民事再生とは?破産との違い、手続きの流れやメリット・デメリットを解説
⽬次
- 1. 民事再生とは?
- 1-1. 「破産」「特別清算」との違い
- 1-2. 「会社更生」との違い
- 1-3. 「私的整理」との違い
- 2. 民事再生のメリット
- 2-1. 経営陣を刷新せずに、事業を存続させられる
- 2-2. 債務の圧縮と弁済期間の延長ができる
- 2-3. 再生や事業継続に必要な資金・契約を維持できる
- 3. 民事再生のデメリット
- 3-1. 税金や、手続きの費用が発生する
- 3-2. 担保権の行使により財産を回収される可能性がある
- 3-3. 企業イメージが低下する可能性がある
- 4. 民事再生を行う方法
- 4-1. 自力再建型
- 4-2. スポンサー型
- 4-3. 清算型
- 5. 民事再生を行うための条件
- 5-1. 民事再生が棄却されるケースとは?
- 6. 民事再生手続きの流れ
- 6-1. ①民事再生手続きの申立て
- 6-2. ②監督委員の選任・債権者への説明
- 6-3. ③民事再生手続き開始決定
- 6-4. ④債権者による債権届の提出
- 6-5. ⑤財産評定結果・財産状況の報告
- 6-6. ⑥債権認否書の提出
- 6-7. ⑦民事再生計画案の作成・提出・決議
- 6-8. ⑥民事再生計画の遂行
- 7. 民事再生を進めるポイント
- 7-1. 民事再生手続開始決定前の棄却を防ぐ
- 7-2. 実現可能性の高い再生計画案を作成する
- 7-3. 経営戦略を策定し、資金繰りの流れ・予定を明確にする
- 8. 終わりに
- 8-1. 著者
会社の経済的な危機に対応する手続きには、民事再生、破産、会社更生、私的整理など多くの選択肢があります。本記事では、民事再生の概要、破産や清算との違い、メリットとデメリットなどをわかりやすく解説します。
民事再生とは?
民事再生とは、経済的な困難に直面している債務者が、破産を回避し、事業の継続、経営再建を目指す法的手続きを指します。
倒産の手続きの中で「再建型」の手続きであり、個人や法人が対象となります。
具体的には、民事再生法に基づき、債権者との合意の元で債務の一部を免除する、返済期間を延長するなどの措置が取られます。
まず、民事再生と、その他の倒産手続きの違いについて見ていきましょう。
「破産」「特別清算」との違い
破産や特別清算は清算型、つまり「会社を終わらせる」こと目的にしているため、会社の再建を目指す民事再生と根本的に異なります。
破産や特別清算手続きを行うと、会社財産は全て換価処分され、債権者、従業員、取引先などとの法律関係も全て清算されます。一方、民事再生では会社財産や債権者などとの法律関係を維持しつつ、会社の再建を目指します。
破産や特別清算では、裁判所への申立てを行った時点で事業は停止します。そして清算に向けての手続きは、申立てをした会社ではなく、裁判所によって選任された破産管財人や特別清算人が行います。
民事再生では、申立てをしても事業は停止せず、裁判所に選任された監督委員による監督を受けながら、申立てをした会社の経営陣が再建に向けての手続きを行います。
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「会社更生」との違い
会社更生は民事再生と同様に会社の再建を目指す、再建型の法的手続きです。
民事再生手続きは個人・法人のいずれも対象となるのに対し、会社更生手続きは法人(株式会社)のみが適用対象となります。
また、現経営陣が手続きを進める民事再生と異なり、会社更生は裁判所が選任する更生管財人の主導で進められます。
会社更生は大企業が利用することを想定した手続きであるため、効力や関係者に与える影響が大きいため、中小企業が会社の再建を目指す場合には、民事再生が選ばれます。
「私的整理」との違い
そのほか会社の再建を図るには、法的整理のほか私的整理という方法もあります。私的整理は、債権者と直接交渉を行い、債権額や支払期日を調整する手続きです。
私的整理は法的整理に比べて柔軟な解決を図ることができるメリットがありますが、裁判所が関与しない手続きであるため、必ずしも債権者と交渉できる強制力はありません。
そのため、債権者数や債務額の規模が大きい場合は、法的整理が選ばれることが一般的です。
民事再生のメリット
民事再生の主なメリットは、以下の通りです。
経営陣を刷新せずに、事業を存続させられる
最も大きなメリットは、倒産を回避し、事業の存続、再建を目指せる点です。
また、民事再生では監督委員がいるものの、経営陣を刷新する必要はないため、経営権を維持したまま再建を図ることができます。
債務の圧縮と弁済期間の延長ができる
