コラム

M&Aで2.6億人の市場へ!2045年まで生産年齢人口増加のインドネシアの今 ~海外M&Aレポート~

安丸 良広

日本M&Aセンター 海外事業部 ASEAN推進課 インドネシア駐在員事務所長

海外M&A
更新日:

⽬次

[表示]

日本M&AセンターのASEAN第二の拠点として、2019年10月7日にインドネシア駐在員事務所を開設した。海外支援室の歩みと、現在のインドネシアのM&A動向について詳述していく。

インドネシア

ASEAN諸国最大のイスラム国家、インドネシア。平均年齢は29歳

日本M&Aセンター海外支援室の歩み

従来は日本国内のM&Aを取り扱っていたが、日本企業が海外にある子会社を譲渡したいというニーズが増加してきたことにより、海外支援室を2013年に立ち上げた。その後、日本企業が直接外国企業へ投資する案件の取り扱いも増え、2016年4月にシンガポール・オフィスを開設しASEAN諸国と日本のクロスボーダー案件に特化してきた。
今回のインドネシアが第二の拠点開設となり、引き続き、ベトナム、マレーシア、タイにも事務所を開設の予定である。
日本企業の海外投資へのハードルを勘案した結果、

  1. 日本との時差が少ない。
  2. 親日国である。
  3. 国あるいはマーケットが拡大している。

というキーワードで、まずは日本企業が比較的M&Aを活用して進出しやすいと考えられるASEAN諸国とのクロスボーダー案件に注力し活動をしている。

インドネシアのM&Aポテンシャル

インドネシアは、人口2.6億人のASEAN諸国最大のイスラム国家であり、平均年齢も29歳と若い。
現在のジョコ・ウィドド大統領は、2050年にはGDPで世界第5位の経済大国となることを目標として掲げており、このような中で現在ターゲットしているのは、主に下記2種類のM&Aである。

  • インドネシア進出済み日系企業のパートナー獲得案件2011年~2015年にかけ、日系企業は、自動車産業の部品加工業者を中心にインドネシアに進出するブームがあった。近々インドネシア自動車産業でもEV車への方向転換がなされている中、このような部品加工会社は、従来の自動車業界以外への新しい販路の獲得、他業者パートナーとの提携等により生き残りを模索している。一方、日系企業ではASEANの製造拠点のひとつとしてインドネシアを重要視しているケースは多く、優秀な従業員の承継、投資時の各種ライセンスの取得の煩雑さ等を鑑み、上記日系の部品加工会社とのM&Aによる提携により進出を考えている企業もある。またインドネシアの新興財閥がこのような日系企業のブランド、生産管理技術に興味を示し買手となるケースもあり、売手、買手両社の成長戦略としてM&Aを提案している。

  • 日系企業によるインドネシア企業への投資によるマーケットを狙った進出インドネシアの魅力は、もちろん人口2.6億人という世界有数の市場を有していることである。生産年齢人口も2045年まで増加する。人口ボーナス理論でも、シンガポール、タイ、中国、韓国は既に減少、ベトナム、マレーシアも2020年で減少期へ突入する。2025年以降も人口ボーナスが享受できるのは、インドネシア、フィリピンのみ。ただしイスラム国家ということもあり、例えばハラルの絡みのある食品・化粧品業界等では、日本企業の一からの進出はハードルが高い。よって製造ライセンス取得、地場インドネシアローカル企業への販路の獲得を一気にかなえることができるM&Aを投資戦略として活用するのは理にかなっている。一方インドネシア企業側では、日本企業との提携はブランド力強化につながると考えている企業が多いため、当社ではインドネシア上場企業、ローカル企業の譲渡情報を集め、インドネシアへの進出を考えている日系企業へ情報を紹介している。

パネルディスカッション

海外のセミナーでパネラーを務めるインドネシア駐在員事務所長・安丸良広

インドネシアのM&Aの留意点

最後にインドネシアのM&Aを進める上での留意点につき述べる。
一般的には、外資規制(ネガティブリスト)に留意することだ。各種契約書はインドネシア語のものが必要となり、日本で言う株主総会の特別決議事項には、議決権割合75%以上が必要だ。

その他特に留意すべき点は、下記3点である。

  • 労働法に留意支配権の移転するM&Aの場合は、従業員への通知、債権者異議申し立て手続きが必要。日本のようにトップ同士で内密にM&Aを進めることはできない。

  • 財務諸表の信憑性未上場企業の場合、財務諸表の信憑性が相対的に低い。当海外支援室では、M&A進捗の際インドネシアの会計事務所に精査を依頼し、日本企業が検討できる決算書に変更している。

  • 時間の感覚商談において、全ての時間が日本のようにきっちり守られるわけではない。これは国民性の問題であり、この点商談上タイムスケジュールは余裕を持って進める必要がある。

パネルディスカッション

出典:KPMG Deal Advisory - Newsletter Vol.1 M&A Trends in ASEAN

2019年1月~6月のインドネシアのM&A件数は25件、金額はUS$6.6bil、金額的にはMUFGによるダナモン銀行への追加出資が最大であった。

日本M&Aセンターの海外支援室は、クロスボーダーM&Aに対応するためASEAN各地の活動を強化しています。 ASEAN各国企業とのM&Aを希望されている企業の皆様には、ほかでは聞けない現地の企業ニーズを今後もどしどしお届けしたいと思います。

