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人手不足の解消はどうすればいい?原因と対策を解説

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人手不足はどうすればいい
2003年に少子化社会対策基本法が制定されてから20年以上が経過していますが、いまだ有効な対策は見つかっているとは言い難い状況です。そのため、長期的な労働力人口の減少傾向は避けられません。

また、労働市場の流動化が進み転職がしやすくなったため、苦労して確保した人材を定着させることが、以前と比べて非常に難しくなっています。そのほかにも、様々な要因が複雑に組み合わさり、業種を問わず多くの企業で人手不足が加速しています。

本記事では、人手不足の現状とその要因を整理したうえで、効果的な対策について解説します。

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人手不足が顕著な業界

はじめに、日本の労働市場で人手不足がどれほど進行しているのかを見ていきます。

厚生労働省の調査によると、基本的にどの業種も人手不足が加速していますが、その中でも特に深刻なのが「医療・福祉」「建設」「運輸・郵便」の3分野です。下図をご覧ください。


出典:厚生労働省「労働経済動向調査(令和4年2月)の概況」より抜粋

労働者数の「不足」から「過剰」を差し引いたD.Iを見ると、「医療・福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」の3分野の人手不足が突出しています。また、それ以外にIT系を含む情報通信業もD.Iが高く、IT人材もニーズの拡大に対し労働市場の供給量が不足していることが分かります。

これらの業種に共通しているのは、市場が拡大するスピードに、人材の供給量が追いついていないことです。たとえば「医療・福祉」分野の場合、高齢者の増加により医療や福祉のサービスを求める人が増えているのに対し、医師や介護職員の数は圧倒的に不足しています。これは、運送業や情報通信業も同様です。

また、業務内容の過酷さから就業者が少ないことも、これらの業界に共通する人手不足の原因のひとつです。特に、建設業では若年層の就業者数が少なく、従業員の高齢化が問題となっています。

さらに、業務内容に対する対価や福利厚生・キャリアアップのシステムづくりなどが不足していることも人手不足の一因となっています。

「人手不足倒産」の急増

全業種で人手不足が進んでいるのは前述の通りですが、会社の規模によって、人手不足の度合いは大きく異なります。下図をご覧ください。


出典:中小企業庁「2018年度版中小企業白書」より抜粋

従業員数が500人以上の企業の求人数がほぼ横ばいで推移しているのに対し、小規模事業者になればなるほど求人数は増加しています。

もうひとつ別のグラフをご覧ください。


出典:中小企業庁「2018年度版中小企業白書」より抜粋

従業員数が30人未満の企業(オレンジ色のグラフ)と500人以上の企業(青色のグラフ)に着目すると、小規模事業者の雇用者数が減少している反面、大規模事業者の雇用者数は増加しています。つまり、中小企業から従業員が流出し、それらが大企業に流入していることが推測できます。

このように、人手不足の影響は大企業よりも中小企業に深刻なダメージを与えており、事業の継続が危ぶまれる企業も少なくありません。帝国データバンクの調査によると人手不足倒産の件数も急増(※)しており、早急に対応策を考えなければならない状況と言えます。
出典:帝国データバンク「人手不足の動向調査(2023年)」

企業が人手不足に陥る原因


次に、企業が人手不足に陥る原因について解説します。企業の人手が足りなくなる理由は様々ですが、とりわけ中小企業が人手不足に陥る主な理由は、以下の5つです。

労働力人口の減少

少子高齢化によって、労働市場へ新たに参入する数よりも、高齢により退出する数が圧倒的に増えています。そのため労働力人口が減少しています。これが人手不足を生む直接の原因のひとつです。

また、業種によっては需要の増加が原因の場合もあります。当該分野の労働力人口はそれ程減っていなくても、需要が増加したことにより、相対的に労働力人口不足を生み出していることがあります。