民事再生で再生計画が認可されると、債務の金額を大幅に圧縮するとともに、弁済期間も延長できます。
再生計画案における弁済期間は、最長で10年とされています(民事再生法155条3項)。
再生や事業継続に必要な資金・契約を維持できる
民事再生の申立てが金融機関に通知されると、通知後に口座に入金された預金と、金融機関の債権との相殺が禁止されます。そのため、手元に会社の再建や事業継続に必要な資金を維持しつつ、手続きを進めることができます。
民事再生のデメリット
民事再生を検討する上で注意しておきたい主なデメリットは、以下の通りです。
税金や、手続きの費用が発生する
民事再生による債務の圧縮は、債務の一部免除とみなされます。そのため、債務の免除額によって債務免除課税が発生します。
再生計画を推進するには、税金が発生することも考慮しておかなければなりません。
また、手続きを進める中で裁判所の予納金(予め一括納付するお金)や、弁護士費用などが発生します。それぞれの金額は、民事再生の申立てを行う裁判所や弁護士によって異なります。
担保権の行使により財産を回収される可能性がある
前述の通り、民事再生の申立てが金融機関に通知されると、預金や財産の相殺はできなくなります。しかし担保権つきの債権に関しては、権利行使が認められるため、会社の財産を担保にしていた場合は、財産を回収される可能性があります。担保権の行使を防ぐには、債権者との個別の交渉が必要です
企業イメージが低下する可能性がある
民事再生は会社の再建を目指す手続きですが、倒産手続きであることに変わりはありません。
そのため、民事再生の手続きを開始することで、会社の社会的な信用性やブランドイメージの低下は避けられません。ダメージを最小限に抑えるために、後述のプレパッケージ型民事再生を活用する、という選択肢も考えられます。
民事再生を行う方法
民事再生を実行するには、主に3つの方法に分けられます。
自力再建型
自力再建型はその名の通り、他社の力を借りることなく自社の企業努力で債務を返済し、再建を目指す基本的な方法です。
スポンサー型
自力再建の対になるのが、外部から資金的援助を受けるスポンサー型です。他の企業や金融機関、ファンドなどがスポンサーとなり貸付、出資を行います。
民事再生の申立て後にスポンサーを選定する場合には、公平性を担保するために入札によって選定するのが一般的です。
一方、あらかじめスポンサーを決めておき、申立てと同時にスポンサーによる支援を発表する「プレパッケージ型」の方法もあります。この場合、スポンサー企業の信用性を背景に、申立て会社の社会的信用の低下を最小限に抑えられます。
ただしプレパッケージ型民事再生では、スポンサー企業を入札によらずに選定するケースが多いため、選定の経緯や資金額によっては公平性を欠くものとして、裁判所の認可を受けられない場合もあります。
清算型
倒産手続きを行う企業が営む事業自体に価値がある場合には、破産によって事業を清算してしまうのではなく、「清算型の民事再生」によって事業を存続させる道方法があります。 清算型は、事業譲渡や会社分割などにより、事業を別の会社に移し、申立て会社を清算する手法です。
清算型の民事再生では、譲渡益を債務の返済に利用します。申立て会社が最終的に清算される点では破産手続きと共通していますが、事業自体は存続する点が、破産手続きとは異なります。
民事再生を行うための条件
民事再生の申立てを行うことができるのは、次の2つの場合です。
・債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済できないとき
出典:e-GOV 法令検索 民事再生法21条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000225)
民事再生は会社の再建を目指す手続きであるため、支払不能や債務超過の状態に陥る前に手続きを開始することを認めています。そのため、手続き開始の原因となる事実そのもの(支払不能、債務超過)がなくても、破産の「おそれ」や債務の弁済ができなくなった場合に申し立てることができます。
ただし申立てができる場合も、「再生計画案」が可決されなければ、再生計画をスタートすることはできません。
再生計画案の可決には、議決権者の過半数の同意かつ議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意が必要です(民事再生法172条の3第1項)。
民事再生は、申立て自体は破産手続きに比べて簡単に行える反面、再生計画をスタートさせるにはハードルが高い手続きであると言えます。
民事再生が棄却されるケースとは?
