ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

安丸 良広

日本M&AセンターASEAN推進部

海外M&A
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日本M&Aセンター インドネシア駐在員事務所は、シンガポールに次ぐ第2の拠点として、2019年10月に開設されました。今回は将来のGDP大国として、ASEANの中でも特に大きい成長・市場拡大が期待されるインドネシアへのM&Aについてご紹介します。(※本記事は2021年10月に執筆されました。)

新型コロナの現状

この原稿を執筆しているのは2021年10月末ですが、インドネシアでは2021年6月~8月にかけてコロナ変異株が猛威を振るい、現地駐在員も日本に一時帰国する非常事態がありました。その後の厳しいロックダウンにより、現在は落ち着いた状況となっています。ただ累計感染者数ではASEAN最大の424万人となっていますが、直近のジャカルタでの感染者数は1日あたり100人以下となりました。ただオフィスビルやモール、地下鉄、レストラン等への入場には、現地アプリ「PeduliLindungi」でのワクチン接種証明書の提示が必須となっています。日本人にとってはこのアプリのスマホ登録が煩雑であり、いまだに登録が出来てない方もいらっしゃいます。ちなみに私は先週やっと登録ができました。

将来のGDP大国・インドネシア

インドネシアは、面積、人口、天然資源、産業のポテンシャルを持った大国で、経営者らが「大きな夢」を見るのにふさわしい国です。南国特有の人懐っこさ、ゆったりとした生活のリズムからは、「大きな夢」の実現を急がない悠然とした空気も漂っており、インドネシアのポテンシャルの高さを感じさせます。

インドネシアは2019年にGDP3兆ドルを突破し、これはタイの2倍強を誇り、ASEAN諸国の3分の1を占めます。国民の平均年齢も29歳と若く、生産年齢人口(15~64歳)も長期的に増加。「高い成長率」と「人口増」がもたらすのは、ASEANナンバーワンの経済規模&市場の拡大です。2050年には日本を追い越し、世界第4位のGDP大国となることが予想されており、このASEANナンバーワンの巨大市場を狙った日本の中堅・中小企業の海外M&Aによる進出先としても大きく注目されています。

世界のGDP順位(単位:10億USD)
2019年 2050年
1 中国 中国 23,393 1 中国 中国 58,499
2 米国 米国 21,433 2 インド インド 44,128
3 インド インド 9,542 3 米国 米国 34,102
4 日本 日本 5,450 4 インドネシア インドネシア 10,502
5 ドイツ ドイツ 4,672 5 ブラジル ブラジル 7,540
6 ロシア ロシア 4,135 6 ロシア ロシア 7,131
7 インドネシア インドネシア 3,331 7 メキシコ メキシコ 6,863
8 イギリス イギリス 3,254 8 日本 日本 6,779

出典:IMF World Economic Outlook Database & PWC 長期的な経済展望より日本M&Aセンター作成

インドネシア企業と日系企業のM&Aは、年間約20件ペース

インドネシア企業と日系企業とのM&Aは、2000年代に入って累計約200件に上り、近年では年間約20件のペースで推移しています(2020年は新型コロナの影響あり)。買い手である日系企業は、8割近くが上場企業か上場企業の海外法人、残り2割が非上場企業で、M&A案件のトレンドとしては、資源系から製造業、そして近年ではサービス業へと変化してきています。とはいえ現在日本M&Aセンターが扱っているM&A案件は、圧倒的に製造業が多いです。

日本企業によるASEAN6か国 M&A件数推移
2017年 2018年 2019年 2020年
インドネシア 25 22 20 9
シンガポール 31 53 64 27
ベトナム 23 22 33 23
タイ 17 14 16 11
マレーシア 15 16 11 8
フィリピン 4 7 8 4
合計 115 134 152 82

出典:レコフM&Aデーターベースより日本M&Aセンター作成
https://www.marr.jp/recofdb.html

オムニバス法(大統領令)施行により、外資規制はほぼ撤廃

2020年11月の雇用創出のためのオムニバス法(大統領令)成立により、旧ネガティブリストで制限されていた外資規制はほぼ撤廃されました。ただ建設業等個別業法が適用される業種は、外資規制が撤廃されても合弁が必要等、個別に規制が残る形もありますので留意が必要です。
アフターコロナを見据え、多くの日本企業がインドネシアでのM&Aに挑戦しています。高い経済成長を続ける国であることから、いったん成功したあとの果実が大きく、メリットとデメリットのバランスを取りながらM&Aを実施することが重要となります。
外資規制が撤廃されたため、外資が100%(2名の株主が必要)で進出も可能ですが、やはり時間(許認可)、コスト面及び投資先企業が有している販路等により、M&Aによる進出を希望される企業も多数存在するかと思います。

オムニバス法により、外資規制が撤廃された主な業種
KBLI(産業分類コード) 旧ネガティブリスト外資出資割合上限 今回の上限
1 建設業(工事価格が500億ルピアを超える) 00000 外資比率最大67%
(ASEAN投資家 最大70%)
外資規制なし
2 建設コンサルタントサービス
(工事価格が100億ルピアを超える)
00000 外資比率最大67%
(ASEAN投資家 最大70%)
外資規制なし
3 ディストリビューター 00000 外資比率最大67% 外資規制なし
4 インターネット(Eコマース)による小売業 47911 47912
47913 47914
中小企業との提携の場合のみ外資は可能 外資規制なし
5 店舗床面積が1200平方メートル未満の
スーパーマーケット
47111 100%インドネシア資本 外資規制なし
6 店舗床面積が400~2000平方メートルの
デパート
47191 外資比率最大67% 外資規制なし
7 倉庫業 52101 外資比率最大67% 外資規制なし
8 貨物フォワーディング業 52291 外資比率最大67% 外資規制なし
9 複合運送業 52295 外資比率最大49% 外資規制なし
10 投資ファイナンス会社 64929
64910
外資比率最大85% 外資規制なし
11 ベンチャーキャピタル 64991 外資比率最大85% 外資規制なし
12 広告業 73100 100%インドネシア資本
(ASEAN投資家 最大51%)
外資規制なし
13 病院 86103 外資比率最大67%
(ASEAN投資家 最大70%)
外資規制なし
14 専門診療所 86109 86202
86203 86901
外資比率最大67%
(ASEAN投資家 最大70%)
外資規制なし

出典:大統領令を参照の上、日本M&Aセンター作成

今回は、インドネシアが日本企業の投資先としてなぜ注目されているのか?についてお話しました。
次回はインドネシアのM&Aに関しての留意点、特徴について具体的にお話していきたいと思います。

著者

安丸 良広

安丸やすまる 良広よしひろ

日本M&AセンターASEAN推進部

総合商社、監査法人を経て2002年日本M&Aセンターに入社。2013年に前身である海外支援室の設立に参画。これまでの成約案件は100件を超える。2019年インドネシアオフィスの設立に携わる。インドネシア駐在歴は、前職の商社時代を含め約10年となる。 米国公認会計士(USCPA)。

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