M&Aのお得なタイミング?! ~今譲渡するか、10年後に譲渡するか~

澤村 八大

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澤村八大

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「後継者がいないんだよ、だからM&Aを検討しようと思ってね」 数年前まで当社に寄せられる相談の大多数は、後継者不在を理由とする相談でした。ご相談いただく経営者様の年齢は大体60歳~70歳代です。 ところがその景色が最近変わってきています。 40歳~50歳代という比較的若い年代の経営者の方からの相談が増えているのです。 相談理由は「会社の成長・発展のために他社とアライアンスを組みたい」だったり、「アーリーリタイアして今の会社とは別のことを始めたい」だったり、後継者不在に限りません。 「会社の業績が好調で役員報酬もそれなりにもらっているから、今会社を売るか迷うなあ…」 そうした場合、今このタイミングでM&A譲渡をするのと、あと10年社長を続けてから譲渡するのと、金銭的にどちらが得かというのも気になるポイントの一つですよね。

M&Aで得られるのはお金だけじゃないものの、比べたくなるのが人間ですね

役員報酬と会社の売却益を天秤にかけてみると…

例えば、

  • 現在の役員報酬が3,000万円
  • 会社の最終利益が100万円
  • 現在、会社を譲渡すると3億円になる

としましょう。 今後10年間この状況が維持できたとすると

  • 役員報酬は 3,000万円×10年=3億円
  • 株価は 当期利益100万円が毎年維持され10年分の利益の蓄積で3億円+100万円×10年=3.1億円

合計で6.1億円になります。 そうすると、今3億円で譲渡するなんて馬鹿げていると思われるかもしれませんが、ここに3つの大きな落とし穴があります。

落とし穴その1. 税金

年収3,000万円の場合、税金等の徴収額も相当かかります。手取りとしては大体1,500万円くらいでしょうか。 その金額で再計算すると、10年社長を続けると1億5,000万円ですね。 これに対して、株式の譲渡益に対する税金は約2割(正確には現在20.315%ですが、以下簡便的に20%で計算)です。 したがって資本金1,000万円で設立した会社を3億円で譲渡した場合は、(3億円-1,000万円)×20%=5,800万円の税金となります。手元にはそれを差し引いた2億4,200万円が残ります。 10年後に会社を譲渡すれば前述の譲渡益も受け取れますから、 役員報酬10年分:1億5,000万円+10年後の会社譲渡後の手取り:2億4,000万円=3億9,000万円 額面では「3億円」対「6.1億円」で2倍以上の差でしたが、 手取では「3億円」対「3.9億円」で1.6倍程度の差になりました。 でも、まだこの試算だけでは考慮されていないものがあります。

落とし穴その2. 時間の価値

考慮されていないものの一つに、“時間の価値”があります。 今手元にある資金を10年間資産運用すれば、低金利の時代とはいえ、ある程度資産は増えます。 「今ある1億円」と「10年後手に入る1億円」では、今もらえる1億円のほうに多くの人は価値を見出します。 たとえば、1億円の資金があり、4%の利回りで10年運用したらどうなるか? 利子にさらに利子がつく複利の計算を進めると、10年で約1.5倍の1.5億円になります。 したがって、4%の利回りのもとでは「今ある1億円」と「10年後手に入る1.5億円」は等しいということになります。 これを、今回の会社の例に当てはめて考えてみましょう。 「今もらえる手取 2.4億円」と「10年後に手に入る手取 3.9億円」のどっちに価値があるかというのを4%の利回りで計算すると… 「10年後に手に入る手取 3.9億円」は「今もらえる手取 2.8億円」と等しい価値になります。 この計算でみても、若干ですが、10年後に会社を譲渡したほうがよさそうですね。 果たして、この計算でよいのでしょうか?

落とし穴その3. 経営リスク

皆さんも、もうお気付きかもしれません。 ここまでの試算は机上の空論に過ぎません。 なぜなら 「今後10年間会社を存続させることができるのか?」 という会社経営の根本にあるリスクをまったく考慮していないからです。 業界再編の波や景気に左右されながら10年間変わらず経営して会社を存続させることは、並大抵のことではありません。 会社を10年間存続させるだけでも大変ですし、継続できたとしても会社の規模や収益性、そして成長性が下がってしまうことは往々にあります。 同じ財務内容で、一方は衰退する企業、もう一方は成長に向かう企業だった場合、どちらとM&Aで一緒になりたいでしょうか? 譲受企業の立場からみれば一目瞭然で、成長傾向の会社を高く評価しますよね。 「今譲渡するか」「10年後に譲渡するか」を比較検討するには、

  • 10年後自社株の株価が下がる確率
  • M&Aの譲渡先が見つからず清算になる確率
  • 10年の間に会社が倒産してしまう確率

なども考慮する必要があるのです。 会社経営をするリスクを背負い続ける10年間と、肩の荷が下りてセカンドライフを満喫する10年間の差は、お金に換えられないほどの価値があるのではないでしょうか?

お金がすべてではないけれど…

M&Aの判断において、金勘定がすべて!ということはあまりありません。 しかし「お金」も判断の決め手となる重要な要素だと思います。 「自分の会社はいくらになるの?」と気になる方はお気軽に弊社までご相談ください。

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著者

澤村 八大

澤村さわむら八大はちだい

監査法人トーマツ企業財務部(現デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー)、日系大手投資銀行を経て、2007年日本M&Aセンター入社。M&A業界一筋20年超のベテラン。当社ではコーポレートアドバイザー室長として企業概要書の標準化、企業評価研究所の基礎作り等案件化の仕組みづくりに従事後、より効率的に案件化を管理する案件管理室を立ち上げ、案件化・マッチングをより効率的に管理する案件管理統括部長に就任。日々、さらなる成約率の向上を目指し、高品質かつ高効率なM&Aの仕組みづくりに取り組む。

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