民事再生の申立てができたとしても、民事再生法25条の棄却事由が認められる場合には、申立ては開始決定前に棄却されます(民事再生法25条)。民事再生法25条の棄却事由は、次の通りです。
・裁判所に破産手続又は 特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき
・再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき
・不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき
出典: e-GOV 法令検索 民事再生法25条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000225)
そのため申立てを行う際は、事前に再生計画案の検討を十分に行うことが求められます。
見切り発車で申立てをしても、費用が準備できない、もしくは実現可能性のある再生計画を示すことができず、申立てが棄却されてしまう可能性が高いでしょう。
民事再生手続きの流れ
民事再生は、手続きの申立てから再生計画が認可されるまで、およそ半年程度を要するとされています。ここでは主な流れをご紹介します。
①民事再生手続きの申立て
まず本店所在地を管轄する裁判所に「民事再生手続き開始の申立て」を行います。法人による申し立ては、国内に営業所・事業所、または財産を有する法人のみが行えます。
民事再生の申立てを行うには、事前に再建手法を検討し、申立代理人となる弁護士を選任する必要があります。
民事再生を申し立てると、債権者による債権回収を防止するために保全処分の決定が行われます。その際には裁判所に納める予納金なども必要になります。
②監督委員の選任・債権者への説明
申立てが行われると、裁判所は監督委員を選任します。
監督委員は、民事再生の手続きに精通した弁護士の中から選任されます。監督委員が選任されると、債務者の財産処分行為や借入行為などが監督委員の監督下に置かれます。
また、法律上の要件ではないものの、この段階で債権者説明会を開催されるケースが一般的です。
民事再生は債権者の理解がなければ進められない手続きであるため、早い段階で債権者に状況を伝える必要があります。
③民事再生手続き開始決定
債権者への説明を経て、主要債権者の多数から同意が得られた場合、申立てから1~2週間程度で民事再生手続きの開始が決定されます。
ただし、主要債権者の多数から反対が出るなど棄却自由に該当する場合は棄却になります。
④債権者による債権届の提出
民事再生手続きの開始決定が下されると、裁判所から各債権者宛てに民事再生開始決定と債権届が送付されます。
債権者は再生手続に参加するため、定められた期限内に債権の金額と発生原因を債券届に記載し、裁判所に届け出る必要があります。
債権届を提出せず債権調査に協力しない債権者については、原則として債権を失ってしまうため注意しなければなりません。
⑤財産評定結果・財産状況の報告
申立人(再生会社)は、裁判所に対して財産価額の評定結果や財産状況を報告します。
⑥債権認否書の提出
申立人(再生会社)は債権届が提出された債権の認否を行い、全体の債権額を確定させます。
債権額の確定後は「認否書(債権認否一覧表)」を作成し、裁判所へ提出します。
⑦民事再生計画案の作成・提出・決議
財産状況、財産評定の結果を受けて再生計画案を作成し、裁判所に提出します。
再生計画案について債権者集会で決議を行い、「議決権者の過半数の同意」かつ「議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意」によって可決されます。
⑥民事再生計画の遂行
再生計画案の可決後は、再生計画にしたがって債務の弁済などを開始します。監督委員は、最大3年間、再生計画の遂行についても監督を続けます。
民事再生を進めるポイント
民事再生を進める上で気を付けたいポイントは、以下の通りです。
民事再生手続開始決定前の棄却を防ぐ
民事再生を実現するには、手続開始決定前の「棄却」を回避しなくてはなりません。
棄却されてしまうと、破産手続きに移行してしまい会社を残すことができなくなります。そのため専門家の助言を受けながら進めることは不可欠です。
実現可能性の高い再生計画案を作成する
債権者の同意が得られるよう債権者に配慮しつつ、無理な返済計画とはならない実現可能な再生計画案の作成が鍵となります。
そして、手続きの流れに応じて、計画内容を順次ブラッシュアップしていくことが理想的です。
経営戦略を策定し、資金繰りの流れ・予定を明確にする
民事再生の申立てから再生計画が認可されるまでは、おおよそ半年ほどの期間を要します。その間、既存の取引先との信用取引や金融機関からの新たな融資は見込めないため、申立てから再生計画が認可されるまでの資金繰りの流れ・予定を明確にしておくことも重要なポイントと言えます。
終わりに
以上、民事再生についてご紹介しました。民事再生は再建型の倒産手続きですが、会社再建にはM&Aという選択肢もあります。
清算型やスポンサー型の民事再生では、事業譲渡や会社分割、株式譲渡なども活用されています。
会社再建の選択肢としてM&Aも含めて検討する場合には、M&Aの専門家に相談することも選択肢としてご検討ください。