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新型コロナが変えた海外M&Aのスタンダード

福島  裕樹

海外事業部 In-Out推進部 マネージャー

海外M&A
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新型コロナが変えた海外M&Aのスタンダード
今までのブログ投稿では海外現地からの情報発信、マクロ的な話が多かったかと思いますので、少し現場に近い部分の情報発信をさせて頂きます。今回は、新型コロナが変えた海外M&Aのスタンダードについて書きたいと思います。(※本記事は2021年12月に執筆されました。)

コロナ禍で絶望的な海外M&Aの現場

全世界を巻き込んだ新型コロナは漏れなく日本M&Aセンターの海外M&Aビジネスにも大きな影響を与えました。新型コロナが世界中に広がりを見せ始めた2020年春、当時進んでいた商談はすべて破談、良くてもペンディングという非常に難しい状況に置かれました。

中堅中小企業のM&Aは「会社と会社の結婚」に良く例えられます。当然、相手に直接会い、デートを重ね、相手のことを良く知り、結婚に至るわけですが、M&Aも会社・工場見学、オーナーとの会食、主要経営陣とのコミュニケーションを通じて相手の会社を理解していきます。しかし海外への渡航制限により上記イベントの実施が出来なくなったことから、多くの譲受企業は実際に自分の眼で見て肌で感じることが出来ないのであれば、商談は進められないと判断しました。

懸念された更なるスケジュールの長期化

海外M&A案件は日本国内の案件に比べてスケジュールが長くなることが多く、渡航制限が解除されるのを待つために更に長期化している商談が増えている状況でした。
通常国内案件であれば4~6カ月程度(早いと1カ月)で成約しますが、現地渡航が必要となる海外案件では、初期的なTOP面談(譲渡企業と譲受け候補側の意思決定権者の最初のコンタクト)の調整だけでも1カ月近くかかることも珍しくありません。

一般的に商談自体の期間が延びれば延びるほど、破談するリスクが高くなる傾向があります。中小企業のM&A案件では特に譲渡企業オーナー、譲受企業オーナーの気持ちがお互い熱いうちに商談を進めてしまわないと、本来許容できる小さな論点も気になり始め、話がまとまらなくなることが多い為です。


【 海外M&A検討の流れ 】

イノベーション

新型コロナとの付き合い方に全世界が慣れ始めてきた2021年6月辺りから、コロナ禍の当初はM&Aの中止またはペンディングを判断していた譲受企業も、M&Aを重点戦略と位置付け、積極的なM&Aを実行していく方向へ舵を切り始めました。

海外M&Aも同様で、多くの企業が新型コロナ前は対面で行っていたTOP面談をWEBで実施、工場見学についても動画や写真を活用して行う、現地子会社があれば現地責任者が視察する等、日本からの渡航はせずに投資判断をするようになりました。
渡航を伴わない分、新型コロナ前よりも商談の進行は早くなったことで、スケジュールの長期化が課題であった海外M&Aにおいてこの変化は大きな追い風となりました。その結果、日本M&Aセンターの事例でも国内M&A案件と比べても遜色のない3カ月で商談開始から契約・決済まで進んだケースもあります。

しかしながら一方では、WEBでの信頼関係の構築は、対面には敵わない側面もあります。そこで日本M&Aセンターは、譲受企業オーナーから譲渡企業オーナーへの手紙や、WEBで気軽に会えるからこそ早い段階でPMIについてディスカッションする場を作る等、新型コロナ前は実施していなかった取り組みを意識的に作り、両社の関係性を構築することに努めた結果、2021年に入ってからフルリモートで成約する案件が数多く出てきています。

最後に

このように、一般的に時間かかる海外M&Aも最近では非常にスピーディーに進めることが出来るようになってきました。新型コロナは従来の常識を大きく変えてしまいましたが、この変化を前向きに捉え取り組んでいくことでより多くの商機を得られるのではないかと考えています。
今後も現場に出来るだけ近い話題をご紹介させて頂き、読者の方の参考になればと思います。

著者

福島  裕樹

福島 ふくしま 裕樹ゆうき

海外事業部 In-Out推進部 マネージャー

大手金融機関を経て2018年に日本M&Aセンターの海外事業部に入社。入社から一貫してクロスボーダーM&Aに従事。主に譲受をする日系企業に対してアドバイザリー業務を行う。2023年4月よりマレーシア担当となり、AESAN各国での成約実績に基づきマレーシアの魅力を発信している。

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