コラム

2024年マレーシアで注目の新興ビジネスとは?~日本企業がマレーシアでつかむ投資チャンス

坂本 遼介

Nihon M&A Center Malaysia Sdn. Bhd.(マレーシア現地法人) Senior Deal Manager

海外M&A
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財務の透明性や親日度合いから日本の企業が海外M&Aをする際に検討に上がりやすいマレーシア。

近年注目されているのは、主要産業とされている電子・電気機械系の製造業や、プランテーションによるパーム油生産等、従来より盛んだったビジネスだけではありません。

本記事では、今後マレーシア経済の成長を支えるとされている4つのカテゴリについてマレーシア国内での状況、マレーシア政府による取り組みを紹介しながら、今後のビジネスチャンスについて考えていきたいと思います。

マレーシアで注目すべき新興ビジネス4選

今後マレーシアで注目するべきと言えるのは、下記の4つのカテゴリです。それぞれについて解説していきます。

  1. デジタルトランスフォーメーション(DX)
  2. フィンテック、イスラミック・フィンテック
  3. フィンテック、イスラミック・フィンテックグリーンエネルギー
  4. グリーンエネルギー

デジタルトランスフォーメーション(DX)in マレーシア

企業がデジタル技術を用いて企業としての競争上の優位性を図る「デジタルトランスフォーメーション」は、日本では2021年に総務省により発表された概念です。マレーシアにおいては、より早い時期に政府が積極的にデジタル技術を利用したビジネスの活性化を目指してさまざまな具体的な政策を打ち出しています。
近年の大きなニュースとしては、2017年にマレーシア政府により、Digital Free Trade Zone(デジタル・フリー・トレード地区、DFTZ)が発足されました。DFTZはいわゆるe-コマースを利用したマレーシア経済の活性化を狙った施策で、特に中小企業やスタートアップが多く登録しています。

税制の面でも、デジタル・エコシステムの活性化を目的とした「Digital Ecosystem Acceleration Scheme (DESAC)」や「Malaysia Digital」といった優遇施策が用意されています。
特にDESACは多国籍企業からの投資を奨励する目的もあるようです。
参考:MALAYSIA ALL GEARED UP TO BECOME A HUB FOR DIGITAL INVESTMENTS(マレーシア投資開発庁のウェブサイト)

マレーシアのe-コマース

具体的なマーケットとしてe-コマースの状況を見てみましょう。
マレーシアの Ministry of Communications and Digital(通信・デジタル省)の下部組織である「Malaysia Digital Economy Corporation (MDEC)」 が発表している「National E‑Commerce Strategic Roadmap (NESR)」によると、マレーシアの2022年のe-コマースの市場規模は、1兆1,578億リンギットに達しているとのことです。
また、2025年までに1兆65百億リンギットを目指すと発表しています。また同ロードマップからは、国内の人材育成や投資にも力を入れてきたことが読み取れます。

マレーシアのデータセンター

また、デジタル・エコシステム化を促進するにあたり、大量のデータ通信を実現するためにデータセンターが必要になります。
2021年4月には、マイクロソフト社がマレーシアで初のデータセンターを開設することを発表、NTTもマレーシアで6番目のデータセンターの着工を開始したことが報じられました。

参考:Microsoft announces plans to establish its first datacenter region in Malaysia as part of “Bersama Malaysia” initiative to support inclusive economic growth(Microsoft Malaysia)
参考:https://www.datacenterdynamics.com/en/news/ntt-breaks-ground-on-its-sixth-data-center-in-cyberjaya-malaysia/(DATA CENTRE DYNAMICS)

マレーシアにおけるIT関連のM&A事例

関連するM&A事例では、直近でも2022年に博報堂やサン電子がマレーシアのIT関連企業を連結子会社しています。

博報堂、マレーシアのKingdom Digital Solutionsの株式取得、連結子会社化 (M&Aマガジン)

サン電子、マレーシアのEKTech社の株式取得、連結子会社化へ (M&Aマガジン)

このように、M&Aの観点でも、マレーシアにおける「デジタルトランスフォーメーション(DX)」ともいうべき、デジタル・エコシステムに関する動向は、今後ますます注目すべきカテゴリであると言えます。

フィンテック、イスラミック・フィンテック

フィンテックは、金融サービスとデジタル技術を掛け合わせたサービスの事で、COVID-19パンデミック以来、日本でも急速に導入が進んだ決済システムやインターネット・バンキング等、世界的に注目されている産業です。特に、この分野では、マレーシアでは「イスラミック・フィンテック」が特徴的です。

2022年時点で約3,260万人のマレーシア国民のうち、64%がイスラム教を信仰しているという背景から、マレーシアでは、イスラミック・フィンテックという産業が勃興しています。イスラミック・フィンテックとは、イスラム教の教えに基づいた金融サービスを提供するフィンテック企業のことを指します。イスラム教では、「利子の支払い」や「借金から利益を得る事」等が禁止されており、従来の金融サービスとは異なる金融サービスが必要とされており、イスラミック・フィンテックはその需要に応える形で生まれました。