転職市場の活発化による採用難

現代では、かつての終身雇用制度が終焉を迎えつつあります。その結果、転職、退職しやすくなったことも、企業の人手不足を生み出す原因のひとつです。

中途採用でも就職しやすくなったため、就労者の選択の幅が広がり、反対に採用する企業側の人材採用が難しくなりました。また、せっかく採用しても離職率が高くなり、採用コストも上がり続けています。

職場環境や待遇の問題

職場の労働環境や賃金などの労働条件、福利厚生が充実していないことなども、人手不足の原因となります。たとえ大企業と同等の労働環境や労働条件などを用意できなくても、限られた条件下でやれることを見つければ、人手不足はある程度解消できるはずです。しかし、こうした工夫が足りなければ、人手不足を解決するのは難しくなるでしょう。

また、職場での人間関係や偏った年齢構成(若年層が少なく高齢層が多いなど)も円滑なコミュニケーションを阻害し、定着率を下げる原因となる場合があります。

大都市圏と地方の格差

地方から人口の流入が多い大都市圏と比べ、地方都市は人口も少なく減少傾向にあります。したがって、大都市圏の企業と比べ地方都市の企業は人手不足となりがちです。

こうした地域が抱える問題は企業の努力だけでは解消できないため、専門家の意見を取り入れながら対策を立てた方が良いでしょう。

企業が求める人材の高度化

多くの企業が業務の効率化を行うにあたり、DX化を進めています。また建設業であれば、業務を行うために新たに資格を取得しなければならない場合があります。

このように、企業が人材に求めるスキルが年々高度になっていることも、人手不足を生み出す原因のひとつです。前述のように、IT業界は特に人材が不足している業界のひとつです。地方ではその傾向が強いだけに、地方の中小企業でこうした人材を確保するのは難しいといえるでしょう。

人手不足が企業に及ぼす影響


人手不足は、企業に多くの悪影響を及ぼします。その中でも特に深刻なのが以下の3つです。

さらなる職場環境の悪化・離職の加速につながる

人手不足の状態が続くと、現場の従業員1人1人に対する負担がさらに増え、より一層職場環境が悪化してしまいます。賃金などの待遇を改善することである程度は対応できるでしょうが、それでもこうした状況が長期間続けば、従業員のモチベーションを維持し続けるのは難しくなるでしょう。

そのため離職が加速し、さらに人手不足が深刻化することが考えられます。

生産性が低下し、売上減少・事業縮小につながる

労働力が不足すると、どのように工夫しても、生産能力がある程度低下することは避けられません。そのため長期的に見ると、売上の減少や事業規模の縮小などが起こることが考えられます。

また人手不足が進むと、上述のように労働者1人あたりの負担が増えざるを得ません。したがって、サービスレベルが低下する恐れが高くなるでしょう。

採用コストが増加する

従業員の採用が難しく、採用してもすぐに離職してしまう状況であれば、常に採用活動をし続けなければなりません。したがって、採用コストが増加することになります。また採用した従業員に対して行う社員教育などのコストも、同様の理由で増加するでしょう。

このように、従業員の採用や教育などに関するコストが増加してしまう点も、人手不足の悪影響として生じることが考えられます。

人手不足を解消するにはどうすればいい?

最後に、人手不足を解消する方法を紹介します。人手不足の解消に効果的な方法は、主に以下の7つです。

人手不足の要因を正しく把握する

企業が人手不足に陥る構造的な要因は業種によって違いますが、例え同業種でも、順調に採用できる会社とそうでない会社があります。したがって、まず自社の何が問題で人手不足となっているのか、その要因を正しく把握することが重要です。

一般的に人手不足の解消が難しい企業は、「採用方法」「業務内容」「職場環境」のどれかに問題がある場合が多いといわれています。これら3点から自社の状況をチェックして問題を検出し、それに対する対策を考えるようにすると良いでしょう。

採用フローを見直す

人材の採用フローとは、「募集」「選考」「内定」「フォローアップ」の主に4つから構成される採用活動における一連の流れのことです。この4つの要素をそれぞれに確認し、要素ごとに改善すべき点をピックアップして見直していきましよう。

