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クロスボーダーM&Aを実行できる会社とそうでない会社

福島  裕樹

営業本部 法人チャネル IN-OUT推進部

海外M&A
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クロスボーダーM&Aを実行できる会社とそうでない会
私は日本M&Aセンター 海外事業部のIn-Out推進課に所属しており、主な業務は日本国内の譲受企業に対してASEAN地域の譲渡案件のご提案、アドバイザリー業務を主に行っています。日々多くの日本企業オーナーや、役員、経営企画部、国際部などクロスボーダーM&Aに係る方々と接する中で感じたことを今回はご紹介したいと思います。
※本記事は2022年3月に執筆されました。

クロスボーダーM&Aが実行できる会社とはどんな会社か

この疑問に一言で答えるのであれば「決断できる会社」です。意思決定をするのがオーナー、役員、従業員の誰であれ、誰かが主体的に案件を主導し、意思決定をしていくことが出来る企業でないと、クロスボーダーM&Aは実行にまで至らない場合が多いと思います。

なかなか実行に移せない企業で良くあるケースとしては、案件提案の段階からこのような回答が返ってくる傾向があります。
「非常に良い案件で、当社の事業・狙いにも合致しています。また当社も海外は強化をしていかないといけないと理解をしていますが、今は時期尚早という意見が社内では多く出そうです。国内だったらすぐ買うんですけどね。」

私はこの譲受企業にとって非常に良い案件だと思い提案をしているため、「なぜ時期尚早なのでしょうか。何がネックになっていますか。」と問いかけます。
すると、2通りの回答が返ってくる場合が多いです。

①「当社は国内でも人材が不足しており、海外を管理できる人間がいません。」

②「今まで海外では日系企業としか取引をしておらず(または海外に展開していないので)、いきなり現地の会社を買収することはハードルが高いですね。」

出来ない理由を探してしまう

実はこの2点については既に回答があります。

①については、「既存のオーナーやキーマンが残り経営を担ってくれるケースが多く、買収後すぐに人を日本から送る必要が必ずしもあるわけではありません。数年をかけて人材を育成することが可能です。」

②については、「日系村から飛び出せず、縮小の一途をたどる現地法人が自らローカル市場を開拓していくことは容易ではなく、日系企業としか取引をしていないからこそローカル企業を買収し商圏を広げていく必要があります。新規で進出する場合は、尚更自前で出るよりも早く現地マーケットを獲得することが出来ます。また前述のように既存オーナーが残ることで現地の商習慣やネットワークも抑えることが出来ます。」

このような説明をしてもなお実行に移せないのには、上記のような懸念が本当の理由ではなく、冒頭の「決断」が出来ない背景があるのでないかと感じています。
上記の懸念は代表的な例ですが、それ以外頻出する懸念も多くの場合は解決策があり、クリアにできるケースが多いです。

実際にクロスボーダーM&Aを実行した会社はどうか

実際にクロスボーダーM&Aを成約した企業にお話を伺った際、下記のような言葉が非常に印象的でした。

A社 【もしダメだった時には早期撤退する勇気を持てない企業は、クロスボーダーM&Aを実行すべきではない】
B社 【コロナ禍であっても、隔離をしてでも、現地に行きたいと思えない案件はそもそもやるべきでない】
C社 【買収監査やその他費用をかけられないのであれば、その案件は取り組むべきではない】

3社とも考え方や、重視しているポイントは異なりますが、共通していることは「この案件はやるべきか、やらざるべきか」という判断に明確な基準を設けている点です。
決められない会社は「やらない理由」を列挙しますが、それが解決できるとしても結局は実行に移せません。なぜならば意思決定者の中で判断基準が明確ではなく、どの懸念が解決すれば実行するのかが不明瞭であるから、そして自社の戦略に合致しており、やるべきだと思っていてもそれらしい理由を付けて見送ってしまうからです。

最後に

もちろんクロスボーダーのM&Aを取り組む目的に案件が合致していることを大前提として、一歩踏み出す基準を設けておくことや、迷ったときに判断する基準を設けることが、クロスボーダーM&Aを実行に導く重要なポイントなのではないかと考えています。

著者

福島  裕樹

福島 ふくしま 裕樹ゆうき

営業本部 法人チャネル IN-OUT推進部

大手金融機関を経て2018年に日本M&Aセンターの海外事業部に入社。入社から一貫してクロスボーダーM&Aに従事。主に譲受をする日系企業に対してアドバイザリー業務を行う。2023年4月よりマレーシア担当となり、AESAN各国での成約実績に基づきマレーシアの魅力を発信している。

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