ASEANで日本企業の買い手を待つ案件は年間約80件 中堅・中小企業の海外M&Aの現在地
⽬次
- 1. 1. 「海外M&Aは大企業のもの」は10年前の常識
- 1-1. 市場づくりから始めた10年
- 2. 2. ASEANでは日本企業の買い手を待つ案件が年間約80件
- 2-1. なぜASEANなのか
- 3. 3. 「海外を任せる人材がいない」はM&Aを見送る理由になるか
- 3-1. 成否を分ける2つの条件
- 4. 4. 「何から始めればいいか分からない」を解消する取り組み
- 4-1. 国・地域金融機関との連携
- 4-2. ASEANでの現地視察型プログラム
- 5. 5. ASEANの先へ 米国・韓国・欧州へ広がる選択肢
- 6. まとめ:海外M&Aは中堅・中小企業の「現実的な選択肢」へ
- 6-1. まずは市場と事例を知りたい方へ
- 6-2. 海外・クロスボーダーM&A DATABOOK 2026年版(無料)
- 6-3. 自社の場合を具体的に相談したい方へ
- 6-4. 海外M&Aの無料相談
- 6-5. 著者
- 6-6. 監修

人口減少と高齢化により、日本の国内市場は今後も縮小が見込まれています。成長を続けたい中堅・中小企業にとって、海外市場は避けて通れないテーマになりつつあります。
一方で、海外M&Aと聞くと「大企業がやるもの」「海外を任せられる人材がいない」と感じる経営者の方も少なくありません。
日本M&Aセンターは2016年にシンガポールで海外事業を立ち上げ、2026年で10年の節目を迎えました。本コラムでは、海外事業を率いる執行役員 海外チャネル部長・尾島悠介の話をもとに、中堅・中小企業の海外M&Aの「いま」と、成否を分ける条件を整理します。
1. 「海外M&Aは大企業のもの」は10年前の常識
10年前、海外M&Aは中堅・中小企業にとって遠い存在でした。
尾島は当時をこう振り返ります。
「10年前は海外M&Aといえば大規模案件が中心で、日本の中堅・中小企業には、海外M&Aを検討・実行するための経営資源が十分にありませんでした。加えて、中堅・中小企業が現実的に検討できる案件規模や買収金額の海外案件自体も、ほとんどありませんでした」
M&A未経験の企業が多く、国内以上にハードルの高い海外M&Aに踏み出すノウハウもない。この状況を変えるために始めたのが、当社の海外事業です。
市場づくりから始めた10年
2016年、当社は2人体制でシンガポールに拠点を開設し、東南アジアの中堅・中小企業への直接アプローチを始めました。しかし当時の東南アジアでは、M&Aへの理解が日本ほど広がっておらず、ネガティブな印象を持つオーナー経営者も多かったといいます。
そこで、国内で強みとしてきたネットワーク戦略をASEANでも展開しました。現地の有力な会計事務所や金融機関、コンサルティング会社と協業し、M&Aの普及・啓発に取り組みながら、案件が生まれる市場そのものを育ててきました。
現在はシンガポール・マレーシア・タイ・ベトナム・インドネシアの5カ国に現地法人を設立し、日本側を含めて約65人の体制です。新型コロナウイルス感染症の拡大により、一時は案件が停滞したものの、人員増強とネットワーク拡充を進め、2022年以降は東南アジア案件が大きく増加しています。
日本側でも変化が起きています。海外M&Aへの関心は大企業だけでなく中堅・中小企業に広がり、特に地方企業では、国内の都市部よりも成長が見込まれるASEANへの進出にM&Aを活用する企業が増えています。

図1:海外事業10年の歩み
2. ASEANでは日本企業の買い手を待つ案件が年間約80件
当社がASEANで取り扱う新規の譲渡案件は、年間100件以上にのぼります。一方、日本企業との成約は年間約20件で、残る約80件は買い手企業が見つかっていません。

図2:ASEANで当社が扱う新規譲渡案件(年間)
中堅・中小企業が検討できる規模の海外案件は「ない」のではなく、日本側の買い手が追いついていない。これが10年をかけて市場を育ててきた現場から見えている実態です。
なぜASEANなのか
当社が最初の展開先にASEANを選んだ理由は、日本の中堅・中小企業との相性にあります。
- 日本企業との親和性が高い
- 後継者不在や事業承継など、日本と共通する経営課題を抱えている
- 日本企業への信頼感が強い
尾島は、社会課題先進国であり、M&A先進国でもある日本のノウハウや知見を生かせる点もASEANの特徴だと指摘します。
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3. 「海外を任せる人材がいない」はM&Aを見送る理由になるか
尾島によれば、中堅・中小企業の海外M&Aにおける最大のボトルネックは人材です。「海外を任せられる人材がいないため、海外M&Aを検討できない」という声はよく聞かれるといいます。
しかし、自前で現地拠点を立ち上げる場合でも、M&Aで進出する場合でも、海外事業を担う人材は必要です。尾島はこう続けます。
「むしろM&Aでは、現地企業がすでに持つ経営陣や従業員、顧客基盤などを引き継げるため、ゼロから進出する場合と比べて、人材面の負担を抑えられる可能性があります」