海外M&A・クロスボーダーM&Aに関するお問合せ

著者

安丸 良広

安丸やすまる 良広よしひろ

日本M&Aセンター 海外事業部 ASEAN推進課 インドネシア駐在員事務所長

総合商社、監査法人を経て2002年日本M&Aセンターに入社。2013年に前身である海外支援室の設立に参画。これまでの成約案件は100件を超える。2019年インドネシアオフィスの設立に携わる。インドネシア駐在歴は、前職の商社時代を含め約10年となる。 米国公認会計士(USCPA)。

この記事に関連するタグ

「ASEAN・クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するコラム

マレーシアのM&A事情や女性の働き方は?現地M&Aコンサルタントにインタビュー!

広報室だより
マレーシアのM&A事情や女性の働き方は?現地M&Aコンサルタントにインタビュー!

日本M&Aセンターでは、クロスボーダーM&Aの支援強化に向けて、ASEAN地域に拠点を設けています。今回は、マレーシア現地法人NihonM&ACenterMalaysiaSdn.Bhd.でM&Aコンサルタントとして活躍するDaphnieOngさんに、入社の経緯や今後の目標をインタビューしました!プロフィールダフィニーオンさん(写真中央)2020年2月入社。M&Aコンサルタントとして日本とマレーシア

海外M&Aでは現地特有の論点に注意 ~会計~

海外M&A
海外M&Aでは現地特有の論点に注意 ~会計~

海外M&AではM&Aの対象となりうる企業が海外に所在していることから、文化や言語、宗教にはじまり、準拠するルールや実務慣行等も日本とは異なります。すなわち、会社法や労働法、税法、会計基準、ビジネス慣習等の違いを把握したうえで、海外M&Aを検討する必要があります。そこで、今回は海外M&A、特にASEAN(東南アジア諸国連合)域内におけるM&Aを検討する上で注意すべき事項の一部を紹介したいと思います。

グローバルなタックスプランニングの基本①外国子会社配当益金不算入制度 活用のすすめ

海外M&A
グローバルなタックスプランニングの基本①外国子会社配当益金不算入制度 活用のすすめ

海外子会社を有する会社が活用できるタックスプランニング手法のひとつ「外国子会社配当益金不算入制度」をご紹介します!(※本記事は2021年12月に執筆されました。)そのほか海外のM&A情報はこちらから海外の子会社が稼ぐ方がグループ全体の税率が下がる?日本は世界でも法人税率が高い国のひとつとして有名です。現在、日本で活動する会社のもうけに対してかかる税金の税率は中小企業の場合で約34%(法人税・地方税

Withコロナ時代、加熱するベトナムクロスボーダーM&A

海外M&A
Withコロナ時代、加熱するベトナムクロスボーダーM&A

こんにちは、3カ月ぶりの出社(外出)できるようになりました日本M&Aセンター・ベトナムの渡邊です。コロナ防疫に成功を収めていた優等生のベトナムですが、2021年5月以降コロナ変異株が猛威を奮いはじめ、直近3カ月の7月~9月は、生活必需品の購入ですら外出が禁止されるという厳しいロックダウン規制が導入されました。9月上旬にはピークを迎え、1日あたりのコロナ新規感染者数が1万5,000人、同死亡

ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

海外M&A
ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

日本M&Aセンターインドネシア駐在員事務所は、シンガポールに次ぐ第2の拠点として、2019年10月に開設されました。今回は将来のGDP大国として、ASEANの中でも特に大きい成長・市場拡大が期待されるインドネシアへのM&Aについてご紹介します。(※本記事は2021年10月に執筆されました。)新型コロナの現状この原稿を執筆しているのは2021年10月末ですが、インドネシアでは2021年6月~8月にか

M&A対象国としての魅力が多いマレーシア

海外M&A
M&A対象国としての魅力が多いマレーシア

日本M&Aセンターのマレーシア拠点は、新型コロナウイルスの影響が大きく出始めた2020年3月に、4番目の海外拠点として開設されました。ロックダウンや渡航制限の影響を大きく受けながらも、2021年は既に成約件数が4件となり、当社の海外拠点では年間ベースで最大の成約件数となりました。マレーシアは、日本の中堅・中小企業が海外進出するために適した環境が広がっています。今回は、ASEANではシンガポールに次

「ASEAN・クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連する学ぶコンテンツ

「ASEAN・クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

マイナビ、インドのHRスタートアップ企業Awign Enterprises Private Limitedを買収

株式会社マイナビ(東京都千代田区)は、ギグワーカーのリソースを活用して顧客へ成果物を提供するインド企業のAwignEnterprisesPrivateLimited(インドバンガロール、以下Awign)を2024年4月25日付けで買収し、子会社化した。マイナビは、社会や人々の有益となるようなサービス提供を目指した事業を展開している。Awignは、単発の仕事を請け負う労働者(ギグワーカー)が集うプラ

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース