最適なディスクローズ(情報開示)のタイミングとは?

幸亀 努

著者

幸亀努

M&A実務
更新日:

⽬次

[非表示]

M&Aで譲渡を決断されたオーナー社長様にとって、その事実を「誰に」「どのタイミングで」開示するかは極めて重要なテーマです。

会社を取り巻く関係者は様々です。 社長の家族、株を保有している親族、役員・従業員はもちろんのこと、取引先、顧問税理士、取引金融機… これだけの関係者に、M&Aで会社を譲渡する事実と、その「背景」にある社長の想いを「どこかのタイミングで」伝えなければなりません。

もちろん、M&Aは秘密保持で交渉が進められますし、情報漏洩リスクの観点からもM&A譲渡検討段階で本件を知る人は少ない方が望ましいといえます。

「納得できる相手先に出会えるのか?」「こちらが望む条件で合意できるのか?」―M&A検討の初期段階においてはわからないですし、様々な検討をした結果M&Aのタイミングを遅らせたり見送ったりすることもあるでしょう。

そのため、可能な限り社長1人の胸にしまって交渉にあたるのがベストです。 しかしそうはいっても、交渉が具体化するにつれて重要関係者の同意取得が必要になるので、同意をあらかじめとりつけるためにディスクローズ(開示)が必要な場合もあります。 関係者ごとに特徴を見ていきましょう。

M&Aの捉え方は人それぞれ。だからこそ、ディスクローズは大切

家族・親族への開示方法は十社十色

奥様が会社の経理総務を担当していたり、ご子息が会社の役員を務めていたり、親族が社内にいるケースは多いでしょう。

会社業務への関与度や株式の所有割合によっては早い段階での開示と、M&Aへの同意が必要な場合があります。

忙しい社長に代わって、資料収集をご家族で協力し合ったケースもありました。 一方で、M&Aへの気持ちの整理がつかず、最終局面で奥様が反対するケースもありました。

社長にとって我が子の様な会社は、家族にとっても同じくらい大きな存在です。「M&A=会社がなくなる」という喪失感に見舞われて感情的に反対する場合もあります。

家族に対しては「どうしてM&Aをすることにしたのか」、その「背景」にある大義名分、“社長の想い”を共有することが重要です。

幹部社員・株主は最終局面で同意を得られることが重要

社員への開示は最終契約締結後が通常ですが、幹部社員に関しては例外の場合もあります。

幹部社員の賛同があってこそM&A後の両社の融合もスムーズに進みますし、買い手企業も幹部社員の姿勢(協力的かどうか)を重視するのは当然です。

相手先との交渉が最終段階になった段階で幹部社員に開示し、協力姿勢を得ておくことが重要です。

ただし人数は絞り込み、情報漏洩対策をしっかりとりましょう。 株主も、全ての株主から株式売却の同意を得られることが最終契約の成否に大きく関わってきます。

同意が得られない可能性がある株主については対策を事前に講じる必要があります。

M&Aを決断した社長の想いを伝えることが重要

いきなり「会社を譲渡する」と聞いて動揺しない人はいません。会社の譲渡が自分にどんな影響があるのかはすぐには想像できないので不安になりますよね。

そのため、ディスクローズにおいて重要なのは「M&Aという選択が会社にとって、社員にとって最良である」と社長自身が信じて決断した“想い”を伝えることです。

会社が成長していく未来のための決断であれば、関係者は必ず納得してくれます。

従業員開示のエピソード

先日私が経験した話です。 M&A交渉をしていた製造業のとある会社で、専務にそのことを開示しました。

社長は、M&Aを決断するまでの想いやM&Aによる今後の会社の成長ビジョンについて、丁寧に説明をしました。 すると専務は開口一番、「よかった」と言われました。

「よかった。社長には後継ぎがいないのはわかっていたので、もしかしたら社長の代で会社を畳んでしまうのではとずっと気にかかっていました。 もし廃業となったら、私を含め社員の再就職は厳しい時代です。M&Aが、会社が存続・発展していくための社長の決断ということなら、全面的に協力させて頂きます!」

こうしてこの会社は無事にM&Aが実行され、専務は今までと変わらず働いています。

社長のM&Aにかける想いをきちんと伝えればM&Aへの理解を示してもらえることを実感しました。

日本M&Aセンターでは、経験豊かなコンサルタントが開示のタイミングや内容、話し方などディスクローズについてもサポートします。 ぜひご安心してご相談ください。

日本M&Aセンターは1991年の創業以来、数多くのM&A・事業承継をご支援しています。中小企業の事情に精通した専任チームが、お客様のM&A成約まで伴走します。

著者

幸亀 努

幸亀こうかめつとむ

大手証券会社にてM&Aアドバイザリー業務に従事後、2002年日本M&Aセンター入社。大手企業から中小企業まで数百件のM&A成約に関与。SFPホールディングス(東証2部上場)の創業者が「約束のとき」というタイトルで出版した書籍の中で、担当のM&Aコンサルタントとして登場している。2023年4月より現職。