また、一般的なフィンテックにおいても、マレーシア政府は外国からの投資に関して積極的な姿勢を見せています。マレーシア政府によりフィンテックに関する専門の組織「FinTech Association of Malaysia(マレーシアフィンテック協会)」も設立され、フィンテック企業の支援や外国からの投資を促しています。

ライフサイエンス

医療やヘルスケアに強い関連のあるライフサイエンス分野においても、マレーシア政府は産業の成長を支援するため、多様な政策を展開しています。THE NATIONAL BIOTECHNOLOGY POLICY (NBP)という政策を2005年から推し進めていましたが、2022年9月には新フェーズとなるThe National Biotechnology Policy 2.0 (DBN 2.0)を発表。「バイオテクノロジー企業による国内総生産 (GDP) の割合を 5%にする」等の目標を掲げています。

参考:THE NATIONAL BIOTECHNOLOGY POLICY (NBP)(Bioeconomy Corporation)
※Bioeconomy Corporationは、Ministry of Science, Technology and Innovation(MOSTI、科学技術開発庁) の管轄下にある、マレーシアのバイオベース産業の主要開発機関

ライフサイエンス領域での日本企業の進出例

日本からは小林製薬が2011年に子会社を設立していますが、2023年2月には、東南アジアで新たに工場を設立する方針があることを日本経済新聞が報じています。(参考「小林製薬、東南アジアに新工場 「熱さまシート」生産」2023年2月10日付、日本経済新聞電子版)
また、ニプロは2014年、大塚製薬は2022年にマレーシアに販売子会社を設立しています。

グリーンエネルギー

最後にご紹介するのは、「グリーンエネルギー」です。
太陽光発電や風力発電、バイオマス燃料などのグリーンエネルギーの導入に関しては、世界中で関心が高まっていますが、やはりマレーシアでも見逃せない産業であると言えます。
マレーシアではすでに、専用の機材を個人宅等に設置しなくても、一般消費者が水力発電所や太陽光発電所で発電した電力を電力供給源として選択できる「グリーン電力タリフ(GET)」が2022年より始まっています。

参考:再エネ由来の電力、2022年1月から選択可能に(マレーシア)(JETRO)

グリーンエネルギー領域での日本企業関連ニュース

出光興産は2022年7月と12月にマレーシアで開始した太陽光発電事業のニュースを次々と発表するなど、マレーシアにおける日本企業のグリーンエネルギー関連ニュースは数多く見つかります。
また、バイオマス燃料についても今後ますます注目を集めるでしょう。ユーグレナは、2022年12月にマレーシア企業とイタリア企業の3社合同で、バイオマス燃料のプラント建設に向けた検討を開始したことを発表しました。

参考:マレーシアで屋根設置型太陽光発電事業を開始 ~東南アジアにおけるクリーンエネルギー普及に貢献~(出光興産株式会社ホームページ)
参考:マレーシアで2例目となる屋根設置型太陽光発電所の導入について ~東南アジアにおけるクリーンエネルギー普及に貢献~(出光興産株式会社ホームページ)
参考:ユーグレナ、マレーシアにバイオ燃料工場検討(2022年12月14日付、日本経済新聞電子版)

日本M&AセンターによるクロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターは、1991年に設立されて以来30年以上の歴史を持つ日本最大の独立系M&A仲介会社です。5つの海外オフィスを有し、豊富な経験と実績に裏打ちされた専門的なサービスを世界中で提供しています。

M&Aに関しては、これまでに8,000件以上の実績を積み重ねており、独自のノウハウと高い専門知識をもとに提供されるサービスは、多くの企業から評価を受けています。東京証券取引所への上場も果たし、2021年からはWorld M&A Allianceに加盟しました。

近年は、特にクロスボーダーM&Aのサポートに力を入れており、ASEAN地域5ヵ国(シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、タイ)に拠点を設け、現地のM&Aに詳しいコンサルタントがASEANでのビジネス展開を成功させるためのサポートを提供しています。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

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データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。
日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

著者

坂本 遼介

坂本さかもと 遼介りょうすけ

Nihon M&A Center Malaysia Sdn. Bhd.(マレーシア現地法人) Senior Deal Manager

シンガポール、エジプトで幼少期を過ごし、米カリフォルニア大学サンディエゴ校卒業。米系大手コンサルティングファームを経て、2020年日本M&Aセンターに入社。 東南アジア、欧州等の外資系企業と日本企業とのクロスボーダーM&A支援に従事。事業承継のみならず、ファンドEXITや、上場企業カーブアウト案件も実績あり。

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