コラム

海外M&Aって難しい?

安丸 良広

日本M&Aセンター 海外事業部 ASEAN推進課 インドネシア駐在員事務所長

海外M&A
更新日:

⽬次

[表示]

人口減少及び国内市場縮小の中、国内だけでの自然成長が難しくなっていく時代に、生き残りをかけた戦略として、日本企業による海外M&Aの件数・金額が増加の一途をたどっています。
大手企業を中心に、「日本企業が海外企業と提携/買収」といった記事がメディア・紙面を賑わせています。反対に海外企業がノウハウ獲得のために日本企業と提携するといったケースもでてきています。
当社でも海外M&Aのお手伝いをする機会が増加しています。
とはいうものの、初めの面談の時には皆様口をそろえてこう質問されます。
「海外M&Aって難しいですよね?失敗することも多いですか?」

長年海外M&Aに携わってきた身として、「いいえ!そんなことないですよ」と言いたいところですが… 私の答えはやはり「Yes」です。
日本企業による海外M&Aが難しい理由は、大きく2つあると考えています。
当社では現在ASEAN諸国中心にクロスボーダー支援業務を展開していますので、そういった取り組みの中での率直な感想を以下に述べていきます。

国を飛び越えてのM&Aは、たくさんの違いを乗り越えてこそシナジーが生まれる

海外で通用する人材あってこそ、両社の経営がうまく動きだす

海外M&Aが難しい理由の一つとして、買収先海外企業の経営を十分に担える人材を保有していないことがあげられます。
例えばASEANの一国に立地する海外企業を買収するとしましょう。
送り込む人材の能力が不十分であれば、買収後の海外企業のガバナンスを効かすことはできません。結果としてシナジーの実現は不可能になってしまいます。実際、こうして提携の解消や持分の売却を余儀なくされているケースが散見されます。これは買収側の日本企業の大小を問わず起こりうることです。

同じ日本国内の企業でも、企業理念や社風は違うもの―その理解から両社の融合は始まります。
言葉や文化が異なる海外企業を経営しようとするならなおのことです。まずは旧経営陣のキーマンに十分なコミュニケーションをとり、自分自身も買収先海外企業の経営哲学を理解しなくてはなりません。
さらに、両社の発展のための新しい経営方針を旧経営陣に理解させ、それに即しながら経営の舵取りを共にしていくことが必要となります。
派遣された人材に力量がなければ、親会社の方ばかり見て指示待ちの経営となり、旧経営陣と従業員に足元を見られ、結果として経営のコントロールができない状況となってしまいます。
海外で通用する経営能力のある人材の育成を、M&Aを見越して行っていく必要があるんですね。

海外マーケットの獲得だけを目的とせず、買収後を考えた交渉を

日本企業にはまだ「PMI」という意識が低く、買収監査を重視するあまりPMIの交渉をおざなりにしがちな点も、海外M&Aを難しくしている理由の一つでしょう。 欧米企業は「買収後どのような戦略で買収先海外企業を運営していくか?」「利益を継続して上げていくために必要なヒト・モノ・カネをいかに獲得するか?」など、M&A後を見越した話をM&Aの交渉時点で詰めていきます。 これは通常の買収監査と並行して検討していくので、ある意味交渉の力点は“買収後”であるわけです。 一方日本企業は、買収監査に最も重点を置きます。財務・税務・法務・ビジネスと徹底的にチェックします。 とはいえ、海外企業の優良売り案件は、検討する上で、日本以上に競争率が高いのも事実―そのような環境では、十分な買収監査が行えないケースが多くあります。 ASEAN企業買収の際は、限られた情報提供及び時間的制約の中で、提出された決算書をベースに検討を余儀なくされるケースが頻繁に起こります。 結果、どうしても買収したい日本企業は売り手の思うままにDDの範囲を狭め価格を高く提示し、不利な条件でも契約してしまうケースもあります。高掴みした買収先海外企業で投資に見合う利益を上げていくことは難しく、減損の対象となるケースも多いのです。 またPMI的な観点は一切交渉していないので、買収後のマネジメントに問題が出ることもあるでしょう。

海外M&Aを上手に進めるポイント3点

このように、日本企業は、送り込む人材の問題や、買収監査に重きをおきPMIの認識が欠如していることにより、当初想定していた経営を行うことができず、海外M&Aに失敗するケースが多いのです。 それでは海外M&Aを上手く進めるポイントはどこにあるのでしょうか?私は、大きく下記3点だと考えます。 1.出物案件及び入札案件を避ける。 2.相手情報が見える案件を検討する。 3.アドバイザーを上手く活用する。 「1.出物案件及び入札案件を避ける。」で、出物案件を避けた方がいい理由は、出物案件は、売却せねばならない何らかの理由があるケースが多く、買収後のPMIに苦労することが多いからです。 また、入札案件の場合は、例えピカピカの会社でも、値段が高くなり、さらに売り手有利に買収監査の範囲が狭められるため、精緻な監査が実施できず後で簿外債務をかかえるリスクが高まることが多くなりがちです。 「日本企業としてこの買収海外企業を本当に経営できるか?」を正確にジャッジできる案件に注力して検討を進めていきましょう。 「2.相手情報が見える案件を検討する。」ですが、買収海外企業に自社或いはアドバイザーが直接コンタクトできる案件を検討しましょう。 当社では買収海外企業に直接アプローチができない案件(売り手アドバイザーが秘密情報を握っていて重要な情報を開示いただけない案件)については基本的に取り扱いません。案件の不透明性は結果として大きなM&Aリスクにつながり、お客様の費用のロスだけでなく、検討する時間もロスさせてしまうと考えるからです。 「3.アドバイザーを上手く活用する。」ですが、買収対象としている国の歴史や文化・国民性の理解に精通したアドバイザーを選定することが重要です。 各国毎、案件毎に想定できない問題が海外M&Aでは出てきます。日本的感覚で進めたところでM&A交渉はまとまりません。そのため、買収対象国の国民性を理解しベストな交渉を行えるアドバイザーを登用すべきかと思います。?

海外クロスボーダーM&Aについて詳しくはこちら

著者

安丸 良広

安丸やすまる 良広よしひろ

日本M&Aセンター 海外事業部 ASEAN推進課 インドネシア駐在員事務所長

総合商社、監査法人を経て2002年日本M&Aセンターに入社。2013年に前身である海外支援室の設立に参画。これまでの成約案件は100件を超える。2019年インドネシアオフィスの設立に携わる。インドネシア駐在歴は、前職の商社時代を含め約10年となる。 米国公認会計士(USCPA)。

この記事に関連するタグ

「ASEAN・クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するコラム

マレーシアのM&A事情や女性の働き方は?現地M&Aコンサルタントにインタビュー!

広報室だより
マレーシアのM&A事情や女性の働き方は?現地M&Aコンサルタントにインタビュー!

日本M&Aセンターでは、クロスボーダーM&Aの支援強化に向けて、ASEAN地域に拠点を設けています。今回は、マレーシア現地法人NihonM&ACenterMalaysiaSdn.Bhd.でM&Aコンサルタントとして活躍するDaphnieOngさんに、入社の経緯や今後の目標をインタビューしました!プロフィールダフィニーオンさん(写真中央)2020年2月入社。M&Aコンサルタントとして日本とマレーシア

海外M&Aでは現地特有の論点に注意 ~会計~

海外M&A
海外M&Aでは現地特有の論点に注意 ~会計~

海外M&AではM&Aの対象となりうる企業が海外に所在していることから、文化や言語、宗教にはじまり、準拠するルールや実務慣行等も日本とは異なります。すなわち、会社法や労働法、税法、会計基準、ビジネス慣習等の違いを把握したうえで、海外M&Aを検討する必要があります。そこで、今回は海外M&A、特にASEAN(東南アジア諸国連合)域内におけるM&Aを検討する上で注意すべき事項の一部を紹介したいと思います。

グローバルなタックスプランニングの基本①外国子会社配当益金不算入制度 活用のすすめ

海外M&A
グローバルなタックスプランニングの基本①外国子会社配当益金不算入制度 活用のすすめ

海外子会社を有する会社が活用できるタックスプランニング手法のひとつ「外国子会社配当益金不算入制度」をご紹介します!(※本記事は2021年12月に執筆されました。)そのほか海外のM&A情報はこちらから海外の子会社が稼ぐ方がグループ全体の税率が下がる?日本は世界でも法人税率が高い国のひとつとして有名です。現在、日本で活動する会社のもうけに対してかかる税金の税率は中小企業の場合で約34%(法人税・地方税

Withコロナ時代、加熱するベトナムクロスボーダーM&A

海外M&A
Withコロナ時代、加熱するベトナムクロスボーダーM&A

こんにちは、3カ月ぶりの出社(外出)できるようになりました日本M&Aセンター・ベトナムの渡邊です。コロナ防疫に成功を収めていた優等生のベトナムですが、2021年5月以降コロナ変異株が猛威を奮いはじめ、直近3カ月の7月~9月は、生活必需品の購入ですら外出が禁止されるという厳しいロックダウン規制が導入されました。9月上旬にはピークを迎え、1日あたりのコロナ新規感染者数が1万5,000人、同死亡

ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

海外M&A
ASEANの大国インドネシア、成長戦略としてのM&A

日本M&Aセンターインドネシア駐在員事務所は、シンガポールに次ぐ第2の拠点として、2019年10月に開設されました。今回は将来のGDP大国として、ASEANの中でも特に大きい成長・市場拡大が期待されるインドネシアへのM&Aについてご紹介します。(※本記事は2021年10月に執筆されました。)新型コロナの現状この原稿を執筆しているのは2021年10月末ですが、インドネシアでは2021年6月~8月にか

M&A対象国としての魅力が多いマレーシア

海外M&A
M&A対象国としての魅力が多いマレーシア

日本M&Aセンターのマレーシア拠点は、新型コロナウイルスの影響が大きく出始めた2020年3月に、4番目の海外拠点として開設されました。ロックダウンや渡航制限の影響を大きく受けながらも、2021年は既に成約件数が4件となり、当社の海外拠点では年間ベースで最大の成約件数となりました。マレーシアは、日本の中堅・中小企業が海外進出するために適した環境が広がっています。今回は、ASEANではシンガポールに次

「ASEAN・クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連する学ぶコンテンツ

「ASEAN・クロスボーダーM&A・海外M&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

住友林業の米国子会社DRB Group、フロリダ州住宅会社の事業譲受け

住友林業株式会社(1911)の米国子会社であるDRBGroup(米国メリーランド州、以下「DRB」)は3月1日、フロリダ州での事業基盤を強化するため、同州タンパ地区を中心に戸建分譲住宅事業を展開するBiscayneHomes(米国メリーランド州、以下「BH社」)の事業を譲受けた。事業譲受けの背景住友林業グループは長期ビジョン「MissionTREEING2030」で2030年までに米国で年間23,

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース