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国境の島 長崎県対馬におけるコロナ禍の課題と事業承継問題

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九州と朝鮮半島の間に浮かぶ島、長崎県の対馬市。江戸時代の鎖国中には対馬藩として朝鮮半島との貿易特権を江戸幕府から付与されており、国内有数の繁栄地でにぎわいました。しかしながら、近年では、島民の人口減少や高齢化の進行とともに過疎化が進み、対馬の企業や事業者の後継者不在による事業承継問題が深刻化しています。対馬市議会議員の脇本 啓喜氏は対馬の事業承継問題に危機感を抱き、2022年3月の定例市議会で島の事業承継問題について問題提起しました。対馬市議の脇本 啓喜氏に対馬が抱える様々な課題やコロナ禍の影響、事業承継問題などについて伺いました。

対馬市議会議員
脇本 啓喜 氏
対馬市比田勝在住。長崎東高卒業(1986年)、 金沢大学法学部法学科卒業(1991年) 。対馬市議会議員3期目。 介護予防自主活動Gいぶし銀倶楽部代表、九州と韓国を結ぶ混乗便の維持・発展を支える市民の会理事兼事務局長。

文化・貿易の玄関口 豊かな自然が溢れる国境の島「対馬」

脇本氏) 対馬は、日本で一番朝鮮半島に近く、古来より漢字や仏教などの文化や貿易の入り口として、朝鮮半島と盛んに交流してきました。明治維新後の廃藩置県までは、朝鮮半島との交易は対馬の宗家が全権を握りました。そういった歴史から、文化的にも朝鮮半島の影響を受けており、韓国語と日本語が混ざった独特の方言もあります。例えば、対馬の方言で友人のことを「チング」と呼ぶのですが、これは韓国語がそのまま対馬の方言になっています。コロナ禍の半年前の日韓関係悪化以前までは、韓国人観光客が多く、対馬の経済を支えていました。島ではハングル文字の看板が多くあり、フェリーの港にある看板の多くがハングル文字なので、船で港につくと韓国に来たのではと勘違いするほどです。

対馬市韓国展望所から見た韓国 釜山の夜景

対馬の魅力はやはり豊かな自然です。島では、豊かな自然を生かして漁業が盛んで、古くはイカ漁、現在では黄金アナゴや伊奈サバというブランド魚が有名です。また、自然を求めて多くの人々がやってくるため観光業および関連事業の企業や事業者が多いのが特徴です。

対馬は国境の離島ですので、自衛隊や海上保安庁のベースがあります。対馬に赴任した隊員さんの多くが対馬のファンになってくれます。それはやはり島民の温かみを感じられているからです。一旦話をすればとても面倒見がよく、子育てについても地域で子を育てる風土があります。また、豊かな自然と遊べることも島外から来た皆さんには魅力のようで、釣り人には最高だとよく聞きます。

対馬 浅茅湾

人口減少と高齢化 対馬の難題である歯止めが利かない社会減

脇本氏) 対馬は人口が減少し、過疎化が進んでいます。1980年に50,000人程度いた人口は、2020年には約28,000人にまで減りました。さらに生産年齢人口は実数・占率が一貫して減少・低下している一方で、65歳以上の老年人口年々増加しており、2030年には高齢者率が45.6%となり生産年齢人口を超えると推計されています。人口減少と高齢化が加速度的に進んでいると言えます。これは、若年層の島外への転出とUターン率の低さが原因です。

出典:「RESAS 地域経済分析システム」をもとに脇本 啓喜 氏作成

若年層が技術、資格の習得、進学等で転出してしまうのは仕方ないと考えていますが、転出した若者がどうしたら島に戻ってきてくれるか考えることが大事です。そのためには、教育の中で、対馬ではこういう課題があって、解決していかなくてはならないことを子供たちに教えていかなくてはいけません。また、資格取得のための支援を強化するなど、一旦島外に転出しても帰ってこれるようにする仕組みづくりが大事です。

スローライフ、ロハスとなど都市から地方への回帰、地域での生活を望む人達が増加している現状を踏まえ、Iターンで若者を増やしていく取り組みも行っています。対馬の自然や歴史、風土等をPRしていくことに加えて、全国の過疎地域で行っているように、「空き家バンク」や補助金の提供などの取り組みを行っています。

また、入ってくる人が増えても出ていく人が増えていたら全く意味がありません。今、島に定住している人たちにも残ってもらう仕組みも必要なのですが、それが今不足していると思っています。島にいる人たちが残りたいと思うような仕組みづくり、取り組みを行えば、Uターン、Iターンが増えていくことになると考え、市での取り組みを思案しています。

日韓関係とコロナで打撃を受けた観光業、撤退する事業者も

脇本氏) 日韓関係の悪化とコロナ禍で最も影響を受けたのが、観光業とそれに関連する業種です。飲食業と異なり補助金が幅広い状況ではないため、観光業、特に零細企業はほとんど青色吐息の状況です。観光業の不振に関連して、観光客向けのレンタカー、タクシー、観光バス、ガソリンスタンドなど、関連企業や事業者も不振に陥っています。本土から進出していたバス会社は、撤退してしまいました。ポストコロナで本格的に観光客が戻ってきたときに需要にすぐには応えられないだろうと危惧しています。

さらに、観光業と並ぶ主要産業である漁業者も、観光客減で本土の飲食店向けの高級魚が売れなくなってしまいました。加えて、昨今の燃料費高騰により漁に出れば赤字になるため漁に出れず、収入が大幅に減ってしまっている漁業者もいます。

経営環境の影響で親族承継を敬遠し、後継者不在問題がさらに深刻化

脇本氏) 対馬の企業や事業者の創業者は裸一貫で事業を立ち上げ、これまで大変な苦労をしてきました。その上、コロナ禍などにより経営環境が非常に悪くなり先行きが不透明です。親族に事業を承継すればさらなる苦労をかけてしまうと心配をしている経営者が増えています。さらに、自分の会社や事業の行く末だけでなく、対馬の未来に経営者自身が不安を持ってしまっています。結果的に、親族承継を敬遠し、後継者が不在になっているのです。そういった企業や事業者はそのまま時が経てば、廃業を選択することになってしまいます。
また、事業承継問題に気付かず、もしくは気づいていても決断を先送りにして時が経ち、タイミングを逸して廃業を選択せざるを得ない企業や事業者も多いようです。離島にありがちな保守的な島民性が、事業承継へのハードルを更に高くしているのかもしれません。

企業や事業者が廃業を選択すれば、対馬の経済に大きな影響を与えます。それをどうにかしていかなくてはいけないと考えています。そういった意味で、M&Aによる第三者への事業承継は有効だと感じて、市議会で問題提起をさせていただきました。

事業承継やM&Aを促進するには、市・商工会・会計事務所の連携が重要

脇本氏) 親族承継が低下するなかで、やはりM&Aによる第三者への承継を選択肢としていただくことは重要であると思います。しかしながら、大体の経営者が親族、息子が承継するものとして、これまでやってきましたから「M&A・事業承継って何?」とイメージが湧かないのも無理もありません。
逆に言うとM&Aの有効性を伝えられれば、一気に広がる可能性を持っていると思います。M&Aで事業承継の成功例が一つでもあれば、島の人々に広まっていく可能性を期待できると思います。

3月に市議会で提言しましたが、市単独でこの問題に取り組んでいくのは難しいと思いました。まずは、市が潜在化している事業承継のニーズの把握に本腰を入れて、その情報を商工会等と共有し、連携して円滑な事業承継の支援を積極的に進めていく必要があると思います。また、商工会や会計事務所はM&Aで第三者に事業承継する選択肢があることを島内の企業や事業者に伝えていかなくてはいけません。その相互の連携を促していくのが、市議である私の仕事だと考えています。

M&Aによって、島外から若くて優秀な経営者や優秀な元島民がIターン・Uターンでくれば、島内の2代目3代目の経営者が刺激を受け、島の経済が盛り上がっていくことも考えられます。M&Aには、事業承継問題の解決だけでなく、そういった刺激で比較的保守的な島民性が徐々に変化し、対馬の活性化になることも期待できます。

日本M&Aセンターが長崎県の企業の「経営者のための次の打ち手カンファレンス」を協賛

日本M&Aセンターは、対馬のある長崎県の地元テレビ局長崎文化放送主催で2022年6月16日に開催される「長崎県の経営者のための経営の打ち手カンファレンス」を協賛します。このカンファレンスは、日本M&Aセンターだけでなく、セールスフォース・ジャパンとアマゾンジャパンなど経営の新たなソリューションを提供するリーディングカンパニーも協賛します。「長崎県の経営者のための経営の打ち手カンファレンス」は、対馬のような地方の企業や事業者の経営者に「M&Aによる事業承継」「DX推進」「生産性向上」などさらなる成長のために取り組むべき新たな一手の情報を提供することで、地方創生の促進を目指すものです。

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