例えば募集であれば、人材を募集する媒体を求人雑誌だけでなくwebサイトを用意することなどが考えられます。また、選考であれば、面接の回数を減らして求職者の負担を軽くすることなどが考えられるでしょう。

いずれにしても、こうした採用フローの各要素を見直し、内容を定期的にアップデートしていくことが大切となります。

人事制度を見直す

人事制度を見直すことも、人手不足を解消するためには大切です。具体的には、給与や賞与、退職金制度や福利厚生などが業務内容に見合ったものになっているのかを見直し、不十分なものについては少なくとも同業他社と比べ同程度の水準にはしておくべきでしょう。

また、評価制度についてもできるだけ理解しやすく分かりやすいものを導入し、会社側が従業員の何を評価するのかを明確にしておくと良いでしょう。

さらに、福利厚生を見直して住宅手当や扶養手当などの各種手当を充実させたり、有給休暇などが取りやすい体制にしておいたりすることも、人手不足を解決するためには効果的です。

労働環境を改善する

職場の人間関係やコミュニケーションが円滑になるように働きかけ、従業員が働きやすい環境づくりを行うことも大切です。労働環境が改善できれば、従業員の定着率を上げることが望めます。

また、厚生労働省の「労働安全衛生法第3条」に則り、作業環境の管理や作業方法の改善、疲労回復を図るための設備なども充実させていくと、従業員が職場のストレスを感じることなく働けるでしょう。

多様な人材、提携先を活用する

労働力人口が減少し続けるのは社会構造上避けられない問題であるため、現在労働力となっていないシニア層や外国の方、外部の会社など多様な人材、提携先を適材適所で活用していくことも、人手不足を解消するための有効な手段となるでしょう。

経験や知識の豊富なシニア層を雇用できれば、作業だけでなく従業員の教育などにも一定の効果が期待できます。また国内の外国人労働者数は増え続けているため、外国人労働者を積極的に採用するのも効果的です。

ただし、言葉や文化、宗教などが違うため、採用後の環境づくりなどには十分な配慮が必要になります。そのため、採用する際には、専門家などのアドバイスを取り入れながら進めていくのが良いでしょう。

ITツールを活用する

ITツールの活用も、人手不足を解決できる有効な手段のひとつです。ITツールを積極的に導入し、ソフトウェアやAIで対処できる業務に関しては、人力に頼らない業務フローに切り替えると、少人数でも業務がこなせるようになります。

これまで手作業で行っていたものをデジタル化していくと業務が効率化されるため、生産性が上がることも期待できます。また、従業員の負担も軽くなるため、離職率を低下させたり、人手不足をある程度緩和させたりできるでしょう。

人材育成を強化する

新たな人材を獲得するのが難しい場合は、人材教育を強化するのも人手不足を解消する手段として有効です。人材育成を強化すれば、社員がスキルアップするため、生産性が上がります。したがって、少ない人数でも業務に対応することが可能になります。

また、従業員のスキルが上がれば、本人のモチベーションも上がることが期待できるでしょう。さらに、人材育成のノウハウを蓄積しておけば、新入社員をキャリアアップする際にも役立ちます。

終わりに

人手不足の原因は少子高齢化などの構造的な問題だけでなく、労働市場の流動化や価値観の多様化などさまざまな原因によるものであり、こうした人手不足の傾向は当面の間改善することは難しいと考えられます。したがって、人材の獲得は事業を維持・拡大をしていくうえで欠かせません。

本記事でご紹介した改善策はこうした状況には効果的ですが、それでも中小企業の多くは、人手不足を改善するためのノウハウの蓄積がまだまだ少ないといえます。

長期的に見ると、人手不足は企業の存続に関わる重大な問題であるため、今のうちから専門家などを交え人手不足の改善に関する抜本的な対策を実施していくのが良いでしょう。

人手不足などの経営課題をM&Aで解決するケースが増えています。日本M&Aセンターでは、様々な経営課題の解決に向けて専門チームを組成し、ご支援を行っています。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

M&A マガジン編集部

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日本M&Aセンター

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