図3:自前で進出する場合と、M&Aで進出する場合
成否を分ける2つの条件
ただし、M&Aをすれば人材の課題がすべて解消するわけではありません。尾島が挙げる条件は次の2つです。
条件1:経営陣のリーダーシップ
経営陣が海外事業を自社の成長戦略の柱として明確に位置付け、自ら牽引して成長させるという強い意思を示すこと。それがなければ組織は動かず、人材の育成や採用も進みません。
条件2:買収後を担う体制を早期に整えること
海外展開の検討と人材の育成・採用を並行して進め、買収後の経営やPMI(M&A後の統合作業)を担える体制を早い段階から整えること。
海外M&Aは「人材がそろってから検討するもの」ではなく、「検討と並行して人材と体制を整えていくもの」と捉えることが、最初の一歩につながります。
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4. 「何から始めればいいか分からない」を解消する取り組み
ASEANで買い手を待つ約80件と日本企業とのギャップを埋めるため、当社は日本国内での活動を強化しています。
国・地域金融機関との連携
当社と同様の課題意識を持つ経済産業省や地域金融機関などとの連携を進めています。2025年には経済産業省近畿経済産業局と研究会を立ち上げ、官公庁や金融機関、現地の日系企業とともに、中堅・中小企業による海外M&Aの拡大に向けた支援体制を議論してきました。あわせて、これまでの海外M&A事例の取りまとめやセミナーを通じた情報発信にも取り組んでいます。
ASEANでの現地視察型プログラム
日本の中堅・中小企業の経営層を現地に招き、海外M&Aにおける法務・財務・税務・人事面の留意点を学ぶプログラムです。実際にM&Aを経験した日本企業の経営者から体験談を聞くほか、工場見学や商業施設の視察を通じて現地市場を肌で感じていただきます。
参加者からは「現地の雰囲気を肌で感じたことで、具体的に検討しやすくなった」との声が寄せられています。これまで海外M&Aを検討していなかった企業が参加をきっかけに検討を始めた例や、具体的な案件が成約間近まで進んでいる企業もあります。
5. ASEANの先へ 米国・韓国・欧州へ広がる選択肢
ASEAN以外の国・地域に注目する日本企業も増えています。中でもニーズが高いのが米国です。ただし米国で譲渡を希望する企業は大規模案件が多く、中堅・中小企業が現実的に検討できる規模の案件を扱い、そのM&Aを支援するプレーヤーはまだ限られています。
こうした背景から、当社はASEAN以外の地域でも支援体制を広げています。

図4:日本M&Aセンターの海外M&A支援体制
| 地域 | 当社の体制 | 主な動き |
|---|---|---|
| ASEAN(シンガポール・マレーシア・タイ・ベトナム・インドネシア) | 現地法人(5カ国) | 2016年にシンガポールで事業開始。日本側を含め約65人の体制 |
| 米国 | 業務提携(Generational Group) | 2026年8月、米国で中堅・中小企業のM&Aを支援するGenerational Groupと戦略的業務提携契約を締結 |
| 韓国 | 出資(Korea M&A Exchange) | 2024年3月、韓国最大級のM&Aプラットフォームを運営するKorea M&A Exchangeへの出資を発表 |
| 英国 | 個別案件の支援 | 2026年4月、当社として初めて日本企業による英国企業のM&Aを支援 |
| 世界各地 | World M&A Alliance(加盟) | 世界最大級の独立系M&Aアドバイザリー企業の協会を通じて各地のM&Aブティックと連携 |
※ 現地法人はASEAN5カ国。米国・韓国は提携・出資先、その他の地域はWorld M&A Allianceのネットワークを通じた連携です。
尾島は今後の方向性を「日本からアジアへ、そしてアジアから世界へ」と表現します。大型M&Aを手がける投資銀行や金融機関は世界に数多くある一方、中堅・中小企業のクロスボーダーM&Aを組織的かつ継続的に支援できるプレーヤーは、世界的に見ても限られているためです。
まとめ:海外M&Aは中堅・中小企業の「現実的な選択肢」へ
この10年で、中堅・中小企業を取り巻く海外M&Aの環境は大きく変わりました。
- ASEANでは、中堅・中小企業が検討できる規模の譲渡案件が年間100件以上生まれ、約80件が日本企業の買い手を待っている
- 「人材がいない」という課題は、現地の経営陣・従業員・顧客基盤を引き継げるM&Aによって負担を抑えられる可能性がある
- 成否を分けるのは、経営陣のリーダーシップと、買収後を担う体制の早期整備
- 選択肢はASEANから米国・韓国・欧州へと広がりつつある
「海外M&Aは、日本の中堅・中小企業が成長するための重要な経営戦略です(尾島)」
海外展開を検討する企業が増えるほど、条件の合う相手との出会いは、早く動き出した企業から広がっていきます。まずは市場と事例を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
まずは市場と事例を知りたい方へ
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成長を求める中堅・中小企業のための「海外M&Aファーストガイド」。ASEAN主要国について、顧客アンケートから見えた海外事業の共通課題、シンガポール・マレーシア・ベトナム・インドネシア・タイの成約事例、譲受企業・譲渡企業へのインタビューなどを掲載しています。
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