M&Aによる退職リスクはどれくらい?注意点や対策を解説!

M&A全般
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「自社が他社に譲渡された、M&Aが行われた」と聞いた従業員の間に、不安や動揺が広がるケースは少なくありません。経営陣による説明やフォローが不十分である場合、誤解を抱えたまま退職してしまうことも考えられます。
特に中小企業において、限られた人材の流出は企業価値を毀損する大きな損失になりかねません。

本記事では、M&Aによる従業員の退職リスクを防ぐための対策について解説します。

この記事のポイント

  • 中小企業のM&Aは友好的M&Aが大半を占め、従業員の継続雇用や待遇維持・改善などを条件に行われることが多く、退職リスクは低い傾向にある。
  • M&Aに対する不安や疑問を解消するため、適切なタイミングでの情報開示や丁寧なフォローが重要である。
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⽬次

中小企業M&Aにおける退職リスク

中小企業のM&Aでは、経営者同士の合意に基づいて行われる「友好的M&A」が大半を占めます。これは、非上場企業の多くが株式に譲渡制限を設けており、敵対的な買収が成立しにくいためです。

友好的M&Aでは、従業員の雇用継続や待遇維持・改善が重要な交渉条件となるケースが多く、また買い手側も、スムーズな引き継ぎを重視する傾向があります。
そのため、基本的にM&Aによって従業員の立場が大きく揺らぐことは少なく、退職リスクは低い傾向にあります。

ただし、経営陣から十分な説明がない状況では、誤解を抱えたまま退職を選んでしまう可能性も考えられます。したがって、従業員が不安を感じないようにケアすることが大切です。

M&Aを聞かされた時の従業員の反応

自社がM&Aをしたと聞いてポジティブに捉える人もいる反面、経営者による説明やフォローが不十分な場合には、以下のような反応が想定されます。

将来への不安が高まる

従業員がM&Aに対して抱く懸念の中で最も多いのが、自身の待遇、キャリア、環境に関するものです。
「自分の雇用は守られるのか」「仕事の内容や役割が変わるのではないか」といった疑念は、大なり小なり共通する感情と言えるでしょう。給与体系やボーナスの評価基準が変更されることで、収入の見通しが不安定になると感じる社員は少なくありません。

特に経営者と従業員の距離が近い中小企業の場合、「経営者の交代=会社の方向性が変わる」という印象を持ちやすく、精神的な動揺も大きくなります。また、買収を「経営不振」と誤って捉える社員もおり、なかには会社の将来性に対する不信感が離職意向を強めることもあります。

こうした状況で適切な情報提供や丁寧な説明が不足すると、不安がさらに広がるため、組織全体の士気やモチベーションの低下にもつながりかねません。

業務の進め方や環境が変わることに戸惑う

株式譲渡による譲渡が多い中小企業のM&Aでは、株主構成が変化するほかは、会社や事業、業務内容に大きな変化は生じません。社長も変わらずそのまま会社に関わるケースも少なくありません。

一方で、買い手企業や外部から新たな経営者を迎える場合や、両社で業務を協働して進める中で、社風や文化、業務の進め方の違いが戸惑いの原因になるケースもあります。

こうした変化は、単なる制度の変更よりも心理的な影響が大きく、特に長年勤める従業員にとっては、環境の変化に対して抵抗を示す場合が考えられます。

従業員の退職がM&Aに与える影響

M&Aによって退職する従業員が増えてしまうと、M&Aそのものにもさまざまな影響が生じてしまいます。その中でも特に深刻なのが、以下の3つです。

組織機能の低下と引き継ぎの不備

従業員の退職が相次ぎ、業務の引き継ぎが十分に行われない状況が続くと、業務の信頼性が損なわれ、組織全体の機能が低下する恐れがあります。

買い手企業からの評価低下

例えばキーマンとなる中核人材が抜けてしまうと、買い手が想定していたM&Aによる両社のシナジー創出が困難になる可能性が高まります。
また、契約時に保証された人員体制と実態が異なれば、契約内容によっては表明保証違反となるリスクがあります。アーンアウト条項が設定されていた場合には、人材不足による業績悪化によって追加の対価を受け取れない可能性もあります。

従業員間の動揺と連鎖的な離職

一部の従業員が退職すると、それをきっかけに他の社員にも動揺が広がり、連鎖的な離職が起きることがあります。特に、信頼されていた上司やベテラン社員が去った場合、その影響は職場全体に波及し、「自分も転職した方が良いのでは」と考える人が増える傾向があります。また、M&Aに関する情報共有が不十分だと、社内の不安感が高まり、退職者が増える悪循環が起きてしまい、モチベーションや生産性の低下にも直結します。したがって、従業員の心情に寄り添った適切なフォローが必要となります。

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M&Aを従業員に伝える際のポイント

M&Aをいつ、誰に、どう伝えるかによって、受け手の反応は大きく変わります。ここでは社内の混乱を避けるためポイントについて解説します。

いつ情報開示をするか

情報開示が早すぎれば不確定情報による誤解が広がり、遅すぎれば「自分たちだけ知らされていなかった」と不信感を持たれる恐れがあります。

M&Aの情報開示は、一般的には最終契約締結後ですが、M&Aを円滑に進めるためには、社内の理解と協力を得ることが欠かせません。

会社の状況や従業員構成によって、事業の中核を担う役員や幹部社員に先行して伝えるなど、段階的に情報共有を進めるなどの配慮が必要になります。組織内で影響力を持つキーマンが動揺すると、社内全体に不安が広がりかねません。こうしたキーマンが前向きに受け止めてくれれば、他の社員に対しても正確で安心感のある情報が自然と伝わるようになるでしょう。

