コラム

Withコロナ時代、加熱するベトナムクロスボーダーM&A

渡邊 大晃

Nihon M&A Center Vietnam Co., LTD (ベトナム現地法人) 代表 General Director

海外M&A
更新日:

⽬次

[表示]

こんにちは、3カ月ぶりの出社(外出)できるようになりました日本M&Aセンター・ベトナムの渡邊です。コロナ防疫に成功を収めていた優等生のベトナムですが、2021年5月以降コロナ変異株が猛威を奮いはじめ、直近3カ月の7月~9月は、生活必需品の購入ですら外出が禁止されるという厳しいロックダウン規制が導入されました。9月上旬にはピークを迎え、1日あたりのコロナ新規感染者数が1万5,000人、同死亡者数が400名を超過しましたが、現在では4分の1程度の感染者数3,500名、死亡者数100名に収まっています。10月からは、Withコロナに向けて、待望の経済活動の再開が始まりました!
(※本記事は2021年10月に執筆されました。)

コロナ禍において、日本からのベトナム企業のM&A投資は活発

さて2020年以降のコロナ禍における、日本企業のベトナムM&Aの状況を振り返ってみましょう。

ASEAN6か国 国別クロスボーダー M&A投資件数
2017 2018 2019 2020 合計
シンガポール 31 53 64 27 175
ベトナム 23 22 33 23 101
タイ 17 14 16 11 58
インドネシア 25 22 20 9 76
フィリピン 4 7 8 4 23
マレーシア 15 16 11 8 50
全体 115 134 152 82 483
ASEAN6か国 国別クロスボーダー M&A投資金額(百万円)
2017 2018 2019 2020 合計
シンガポール 905,367 165,922 218,500 230,080 1,519,869
ベトナム 17,385 29,202 43,962 45,738 136,287
タイ 30,533 63,757 4,439 11,789 110,518
インドネシア 151,988 149,924 45,612 42,189 389,713
フィリピン 118,200 1,478 26,866 6,870 153,414
マレーシア 20,318 245,749 9,290 6,613 281,970
全体 1,243,791 656,032 348,669 343,279 2,591,771

出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成
https://www.marr.jp/recofdb.html

近年ベトナムは、M&A件数ベースにおいてASEAN諸国でシンガポールに続く2位の地位に上昇してきました。2020年度においても、コロナにより他国が前年比で大きく数字を落とす中、ベトナムへの投資は件数ベースで30%減少にとどめ、金額ベースで逆に7%増であり活発に推移していることが分かります。2021年上半期においては、件数ベースで12件、投資金額ベースおいてはSMBCコンシューマーファイナンスによるFEクレジットの大型買収(約1,500億円超)もあり、半期過去最高金額を記録しました。国境往来ができない コロナ禍においても日本企業のベトナムM&Aは驚異的な結果を残しました。今後ポストコロナに向けて、対ベトナム投資はますます加速されるものと思われます。

何故、ベトナムが注目されているのか?

成長市場

超高齢化社会に突入し、GAFAやNetflix等の巨大テック企業が旧来ビジネスモデルを打倒して市場参入してくる中、改めて今回のコロナショックは、日本の「勝ち組」企業にとっても国内衰退市場にあぐらをかいている余裕がないことを突き付けたのではないでしょうか?いま中堅・中小企業は、大手の専売特許であったクロスボーダーM&Aのターゲット先として、身近な東南アジア諸国に熱い視線を送っています。2000年以前の日系企業による東南アジア進出は、先進国市場への製品供給基地として安価な製造拠点の役割を求められていましたが、今はマーケット自体の成長性を意識し、現地で生産した商品やサービスをその国で消費することへ、進出意識も変わってきています。 ベトナムはASEAN諸国の中ではインドネシア、フィリピンに次ぐ人口規模を持ち、平均年齢も若く、コロナ禍で世界各国がマイナス成長となるなかでも、プラス成長を記録するベトナムの成長性は大きく注目されています。

実質GDPの変動を示す(SNA(国民経済計算マニュアル)に基づいたデータ)
アセアン順位
(世界)
国名 単位:% 前年比 地域
1(12) ミャンマー 3.189 +2 アジア
2(15) ベトナム 2.948 - 1 アジア
3(24) ブルネイ 1.113 +5 アジア
4(34) ラオス -0.435 +2 アジア
5(64) インドネシア -2.070 - アジア
6(83) カンボジア -3.141 -4 アジア
7(120) シンガポール -5.391 +3 アジア
8(122) マレーシア -5.647 -1 アジア
9(127) タイ -6.099 - アジア
10(165) フィリピン -9.573 -6 アジア

出典:IMF - World Economic Outlook Databases (2021年10月版)より日本M&Aセンター作成

世界から外資を引き寄せるベトナム

ベトナムの製造業はまだまだ大きな成長余力が期待されています。チャイナ・プラスワン戦略が外資を製造業に呼び込む起爆剤であったとすれば、米中貿易戦争はそれを加速する活性剤となりました。「米中貿易戦争は終わり、ベトナムが勝者になった」というジョークが良く聞かれますが、それは貿易・投資の動向を見ても明らかです。アジア開発銀行(ADB)によると、2019年上半期に米国の中国からの輸入が12%減少したのに対し、ベトナムからの輸入は33%増加しました。ADBはさらに、貿易紛争が長期化・激化した場合、最悪のシナリオではベトナム、マレーシア、タイが 、この順で最大の勝者となると報告しています。

