コラム

経営企画/財務経理部門による営業・財務経理情報の効果的PMI

宮川 崇

著者

宮川崇

株式会社日本PMIコンサルティング 常務取締役

PMI

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買収直後は“経営のインフラ整備”が必要

M&A成約後、取り組むべきPMIのテーマには順番がある。成約後の買手は、「早くM&Aに投下した資金の回収やシナジー効果の享受をしたい」という考えになりがちだが、PMIの現場で我々が真っ先に取り掛かるのは“経営管理情報の見える化”だ。これは規模を問わず、どのようなM&Aにおいても非常に優先順位の高いテーマだといえる。

PMIとは|M&A用語集

買収対象が中小企業の場合、事業計画をはじめとして、月次の部門別損益情報や、原価計算情報、KPI(重要業績評価指標)等は資料として作成しておらず、計数による経営管理の仕組みは存在しないのが通常だ。試算表や決算書に関しても、税務ベースで作成しており、試算表は2か月遅れで完成することも珍しくない。売手社長は、このように経営管理情報が未整備の状態でも長年の経験則で正確な経営判断を下すことができてきた。しかし、まだ売手企業の経営感覚が身についていない新経営者では、早期に正しい経営判断を下すことはできない。

このように、経営の舵取りに必要な情報を正確に得られないとしたら、ビジネスの融合を進めようとしても目標地と現在地との距離が測れず、さらに各種の経営リスクに気付かない可能性もあるため非常に危険である。逆にいえば、経営管理情報を定期的にモニタリングできるようにすることで、予算と実績の乖離状況を適時に把握でき、KPIで重要なポイントごとに経営アクションの結果を測定できるため、新経営者でも経営を行うことができるようになるのだ。

つまり、「経営管理情報の見える化」は、安全に経営を行うためのインフラの整備といえる。

未上場企業を買収する場合に発生する経営管理上の課題

上場会社が未上場企業を買収する場合、前述の項目以外にも、上場ルールから管理面における実務的な課題が発生する。売手企業を連結対象にするのであれば、決算数値の会計基準への準拠と監査対応が求められ、内部統制基準上の“重要な事業拠点”に該当するのであれば、内部統制の構築と監査対応が必要となる。また、M&Aにより“のれん”が発生している場合は、のれんの減損リスクに備えた企業価値モニタリング体制の構築が必要となり、前述の予実分析も含めて会計基準に準拠した数字で作成する必要がある。特に“会計・内部統制の監査対応”は、売手企業の業種や事業の規模・複雑さ、買手企業の経理サポート体制、さらには売手企業が利用している情報システムの利用状況などによって、掛かる手間や難易度が大幅に変化するものだが、多くの場合、期限が決まっている監査対応は、何よりも優先して対応すべきテーマとなる。

しかし、監査対応を優先させることで、上述の“経営管理情報の見える化”が遅れることになると、ビジネスリスクの軽減も遅れることになるため、実務上は可能な限りどちらも並走して進める必要がある。

スムーズなPMIを行うための事前準備

ではどのようにすれば2つのテーマをスムーズに進めることができるのだろうか。

まずはできるだけ早期に売手企業の現状を把握していることが必要だ。理想的なのは、成約前のデューデリジェンス(DD)で両方の課題がどちらも確認できていることだ。しかし、経理オペレーションや経営管理上の課題までは確認できていないのが通常だろう。「投資してもいいか?」という視点と、「投資した後どうするか?」という視点では、チェックするポイントが異なるため、DDレポートもそこまで想定して作成されないケースがほとんどだ。

もちろん、DD実施段階ではまだ他社同士なのだから、調査できない部分が存在するのは当たり前といえる。だが、そうすると結局、確認できていないテーマを成約後に一から確認しなおす作業が発生するため、それでは効率的ではなく、PMIのスタートも遅れてしまう。そのため、このような状況を避ける次善の策として、あらかじめ買手側でPMIのテーマをリスト化し、優先順位をつけ、成約までに確認できたことと、できなかったことを色分けしておくことが有用だ。

そして、成約後にはPMIのテーマを売手側のキーマンと早期に共有し、テーマごとに(確認できなかったことの調査も含めて)スケジュールに落とし込み、必要な工数と、担当者を決めておくことでスムーズなPMIのスタートをきることが可能となる。そのためには、やはりDD段階で、経営管理状況も含めて可能な限り調査ができている必要があるといえる。

PMI成功のポイント

冒頭で、取り組むべきPMIのテーマには順番があると申し上げたが、それはM&Aの性質(異業種・規模・上場/非上場、売手社長の引き継ぎ期間など)によって優先順位は変化するべきものだ。それらのテーマに対して、いかに早期に対応できるかによって、M&Aの投資回収や、シナジー効果の発現のタイミングと効果は変わってくる。

そして、そもそものM&Aの目的である両社のビジネスの発展のための、いわゆる“攻めのPMI”をリスクを低減しながら実現させるには、まずは上述のような“守りのPMI“が先行し、定期的な効果測定ができる状況となっていることが肝要なのだ。

そのため、DD段階における「投資した後どうするか?」というマインドを保持したうえで、可能な限り売手企業の管理状況を確認し、PMIのテーマがスケジュール化できていることが、PMI成功のポイントといえるだろう。

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広報誌「Future」 vol.14

Future vol.14

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.14」に掲載されています。

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著者

宮川 崇

宮川みやがわ しゅう

株式会社日本PMIコンサルティング 常務取締役

公認会計士としてPwCあらた有限責任監査法人にて製造・小売業会計監査、内部統制監査・コンサルティングを担当。当社入社後は、専門家チームに所属し、M&Aに関する会計・税務・法務のアドバイスを行うと共に、スキーム構築、バリュエーション、エグゼキューション実務に従事。株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換等の実務を100件以上担当。2016年4月より社内ベンチャーとしてPMI支援室を立ち上げ、室長に就任。2018年4月、日本M&Aセンターグループ会社のPMI専門子会社・日本PMIコンサルティングの設立に伴い、取締役に就任。

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