何を伝えるか

従業員の不安を払拭するためには、M&Aの背景や今後の方針、変化の中にあるポジティブな要素を両社がしっかりと伝える姿勢が重要です。

とくに、M&Aによって会社がどのような姿、成長を目指すのか、それが従業員一人ひとりにどのようなメリットをもたらすのかを、具体的に示すことが必要です。
例えば、両社が手を組むことによって新たな事業を創出できる、などの展望を共有すれば、従業員も会社の方向性を前向きに捉えるきっかけになります。

また、役割の拡大や研修制度の整備によってキャリアアップの可能性が広がることなどを伝えれば、自分自身の成長に希望を見出せるようになるでしょう。

さらに、M&A後に待遇の改善や福利厚生の充実が予定されている場合には、それを早い段階から説明することも大切です。たとえ小さな変化であっても、それが従業員にとってメリットとして実感できれば、将来に対する期待感を持たせられるでしょう。

また、これらは一方的な通達ではなく丁寧な対話の場を設けることが重要です。説明会では、会社としての方針やM&Aによって変わる点・変わらない点を明確に伝えるとともに、後述の通り相談窓口を設けるなど継続的なフォローが不可欠です。

段階的な業務移行で不安を和らげる

M&A後には、業務体制やルールがある程度見直されることが一般的ですが、こうした変化は従業員にとって大きな心理的負担となり得ます。そのため、業務の移行は一度にまとめて実施するのではなく、従業員の混乱や不安を最小限に抑えるためにも、段階的に進める姿勢が重要です。

とくに、日常業務に直接関わる制度やルールの変更を急ぎすぎると、慣れない環境へのストレスや不信感が高まり、結果として離職リスクを招いてしまうおそれがあります。そこでまずは、優先度や影響度の高い領域から着手し、現場の理解を得ながら少しずつ変化を導入していくと良いでしょう。

たとえば、人事評価制度や給与体系といったデリケートな要素は急に変更せず、一定期間は従来の制度を維持することで、従業員に安心感を与えることができます。また、新しい業務や仕組みに関しては、部門ごとに丁寧な説明資料を用意したり、OJTの形式で手厚いサポートを行ったりすることが効果的です。

このように、業務移行を「効率よく進めること」よりも、「従業員が納得し安心して適応できること」を重視することで、社内の信頼関係を保ちつつ、円滑な移行が実現しやすくなります。経営陣のこうした配慮が従業員に伝われば、M&A後の定着率や組織の安定にも好影響を与えられるでしょう。

M&A後の従業員フォローと退職防止策

M&A後も従業員が安心して働ける環境を整えることが、離職防止には不可欠です。そこで最後に、フォロー施策の具体例を紹介します。

待遇変更の懸念には「事前説明」と「保証」で対応する

M&Aによって待遇が変更されるのではないかという不安は、多くの従業員に共通する懸念です。そのため、経営者側は待遇の維持や変更の有無について、できる限り早い段階で明確に伝えることが重要です。

たとえば、「当面の雇用条件は変更しない」などの方針をはっきり示すことで、従業員の不安は大きく緩和されます。また、口頭だけでなく書面で保証する、Q&A形式の社内資料を配布するなど、具体的な手段を通じて信頼性を高めるように工夫すると良いでしょう。

仮に変更が避けられない場合でも、移行期間を設けるなど配慮のある対応が大切となります。

匿名相談窓口の設置など心理的安全性を確保する

M&Aの過程では、従業員が周囲に相談しにくい不安や疑問を抱えることも少なくありません。こうした声を受け止めるには、匿名でも安心して利用できる相談窓口を設けることが効果的です。

たとえば社内外に専用の問い合わせ窓口を設置し、第三者が対応する体制を整えることで、心理的なハードルを下げることができます。また、相談内容は個人が特定されない形で経営陣と共有し、改善策に反映させれば従業員の信頼感も高まります。

こうして安心して声を上げられる環境が整えば、社員の離職を未然に防ぐことにもつながるでしょう。

信頼醸成のための上司・現場のケア体制

経営者のメッセージも重要ですが、実際に従業員と日々接しているのは現場の上司です。M&A後の職場において信頼関係を築き直すためには、こうした中間管理職によるきめ細やかなフォロー体制が欠かせません。

たとえば、定期的に面談を実施し、変化に対する不安や悩みを個別にヒアリングすることで、従業員の心理的な負担を軽減できます。ただし、その場合は上司自身も変化の意味や対応方針を十分に理解しておかなければなりません。

このように、経営と現場が一体となり共通の目的に向かって歩む姿勢が、組織全体の安定を支える鍵となります。

職場改善に向けた柔軟なアクション

M&Aによる統合が進む中で、既存のルールや働き方に対して摩擦が生じることもあります。こうした状況を放置しておくと、従業員の不満やストレスが蓄積し、離職のリスクが高まってしまいます。

そのため、現場の声にはできるだけ耳を傾け、その都度柔軟に対応しなければなりません。たとえば業務プロセスの見直しや、就業環境の改善、制度の整備など、たとえ小さな改善であっても、従業員には「変化を歓迎している」というメッセージになります。

従業員が「自分たちの声が経営に届いている」と感じることで、企業への信頼感が生まれ、組織の一体感も強まっていきます。

終わりに

M&Aによる従業員の退職リスクは、事前の丁寧な説明と適切な対応によって大きく軽減できます。特に中小企業では、友好的M&Aを前提に雇用や待遇の安定を重視する傾向が強いため、基本的に過度な不安を抱く必要はありません。
従業員に対して細心の注意を払い、経験豊富な専門家と連携しながら計画的に進めることが、円滑なM&A成功への近道となるでしょう。

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著者

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M&A   マガジン編集部

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