親日国家

投資先選定には、市場の成長性は大前提となりますが、両国間における文化的親和性、歴史認識という目に見えないものは実は重要です。両社の関係が上手く進んでいるときは良いのですが、何か問題が起きた時に歴史的な背景や文化の相違度が大きいと問題がこじれ撤退に苦労するという話はよく聞きます。その点ベトナムは世界でも有数な親日国家であり、政府間も民間でも長い友好関係が築かれていることは安心できます。物価も安く、比較的治安も良い、そして食文化も日本と近しいベトナムは、常に駐在員の人気ランキングでも上位に食い込んでいます。

今回は、ベトナム投資がコロナ禍においても活発であり、ポストコロナに向けて今後ますますの盛り上がりが期待できること、そしてなぜベトナム市場に注目しているかをお話しました。次回はベトナムM&A市場についての続きと、日本企業からベトナム企業の投資(M&A)の特徴についてお話したいと思います。

海外M&Aに関するお問合せはこちらから

著者

渡邊 大晃

渡邊わたなべ 大晃ひろみつ

Nihon M&A Center Vietnam Co., LTD (ベトナム現地法人) 代表 General Director

大手化学メーカーを経て、2004年日本M&Aセンターに入社。2010年以降、海外M&A業務(東南アジア、米国、中国、インド等)に従事。2019年ベトナム法人設立に伴い、同代表に就任。上場未上場企業のM&A支援実績多数。米国公認会計士(USCPA)、英ノッティンガム大学修士(MBA)。

この記事に関連するタグ

「海外M&A・クロスボーダーM&A・ASEAN」に関連するコラム

マレーシアのM&A事情や女性の働き方は?現地M&Aコンサルタントにインタビュー!

広報室だより
マレーシアのM&A事情や女性の働き方は?現地M&Aコンサルタントにインタビュー!

日本M&Aセンターでは、クロスボーダーM&Aの支援強化に向けて、ASEAN地域に拠点を設けています。今回は、マレーシア現地法人NihonM&ACenterMalaysiaSdn.Bhd.でM&Aコンサルタントとして活躍するDaphnieOngさんに、入社の経緯や今後の目標をインタビューしました!プロフィールダフィニーオンさん(写真中央)2020年2月入社。M&Aコンサルタントとして日本とマレーシア

海外M&Aでは現地特有の論点に注意 ~会計~

海外M&A
海外M&Aでは現地特有の論点に注意 ~会計~

海外M&AではM&Aの対象となりうる企業が海外に所在していることから、文化や言語、宗教にはじまり、準拠するルールや実務慣行等も日本とは異なります。すなわち、会社法や労働法、税法、会計基準、ビジネス慣習等の違いを把握したうえで、海外M&Aを検討する必要があります。そこで、今回は海外M&A、特にASEAN(東南アジア諸国連合)域内におけるM&Aを検討する上で注意すべき事項の一部を紹介したいと思います。

グローバルなタックスプランニングの基本①外国子会社配当益金不算入制度 活用のすすめ

海外M&A
グローバルなタックスプランニングの基本①外国子会社配当益金不算入制度 活用のすすめ

海外子会社を有する会社が活用できるタックスプランニング手法のひとつ「外国子会社配当益金不算入制度」をご紹介します!(※本記事は2021年12月に執筆されました。)そのほか海外のM&A情報はこちらから海外の子会社が稼ぐ方がグループ全体の税率が下がる?日本は世界でも法人税率が高い国のひとつとして有名です。現在、日本で活動する会社のもうけに対してかかる税金の税率は中小企業の場合で約34%(法人税・地方税

ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

海外M&A
ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

日本M&Aセンターインドネシア駐在員事務所は、シンガポールに次ぐ第2の拠点として、2019年10月に開設されました。今回は将来のGDP大国として、ASEANの中でも特に大きい成長・市場拡大が期待されるインドネシアへのM&Aについてご紹介します。(※本記事は2021年10月に執筆されました。)新型コロナの現状この原稿を執筆しているのは2021年10月末ですが、インドネシアでは2021年6月~8月にか

M&A対象国としての魅力が多いマレーシア

海外M&A
M&A対象国としての魅力が多いマレーシア

日本M&Aセンターのマレーシア拠点は、新型コロナウイルスの影響が大きく出始めた2020年3月に、4番目の海外拠点として開設されました。ロックダウンや渡航制限の影響を大きく受けながらも、2021年は既に成約件数が4件となり、当社の海外拠点では年間ベースで最大の成約件数となりました。マレーシアは、日本の中堅・中小企業が海外進出するために適した環境が広がっています。今回は、ASEANではシンガポールに次

時代は変わりつつある、タイのM&A

海外M&A
時代は変わりつつある、タイのM&A

多くの方が旅行で訪れたことがあるであろうタイ王国。欧米列強が東南アジアに攻め込んでいた時代、独立を守り抜いた唯一の国でもある。そのような歴史のあるタイでのM&Aはどうなのか?数字には表れていないM&A現場をお伝えします。2021年11月、タイ王国駐在員事務所を新規開設2021年11月8日、日本M&AセンターはASEAN地域5か国目の新拠点としてタイ王国駐在員事務所を開設しました。日系企業によるAS

「海外M&A・クロスボーダーM&A・ASEAN」に関連する学ぶコンテンツ

「海外M&A・クロスボーダーM&A・ASEAN」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

マイナビ、インドのHRスタートアップ企業Awign Enterprises Private Limitedを買収

株式会社マイナビ(東京都千代田区)は、ギグワーカーのリソースを活用して顧客へ成果物を提供するインド企業のAwignEnterprisesPrivateLimited(インドバンガロール、以下Awign)を2024年4月25日付けで買収し、子会社化した。マイナビは、社会や人々の有益となるようなサービス提供を目指した事業を展開している。Awignは、単発の仕事を請け負う労働者(ギグワーカー)が集うプラ

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース