて、押さえておきたいポイントを確認していきましょう。【登録無料】買収をご検討の方は、希望条件(地域、業種など)を登録することで、条件に合致した譲渡案件のご提案や新着案件情報を受け取ることができます。まずは登録から始めてみませんか?買収希望条件の登録はこちらM&Aの目的①市場シェアの拡大企業は競合他社を買収することで、自社の市場シェアを拡大

「買収」に関連するM&Aニュース

カヤバ、知多鋼業に対しTOB実施へ

カヤバ株式会社(7242)は、知多鋼業株式会社(5993)の普通株式を、公開買付け(TOB)により取得すると発表した。知多鋼業は、TOBに対して賛同を表明している。また、TOB完了後、知多鋼業は上場廃止となる見通し。カヤバは、油圧緩衝器や油圧機器および航空機用安全装置などの製造・販売を手掛けている。知多鋼業は、自動車関連の薄板ばねや線ばね、およびパイプ成形加工品などの製造や販売を行っている。目的カ

ノジマ、PC事業のVAIOを買収へ

株式会社ノジマ(7419)は、VAIO株式会社(長野県安曇野市)およびVAIO株式を保有するVJホールディングス3株式会社(東京都千代田区、以下:VJHD3)の株式を取得すると発表した。直接または間接的にVAIOの発行済株式数の約93%を取得する。ノジマグループは、デジタル家電専門店の運営を軸に、全国でのキャリアショップ運営、インターネット事業、海外での店舗運営事業を展開している。VAIOは、パソ

守谷商会、ユニットハウス事業の未来ネットワークを買収

株式会社守谷商会(1798)は、未来ネットワーク株式会社(長野県佐久市)の全株式を取得し、完全子会社化することを決定した。守谷商会は、総合建設業を行っている。未来ネットワークは、ユニットハウス全般に係る製造・設計・企画・技術コンサルタントを行っている。目的守谷商会は、長野県を主要基盤として大都市圏、中京圏で総合建設業として事業展開してきた。本件M&Aにより、新たな商品をグループのラインアップに加え

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース