コラム

ASEAN進出への道はシンガポールから!?投資先としてのシンガポールの魅力とは

長谷川 悠介

プロフィール

長谷川悠介

日本M&Aセンター 海外事業部 In-Out推進部

海外M&A
更新日:

⽬次

[表示]

皆さんシンガポールといえばどのようなイメージをお持ちでしょうか。シンガポールといえば、マーライオンやマリーナベイサンズなど観光都市でもあり、また世界の金融都市としても有名かと思いますが、投資環境としても未だに優れていることをご存知でしょうか。今回はそんなシンガポールの投資環境の魅力について触れていきたいと思います。

シンガポールの伸びしろ

シンガポールという国は国土も非常にコンパクトで、約720平方キロメートルと東京23区ほどの規模しかありません。また1965年にマレーシアより分離して、まだ60年弱という建国間もない国でありながら、上海に肩を並べ、アジアトップの金融センターと言われています。GDP成長率では2022年も3.6%と、成長を続けているアジアを牽引している国のひとつです。

世界でも屈指のビジネス環境を誇るシンガポール

観光都市でもあり、金融センターでもあるシンガポールは世界でも屈指のビジネス環境を有していると言えます。整備されたインフラと法制度、安定した政治と社会情勢、他のASEAN諸国と比べて少ない外資規制といった中で、利便性が高くビジネス上のリスクが低い環境が整っています。また、行政手続きから日々の生活までおおむね英語で完結できる点も、大きいでしょう。
また、シンガポールは金融に加え、交通や情報のハブとなる重要な役割を担っています。

金融ハブとしてのシンガポール

法人税率はアジアで香港の16.5%に次ぐ17%。この競争力のある税制度で多くの多国籍企業がHQを設置しています。周辺国に事業会社を作るなどで各国の利益を集めるという意味において、政治・経済が安定しているシンガポールは、利益を留保しておくのに最適な国です。

物流ハブとしてのシンガポール

ASEANの中心に位置する圧倒的な地理的優位性があり、ASEAN諸国はおおむね3時間圏内。またそれを支えるロジスティクスのインフラも整備されており、チャンギ国際空港には世界60ヶ国、200都市以上とを結ぶ路線が乗り入れ、およそ100秒に1回飛行機が離発着しているといわれる東南アジアでも最大のハブ空港と言われています。
なんと、2023年の世界最高の空港※1に選ばれたのもこのシンガポールにあるチャンギ国際空港でした。来年からはさらなる拡張で、2030年までに第5ターミナルを建設予定です。

また港湾においてもシンガポール港はコンテナ取扱量で世界第2位※2と世界をリードしており、2022年9月に開港したトゥアス港は2040年代の最終完成時には世界最大級※3の完全自動化ターミナルとなると報じられています。

上記以外にも人材プールが豊富で、優秀な人材が多く集まっていることや、主要なカンファレンスや大きなイベントなども多く開催され情報の流通が活発であることも特徴です。

※1 World Airport Awards 2023(SKYTRAX) https://www.worldairportawards.com/the-worlds-top-10-airports-of-2023/
※2 One Hundred Ports 2022(Lloyd's List) https://lloydslist.maritimeintelligence.informa.com/one-hundred-container-ports-2022
※3 JETRO「次世代トゥアス新港の第1期正式開港、2050年までにGHG排出ゼロへ」https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/09/6aa11c04e7eb775f.html

シンガポールのこれから

政治と経済が安定している背景には、シンガポール政府の存在が大きく影響しています。シンガポールという国の大きな特徴の一つが政府主導型の国家であるということです。

そんな政府が今まさに力を入れているのが新国家政策である「Smart Nation Singapore(スマートネーション戦略)」です。スマートシティという言葉はすでに聞きなれた言葉かと思いますが、シンガポールは新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響が始まるより数年前の2014年から、この「スマートネーション戦略」を進めています。

シンガポールも日本同様に高齢化問題や、国土が狭いことに起因する交通渋滞といった課題があります。こういった国の問題を最新テクノロジーを積極的に取り入れるなどして、長期的に綿密な計画を立て、経済競争力を戦略的に高めようとする取り組みです。具体的にはデジタルIDやキャッシュレス化、スマートモビリティやワンストップ行政サービスなどを組み入れ、国民全体の利便性・生産性を上げようとしています。

シンガポールでM&Aをする魅力

ここまでの情報を踏まえた上でぜひお伝えしたいこと、それはシンガポールの経済効率性についてです。
下の画像のグラフでは、ASEAN主要国のGDP金額の比較を示しています。
ASEAN主要国のGDP(2022年)
ASEAN主要国のGDP(2022年)
出典:World Economic Outlook Databaseのデータより日本M&Aセンターが作成(1USD=145円簡易換算)

ASEAN主要国のGDPは、インドネシアが最も多く191.2兆円、次いでタイの77.7兆円、その次が67.7兆円のシンガポールです。シンガポールの後にはマレーシア(59.1兆円)、ベトナム(58.9兆円)、フィリピン(58.6兆円)が続いています。国単位でみるとシンガポールのGDP約67.7兆円ということで、マレーシア、ベトナム、フィリピンの3か国の約59兆円とそう大きくは変わらない程度といったところでしょうか。

しかし、1つ視点を変えて「国」という単位ではなく、「都市」という視点で見直してみてはいかがでしょうか?

シンガポールのGDPは大阪の1.7倍

東南アジア諸国に進出を考えたときに、国全体の成長性も当然重要ですが、日本で東京や大阪といった主要都市で事業を行うのと同様に、マレーシアにおいてはクアラルンプールやジョホール・バル、ベトナムにおいてはハノイやホーチミンといった都市単位で事業展開を計画していくのが常かと思います。

大阪府が2023年5月に発表している「令和2年度 大阪府民経済計算県内総生産」によると、2020年の大阪のGDPは39.7兆円とのこと。つまり、シンガポール全体のGDP約67.7兆円は、大阪のGDPの1.7倍に相当していることになります。

冒頭で述べた通り、シンガポールの国土は東京都23区ほどの広さです。その中で、市場としては大阪府の1.7倍、また、シンガポールより遥かに広い国土をもつマレーシアやベトナムの国全体以上の市場が存在していることになります。
安定した経済と整備されたインフラと法律、そして金融や物流のハブの機能を有し、ベトナムやマレーシア以上の市場があるシンガポールはまだまだ魅力的な国であることは間違いありません。

過日、オンラインセミナーで私がお話させていただいたシンガポールのM&Aについての動画も、ぜひご覧ください。

プロフィール

長谷川 悠介

長谷川はせがわ 悠介ゆうすけ

日本M&Aセンター 海外事業部 In-Out推進部

幼少期に米国在住、外資系ITコンサルティング会社、外資系金融機関を経て、2022年日本M&Aセンターセンターに入社。東南アジアを中心とした中堅・中小企業と日本企業のクロスボーダーM&A支援に従事。

この記事に関連するタグ

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連するコラム

小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

海外M&A
小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

本記事では、ベトナムでのM&Aの特徴と代表的な課題について解説します。(本記事は2022年に公開した内容を再構成しています。)比較的に小粒である、ベトナムM&A案件ベトナムのM&A市場は、ここ数年は年間平均300件程度で推移、Out-Inが全体投資額の約6~7割を占め、その中で日本からの投資件数はトップクラスです(2018年:22件、2019年:33件、2020年:23件)。興味深いことに、1件当

インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

海外M&A
インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれ

海外M&Aとは?目的やメリット・デメリット、日本企業による事例まで解説

海外M&A
海外M&Aとは?目的やメリット・デメリット、日本企業による事例まで解説

近年アジアなど成長著しい市場をターゲットに、海外M&Aを検討する中堅・中小企業は増えております。しかし、海外M&Aでは日本国内で実施するM&A以上にノウハウが不足していることが多く、海外M&Aを実施するハードルが高いと言わざるを得ません。そこで本記事では、日本M&Aセンター海外事業部の今までの経験を踏まえて、海外M&Aの内容や実施される目的、またメリットや注意点・リスクなどさまざまなポイントについ

タイでM&Aを検討する際に留意すること

海外M&A
タイでM&Aを検討する際に留意すること

本記事ではタイでのM&Aにおいてよく問題となる、タイ特有の留意点について解説します。(本記事は2023年2月に公開した内容を再構成しています。)※日本M&Aセンターホールディングスは、2021年にASEAN5番目の拠点としてタイ駐在員事務所を開設、2024年1月に現地法人「NihonM&ACenter(Thailand)Co.,LTD」を設立し、営業を開始いたしました。タイ王国中小企業M&Aマーケ

ベトナムM&Aの競争環境 引くてあまたの現地優良企業を獲得するには

海外M&A
ベトナムM&Aの競争環境 引くてあまたの現地優良企業を獲得するには

Xinchào(シンチャオ:こんにちは)!本記事では、ベトナムでのM&A投資における問題のひとつ、「厳しい競争環境」に関してお話させて頂きます。(本記事は、2022年11月に公開した記事を再構成しています。)独占交渉権とは「独占交渉権」とは、買手である譲受企業と売手である譲渡企業との間で、一定の間に独占的に交渉することができる権利の事です。一般的に買収ターゲット企業の選定後に、初期的な面談(対面/

海外M&Aにおける買収監査/DDチームの選び方

海外M&A
海外M&Aにおける買収監査/DDチームの選び方

本記事ではM&Aにおける終盤ステージである買収監査(デューデリジェンス)における留意点について解説したいと思います。ASEAN・中小M&Aにおける買収監査(デューデリジェンス)M&Aのプロセスでは基本合意契約を締結した後、最終契約に至る準備段階として買収監査が行われます。内容や期間はディールの規模や複雑性によって様々ですが、一般的に財務・税務・法務について専門チームに依頼します。また、場合によって

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連する学ぶコンテンツ

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

マイナビ、インドのHRスタートアップ企業Awign Enterprises Private Limitedを買収

株式会社マイナビ(東京都千代田区)は、ギグワーカーのリソースを活用して顧客へ成果物を提供するインド企業のAwignEnterprisesPrivateLimited(インドバンガロール、以下Awign)を2024年4月25日付けで買収し、子会社化した。マイナビは、社会や人々の有益となるようなサービス提供を目指した事業を展開している。Awignは、単発の仕事を請け負う労働者(ギグワーカー)が集うプラ

M&Aで失敗したくないなら、まずは日本M&Aセンターへ無料相談

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース