コラム

「それでも、あいつに任せたいんだ・・・」継がせたい社長の切なる想い

竹内 直樹

日本M&Aセンター代表取締役社長

事業承継
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数か月前、ある製造業のオーナー社長にお会いしてきました。 最近は日に日に寒くなってきていますが、まだその頃は夏真っ盛りで、連日真夏日を記録していました。 面談のきっかけになったのは、社長からの1本の電話でした。 「やっぱり、これからもう一度、自分の手でモノをつくりたい。 前にも伝えたとおり、自分には子供がいない。だから、後は専務に任せたいと考えている。でも、専務はまだ若い。着手した第3工場の建設も彼だけでは心配だ。 それでも、あいつ(専務)に任せたいんだ。竹内くん・・・どこかの会社に譲渡するしかないんだろうか。」 電話の先で、社長は思い悩んでいらっしゃいました。 私はすぐに社長に会いに行きました。 「社長、“成長戦略型事業承継”をご存知ですか?」 私は社長にお会いして、初めにそう伝えました。

電話の声は、すこし落ち込んでいるようにも聞こえました

子供や従業員に継がせるために

最近、“企業の成長”と“事業承継”の双方に悩みを抱えている経営者の皆様からのご相談が増えています。 後継者(候補)がいないのではなく、後継者(候補)がいるけれども実際に継ぐとなると資金的な問題や年齢・経験的な問題があるというケースや、事業がおかれている環境から能力的に厳しいのではないかと迷われているケースが多いのも特徴です。 「事業承継でのM&Aというと譲渡しか考えない方も多いのですが、実は買収と譲渡のどちらも選択肢になりうるんです。譲渡を選択する場合でも、いろいろな条件をつけることができます。社長の希望を全て条件としてお相手を探すことだってできるんです。」 私は続けて社長にそうお伝えしました。 それを聞いて「そうか、そうか」と頷いていた社長の驚きと喜びの混ざった顔が忘れられません。 自分がいなくなった後の会社を、ご子息や、共に苦労をしてきた役員・従業員の方に任せたい、と経営者の方々は誰もがそう思っていらっしゃるのではないでしょうか。 子供や従業員に継がせるためのM&A、それを“成長戦略型事業承継”と私は呼んでいます。

継ぐ側の決意のとき

社長が専務に、継ぐ覚悟があるかどうかを聞いたのは、私と面談した3日後でした。 「お前にこの会社を引き継いでほしい」と社長から切り出したとき、専務はしばらくの沈黙の後、「僕にやらせてください」と頭を下げたそうです。 後日、専務にお聞きしたところ、 「正直はじめは、自分が社長?と思いました。専務になってまだ半年です、誰でも躊躇すると思います。 創業からずっと社長と一緒にやってきたので、社長がものづくりの道を究めていきたいと思っていることは知っていました。その気持ちを尊重してあげたいなと思ったのと、せっかくチャンスがあるのだからチャレンジしてみないと、と思って決意しました。」 と、その時の気持ちを教えてくれました。

専務が会社を継ぐためのM&A

それからは社長と専務と私の3人で「どうやって会社を継いで成長させていくか」という議論を重ねました。 議論の結果、社長と専務が選ばれたのは、ファンドの活用です。 会社がきちんと引き継がれ成長していける条件で、ファンドへの売却を決意されたのです。 専務は5年間ファンドのサポートを受けながら経営者としての経験を積むことになりました。そして5年後、専務ご本人が希望した場合には、専務が全株式を買い取ることができる条件になっています。 「5年後、専務と会社がどのくらい成長しているのか、とても楽しみです」 成約式の時に社長は嬉しそうに挨拶されました。 会社を離れる一抹の寂しさもあるでしょうが、社長と会社がそれぞれ新しいスタートを切ったことへの期待感が大きいように見えました。

「成長が楽しみ」成約式の社長の笑顔は、未来への希望だったのかもしれません

竹内の書籍『どこと組むかを考える成長戦略型M&A』

Think Owner's

著者

竹内 直樹

竹内たけうち 直樹なおき

日本M&Aセンター代表取締役社長

1978年生まれ。広島県出身。2007年日本M&Aセンターに入社。主に中堅・中小企業と上場企業に対して買収提案を担う部署の責任者として、上場後のブリッツスケール(爆発的成長)に貢献。譲受企業だけではなく譲渡企業の成長も実現する「成長戦略型M&A」を提唱し、日本経済におけるM&Aの普及・啓発に尽力。2018年から取締役となり、全社の戦略立案と実行を指揮して、連続的な業容拡大を実現。2024年4月より現職。日本M&Aセンターホールディングス取締役も兼務。著書に「どこと組むかを考える成長戦略型M&A」(プレジデント社)がある。

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