この記事に関連するタグ

「M&A・家族・ディスクロージャー」に関連するコラム

M&Aの従業員開示(ディスクローズ)をスムーズに。社長の想いを効果的に伝える方法

M&A実務
M&Aの従業員開示(ディスクローズ)をスムーズに。社長の想いを効果的に伝える方法

譲渡を決断したオーナー経営者がM&A後真っ先に取り組む仕事のひとつが、従業員にM&Aしたことを報告する「従業員開示(ディスクローズ)」です。このやり方ひとつで、従業員の受け止め方は180度変わってしまいます。発表のタイミングや表現、社長と想いを同じにするキーパーソンへの事前の根回しなど、細心の注意を払って進めることが重要です。M&Aの成功は、従業員への開示がうまくいくかどうかにかかっていると言って

事業承継のタイミングとは?最適なタイミングを見極める際のポイント

事業承継
事業承継のタイミングとは?最適なタイミングを見極める際のポイント

事業承継は、多くの経営者にとって避けて通れない大きな課題です。承継のタイミングを誤ると、経営混乱や企業価値の低下など深刻なリスクを招きかねません。一方で、経営・業績が安定し、後継者の準備が整っている時期であれば、スムーズに事業承継を実現できるでしょう。本記事では、事業承継の最適なタイミングを見極めるポイントや、判断を誤った場合のリスク、専門家に相談すべき時期について解説します。この記事のポイント事

組織再編とは?会社法に定められた手法や目的、注意点を解説

M&A全般
組織再編とは?会社法に定められた手法や目的、注意点を解説

企業が成長を続けるためには、市場環境や競争状況の変化に応じて組織や事業の在り方を柔軟に見直すことが欠かせません。その代表的な手段の一つが組織再編です。この記事では、組織再編の基本的な定義や目的、会社法に定められた代表的な手法、実施する際のメリットと注意点、成功させるためのポイントについて解説します。この記事のポイント組織再編とは、企業の組織や事業体制を見直し、新たに編成し直す法的手続きのことで、企

買収とは?合併やM&Aとの違い、種類、プロセスを解説

M&A全般
買収とは?合併やM&Aとの違い、種類、プロセスを解説

買収は、企業の成長や事業承継の手法として広く活用されています。売り手側にも買い手側にもメリットがある一方で、リスクもあるため注意が必要です。本記事では、買収と合併、M&Aの違いをはじめ、買収の種類やプロセスをわかりやすく解説します。この記事のポイント買収とは、対象企業の事業や経営権を取得することで、「事業買収」と「企業買収」に分けられる。買収には「友好的買収」と「同意なき買収」があり、一般的に中小

TOB(株式公開買付け)とは?目的やメリット、手続きをわかりやすく解説

M&A全般
TOB(株式公開買付け)とは?目的やメリット、手続きをわかりやすく解説

TOB(株式公開買付け)は、市場外において上場企業の株式を直接買い付けるM&A手法の一つです。近年では、経営権の取得や企業再編、グループ化、MBOの手段としても注目されています。この記事では、TOBの基本的な仕組みやほかのM&A手法との違い、メリット・デメリットのほか、TOBの具体的な流れなどについて、わかりやすく解説します。この記事のポイントTOBは、市場を通さずに不特定多数の株主から株式を直接

事業承継・M&A補助金とは?対象者やメリット、申請方法を解説【最新】

事業承継
事業承継・M&A補助金とは?対象者やメリット、申請方法を解説【最新】

中小企業や個人事業主にとって、後継者不足や経営資源の分散は深刻な課題です。国が支援する「事業承継・M&A補助金」は、そのような課題を解決する制度として注目を集めています。本記事では、事業承継・M&A補助金の創設背景や活用時のメリット、注意点、補助される事業者と経費のほか、申請の流れについて解説します。この記事のポイント事業承継・M&A補助金は、中小企業や個人事業主がM&Aや事業引継ぎにかかる費用の

「M&A・家族・ディスクロージャー」に関連する学ぶコンテンツ

「M&A・家族・ディスクロージャー」に関連するM&Aニュース

ウエルシアホールディングス、子会社の現物配当により孫会社が異動へ

ウエルシアホールディングス株式会社(3141)の完全子会社であるウエルシア薬局株式会社(東京都千代田区)は、保有するウエルシア介護サービス株式会社(茨城県つくば市)の発行済全株式を、ウエルシアホールディングスへ現物配当することを決定した。これにより、ウエルシア介護サービスの発行済全株式を取得することとなり、同社はウエルシアホールディングスの完全子会社となる。ウエルシアホールディングスは、調剤併設型

日本エコシステム、テッククリエイトの全株式取得へ

日本エコシステム株式会社(9249)は、株式会社テッククリエイト(石川県金沢市)の全株式を取得し、グループ化することに関し、株主との間で株式譲渡契約を締結することを決定した。日本エコシステムは、環境、公共サービス、交通インフラに関する事業を行う。テッククリエイトは、北陸三県の鉄道線路・施設の保守点検、石川県内の工場・商業施設・公共施設などの給排水衛生設備、空調設備工事等を行う。テッククリエイトのグ

ニッスイのグループ会社、ニュージーランドの漁業会社IFL社を買収へ

株式会社ニッスイ(1332)のグループ企業であるSealordGroupLtd.(ニュージーランドネルソン市、以下シーロード社)は、インディペンデント・フィッシャリーズ(ニュージーランドクライストチャーチ市、以下IFL社)との間で、同社の買収契約を締結した。今後、同国の通商委員会および海外投資局の許可・承認を得ることなどを条件として、買収が成立する見通し。シーロード社は、ニッスイのグループ企業で、

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース